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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第145話

一方通行(アクセラレータ)は濡れた路上の上に倒れていた。
ざーざーと降りしきる雨の中、一方通行(アクセラレータ)は雨を全身で受けたいから路上に倒れいている訳ではない。
そうならざるを得ない状況まで追い詰められたのだ。
チョーカー型の電極の制御スイッチをONにすれば、十五分だけだが第一位としての能力が復活する。
この状態なら核爆弾が直撃しても、傷一つつかない。
現に先程、猛スピードで突っ込んできた黒いワンボックスカー相手に傷一つなく立っていた。
能力を使い、その黒いワンボックスカーを破壊して乗っている男を瀕死の所まで追い詰める事ができた。
黒いワンボックスカーは盗難車らしく、ナンバープレートが強引に付け替えたらしき跡や、エアバッグが起動しない所や、鍵穴にこじ開けた形跡がある。
さらに後ろからの接近を悟られたくないのか、陽も落ちているのにフロントライトは消えていた。
一方通行(アクセラレータ)は自分に恨みのある奴か利用しようとしている研究機関か。
正直、どちらでも良かった。
自分をあちら側に戻そうとする輩は必ず来ると思っていた。
だからこそ、そういった輩が来たらどうするか既に決めていた。
ブチ殺す。
実にシンプルな思考だった。
それに従い、目の前の黒いワンボックスカーと男、後部座席にいた男を徹底的に追い詰めた。
殺さなかったのは一方通行(アクセラレータ)が飽きたのと、その後に三台の黒いワンボックスカーがやってきたからだ。
どの車も最初に突っ込んできたワンボックスカーと同じ盗難車だろう。
ナンバープレートや鍵穴が同じように細工されていた。
能力は充分に発動している。
これなら一〇秒で始末できる。
その時だった。
取り囲んでいる三台の車の後部スライドドアから、黒ずくめの男を蹴り落として中から一人の男が出てきた。
白衣を羽織った長身の男だ。
研究者のくせに顔面に刺青が彫ってある。
その両手には、細いフォルムの機械製グローブがはめられていた。
一方通行(アクセラレータ)はその男の顔に見覚えがあった。
木原数多
かつて、学園都市最強の超能力者(レベル5)の能力開発を行っていた男だ。
この黒ずくめの男達を見る限り、木原がボスである事は間違いないだろう。
木原の言葉曰く、上がうるさいと言っていた。
もしかしたら組織の頭だが雇われているかもしれない。
木原は一方通行(アクセラレータ)に近づき、金属製の細いグローブに包まれた拳を一方通行(アクセラレータ)に向かって飛来する。
ナニ考えてンだこの馬鹿、と呟いた。
そう思うのも無理はない。
一方通行(アクセラレータ)の『反射』は発動したままだ。
この状態の一方通行(アクセラレータ)を殴っても誰も傷つけられない。
むしろ自分に返ってくる。
それは木原が一番分かっている筈だ。
この野郎をどうやって料理しようかと考えていた。
だが、ゴン!!と。
機械製の拳が、一方通行(アクセラレータ)の皮膚を削り取り、頭蓋骨を揺さぶった。
予想外の一撃に、彼の脳が余計にショックを受ける。
『反射』は効いている。
それなのに、その絶対の壁を突き破ってきた。
さらに上から下へと金槌を振り下ろすような一撃を受ける。
全く『反射』は意味を為さなかった。
濡れた路上に倒れる。
現代的なデザインの杖が手から離れ、薬局のビニール袋が地面に落ちる。
木原は子供向けに調整された、打ち止め(ラストオーダー)のために買っておいた絆創膏だ。
それを似合わないねぇ、と言って踏み潰す。

「まぁ、アレはこっちで回収しといてやるからよ。
 テメェは安心してここで潰れて壁の染みにでもなっててくれ。
 そっちの方がテメェらしいだろうしな?」

その言葉を聞いた一方通行(アクセラレータ)の頭が、カッと熱を上げた。
木原数多は、目的は一方通行(アクセラレータ)ではないと言った。
そして、いつも一方通行(アクセラレータ)の側にいるらしい『アレ』を回収すると言った。
つまり目的はそちら。
『アレ』と呼ばれた人物を、一方通行(アクセラレータ)や木原数多のいる血まみれの世界へ引きずり落すと言っているのだ。

「ナメ、てンじゃ・・・・」

自分の間近で、言い換えれば無防備に接近し、こちらを見下ろしている木原や黒ずくめの男達を、彼は地面に身体を押し付けた状態で睨みつける。

「・・・・ねェぞ三下がァああああああああああああああああああああああッ!!」

轟!!と風が渦を巻く。
ベクトル操作で風を操り、それを木原達に向かって繰り出す。
風速は一二〇メートル。
竜巻(ハリケーン)として観測すると最大級のM7クラスに相当する。
殺せ、と一方通行(アクセラレータ)絶叫するが。
ピーッ、と乾いた音が周囲に響く。
途端に一方通行(アクセラレータ)が制御していた暴風の塊は吹き消される。
必殺と思っていた攻撃が、あまりにもあっけなく打ち消されていく。
愕然を通り越し、もはや呆然とする一方通行(アクセラレータ)

「駄目なんだよな。
 だから死んどけって、な?」

その辺にあった鉄パイプを拾い、一方通行(アクセラレータ)の顔面を殴りつける。
メキメキと顔の表面が嫌な音を立てる。
痛みのせいでとっさに出た声が、出口を失ってくぐもった響きを奏でる。
木原はそれを耳にしながら、鉄パイプを適当に放り捨てた。
朦朧とする意識の中、一方通行(アクセラレータ)は思う。
これと同じような現象を知っている。
自分が絶対だと思っていた超能力者(レベル5)の力を、掌で触れただけであっさりと打ち消してしまう、あの二人の男。
『反射』という不可侵の能力すらも打ち砕き、この華奢な身体に重たいダメージを次々と叩き込んだ、あの二人。

「オマエ・・・・自分の身体に、超能力の、開発・・・・」

「ギャハハハ!
 あーあー違う違う、そうじゃねぇよ。
 何で俺が実験動物の真似事なんかしなくちゃならねぇんだ。
 そういうのはモルモットの仕事だろうがよ。
 これはそんなに大それたモンじぇねぇ。
 あんな馬鹿げた力使わなくても、テメェ一人潰す事に苦労なんかしねえんだよ。
 っつかよ、テメェみてぇな馬鹿一匹潰すのに何でそこまで身体張らなくちゃならねぇんだ?」

「・・・・・・」

「いや、気分が良いなぁ。
 害虫駆除は気分が良い。
 今日はコイツの調子も優れてっし。」

言いながら、木原はマイクロマニピュレータの指を開閉させる。
ピクリ、と一方通行(アクセラレータ)の肩が震えた。
まだ終わらない。
ここで簡単に潰れる訳にはいかない。
一方通行(アクセラレータ)はベクトルを制御し、バネのように地面から飛び上がった。
そのままがむしゃらに腕を振るう。
右腕に固定されていた、現代的なデザインの杖がすっぽ抜けるが、気にしてなどいられない。
木原数多に五本の指を叩きつける。
一度目は失敗したが、二度目は爪が木原のはめるグローブへと触れる。
ベクトルを一点に集中させ、機械で作られたグローブを粉々に砕く。

「!?」

木原が驚いた顔が、宙に浮かぶ残骸の向こうに見える。
そこへ一方通行(アクセラレータ)に開いた五本の指を突き入れた。
必殺の腕は木原数多の顔面へ叩き込む。
だが。

「そっかそっか。
 力の秘密はグローブだと思ったのか?」

首を振っただけで一方通行(アクセラレータ)の一撃を軽々と避けた木原の顔に浮かぶのは、相変わらずの笑み。

「そうじゃねえんだわ!
 ぎゃはは!
 ごっめんねえ、期待させちゃったかなぁ!!」

ドッ!!と一方通行(アクセラレータ)の脇腹に拳が突き刺さる。
吐き気が胃袋で爆発し、しかしそれすらも強引に押し留められる。

「ははっ!
 いつまで最強気取ってやがんだぁ?
 このスクラップ野郎が!!」

思わず身体がくの字に折れ曲がった所で、ちょうど前へ突き出す形になった頭へさらに拳が飛ぶ。
オモチャのように、彼の身体が路面に転がっていく。

「テメェの『反射』は絶対の壁じゃねぇだろうが。」

木原はゆっくりと歩いてくる。
その言葉に聞き覚えがあった。
忘れる筈のない、一方通行(アクセラレータ)があの男に完敗した時だ。
お前の反射の壁は絶対じゃない。
あの男も同じような言葉を言っていた。
だが、あの男は物理法則を捻じ曲げると言う人間業ではない方法を使っていた。
もう一つの方法も既に頭に演算式を構築している。
それなのに木原はそのどれにも該当しない攻撃をしてきている。
もう一人の男、上条当麻の右手に殴られた不快感が一方通行(アクセラレータ)を襲う。

「ただ向かってくる力のベクトルを『反射に』変えているだけだ。
 なら話は簡単でよぉ、テメェをボコボコにするためには直撃の寸前に拳を引き戻せば良い、言っちまえば寸止めの要領だな。」

木原はそのまま起き上がろうとしている一方通行(アクセラレータ)の頭を踏み潰すように、何度も靴底が襲い掛かる。
身体の色々な部分が踏み潰され、引きつった皮膚が切れ、地と雨水が混ざり合ってにじんでいく。

「テメェは、自分から遠ざかっていく拳を『反射』させてる訳だ。
 って事はよぉ、テメェはわざわざ自分から殴られに行ってるって話なんだわ。」

木原がこちらの能力を逆手に取っているらしいのは何となく分かる。
それが机上の空論ではなく現実の問題として実行可能かは分からないが、木原相手に『反射』は使い物にならない。
そう判断した彼は空気の流れのベクトルを制御して暴風を起こそうとするが、そちらもピーッと乾いた音が聞こえただけで吹き消させる。

「同じ事だ。
 テメェの能力はベクトルの計算式によって成立する。
 なら、ソイツを乱しちまえば良い。
 風の『制御』は『反射』に比べて複雑な計算式を必要とする。
 テメェの計算式の死角に潜り込むような波と方向性を持った『音波』を放っちゃあ、簡単に妨害(ジャミング)できんだよ。」

そこからゴン!!ゴギッ!!ベゴ!!と鈍い音が連続する。
息が切れるまで蹴り続けると、木原は赤色の汚れた靴を雨で濡れた路面へ擦り付けた。
それが、この上なく醜い汚れであるかのように。

「おい、車ん中にあったヤツを持って来い。
 あれだよあれ、後ろの方に押し込んであった、埃の被っているヤツ。」

木原が軽く手を伸ばすと、その動きに応じた装甲服の一人がダメ―ジを引きずるような動きで車の後部座席へ入って行った。
その中から取り出し、木原が受け取ったのは、金槌やノコギリなどが丸々収まった、ズシリと重たい工具箱だ。

「武器ってなぁ雑っつーか大雑把の方が効き目が高い。
 暗殺用の非金属ナイフより材木用のチェーンソーの方がエグいみてぇにな。」

一方通行(アクセラレータ)は倒れたまま、ろくにしゃべらない。
彼はただ木原の顔を見上げる。

「なぁ一方通行(アクセラレータ)
 テメェは『アレ』の意味を理解してねぇんだよ。」

木原は笑う。
アレというのは、あの小さな少女以外に考えられない。

「大体よー、そもそも量産能力者(レデイオノイズ)開発計画だっけか。
 軍用量産モデルとしてゴーサインを出たっつー時点で怪しいじゃねぇか。
 だったら第三位の超電磁砲(レールガン)じゃなくて、第一位のテメェのクローンを作るべきだろうがよ。
 ナニかがあるんだよ、そこには。
 テメェがちっとも理解していねェ何かが、だ。」

「クソったれが・・・・
 俺以上にあのガキを分かってねェオマエが、テキトーなコト言ってハシャいでンじゃねェよ。」

木原はニコニコ笑って、重たい工具箱の角を両手で掴み、握り心地を確かめる。
彼は笑って言う。

「感動的だねぇ。
 本人だって大喜びだ。」

一方通行(アクセラレータ)の心臓が止まるかと思った。
彼の身体は動かない。
それでも、倒れたまま、這いつくばって姿勢で顔だけを動かす。
一〇〇メートルほど離れた場所。
そこに、その先に、黒ずくめの男に二の腕を掴まれ、だらりと残る手足を揺らしている、小さな少女がいた。

「回収完了、って所だな。」

木原数多の声が、一方通行(アクセラレータ)の耳から遠ざかっていく。
地面に倒れた彼の視界の先に、三人の人間がいた。
二人は並んで歩く黒ずくめの男。
あとの一人は荷物の様に掴まれている打ち止め(ラストオーダー)だ。
まるで重たい物を入れたビニール袋のようだった。
足の裏が地面に接触してない。
垂らした紐のように、ただただ足の甲の方が力なく地面とぶつかっていた。
ここからでは、彼女の表情は見えない。
手足と同様、枝のように揺れる音はうな垂れていて、前髪と影で表情が隠れてしまっている。
相当苦しそうな姿勢であるにも拘わらず、身じろぎ一つもなかった。
片手で持つのが疲れたのか、男は隣にいるもう一人の仲間へ、乱暴に打ち止め(ラストオーダー)を押し付けた。
それでも手足が頼りなくふらつくだけで、彼女は全く反応しない。
木原は笑って言った。

「あーあー、ありゃあもう聞こえてねえかもな。
 一応本命は生け捕りってハナシになってんだがよ、アレは本当に生きてんのか?
 こんなんで始末書なんて真っ平だぞ。」

ふざけンな、と一方通行(アクセラレータ)は口の中で呟いた。
彼女はまだ生きている。
死んでいる筈がない。
もしも打ち止め(ラストオーダー)が死んでいるとしたら、妹達(シスターズ)の代理演算に頼っている一方通行(アクセラレータ)の方にも影響が出るはずだ。
・・・と、思う。
試した事はない。
あのガキを殺して試そうと思った事がないから確証がない。
|打ち止め(ラストオーダー)を連れて、黒いワンボックスカーに向かって行く。
あの自動車に押し込まれたら、もう終わりだ。
あの少女は、血と闇にまみれた世界へ引きずり戻される羽目になる。
そして、そこから帰って来られる可能性はゼロだ。
一方通行(アクセラレータ)はボロボロになった身体に、残された力を注ぎ込む。

打ち止め(ラストオーダー)ァァああああああああああああああああああああッ!!」

顔を上げて叫んだ。
ピクン、と呼ばれた少女の肩がわずかに動いた気がした。
倒れたまま、腕を振り上げる。
ベクトル操作では木原は弾けない。
風も妨害(ジャミング)されて使い物にならない。
そもそもこの状態を叩き潰す事は考えるべきではない、もっと優先すべき事があるのだから。
一方通行(アクセラレータ)は歯を食いしばって、己の手を濡れたアスファルトへ叩きつける。
ゴッ!!という破壊音。
膨大な力に吹き飛ばされたアスファルトの破片は四方八方へ飛び散り、それによって木原がわずかに後ろへ下がる。
猶予は一秒もない。
限られた時間の中、一方通行(アクセラレータ)は今度こそその手に『風』を掴む。
木原の舌打ちが聞こえた。
暴風の槍は木原の真横を突き抜け、黒ずくめの男に掴まれている打ち止め(ラストオーダー)の元へと突っ込んだ。
風速一二〇メートル。
その身に暴風の風を受けた打ち止め(ラストオーダー)の身体は黒ずくめの手から離れ、一〇メートル以上の高さのビルをいくつも飛び越え、風景の陰へと消えていく。
ごぼっ、と一方通行(アクセラレータ)の喉が変な音を出した。
押えつけようと思う前に血の塊が吐き出され、彼の顔は再び雨に濡れる路面へと落ちる。
バッテリーの残量はあっても、もう『反射』に意識を割けない。
風景に消えていく打ち止め(ラストオーダー)を見た木原が面倒くさそうな声をあげる。
残っている黒ずくめに指示を出し、打ち止め(ラストオーダー)の回収班と木原の元に残る班を分ける。
指示に従い、回収班は散り散りに路地に消えていく。
そして、木原は転がっている一方通行(アクセラレータ)に近づく。
持っていた工具箱を振り上げる。
ボロボロになった一方通行(アクセラレータ)の顔を狙う。

「せっかく逃がしたのは良いけどよ、アレは一〇分もしねー内にカゴの中だぜぇ?」

「・・・黙れ。
 クソッたれが。
 オマエにゃ・・・一生、分かンねェよ。」

「そーかい。
 じゃあ殺すけど、今のが遺言でイイんだよな?」

汚ねェ染みになっちまいな、と木原は嘲笑う。
くそ、と一方通行(アクセラレータ)は顔に出さずに呟く。
このままでは木原の言う通り、打ち止め(ラストオーダー)は捕まってしまう。
一応、逃走能力はあるがそれでも圧倒的に不利だ。
黄泉川は何をやっているのか、芳川は拳銃を持ってやってこないのか、と一方通行(アクセラレータ)は思う。
答えは分かっている。
もちろん来ない。
そんなに都合良く来てくれるはずがない。
それでも。

(誰か。)

それでも、一方通行(アクセラレータ)は思う。

(起きろよ幻想(ラッキー)・・・・。
 手柄はくれてやる。
 俺を踏みにじって馬鹿笑いしても構わねェ。
 誰か、誰でも良いから、あのガキを・・・・)

願いが届く筈がない。
工具箱は容赦なく振り下ろされる。
その直前で、

「そこで何をしているの?」

あ?、と木原は振り上げた腕を止める。
装甲服を着込んだ連中が声のした方へ振り返る。
距離は二〇メートルもない、
そこらの細い脇道から、不意に出てきたのだろう。
小雨の降り注ぐ夜の街の中、傘も差さずに立っているその人影は、街灯の光を照り返してぼんやりと輝いている。
その影は腰まである銀の長い髪を持ち、色白の肌に緑色の瞳を備えていた。
格好は紅茶のカップのような、白地に金刺繍を施した豪奢な修道服。
だが、その所々に安全ピンで留めている、とてもアンバランスな服を着込んでいた。
その両手には、こんなギスギスした世界とは縁のなさそうな三毛猫が抱えられている。
一方通行(アクセラレータ)は、倒れたまま思い出す。
彼女の名前はインデックス。
その声は一方通行(アクセラレータ)や木原数多、『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』の耳に染み込んだ。

(最悪だ。)

一方通行(アクセラレータ)は崩れ落ちたまま、ぼんやりと思った。
場違いにもほどがある。
チャンスどころか、これでは厄介事が増えただけだ。
木原も眉をひそめていた。
彼が命令を出せば、少女など数秒で挽肉になる。

「どうしますか?」

周囲を固めている黒ずくめの一人が、木原に耳打ちした。
木原はつまらなさそうに息を吐くと。

「どうするって、お前。」

一言。

「消すしかねぇだろ。」

一方通行(アクセラレータ)は舌打ちする。
インデックスは『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』の活動を目撃している。
存在自体が隠されているであろう非公式工作組織をだ。
それが示すのは当然口封じという言葉だった。
彼女はもうここから逃げた所で延々と追跡される立場にある。

(どのみち黙っていたって俺が殺される事に変わりはねェ。
 ならやってやろォじゃねェか!!)

そう一方通行(アクセラレータ)が決意して行動に移そうとした時だった。
ガンガンガン!!、とアスファルトに何か突き刺さる音が聞こえた。
その場にいた全員が音のする方に視線を向ける。
それは剣だった。
赤いシンプルな柄に刃渡り八〇~九〇センチの剣が突き刺さっていた。
剣は五本。
先端が二〇センチ程度、アスファルトに刺さっている。
それらは木原と黒ずくめの男達中心に刺さっていた。
そして、埋まっていない刀身の部分に赤い刻印が浮かんだ瞬間だった。
ドドン!!、とそれらが爆発した。

「ちっ!!」

木原は舌打ちをして、大きく後ろに下がる。
黒ずくめ達も突然の爆発に驚いていたが、怪我はない。
だが、一方通行(アクセラレータ)から余裕を与える距離を生んでしまった。
近くのビルの上から黒い影が舞い降りてきた。
ちょうど、一方通行(アクセラレータ)と木原達の間に降りた。
白髪に全身が黒の服で統一された男性。
麻生恭介が突然やってきた。
手には先ほどと同じ剣が両手合せて六本、指の間に挟まっている。

「麻生・・・」

「恭介・・・」

一方通行(アクセラレータ)とインデックスは麻生の名前を呟く。
木原はその二人の反応を見て、この男が二人の、一方通行(アクセラレータ)の知り合いである事に気づく。
それなら容赦する必要はない。
元々、自分達の存在を知り、尚且つ邪魔をしたのだ。
生かす意味はないし、殺す事しか頭にない。

「殺せ。」

その一言で、黒ずくめたちの持っているサブマシンガンが火を噴いた。
自動車のドアを穴だらけにするほどの威力を持った弾丸が麻生に襲い掛かる。
麻生は黒鍵を構えると、弾丸を全て弾いていく。
六本の黒鍵を巧みに使い、弾丸をアスファルトに叩きつけ、黒ずくめの男達がサブマシンガンの弾を全て撃ち切っても麻生に傷一つない。
さらに、黒鍵の刀身と刀身の間にはサブマシンガンの弾丸が挟まっている。
それらを見た黒ずくめ達は息を呑んだ。
木原だけが、麻生を注意深く観察する。

(何だこのクソガキ。
 あの数の弾丸を全て超能力なしで防ぎ切った。
 いや、実際には目には見えない超能力で防ぎ切ったのか?
 あの剣には化学変化で爆発する薬品が塗られている。
 さて、どう攻める。)

突然の登場だが、油断できない。
初めて木原から余裕の表情が消える。

「今だ、一方通行(アクセラレータ)。」

それを聞いた一方通行(アクセラレータ)はチョーカー型の電極に注意を向ける。
能力はまだ使える。
ボロボロの身体に鞭を打って、ベクトル操作を行う。
思い切り地面を蹴って、そのベクトルを制御して一気に浮く。
恐るべき速度で、一番近い黒いワンボックスカーの後部スライドドアへと収まった。
運転席で待機していた黒ずくめの男が反応する前に、一方通行(アクセラレータ)は潰れて押し込まれたドアに手を伸ばしスライド部分の金具を毟り取る。
ギザギザに尖った、幅五センチ、長さ二〇センチほどの棒状の鉄片を握り締めると、それを勢い良く運転席の背もたれの真ん中に突き刺す。
ずぶり、と。
音というより感触のようなものを得た。
悲鳴すら上げる事もできず、運転席に縫い止められた男に、一方通行(アクセラレータ)は語る。

「進め。
 オマエは三〇分で死ぬ。
 さっさと病院に行かねェと手遅れになるぞ。」

応急キットでどうにかなるレベルではないのは、男も痛みの程度で分かるのだろう。
そもそも、あの木原数多が負傷し足手まといになった部下をどのように扱うのか、誰よりも理解できている筈だ。

「ひっ!?」

決断は速かった。
ガォン!!という甲高いエンジン音と共に、一方通行(アクセラレータ)を乗せた黒いワンボックスカーがヒステリックな挙動で発進した。
麻生が来たのに一方通行(アクセラレータ)は何故、逃げの一手をとったのか。
理由は簡単だ。
このまま木原を殺しても、打ち止め(ラストオーダー)を追い駆けている『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』に捕まってあの世界に連れて行かれれば、その時点で一方通行(アクセラレータ)の負けだ。
とりあえず、打ち止め(ラストオーダー)の安全を確保する方が先決だ。
黒いワンボックスカーが発進するのを見て、麻生は持っている黒鍵を木原達に、正確にはその手前のアスファルトに突き刺すように投げる。
深々とアスファルトに刺さると、先程と同じ様に爆発する。
木原は薬品を塗って化学変化を起こして、爆発させているのだと判断したが実際は違う。
『火葬式典』という魔術付与が込められた魔術の一つだ。
爆発に怯んでいる間に、麻生は呆けているインデックスを抱きかかえる。

「わあああ!!」

場違いな悲鳴を漏らす。
それを気にせずに、木原達から離れようとしている黒いワンボックスカーの車内に空間移動(テレポート)する。

「えっ・・えっ!?」

いつの間にか車内に移動している事にインデックスはついていけていないようだ。



それらを見届けた木原は気の抜けた声を出して言う。

「アレだアレぇ、アレェ持って来い!!」

ムチャクチャ過ぎる注文の出し方だが、部下は従順に応じた。
残るワンボックスの中から迅速な動きで携行型対戦車ミサイルを木原へ受け渡す。
それでも木原はさっさとしろ間抜けと怒鳴って部下を殴り飛ばす。
プロのオペレーターがキーボードを叩くような正確さと素早さで、一気に砲を組み立て安全装置を解除していく。
その動きには一切の迷いがない。

「う、運転手は!?」

「関係あるかよヤッハーッ!
 脱走兵は即刻死刑!
 さようなら、子犬ちゃん、あなたの事ァ二秒ぐらい忘れませんってなぁ!!」

ガコッ!と木原は全長一メートル、太さ三〇センチほどの砲を肩に担いで側面のスコープに目を通す。
照準を合わせる。
追尾ミサイルの引き金に指をかける。
数十メートル進んだワンボックスは通り角を曲がろうとしている所だった。
間に合う。
たとえ自動車が曲がりきっても、ミサイルは車を追って斜めに進み、角のビルの壁にぶつかれば、コンクリート片の嵐を喰らってワンボックスをひっくり返る筈だ。
一方通行(アクセラレータ)は死なないだろうが、とりあえず確実に足をなくす。
後は傷を負ったその他三人ともども、一方通行(アクセラレータ)をじっくり料理すればいい。

(甘々だぜェ、一方通行(アクセラレータ)
 車なンか使っちまったら、もう繊細な風の操作は使えねェ!
 あのクソガキの登場は予想外だったが、このミサイルは防げねェ!)

ハイな笑みを浮かべて、引き金を引こうとした時だった。
一瞬木原は自分の目を疑った。
ワンボックスの屋根に一人の男が立っている。
先程舞い降りた男だった。
その男は和弓のような木でできたシンプルな形をした弓を構えている。
矢は六〇センチ程の鉄の矢だ。
弓道でもするかのような凛々しい姿勢で真っ直ぐこちらを見ている。
見つめ合う事一秒。
木原は引き金を引き、男は矢から手を離す。
携行ミサイルは真っ直ぐワンボックスに向かって、矢は向かってくるミサイルに向かって行く。
矢は全くぶれる事無く、ミサイルにぶつかる。
コン、と小さい音と同時にミサイルが爆発する。
爆炎が収まると、ワンボックスは角を曲がっていた。
木原は歯を強く噛み締めた。
ギリッ!、と音が他の黒ずくめの男達の耳にも聞こえた。

(あのクソガキ。
 この風と天候にもかかわず、矢が一切ぶれなかった。
 そもそも、この状況で弓で迎撃するなんてどんな馬鹿だァ?)

非常に苛立っていた。
さっきまで思い通りに進んでいたのに、途端に狂いだした。
あの男がやってきてから。
木原にしては珍しく、あの男の顔を覚え、次に会ったらぶち殺すと思うのだった。 
 

 
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。 
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