永遠の空~失色の君~
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EPISODE20 リフレイン
「え~・・・・みなさんにまたお友達が増えることになりました」
今朝のHRは山田先生のそんな一言から始まった。その光景にデジャブを感じつつまた転校生かと不思議に感じる。
入ってきたのは銀髪の眼帯をした、一見凛とした雰囲気を持つ少女。背筋をぴんと伸ばし綺麗な立ち姿はまさに軍人のそれだ。最初に見た箒の第一印象と似ている。
「では、自己紹介をお願いします」
「・・・・」
沈黙。身動き一つどころかまつ毛一つ動くことはない。完全に無視されている――――――というか最初から存在しないものと認識しているのか?―――――ことに山田先生は目を潤ませて椅子に腰かける織斑先生に助けを求めた。その視線にため息を一つ。
「ラウラ。自己紹介をしろ」
「はい、教官っ!」
一瞬織斑先生を見て、再び元の姿勢に戻る。・・・・・ん?教官?
「ラウラ。ボーデヴィッヒだ」
「・・・・えっと、それだけですか?」
おそるおそる聞く山田先生。さっきのですっかり教師としての威厳は完膚なきまでに砕かれたようでもうどっちが生徒なのかわからなくなってしまうほどだ。
「以上だ」と短く返すラウラ。それから席に着くかと思いきや一番前に座っている一夏の前に歩みでた。
「・・・・?」
男子が珍しい――――――そう思ってみているのかと思いきやそうではない。
開かれた目が、鋭い眼光を放っている。そこから感じ取れる感情は・・・・憎悪と嫌悪感。そこにわずかな殺意さえも混ざっている。
ラウラがわずかに動いた。僕の中の何かが警報を鳴らし、とっさに叫ぶ。
「伏せろ!一夏!」
僕の声に無意識に反応した一夏が頭を伏せる。勢い余って机に思いっきり頭をぶつけてしまうが振りぬかれたラウラの平手は宙を薙いだ。ホッと息をつく。横を見るとどうやら同じ考えに至っていたモニカが今にも飛び出せるような姿勢で構えていた。彼女に頷きかけると少し一礼して席に座った。
改めて、ラウラに視線を戻す。驚愕に満ちた目を僕に向けるラウラはどこかこの世のものとは思えないものを見ているような目だ。
「・・・・なにを突っ立ている馬鹿者ども。とっとと席につかないか」
「は、はい・・・・」
織斑先生に促されて席につく僕とラウラ。あのラウラの目・・・・たしかに何かを知っているような素振りだった。もしかしたら、僕の記憶に関係あるかもしれない。
後で訊いてみよう。そう思いながら教壇で勉を振るう山田先生に意識を戻す。
・・・・・後でココアでも淹れてあげよう。
◇
時刻と場所は変わり、昼休みの第4アリーナ。シャルルにレクチャーされる一夏を遠目で見ながら、モニカと話す。話題はもちろん、ラウラについてだ。
「ライ様から見て彼女はどう見えますか?」
「・・・・まだよくわからない。でもひとつだけわかるのは――――――」
「・・・・織斑一夏、そして織斑千冬。この二人が関わっている」
モニカの言葉に頷いて返す。
ラウラの言動、すべてにこの二人が深くかかわっているのは明白だ。今日の授業中と休み時間での様子を見る限りそう考えて間違いないだろう。授業中は織斑先生を複雑な目で見てたし、一夏がなにかするたびにまたあの視線を向ける。この二人がどうかかわっているのかは僕たちの知るところではないが、一夏にしても織斑先生にしても、あまりよくないことになりそうな気がする。それはもちろん、ラウラにとってもだ。
こういう関係が悪化した末の結末は碌なものじゃない。このときの僕はなぜかそう確信していた。
「そういえばモニカはなんで飛び出そうとしてたの?」
「あの気配はイイものではありませんでした。彼女がシャルル様に危害を加えないとも限りませんし、何より織斑一夏はシャルル様のご学友。あの方のご友人であれば守らない理由はありませんから」
一見近寄りがたく堅物なイメージがただようモニカでも、シャルルを想う気持ち、その友達を守りたいと思う気持ちは本物だ。ただ、ちょっとそれが表に出にくいだけでとても素直な女の子。
みんなと楽しそうにするシャルルを見ているときの彼女の目は本当に優しくて、でもどこか儚げで。
「優しいんだね。モニカは」
「・・・・そんなことないです。・・・・これは、私なりの罪滅ぼしですから」
「なんか言った?最後の方よく聞こえなかったんだけど」
「なんでもありません」
「見て!あれ!」どこからかそんな声が聞こえて、それが指し示す方を見る。
カタパルトデッキからアリーナに突き出したレールの先端に立つのはISを纏ったラウラ・ボーデヴィッヒ。
「・・・・織斑一夏。貴様も専用機持ちだったな?」
「ああ。だからなんだよ?」
初対面の日以来、一夏とラウラの関係は最悪にして険悪。これには織斑先生と山田先生も手を焼いているようで何度か一触即発の空気はあった。でも、今回はなんだか雰囲気が違う。
「私と戦え」
「イヤだね。俺には理由がねぇよ」
そう言って背を向ける一夏。そこで、クラブのハイパーセンサが告げる。
*
警告!:僚機・白式ロックされています
瞬間、閃光が瞬く。ラウラがレール砲を発砲したのを確認するより速くクラブを展開して白式の前に躍り出てMVSを振りぬく。弾丸を切り払い真っ二つに裂かれた鉄の塊は地面に命中する。
「貴様またしても・・・・!」
「やめるんだ。一夏はその気がないと言ってるだろ?」
「フン・・・・まあいい。貴様にも用はある」
獲物を見つけたハンターのような目で僕を見下ろすラウラ。
「あの時、たしかに破棄されたはずの貴様がなぜここにいる?」
「は・・・・?」
「ライ、知り合いなの?」
シャルルが武装を構えながら言葉だけ向けてくる。
わからない――――――そう答えようとした時、突然頭にビジョンがうかんだ。
これは・・・・なにかの実験施設。
(そうか・・・・僕は・・・・)
初めてみる光景だというのに、嫌に最近のことのように感じるし現実的だ。記憶の一部・・・・それもかなり色濃くのこったものだ。
ドイツ軍の調査隊に発見されたことが、事の始まりだった。研究の為にとたくさんの薬を投与され続けた。その結果、彼らは僕からたくさんの技術を得た。IS開発だけでなく、軍事訓練の基礎から戦術まで、ありとあらゆるものを。
しかしその中で不可解なものが情報として挙がっていた。
――――――“ギアス”。僕の中に眠っていたものだ。でもそれを解析することはできなかったようだが、どの代わりとして彼らが以前から着手していたISパイロットとして最高の人材を創り出すプロジェクト。通称、“プロジェクトL”ラウラはその成功例だ。より強く、より賢く。人間としてでなくIS操縦者として最高峰のものを求め、その結果が彼女ということだ。
そして、使い古されボロボロになった僕は用済みとされ証拠隠滅の為破棄された。その際、僕は一度彼女に会っている。意識はあまりはっきりしていないが――――――
(恨み・・・・かな)
自分の出生の秘密を知り、その元凶がここにいる。そうなれば僕でも彼女のようになっていたかもしれない。
「・・・・きみが僕と戦いたいわけが分かった」
「ちょ、ライ!?」
「でも、今はその時じゃない。ここは退いてくれないか?」
「・・・・」
表情が変わった。
*
警告!:敵機よりエネルギー反応確認。ロックされています。
直後、また弾丸が放たれる。MVSで斬り捨てようと構える僕だが、後ろから放たれたビームがそれを貫いて爆発させた。
「ライさんとあなたの間に何があるのかは知るところではありませんが・・・・これ以上はこのセシリア・オルコットとブルーティアーズがお相手いたしますわ」
スターライトを構えたセシリアが銃口をラウラに向ける。そのセシリアの言葉に乗るラウラだが、そこで監修をしていた教員の声に阻まれてしまう。
おとなしく・・・・とはほど遠いものの、ラウラはカタパルト内にはけて行った。
僕の記憶。そのほとんどが戻った。でも、一致しないものがある。存在していたであろう妹と、その思い出。偽りものにしてはできすぎている。
これは・・・・いったい・・・・?
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