永遠の空~失色の君~
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EPISODE22 折紙
前書き
今回はかなり短いです
episode22 折り紙
シャルロットとモニカの衝撃カミングアウトから一夜明けての朝。いつもより早く起きたせいで寝つけないでいた僕は身支度を済ませて部屋を出る。まだ静まり返った寮内は少し不気味でどこか違う場所のように感じられる。
「あれ、あんたも早起き?」
スポーツウェア姿の鈴と袴姿の箒がロビーにあるソファに腰掛けていた。二人の日課である行事の終わり、もしくは休憩中といったところか。
「少し早く目が覚めてね」
「少しって、あたしらが言うのもなんだけど早すぎじゃない?」
外はまだ朝日が昇り切らない早朝。気温の変化にともなって発生する霧が立ち込める初夏の朝とはいえ、まだ薄暗いし起床時間まではだいぶある。
「最近眠りが浅くて。二人はもう終わり?」
「ああ。一休みしてから部屋に戻る予定だ」
「・・・・あ、そうだ!」
思い出したように鈴が手を叩き持っていた鞄の中を漁る。そこには以前食堂で鈴が持っていた折り紙が入っていた。
「これ渡すの忘れてたわ。はい」
「それは、折り紙?」
「うん。前に鈴と少しコレで遊んでた時に記憶の破片みたいなのが見えたからもしかしたら、って話してたんだ」
僕にとっては貴重なもの。どんなに些細なものであっても何かしらに結びつくものなら持っておきたい。
「折り紙か・・・・・私も昔はよくやってたな」
「折り紙って日本の遊びでしょ?あんだけ器用になんでも折れるなら日本人ってのは確実かもね。名前からしてもそんな感じするし
「だがハーフという可能性もある。正直ライの顔立ちは純粋な日本人という線はどうも考えられん」
「僕もそう思ってた。一夏や箒と比べるとなんかこう・・・・イギリスとかそっち系統の感じもしなくもないし」
席に座って折り紙を折りながら話していく。こうして話しながらでも手先が自然に動くあたりよほどよくやっていたのだろう。
「できた」
「・・・・なんども言うようだけどあんたホント何者よ」
折られていたのは、ピンク色の花だ。鶴を折っていたと思っていたが、無意識のうちに花を折っていたらしい。
これは――――――
「桜だな」
「桜?」
「日本の花よ。ってかIS関連のことはあたしらより知識あるのにこういうことは鈍いのね?」
「都合のいい記憶だと自分でも思うときが多々あるよ」と苦笑いで返し、折られた桜を少し見る。手に残る懐かしい感じと記憶のフレッシュバック。ノイズの向こう側に見えるのは、幼い二人の少女――――――
・・・・誰だ?
黒髪の子とまるで瓜二つなもう一人の少女。栗毛に、優しそうなその雰囲気は・・・・――――――
「ライ!」
「ッ!、どうした?」
「いくら呼びかけても返事がなかったからだ。どうかしたのか?」
「いや・・・・少し考え事だ。ごめん」
今の感じ・・・・たしかに前の時と同じだ。でもこれは比較的新しい、つまり最近のもの。妹がいたような感じは前からあった。でもこの不一致はなんだ?それとも、妹が二人いたということなのか?
問い詰めてもでることのないだろう答えを諦め、思考の海から出る。
「・・・・これ、鈴にあげるよ」
「え、いいの?」
「ああ。折り紙のお礼だ。こんなもので申し訳ないが・・・・」
「い、いい!全然いい!ありがとう」
まるでおもちゃを買ってもらった子供のような明るい顔で受け取る鈴が、なんだか愛らしく見える。気に入ってもらえて何よりだが本当にこんなものでよかったのだろうか?
「すごくきれいに折れているからな。こういうものは女子なら喜んでも違和感ないだろ」
箒のフォロー。彼女もよく僕の考えを察知してカバーをしてもらうことも多かった。
「それじゃ、箒にはコレを」
「鶴か。私もいいのか?」
「いつもお世話になっているから。本当はもっとちゃんとしたものをあげたかったんだが・・・・」
「いや、これでも十分だ。ありがとう」
こんなものでも喜んでくれるのがうれしい。僕がなにかをして友達が笑顔になってくれるのが心地いい。
・・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ。彼女もこんな風に笑うのだろうか?
このときは何故かそんなことを考えていた。
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