とある星の力を使いし者
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第146話
一方通行は運転席の背もたれを隠すように、自分の身体の位置を調整する。
ついでに背もたれを貫通している鋭い金属の凶器を、指先で軽く触れる。
一方通行は何やら麻生とインデックスには聞こえないように、小声で運転席にいる男に何を言う。
別に麻生に聞かれてもいいのだが、今の麻生はインデックスに説教されている。
「きょうすけは本当に何を考えているの!?」
「何をって、お前とアイツを助けて」
「あんな大勢の前で魔術を使うなんて、隠匿するってことを分かってないの!?」
何故か、危機的状況から助けたのに怒られている。
あの時、インデックスはあの状況をそれほど危機的状況である事を理解してないかもしれない。
数分に及ぶインデックスの魔術の隠匿するという意味を教えられる。
ここは科学の街の最先端、学園都市だ。
お互いのバランスの関係の事をインデックスは危惧して、言っているのだが麻生は右から左に受け流している。
「黒鍵の『火葬式典』まで使っていたし。」
「さすがはインデックスだな。
あの一瞬で魔術を看破する何てな。」
「褒めても許さないよ。」
「肉まん食べるか?」
「許すかも!!」
能力で創った肉まんだが、インデックスは何故麻生の手に肉まんが持っているという疑問など一切感じず、与えられた肉まんを食べる。
余りの場違いの雰囲気に一方通行は重いため息を吐き、あれだけのハンバーガーを食べた後なのに肉まんを食べるインデックスの食欲に呆れている。
今は後部ドアがない所からじっと外の風景を見ている。
チョーカー型の電極は既に通常モードに変えてある。
これは単に節約のためだ。
通常モードだけでも電力を消費するのに、能力を使用するときは莫大に電力を消費する。
能力使用時間は残り七分といったところだろう。
今は『反射』も使っていない。
なので、見えない位置からミサイルでも撃ち込まれたらそれでアウトだ。
まぁ、それも杞憂に過ぎないだろう。
この車には麻生恭介がいる。
ベクトル操作なんて能力が可愛く見えるくらい化け物みちた能力者だ。
おそらくミサイルが飛んできても、簡単に防ぐ事ができるだろう。
だが、一応警戒しておいて損はない。
傍から見たら後部ドアもない、いかにも盗難車ですとアピールしている不審ワンボックスが街を走っているのだが、一向に警備員にぶつかる事はない、
その気配すら感じない。
(この静けさも木原のクソ野郎が手間暇かけた演出の一つってェワケじゃねェだろォな・・・・)
そう考える一方通行だったが。
「いや違うぞ。」
いつの間にか隣に立っていた麻生がそういう。
インデックスは後ろから『醜いアヒルの子』の本を発見したのか、そちらに夢中になっている。
それらを確認した一方通行は小さい声で話しかける。
「どォいう事だァ?」
「さっきの奴の演出だろうと考えているが、違うぞ。」
完璧に考えを読まれている事に気味の悪さを感じる、一方通行。
それらを無視して麻生は話を続ける。
「警備員が原因不明だが次々と昏倒しているんだ。」
「あァ?」
「言葉通りだ。
俺もあそこに向かうまで、何人か目の前で倒れられたからな。
調べている見ると、一時的な仮死状態に近い状態になっていた。
原因は分からないがな。」
「・・・・・・・」
つまり非常事態に警備員は動かないという事だ。
この状況だと風紀委員も同じような状況の可能性がある。
『猟犬部隊』は警備員などに見つかるほど馬鹿ではないだろうが、これでは相手側はほとんど自由に動く事が可能だろう。
それは、一方的に追われる側にいるということだ。
現状を把握した一方通行は小さく舌打ちをして言う。
「てか、お前らはどォしてあの場面に来たンだよォ?」
さっきから軽く気になっている事を一方通行は聞く。
インデックスがいる手前、不用意に『闇』の話はできない。
麻生は巻き込んでもいいと思っているが、インデックスはこちら側に来てはいけない側の人間だ。
あの少女と同じだ。
だから、あまり『闇』とは無縁の話をする。
「私はこれを返しに来たの。」
そう言ってインデックスは袖の中にごそごそと手を突っ込む。
「ほらこの最新鋭日用品!
こんな大事な物を預けっ放しにしちゃ駄目なんだよ!
困っていたでしょ、でもこれでもう大丈夫なんだから!!」
「馬鹿じゃねェのかオマエは!?
こンな使い捨てでなおかつグシャグシャに丸まったポケットティッシュなンざ返してもらっても迷惑だ!!」
え、そうなの?、とインデックスはビニール袋に包まれたポケットティッシュを、小さな手で真っ直ぐ伸ばし直し始めた。
一方通行はうんざりした顔をして受け取り、麻生はさっきあれほど怒られたのに納得しかないようだ。
その隣にいる麻生に視線を向ける。
「俺は誰かさんが、打ち止めァァああああああああああああああああああああッ!!、心の底から吐き出したようなセリフが聞こえてな。
恥ずかしい場面でも見えるのかと思ったら、結構ガチな場面に出くわしてな。
とりあえず助けた。」
「そうだ、あなたが捜していた迷子の人見つかった?」
「ンや。
またはぐれちまってな。」
「それじゃあ、私も一緒に探すよ。
とうまもこの場に居たら一緒の事言うと思う。」
インデックスの言葉を聞いた麻生は重いため息を吐く。
どうやら、とうまという人物を知っているようだ。
麻生からすれば知っているというより、色々な事に巻き込まれるトラブルメーカーなのだが。
一方通行は運転手の男に声をかける。
「この辺りで停めろ。」
文字通り命を握っている一方通行の指示を受けて、男は路肩に車を停めた。
「協力しろ。」
一方通行はインデックスを見る。
「うん。
何をしたら良い?」
「この近くにデカい病院がある。
徒歩五分から一〇分って所だな。
そこに行って、いかにも帰カエルに良く似た顔の医者を見つけて来い。
医者に会ったら・・・・」
そこで言葉を切り、自分の首筋をトントンと叩いて。
「ミサカネットワーク接続用電極のバッテリーを用意しろと伝えろ。
それで通じる。
バッテリーってなァ大事なモンだ。
ソイツがねェと人捜しができねェ。
だからバッテリーを受け取ったら、オマエはダッシュで此処に戻ってこい。
分かったな?」
「分かった。
ミサカネットワーク接続用電極のバッテリーだね。」
完璧に復唱された。
一方通行の言っている意味を理解はしてないだろう。
理解していたらしていたで困るのだが。
意外に頭の回転は早いかもな、と一方通行が適当に考えていると、インデックスは三毛猫を抱えると雨の道路へ躊躇なく出て行った。
「待っててね。」
「あァ?」
「私が戻ってくるまで、ちゃんと待ってなきゃやだよ?」
「・・・・・・分かっている。
良いからさっさと行け。」
「きょうすけ。」
「ああ、コイツが先に行きそうになったら止めるよ。」
隣にいる麻生の言葉を聞いて安心したのか、パシャパシャと水溜りを踏みながら走って行く。
その小さな背中が、闇の奥へと消えていく。
「クソったれが。」
思わず吐き捨てて、彼は座席の背もたれに身体を預ける。
バッテリーに替えはない。
それは病院に行っても同じことだ。
電極自体が試作品なので、バッテリーもそれに対応して特殊な物になっている。
量産化などされていない。
されていれば、最初から大量のバッテリーをポケットにでも突っ込んでいる。
インデックスをこのままにするのは非常にまずかった。
だから、嘘をついたのだ。
『猟犬部隊』の活動現場を見たインデックスは今日一日は確実に追われる立場にある。
カエル顔の医者の元に行けばここにいるよりはマシな筈だ。
木原達との戦いにもあのインデックスが居れば邪魔になる。
これからの戦いは打ち止めの争奪戦になる。
お荷物を抱えたままでは確実に勝てない。
運転席の男に車を出すように指示する。
何やら泣き言を言ったが、鋼鉄の凶器を軽く揺するれば黙って発進させる。
少し走ると麻生は後部ドアのないところまで歩く。
「それじゃあ俺も退散させてもらおう。」
突然の麻生の発言に驚きこそすれ、何も言わない一方通行。
それに気がついた麻生は言う。
「ありゃ、てっきり打ち止めの捜索に手伝え、と言われると思っていたんだが。」
「何でテメェにそンな事を頼まねェといけねェンだ。
これはオレの戦いだ。
テメェはさっさと失せろ。」
「さっき俺が助けなかったら危なかっただろうに。」
「別にテメェが来なくても手はあった。」
嘘ではないだろう。
それは麻生が一番分かっている。
お互い似ている所が多いから、言わなくても分かるのだろう。
視線を外し、外に向けてそのまま外に飛び出した。
それを一方通行は黙って見送った。
麻生の力を借りる事ができれば、打ち止めの争奪戦は簡単に終わりを迎えるだろう。
だが、それは一方通行が許さなかった。
あの少女は自分が守ると決めたのだ。
例え、自分がどれだけ外道で悪党でも自分とは真逆の世界にいるアイツだけは絶対に守ると。
もし麻生から協力を申し込まれても一方通行は断っていただろう。
(さて、と。)
一方通行はこれから来るであろう戦いの準備を始める。
自分の守る者を取り戻し、守り抜く為に。
車から飛び出しても麻生は綺麗に着地した。
能力は使っていない。
それほどスピードも出ていないので、刻み込まれた身体能力だけで充分だった。
ポケットから携帯を取り出し、愛穂に連絡する。
しかし、返ってくるのはマニュアル通りの返事だった。
桔梗に連絡してもそれは同じだった。
あれから結構時間は経つが一向に繋がらない。
この二人が偶然にも、電源を切っているのかそれとも電波の届かない所にいるのかもしれない。
だが。
(どうして当麻やさっきまで一緒にいた一方通行達に連絡が通じないんだ。)
気になって他に通話できる人物に片っ端から連絡したのだが、どれもマニュアル通りの返事しか返ってこなかった。
一人二人なら偶然なのだと、片付ける事はできる。
しかし、五人六人と続けばそれはもはや異常だ。
原因不明の昏倒する警備員。
打ち止めの争奪戦。
そして異常なまでの電波障害。
一見繋がっていないようでそれらは全て根底的な部分で繋がっているかもしれない。
車を離れる時、一方通行に言おうとした事を言葉にする。
「この街には何かが起こっている。
何かとても大きな何かが。」
一方通行には打ち止めの方に集中して欲しかったから、敢えて言わなかった。
それにこれは麻生の勘だ。
何故そう思うか確証はない。
ないのだが、言い様の無い何かが麻生の胸の中で感じるのだ。
そして麻生は知っている。
こういう勘は外れた事はない事を。
降り続ける雨の中を麻生は走る。
まずは愛穂達を探す。
携帯を使えない以上、足で探すしかない。
能力は使う気が起こらなかった。
面倒臭いとかそんな理由ではない。
少しでも温存しておかないといけない気がしたからだ。
自分の直感を信じて麻生は雨の中を走る。
彼の守るべきものを守る為に。
後書き
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