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久遠の神話

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最終話 あらたなはじまりその九

 加藤だった、カーキ色の作業服と作業帽といった格好だった。右手にはモップがある。上城はその彼を見て驚いて言った。
「あの」
「俺が何故ここにいるかか」
「どうしてですか?」
「仕事だ」
 簡潔にだ、彼はこう答えたのだった。
「表の仕事だ」
「確か」
「清掃業をしている」
 また自分から言う加藤だった。
「それでだ、今日はな」
「この学校で、ですか」
「仕事をしている」 
 つまり清掃業の仕事でここにいるというのだ。
「それだけだ」
「それでおられるんですか」
「そうだ、そしてだ」
「そして、ですか」
「昼のこの仕事の後はな」
「ストリートファイトですか」
「今日は地下世界だ」
 そこで戦うというのだ。
「デスマッチの予定が入っている」
「相変わらず戦っておられるんですね」
「好きだからな」
 だから戦う、それだけだった。
「続けている」
「そうですか」
「君はもう戦わないな」
「はい、もう」
 剣士の戦いは終わった、だからだと答えた上城だった。
「もうしないです」
「そうか、ならいい」
「もう僕とはですか」
「俺は戦うだけだ」
 それ故にというのだ。
「しかし君が戦わないのならな」
「もう僕とはですか」
「関わることはない、それではな」
「はい、じゃあ」
「今度は知り合いとして会おう」
 かつて戦ったがだ、今はというのだ。
「何なら共に飲もう」
「お酒ですか」
「酒は好きか」
「一応は」
「俺もだ、では酒の場で一緒になったらな」
「はい、その時は」
「飲もう、それだけだ」
 こう言ってだった、加藤は。
 二人の前から去ってだ、彼の仕事の場に向かった。樹里はその彼の背を見送ってから上城に対して言った。
「あの人は」
「純粋なんだね」
「そうよね、戦いが好きなだけで」
「相手をいたぶったりすることはね」
「一切しない人ね」
「悪人か善人かはね」
 この世に溢れている二分割の論理では、というのだ。
「言えない人だよ」
「そうした人もいるのね」
「そういうことだね、あの人は戦いが好きなんだ」
 やはり純粋にだ。
「だから戦うんだ」
「相手を殺したりはしないのね」
「そうしたことには興味がない人だね」
「興味があるかどうかなのね」
「戦いには興味があるから」
 もっと言えば清掃にもだ、興味があるからその中で生きている。そうした考えの持ち主だからそれでだというのだ。
「あの人と僕はね」
「会うことはあっても」
「僕は戦わないから」
「もう関わることはないわね」
「そうだね、そうなるよ」
 こう樹里に話すのだった、そうして。
 上城と樹里は道場に向かった、そして道場が見えたところでだった。
 スフィンクスが前に座っていた、上城は彼女を見て今度は目を瞬かせた、そのうえで彼女にも問うたのだった。 
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