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ファイナルファンタジーⅠ

作者:風亜
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14話 『黒髪の女賢者』

 アースの洞窟でバンパイアが倒された事により、メルモンドの町の女性の方も正気に戻ったらしく、翌日に戻って来た4人を町の人々は称賛した。

これで大地の腐敗も止まって元に戻り、安心して暮らせる─────

ドワーフのネリクはその事を仲間達に伝える為、4人に礼と別れを告げ住み処へ帰って行くが、実際の所"土の源のクリスタル"の輝き自体取り戻していないので、

土のクリスタルの欠片を内に持つ黒魔道士ビルは複雑な気持ちを抱いたまま、ネリクを見送る。


……晴々としない曇り空の元、4人が宿屋へ入って行こうとした時。

「いけない子達……、また"彼"に無理をさせたようね」


 ゆったりとした歩みで絡み付くような口調と共に現れたのは、葡萄色のローブを口元まで着込んだ長身で滑らかな黒髪の長い女性。

「あなたは、確かクレセントレイクの12賢者の1人で………」

 そうと気付いた白魔道士のシファに構わず、女賢者は赤魔道士マゥスンを抱き抱えているシーフのランクと向き合う。


「……テメェ、1人で何しに来やがった?」

「代表として……、貴方達に有力な手掛かりを与えに来てあげたの」

「て、手掛かりってもしかして────土の源の祭壇の事、でスかっ?」

「そうなるかしら……、ワタシとしては"彼"が心配で来たのだけど」

 ビルの問いに素っ気なく答え、女賢者エネラはランクに抱えられ身体を預けているマゥスンを愛おし気に眺めている。

「外で突っ立ってねーで宿の中入ろうぜ、コイツを休ましてやんねェと………」

 女賢者の云い知れぬ視線から外すようにランクは先に宿屋へ入り、シファ、ビルもそれに続く。





「まずは、そうね……開ける事も出来ず見えなくなってしまっている彼の目を、治してあげないとね」

「 …………… 」

 ベッドの縁に座らされたマゥスンに微笑み掛けるような女賢者に、ランクが水をさす。

「白魔法でも治せねェのに、アンタに治せンのかよッ?」
 
「バンパイアが流した"邪悪な血"を直接受けたのだもの、普通の白魔法では無理なだけ。少し高度な"術"を要するの。……今、ワタシが治してあげるわね」


 隣へ間近に腰掛け、俯いて白銀の長髪に紛れ顔色をよく窺えない相手にエネラはふと、すらりとした片手を優しく目元に宛がい口の中で何言か唱え、シファ、ビル、ランクが見守る中白く煌めく光の粒が光輪のようにマゥスンの頭部を包み染み渡ってゆき、その煌めきが治まると女賢者は名残惜しそうにゆっくりと片手を離す。


「 ────どうかしら、少しは身体の方も楽になったと思うけど、目を開けてみて……?」


「 …………… 」


「なぁ……オレの顔ちゃんと分かるか? オマエ、元から目ェ黒いみてーだけどよ……見えてンのか?」

 おもむろに瞳を開いたマゥスンを下から覗き見るように、いつの間にか間近に迫っていたランクのサファイア色の瞳とツンツンした茶髪のはみ出た黄緑のバンダナをしている、まだどこか悪ガキっぽい顔立ちの心配そうな表情を前にしてマゥスンは、ふと視線を逸らす。

「 ────見えている、問題ない」

「そーか、ならいいけどよッ」

 目を逸らされてほんの一瞬気を悪くしたが、一安心して身を引くランク。


「これで心置きなく話せるわね。……まず云っておきたいのは、バンパイアが倒されても大地の腐敗は止まっていないという事────
その証拠に、黒魔道士の子が内に持っているクリスタルの欠片の輝き………戻っていないんでしょう?」

「は、ハイっ。これ、でス……っ」

 指摘されてビルはおずおずと片手の中にくすんだままの土のクリスタルの欠片を出現させ、それを見たシファは分かっていたようにさほど驚かない。

「やっぱり……。じゃあ、土のカオスは何処に?」

「何か気付かなかったかしら、バンパイアが巣食っていた場所で ──── 」

「そ、そういえば奥の隅の方に四角い石版のような物が置かれていた気がしまス……。マゥスンさんの事もあって、調べる余裕がなかったんでスけど」

「大体あの場所で行き止まりだったじゃねェか、あの石版に何の意味があるンだ?」

「アースの洞窟最深部、土の源のクリスタルへと続く閉ざされた道────バンパイアは、土のカオスの配下に過ぎなかったという事ね」

「石版が道を閉ざしてるなら、それを壊せばいいのかな……?」

「あら、白魔道士の子にしては野蛮ね。ただ壊せば済むというのではないわ。……あれは土のカオスが源のクリスタルへの道筋を封じた負の石版────触れただけで、あらゆる物が腐るわよ」

「そ、それじゃどうスれば……っ。その封印を解かないと、土のクリスタルの祭壇に辿り着けないんでスよね?」

 ビルにしては珍しく、積極的に女賢者から話を聞き出そうとする。

「そうね………だからこれが必要になるの、清らかな大地と緑の力を宿す[大地の杖]」

 彼女がローブの懐から取り出したのは、幾本もの枝と緑の蔓が絡まって出来たような杖だった。

「これを石版に小突くなりすれば道は開ける筈────この杖は、黒魔道士の子に預けるわね」

「ふあ、ハイっ。ありがとうございまス、でス……」

 恐縮しながら受け取るビル。

「何でも"お見通し"ってヤツかよ。……アンタら12賢者が光の戦士やってりゃいーンじゃねェの?」

 皮肉るランクに、女賢者エネラは大して気にとめない口調で答える。

「勘違いするのは勝手だけれど、光の戦士はあくまで貴方達────ワタシ達は、"ちょっとした助力"しか出来ないの」

 何故かそこで彼女は赤魔道士に意味深な視線を向けるが、当のマゥスンは俯き加減で黙然としたままでいる。

「とりあえず、一晩休んでから再びアースの洞窟へ向かう事ね。健闘を祈っているわ、光の戦士達………」 
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