ワンピース~ただ側で~
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番外15話『激情晩その後』
遂にナミと……その……あれだ。
男の女の関係的な……そういう関係になった。
きっとココヤシ村に帰ったらベルメールんさんもノジコもゲンさんもドクターもみんな祝福してくれるに違いない。いやー、いっぱいからかわれるんだろうなぁ……からかわれること自体はどうでもいいけど、たぶんその時はからかわれることすら喜べる気がする。
子供のころからナミが好きで、もう女性といえばナミしか思い浮かばないような人生を送ってきた俺が、いわゆる初恋が実った形になるのだろうか……うん、なるね。もう初恋どころか終恋? 全恋か? ……自分で思っておきながら意味はちょっとわからないけど、まぁ勢い的にそんな気分ということだ。
本当になんというか嬉しいというか幸せというか。ルフィたちの仲間として、最低限に胸をはっても許してくれる程度のことは出来ていたらしいし、もう自分に言うことがない。こんな幸せなことがあふれている人が他にいるだろうか、いやきっといない。
もう人生の絶頂期だ。パーティータイムだね。
このまま人生を終えてもいいぐらいかもしれない。
……ごめん、師匠。俺まだ師匠超えてないけどそういう気分だ。
でももうゴールしても……いいと思うんだ。
ほら、天使さんが俺を迎えにきた……僕もう疲れたよパトラッ――
「――いやーーーーー! よく寝た!!」
……。
……誰だよ、うるさい声出したの。
……いや、声でわかる、ルフィだ。全くもってアレだ、もういわゆるアレだ……その、アレだ。例は出てこないけどアレだ。うん、アレだ……まぁいいや、なんか言葉出てこないから許す。
というわけで気を取り直してもう一度。天使さん、もう1テイクお願いします。
僕もう疲れたよパトラ――
「――あっ! 帽子は!? 帽子! はらへった! 朝飯と帽子は!?」
……。
……もう台無しだわー、天使さんいなくなっちゃったものー、台無しだわー……もうホント台無しだわー。
「――」
「――」
まだなんやかんや騒いでるし。
まったく、騒がしい奴らだ。
――……ん?
フと思った。
あれ? なんか、おかしくね?
体が動かない。
視界が暗い。
頭がどこかぼんやりとしている。
なんか暖かいものにくるまっている。
背中が柔らかい。
気持ちいい。
もしかして――
――俺……寝てる?
いや、正確にいうと寝てたのか?
今丁度、眠りと目覚めかけ的なあのまどろみに中いる感じ。
……みんな騒いでるし俺もそろそろ起きた方がいいんだろうか。
――……ん?
また、フと思った。
寝てた?
……いつから?
もしかして……いやもしかするとだけど――
「――夢っ!?」
布団から飛び起きた。
「おーハントお前も今起きたのか? 実はおれもなんだよ。あと30分で夕食――」
「……っ」
ルフィの言葉を聞いてなんかいられなかった。
どこから俺は寝てたのか。まさかだけどナミと俺とのことも夢だったとかそういうオチがあるんだろうか? そういう夢を俺なら見そうだからはっきり言ってシャレになってない。それを確認するためにもナミを探す。
笑っているルフィ、ゾロに小言を言っているチョッパーとそれを聞き流すゾロ。不機嫌そうになぜか俺を睨んでいるサンジ、不思議そうな顔をしているウソップ、ルフィの側でどこか楽しそうなビビ。そして――
――いた……すぐ近くに、俺のベッドの側の椅子に座っているナミが。
「……っ」
夢かどうかを尋ねようとして……なんて聞けばいいのかわからなくて言葉が詰まった。
――夢じゃないよな?
……いや、いきなり言われても意味がわからないだろう。
――俺たち恋人になったよな?
……もしも夢だったら完全に否定されて、ものすごい赤っ恥をかくことになる。
「……」
結局何を言えばいいかわからずにナミを見つめるだけになってしまった俺だったけど「怪我、ほとんど治ったみたいね?」というナミの態度に違和感を覚えた。耳を赤くして、顔をそらしているんだから、いくら俺でも普通じゃないことぐらいはわかる……というか、この態度を見れば俺とナミの関係が夢じゃなかったって確信を持てる。ホッとしたのと同時、ずっとナミを見つめてしまっていた自分に恥ずかしくなって、けどそれをみんなに見られるのがなんか恥ずかしくて「そういえばわき腹はもう痛くないな」と少しおざなりな返事をしておく。
「その……ハント?」
「……ん?」
「もう、みんなには言っておいたから」
「?」
言った? 何を?
よくわからなくて首を傾げたらナミがそれを察したのかため息をついて、けどやっぱりそれ以上に恥ずかしそうに言う。
「……その……私たちのこと」
――私たちのこと?
よくわからなくて首を傾げて――
「――っ!?」
わかった。
つまり、俺とナミが……その、なんというか……いわゆる恋人になったということを既にみんなに宣言していたということだろう。
あぁ……そういえば俺に対しての、サンジを含めたみんなの表情の意味がやっとわかった。それぞれ俺とナミの関係を知ったからこその表情だったんだな。
「嫌だった?」
ナミが上目づかいで聞いてきた。
やばいよ、反則級だろ。この可愛さ。
「い、嫌なわけないだろ? ……ただ――」
ちょっとドモってしまったのはもはやナミの可愛さが世界のレベルを超えしまったからで本当に嫌だとは思っていない。寧ろみんなには言っておかないとと思っていたのも事実だ。みんな俺の気持ちを知っているわけだし。
けれどやっぱり、思うこともないわけではなくて。
「――ただ?」
ナミに続きを促されて……ため息で間を取ってから、続きを言う。
「恥ずかしいな、ちょっと」
「それは……うん、私も」
ナミがなんだかくすぐったそうな表情で頷いてくれました。
「……」
可愛いです。やばいです。
絶句してしまいました。あまりの可愛さに。口調がおかしいのも全部ナミのせいです。
王下七武海には絶世の美女がいるらしいけど、それよりもナミは可愛いと断言する……いや、まぁ会ったことないからテキトーだけど。
こうやってナミと二人の世界に入って完全に油断してしまったせいだろうか。
「――いつまでナミさんと世界に浸ってやがんだクソ野郎っ!」
サンジの嫉妬に気付くのが遅れた。
「うぉっ!?」
背中から蹴りこまれたサンジの蹴り――威力は調整してあったのか、痛みはあまりない――を喰らってそのまま弾かれてしまった。
人間というものは背中から蹴られてしまうと当然自分が向いている前方へと、それはもう当たり前に押し出されてしまうわけで。油断していたというか完全にナミにばかり気を向けていた俺がそれに抗う術なんてないわけで。さらにいうなら俺の前方にはナミが椅子に座っているわけで。
要するに何が言いたいかというとつまりは、ナミの胸に俺はダイブしてしまった。しかも勢いは止まらずに椅子の背中から倒れこみ――
「っててて……しまった油断して……ん?」
背中をさする俺の下にはナミがいて。
「いったー……ん?」
顔をしかめているナミの上には俺がいて。
「……」
「……」
目があった。
――完全に俺が今ナミを押し倒している状況になってしまっていた。
これに関してはもちろんわざとじゃないし、不可抗力だ。いくら俺でもみんながいる前でナミを押し倒すだなんてマネはできない。いや、二人っきりでもそれをできるかと問われたら多分NOと答えるけど。
「……」
「……」
本当は動きたくないけど、流石に動かないわけにもいかない。
「……ふぅ」
「……」
俺とナミが顔をそらして、ゆっくりと立ち上がる。
顔が熱いのはきっと気のせいじゃないし、ついでにいうならなんとなくみんなの前でこういう態勢になってしまったことに気まずさを覚えているのもきっと気のせいじゃない。
「……? おまえらなんか変だぞ?」
ルフィが首を傾げてつぶやき、それに対してなぜか笑顔をしているビビが「ハントさんとナミさんが――」とゴニョゴニョと小さい声でなにかを話す。ルフィにはまだ俺とナミが恋人関係になったということを説明してなかったのかもしれない。そういえばさっき3日寝てたみたいなことを言っていたのを寝ぼけ頭で聞き流していた気がする。
なんというか、目の前で説明されているんだろうという事実が恥ずかしくて、また顔を俯かせる。ルフィだとまたリアクションが大きそうでなんかそれも恥ずかしい。
どんな反応をするんだろうかと思いながらそれを見つめていると、それを聞き終えたルフィが案の定の驚きの顔で口を開く。
「ハントとナミがこいび――」
「――うぉ」
いちいち大声で言うなよ! 恥ずかしいから! そう思ってルフィの口を塞ごうとして――
「――夕食できたよ!」
「おっ! ほんとか!? よーし、食うぞ!! なんたって3日分だからな!」
ルフィの興味が一気に食欲へと移った。
「おーし、みんな行くぞ!」
と呼びに来てくれたおばちゃんに一目散についていく。
「そっちが勝つのかよ!」
既にいなくなってしまったルフィについ突っ込みを入れるけど、みんなもルフィと同意見らしく特に反応を見せずに、それどころか夕食という言葉に明らかに嬉しそうな表情でぞろぞろと出ていく。
「ハントの服もちゃんとそこに掛けてあっから、お前らもさっさと来いよ」
最後にウソップが俺の服の場所をその長い鼻で示してから扉を閉めて出ていく。
「……」
「……」
なんとなく取り残されてしまった俺とナミが笑顔を見合わせる。
「なんか俺、ホッとした」
「……何に?」
「俺とナミが……その、恋人関係になってもみんなほとんどいつも通りだったし……それに――」
「――『仲間失格だ!』とか言われて怒られたりとかしなくてよかったって?」
「!」
やっぱりナミに励ましてもらって安心した俺だったけど、ナミ以外のみんながそう思っているとは限らないっていう不安もないわけじゃなかった。だから、ナミに言われたことを心配していた。けど、本当に誰も俺に対してそのことに対して言わなかった。
サンジに関してもナミと俺に対して嫉妬の蹴りをしてきたけど本気で俺に怒ってるわけじゃなかったし、いつも通りというか想像通りというか、そういう感じだったし。
みんなのそんな態度が嬉しくて、そしてそれをナミにはばれていたことに嬉しさ以上に驚いた。
「ほら、ハント。私たちもはやく行きましょう?」
「あ……そ、そうだな」
傍らにあった甚平をパジャマの上から羽織って、自然と差し出されたナミの手をそっと握る。
「なんていうか……これからも、その、宜しく」
「うん、こちらこそ」
俺たちは家族で、仲間で、けど恋人。
最後の関係にはまだ慣れてないけど、けど俺とナミなら何の問題もない。
そう思えた。
「うし、行くか」
「ええ……あんまり遅くなるとまたサンジ君に蹴られちゃう」
「……それは嫌だな」
笑いあって、二人で扉を開ける。
「――ってなんであんたらそこにいんのよ!」
「人の会話盗み聞きすんなっ!」
ほんとに、仲間ってのはいいもんだ。
こんな俺でも仲間と思ってくれる。
「っ」
ナミの手を握っていない方の拳に力を込めて、また思う。
――強くなろう。
もっと胸を張って、みんなの仲間でいられるように。
いつも通りの夕食。いや、いつも以上に豪華な夕食。
それが、いつも以上に楽しかった。
ハントとルフィが目覚めたその日の晩、彼らはカルーを除いた超カルガモ隊にまたがり、ハントに関してはペルの背に乗せてもらって王宮を出た。
海賊としての彼らがこの国にいる理由はもうない。
そう、彼らは国を出る。
そこにビビの姿はない。
後書き
前話が長くなりすぎたため、こっちが短いです。
話数的にはあと二つです。
書き溜めの予定投稿はこれで最後のため、もしもまだ投稿できる状況にいなかったら遅くなってしまいます。
その時はごめんなさい。
どんなにずれ込んでも一ヶ月以内には投稿できると思うんですけどねぇ(遠い目
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