ファイナルファンタジーⅠ
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13話 『麗しき血潮』
「 ────おお、何と美味なる血潮……!!」
手元から剣が落下し、マゥスンはバンパイアの足元にくずおれる。
「ひと思いに吸い尽くしてやりたいが、我の従者としても貴重な存在となろう……。この先じっくりと、味わらせて貰うとしようか……!」
「そんな、マゥスンさんまでっ」
「あのヤロ……ッ!」
ビルとランクは多数のアンデッドに俯せに押さえ付けられたまま、身動きが取れない。
「紅き衣よ、さぁ……立ち上がるがいい」
俯せに倒れていたマゥスンはバンパイアに命じられ、白銀の長髪の流れる赤マントの後ろ姿で剣を手におもむろに立ち上がり、
ランクとビルから見れば背を向いている為、羽付き帽子の脱げている顔色は窺い知れず、再び命じられるまで微動だにしない。
「さて……残る者には一度、死して貰うとしよう。お前達人間は自らの過ちの為に大地が腐りゆくのを止める事叶わず、死して生前の記憶など忘れ、死を超越した存在として甦り、悠久の時を手にするがいい……!
我がカオス望むは、腐敗による新たなる大地に永劫をもたらさん………
さぁ、かつての仲間に死の安息を与えるのだ!! ────ウグッ?!」
(何だ……云うだけほざいて、勝手に苦しんでやがる……?)
突如前屈みに苦しみ出したバンパイアを不審に思うシーフのランク。
「ど、どういう事だ………この血潮は、まさか……!?」
刹那、胸部から剣先が突き出しそこから炎が舞い上がって更に悶え苦しむバンパイア。
「な゙、ナゼ……ダアァァ?!!」
断末魔と共にバンパイアは崩れ去り、塵と化して跡形も無く消滅していった。
ビルとランクを地面に押さえ付けていたアンデッド達も、ボロボロと音を立てて崩れ去ってゆく。
────距離を置いた先で、剣に縋るように跪き俯いているマゥスンの姿がランクの目に映る。
「(アイツが、やったのか……? バンパイアに咬まれても操られねェ所か、独りで倒すなンざ………つーかバンパイアの野郎、胸貫かれる前妙に苦しんでやがったな。いや、ンなコトより……!)おいビル、倒れてるシファ頼むぜ。オレはアイツを見てくっからよ」
「わ、分かりまシたでス……!」
「 ────おいオマエ、もしかして目ェやられたのか?」
「 ………… 」
駆け寄ったランクが身を屈めて覗き込むようにマゥスンの様子を見ると、片手を目元に宛がい動けずにいるらしい。
「見えなくなっちまったのかよ、……身体の方はどうなンだ?」
「 ────気にしなくていい、私よりシファを案じろ」
「そっちはビルに任してる、オレはオマエの方案じてンだよッ」
「 ………… 」
「 ────う、んん……っ 」
「ふあっ、シファさぁん、気が付いたんでスね……!」
黒魔道士特有の丸く黄色い眼光に覗き込まれ、意識を戻したシファは一瞬ビクリとする。
「び、ビル……? わたし、どうして────そうだ、バンパイアは!?」
「あの、えっと、そのでスね……っ」
事の次第を話しにくいビルだが、シファは少し距離を置いた先に他の二人の姿を見つけた。
「マゥスン、立てないのかな。具合悪いんじゃ……! 二人の所に行こう、ビル!」
「 はっ、ハイぃ……!」
「 ────よぉシファ、正気に戻ったみてェな」
走り寄って来たのに気付いたランクの方からそう云われ、シファは疑問を抱く。
「え? 正気に戻ったって……、わたしが??」
「覚えてねェか。……ま、バンパイアの野郎は倒したンだ。咬まれた町の女の方も正気に戻ってるこったろーぜ」
「どういう、事……? わたしの知らない間にバンパイアを倒した、の?」
「終わった事にどーこう云うつもりねェよ。とにかくここにゃ石版みてェなのが端に置かれてるだけで、"土の源"とか云うクリスタルの祭壇らしいモンも見当たンねーし、赤魔の奴はこれ以上動けねェみてーなンだ。一旦メルモンドの町に戻って、体勢立て直そーぜ」
「そう、でスね……。それで、マゥスンさんが動けないっていうのは状態異常のせい、でスか?」
跪き片手で目元を覆ったままなのを心配するビル。
「こいつ、バンパイアに妙な液体ふっ掛けられて目ェ見えなくなったらしい。……なぁシファ、お前の白魔法で何とか出来ねーか?」
「暗闇状態なら、治せるよ。……<ブラナ>!」
一瞬頭部に強い光が閃くが、少ししてマゥスンが小さく首を振る。
「 ………同様の白魔法を私も使ったが、効かないらしい」
「そんな……! ただの暗闇状態じゃないって事? どうしたら──── 」
「とにかく一旦町戻って考えよーぜ。……コイツはオレが抱えてく」
云うなりランクは、マゥスンの身体を両腕にひょいっと軽々横抱きにかかえる。
「ら、ランクさん大胆でスぅ」
「 ………降ろしてくれないか 」
ビルは感心するが、抱えられた当人は居心地が悪いらしい────とはいえ、片手は目元に宛がったままなので表情はよく窺えない。
「助けも借りねェでどうやって町まで戻る気だッ、目ェ見えねーくせに強がってンじゃねェよ。……それにオマエは一度抱え済みだから問題ねェぜ」
「 ────── 」
それ以上何も云わず、されるがままのマゥスン。
「やっぱり……わたし、バンパイアに襲われて操られたんだよね。だから皆に迷惑掛けて、マゥスンがそんな状態に──── 」
「シファだけの責任じゃねーっての。……オレとビルも上手く立ち回れてなかったしな。ンでコイツはまた独りでやってのけちまうしよッ」
「 ………… 」
ランクの両腕に抱えられたマゥスンは身じろぎひとつしないが、心なしか息が乱れている。
そしてシファは、ランクの言葉に気を取り直す。
「……ありがとうランク、気を遣ってくれて。でも、ひと言謝らせて。────足手纏いになって、ごめんなさい。お詫びにもならないけど、みんなに回復魔法かけておくね」
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