永遠の空~失色の君~
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EPISODE21 経緯
ラウラ・ボーデヴィッヒ。今日転校してきたドイツ軍所属の代表候補生にしておそらく一年最強の強さを誇る彼女。織斑先生から聞いた話だけでもそれを裏付けさせるには十分すぎるほどのものだった。
「階級もさることながら一個小隊の隊長か」
あの年にしてこの実績。とても同年代の女の子とは思えないのが素直な感想だが・・・・僕の中に眠っていたあの記憶。束さんに発見される前にいたドイツという国とそれに属する軍隊の特殊研究機関での僕の扱いから見るに、多分彼女は僕のクローンということになる。同じ毛色に、なんとなく覚えのある雰囲気。かつて記憶を失う前の僕は、今の彼女とおんなじものだったのだろうか?
「あ、ライ君。ちょうどよかったです」
部屋に戻ると山田先生が荷物をまとめてどこかへ向かう途中だった。近々行われるタッグトーナメントの打ち合わせがあるらしい。持っている資料にその名前があった。
「これをデュノア君とクルシェフスキーさんに届けておいてほしいんです。私はこれから職員会議がるので」
「専用機の使用手続きですね。わかりました」
「ありがとうございます、ではお願いしますね」
とてもお疲れのようで最後は少しため息をついていた。去り際に「ココアと美味しいお菓子用意して待ってます。いってらっしゃい」と声をかけると満面の笑みで「はい!」と意気込んで部屋を出て行った。
さて、僕も自分の役目を果たすとしよう。
◇
二人の部屋は僕と山田先生の部屋から見てちょうど真上に位置する。教員の部屋は生徒たちの下に位置し、内装はすこし異なりそれなりの待遇となっている。「ただでさえ高級ホテルのスイートルームみたいな造りの部屋なのにあれより豪華な部屋ってなんなのよ」とは鈴の話。ということは生徒の部屋はふつうなんだろうか?
少しの好奇心を抱きながらふたりの部屋の前にたどり着く。
「シャルル、ライだ。山田先生にプリントを届けてほしいと頼まれてきたんだが・・・・」
ノックした後に要件を伝える。ふつうなら直ぐに返事が返ってくるようなものだがそれがない。トイレだろうか?それともシャワー?
モニカはたしか今セシリアと一緒に射撃場にいるはずだから・・・・
「留守か・・・・?」
と思ってドアに触れる。すると、鍵がかかっていないようでドアが開いた。やはりトイレかシャワーのどちらかか。とりあえず中に入ってみる。
「この水が滴る音は・・・・シャワーか」
今思えばシャルルは男でモニカは女の子。いくら身内だからといっても年頃なのだからモニカのいない時間帯にシャワーにはいるのは不思議なことじゃない。
「あれ、シャンプー切れてる・・・・ごめん、シャンプーとってくれない?」
浴室からシャルルの声が。僕をモニカと勘違いしているのだろうか?
一瞬どうするか迷ったものの、男同志なら問題ないだろうと室内にはいりわかりやすい位置にあったシャンプーを手に取る。
このとき、僕はおそらく人生最大の選択ミスをおかしていた。まず、シャルルにずっと抱いていた違和感の正体。そして、このプリントを届けるという行為。部屋を訪ねたとき、返事がない時点でモニカのところへ行けばよかったのだ。
そしてソレは起こってしまった・・・・。
ガラガラと音を立てて開かれる浴室のドアの内部から湯気の白い靄があふれだしその場を満たす。
まず僕の目に映ったのはシャルルの生まれたままの姿。だが、僕の中のイメージに対する大きな違いがいくつか。
一つは、聞こえてきた声が男の子というよりは女の子だったということ。そしてもう一つは、本来あるべきものがなく、ないはずのものがあるということ。それもかなりくっきりとした・・・・・見事なまでの美しい凹凸。
この瞬間、彼・・・・いや、彼女に抱いていた違和感が確信に変わった。
◇
そてからはなんとも大変だった。覗きと勘違いされたうえにベストなタイミングで帰宅したモニカにナイフを突きつけられて危うく命を落としかけた。なんとか冷静さをとりもどしたシャルルにより誤解だということが弁解され、ようやく事態は沈静となった。
なったのはいいのだが・・・・
「シャルル様、これは非常にマズイですよ」
「うん。ここはやっぱりライには記憶を・・・・」
なんだか危ない発言がひそひそとささやかれている。逃げ出したい気持ちを抑えつつ、僕はくちを開いた。
「えっと・・・・なにかマズイことなら公言はしないと約束する。だからその・・・・」
若干また命の危機を感じた僕は慌てて二人をなだめる。それに苦笑いを浮かべるシャルルと咳払いをしてごまかすモニカがなんとも微笑ましいように見えた。
「でも、なんで男装なんてしてたんだ?」
「・・・・やっぱり気になるよね。モニカ」
「シャルル様が絶対的信頼できる相手なら私に拒否する理由はありませんが・・・・やはり反対です」
モニカとしてはシャルルの身の安全が最優先、いくらクラスメイトで交流のある僕でも身のうちを話すのは納得できないのは当然だ。でも、とうのシャルルはそうでもないらしい。
「こうなった以上ごまかすことはできない。それにライは他の人とは違う、そんな気がするんだ」
絶対的な自信があるような視線をむけるシャルル。それにおし負けたモニカはため息をしてシャルルはそれにまた苦笑い。
一つ深呼吸をしたのち、シャルルが笑んだ。その笑みは儚く――――――悲しそうだったのを、いまでもよく覚えている。
彼女の本当の名前はシャルロット・デュノア。デュノア社の社長ドゴール・デュノアの実子だが、愛人との間に生まれため、2年前に母親が死亡しデュノア家に引き取られたものの事実上居場所がなかった。その後、たまたまIS適性が高いことが判明したことから、自分の意志と関係なくIS開発のための道具として扱われてきた。モニカとはその時に知り合い、姉妹のように育ってきたという。学園に来たのは一夏の“白式”のデータを盗る為と、経営不振に陥った会社を立て直す為の広告塔としてだそうだ。
だが、これはあくまでも表向きだということらしい。
「私は・・・・ドゴール氏と現在の妻であるヴィクトリア氏の子なんです」
「ということは、二人は血筋だけで見れば本当の姉妹か」
「うん。でも、問題はそこじゃないんだ」
再び、今度はシャルロットに変わりモニカが続ける。
ドゴール氏は本来デュノアの人間ではなく、婿養子として入ってきたという。ヴィクトリアは彼の優秀な頭脳に惚れこんだ社長が差し向けたもので、構成事実を作り強制的に結婚させられたらしい。その為シャルロットの母親は愛人扱いされ社内をおわれ、彼女が生まれた。
ヴィクトリアからしてみれば、娘であるシャルロットも気に入らない。ISが発表されてからは彼女が話した通り、道具のように扱われていたらしい。そしてモニカは母のやり方が気に入らず、ドゴール氏と共にシャルロットを守る為に自らを彼女の護衛兼世話役に申し出たらしい。適正もシャルロットの方が高いためヴィクトリアはそれを承諾、そして現在に至るらしい。
「・・・・はぁ。なんだかすっきりした」
本当に、肩の荷が下りたかのように息をつくシャルロット。不安げになりながらも、少し安堵したようでモニカも少し疲れたような笑みをうかべた。
だが、これからが大変だ。僕が黙っていればいいだけのことだが、これがもしバレるようなことがあれば二人はただでは済まないだろう。事実情、デュノア社の権利のほとんどはヴィクトリアが握っている。公表されて自分の立場が悪くなるようなことがあれば即排除、つまりは――――――暗殺。大袈裟かもしれないが、可能性は少なくない。
笑顔で話すシャルロットとモニカ。僕の予測した通りのことがもし起こるのであれば、今こうして笑い合っているふたりからこんな些細な時間さえなくなる。そんなことは、あってはならない。
「・・・・二人は、これからどうするつもりなんだ?」
「・・・・よくて牢獄行き、かな」
「でも、それはこの学園からでたらの話だ。ドゴール社長がきみ達をなぜこの学園に編入させたか、それはふたりを守る為の最善策がここにあるからだ」
制服の内ポケットから取り出したのは生徒手帳。それをめくり、とあるページを見せる。
「これは・・・・校則?」
「・・・・そうか、それで!」
モニカは気づいたようで今までで一番の明るい表情を見せる。
「この学校の生徒は在籍中はあらゆる機関、国家、組織からその身の安全を絶対的に保障されている。これを破ればそれは世界全体に対して喧嘩を売るようなものだ」
つまり、この学園にいれば三年間は身の安全が保障されるものということだ。
「だからきみたちはここにいていいんだ。もし、二人を脅かすものがあるなら・・・・僕が排除する」
「ライ・・・・」
「・・・・それじゃ、僕も自分のこと話すよ」
◇
それから二人と話をして、部屋をでた。もちろん、ギアスと記憶のことはまだふせてある。これは友人といえど話すことではない。ふたりを騙していることにもなるけど、これを知られたら二人の身に危険が及ぶ可能性もあるからだ。
シャルロット・デュノア、モニカ・クルシェフスキー。そして・・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ。
(・・・・いろいろと、複雑そうだな)
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