永遠の空~失色の君~
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EPISODE25 闇を切り裂いて
前書き
全体的に文字数が少ない気が…
静まり返ったアリーナ内。システムが警戒レベルを引き上げた為に設けられた防護シャッターは固く閉ざされており一切の立ち入りを禁じている。
事件発生から約5分。永遠にも似た睨みあいを続ける僕たちに戦闘開始のゴングが告げられる。
「ッ!!」
寒気を感じた直後、直感にしたがってサイドに回避行動をとる。それまで僕らが立っていた空間を黒い刀が薙いだ。刃が触れた場所はまるで小さな隕石でも落ちたかのようにクレーターが出現しその威力を物語る。いくら絶対防御があるとはいえ、あの一撃を喰らったらひとたまりもない。
恐怖心が、身体の動きを機敏にする。そのおかげか、また別の何かか。対峙してからというもの視界と思考が驚くほどクリアに働くことに戸惑いを覚える。まるで、この感覚を知っているかのように。
しかもその頻度はかなり高い。ほぼ日常的なもののように刷り込まれたかのごとく身体になじむ。
「ライ!」
一夏の白式が横槍でMVSを振り抜く。完全に意識の外からの攻撃を、なんとも絶妙なタイミングで防御し、カウンターを入れる。刀でなかったことを幸運におもいながらもそれた意識の最中、ヴァリスを撃つ。今度は直撃したようで装甲を抉ったかのように見えたが、それも驚愕の再生速度で傷が癒えてしまう。
「なんて回復だよ。アレ本当にISか?」
「・・・・いや、正確にはISに詰まれたシステムがラウラの意志を利用して動いてるだけで機体そのものの性能じゃない」
知っている。僕の記憶からその正体ともいえる物の名前が引き出しから出てきてその名を口にする。
「VTシステム・・・・ある特定条件に反応して発動する、いわば自動防衛プログラムだったり操縦プログラムだよ」
《VTシステムはアラスカ条約でも禁止されているほどの危険なシステムです。それをボーデヴィッヒさんが・・・・いえ、ドイツが所有していたとすると、これはかなりキナ臭い話ですね》
モニカの言うとおり、これは国際問題にも発展しかねない案件だ。学園がこのような被害を受けたとなれば、なおさら。
でも、今はそんなことはどうでもいい。一刻も早くラウラを救出しなければ、彼女の命が・・・・!
「千冬姉!なんかないのかよ!?アレ自分の動きだろ!?」
《無茶を言うな。アレは私であって私ではない。動きが鋭すぎて私でも迂闊に攻撃できん》
本物が太鼓判を押すほどの完成度とそれ以上の性能。織斑先生の言うとおり、迂闊に近づけない。なんとかしてあのあの刀の攻撃でも・・・・―――――
・・・・ん?待てよ。鋭い攻撃・・・・・―――――ッ!
「一夏、僕が合図したら突っ込んで!」
「ええ!?」
「いいから!僕を信じて」
「・・・・わかった!」
一夏から注意を反らすようにヴァリスも連射モードで撃つ。クラブのエネルギー的にも、もう残り時間は少ない。攻勢にでるなら、このタイミング!
たしかにシステムの攻撃は鋭いし軌道も完璧だ。回避するのもかなり難易度が高い。でも、それだけに読みやすい。
瞬間加速を使って肉迫してくる。急所を捉えようと、刀を振り上げるこの瞬間、ほんの少しだけ右側に隙が出る。そこが僕らの勝利への一手だ。
「一夏!」
「ハァァァァァ!!!!」
MVSを右わきに突き立てる。高速振動する刃が装甲を抉り、そこに向かってヴァリスをこれでもかと連射。大きく爆発を起こしてよろめいた機体には方から腰まで斜めにはじけ飛んだかのように中身が見える。
「今だ!」
スラッシュハーケンを撃ちこみ、巻き上げて組みつく。再生しようと歪む装甲をかき分けてラウラを引きずり出し、抱えて全力離脱、その際、クラブのエネルギーが限界を超えて待機状態に戻る。
「決めろ、一夏ァ!」
雪片弐型を零落白夜を使用して展開。その能力をもって抜け殻となった機体を一閃し、機能停止させた。
「・・・・やった・・・・のか・・・・?」
再び静まり返るアリーナ。わずかに残ったエネルギーを使い、クラブが報告を上げる。
*
報告:シュヴァルツェアレーゲン、VTシステムと共に機能停止を確認。再生、及び再起動の危険性なし。
「・・・・終わった」
そう呟いた直後。回線から割れんばかりの歓声が上がった。
◇
「冗談じゃないよ!どうしてあんな無茶したのさ!?」
ひと段落したところでシャルルの雷が落ちた。
「だが、あの時はああするしか・・・・」
「たしかにそうかもしれないかもしれないけど、あの判断はライも危なかったんだよ!?どうしてボクやモニカを頼らなかったのさ!」
「二人にも危険がおy」
「言い訳は聞きたくないよ!」
理不尽だ。訳を求められたから言ってみれば聞きたくない・・・・こんな仕打ちは初めて受けた。でもそんな理不尽を言いながらも、シャルルの瞳は潤んでいた。
「・・・・シャルル様はあなたを心から心配しているんです。確かにあなたの技量は資料をみり限りでも驚きの連続でした。そしてあのシステムの欠陥に気づいた分析力も並大抵のものではありません。織斑一夏氏との連携も完璧でした。ですが、あそれとこれとは話が別です。あなたは自分を粗末にしすぎる」
モニカに言われて少し考える。確かに自分でも死に急いでるような気もしていた。この事件だけではない。クラス代表対抗戦の時の襲撃事件の時もクラブを使ってなんとかしようと考えていたほどだ。
常に戦線に立っていたい。あの緊張感、命のやり取りをどこか懐かしく、そして居場所のようにも感じているほどだった。
でも、今泣きそうなシャルルの顔を見てそれが違うと思えてくる。自分が帰るべき場所がどこなのか、わからなくなっていた。
「・・・・ライ」
名前を呼ばれて顔を上げれば、そこには泣き笑いのような顔のシャルロットが。傾いた西日に照らされ、端正な顔立ちがさらに美しく可憐に見えて・・・・―――――
誰かと、重なった。
それが誰なのかはわからない。でも、一つだけ覚えているのものがある。
「おかえり。ライ・・・・」
名前を呼ばれる温かさは、覚えていた。
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