永遠の空~失色の君~
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EPISODE26 call my name
ラウラの一件から一夜明けての午前。現在時刻はちょうど11時で携帯のバイブレ―ジョンが震えたのはそんな時だった。
ディスプレイには織斑千冬の文字。なんだろうとおもいつつ通話ボタンを押す。
「もしもし」
《蒼月か。今は部屋にいるな?」
「はい。山田先生も一緒ですけど・・・・」
《うむ。ならちょうどいい、二人で医務室に来てくれ。話がある》
話・・・・それがどんな内容になるのかはおぼろげながらも検討がついてため息をつく。おそらくは、僕とラウラについて。そして、僕の記憶・・・・強いては経歴についても聞かれるかもしれない。なんらかの覚悟は必要かもしれないな。
「山田先生。織斑先生から連絡で二人で医務室に来てほしいそうです」
「はい」
「それから・・・・この後話すことになるかもしれないことは、他言無用でお願いします」
「…なんだか穏やかじゃないですね。わかりました。とりあえず行きましょうか」
僕の過去。一部とはいえ、これをみんなに知られるわけにはいかない。知られたら、多分ここには・・・・。
◇
なるべく人目を避け、医務室へとたどり着く。ここまでの道のりがやたらと長く感じたのはここに来たくないという想いが心の中にあるということか。またはただの緊張感故か。なにはともあれ、ここまで来てしまったからにはもう覚悟を決めるしかない。
少し深呼吸をして気持ちを落ち着かせてからドアをノックする。入室の許可が聞こえて個室のドアを開けると、ベッドに腰掛けたラウラと織斑先生がいた。
「来たか。まあ座るといい」
「…失礼します」
僕を見てラウラが少し目を反らした。あんなことがあった後だ。当然と言えば当然かもしれない。
「・・・・さっそくで悪いが本題に入らせてもらう・・・・と、言いたいところだが、最初にこいつがお前に言いたいことがあるそうだ」
直ぐに話をするかと思いきや腰を折られた気分でラウラを見る。心なしか、少し頬が赤い。それが年相応に見えて少し安堵した僕はただラウラの言葉を待った。
「…そ、その・・・・すまなかった。こんなことでは許してもらえないだろう。だから、その・・・・ど、どんな罰でも受ける!私にできることがあれば、なんでも言ってくれ」
なんともまぁ、ラウラらしいというかなんというか・・・・。不器用ながらも精一杯の謝罪をするところが箒とそっくりでちょっとおかしい。こういうのを似た者同士、というのだろうか。
少し考えて、ラウラを見る。おっかなびっくりに身を少しすくめるその姿は本当にただの女の子だ。
「・・・・なら、僕と友達になってくれないか?」
その回答にラウラは意外そうな顔を、織斑先生と山田先生は小さく笑みを浮かべて黙って話を聞いている。
「・・・・私で、いいのか?」
「もちろん」
「・・・・だが、どうしたらいいのか・・・・」
「簡単だよ。名前を呼んで。おまえとか、そういうんじゃなくてちゃんとした名前で」
名前・・・・。そう呟いてラウラは戸惑う。彼女にとって初めての経験ということだろうか。
かくいう僕も初めてのことだ。自分から友達になってほしいというのがこれほど照れくさいとは初めて知ったほどに。
「蒼月ライ。ライでいいよ」
「ラ…ラ、イ・・・・?」
「うん」
「ライ・・・・?」
「はい」
「・・・・ライ。私は・・・・」
「ごめんなさいとか、すまないとかはもうなし。謝罪はもう十分に受け取ったし、罰もちゃんとしたしね。これでチャラ。あとは一夏よみんなにも同じようにすること。僕も一緒についているから、ちゃんとみんなに会って、ごめんなさいって、ちゃんと言うおう。あとのことは、全部それからだ。いいね?」
僕の言葉にラウラが頷く。それを見て、織斑先生が口を開いた。
「・・・・さて、ことも済んだとこでさっそく本題に入るぞ」
空気が、一気に重くなった。
◇
時間にして、どれくらい経っただろうか。話している間、僕とラウラの声以外には時計の音のみが部屋に響いていた。それがやけに大きく聞こえ、不気味な感覚にさいなまれるほどにこの空間に流れるものは重く耐えがたいものだった。
「・・・・なんともまあ、ぶっ飛んだ話だな」
そこでようやく織斑先生が呟いたことで空気が少しながら軽くなる。説明し終えたラウラと僕は少し疲れてため息を、山田先生は何か思いつめたように目線を少し下げている。
「ボーデヴィッヒさんがライ君と・・・・その・・・・兄妹だったなんて・・・・」
「私以外にも、所属の小隊…シュヴァルツェハーゼの隊員全員が実験に関わっている。記憶に関してはなんらかの処理が施されているらしくまるで覚えていない。・・・・記憶を書き換えられたかのように、な」
記憶を書き換えられた、そのことに関しては僕にも覚えはある。計画の根本にかかわる最重要機密。―――――“ギアス”。
これがどういうものなのかは僕にもよくわからない。ただ、僕の中にずっとあるものであり、その力は恐ろしいものであるということだけははっきりとわかる。
絶対遵守。僕の命令を肉声で聞いた人間に対して従わせることのできるその力の一旦はすでにラウラの部隊員にて実証されている。ラウラがいつか言っていた「おまえのせいで私の部下たちは・・・・」とうのはおそらくこのことだろう。
なぜ、そんなものが僕の中にあるのか。いったい何時どこでこんなものを手に入れたのか。思考する僕の耳に、誰かの声が響く。
――――王の力はお前を孤独にする・・・・
呪い。この力を一言で表すならそれが妥当だろう。なぜかこの時はそんな気がしていた。
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