ワンピース~ただ側で~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
番外16『海坊主』
アラバスタ王国近海。
そこで、2隻の船を8隻の船が囲っていた。
2隻の船は海賊船で、それぞれ麦わら一味を乗せたメリー号とMr.2ボンクレーの一味を乗せたアヒル船。対して、それを囲う8隻の船は海軍のもの。本来の麦わらとMr.2の地力からして8隻の船に囲まれようと囲いを突破することを大した苦としないのかもしれないが、今回は勝手が違っていた。
「くっそー、砲弾こい! 跳ね返してやるのに!」
「まったくジョ~~ダンじゃないわよーーうっ!」
「こんな鉄の槍を船底に喰らい続けたら沈むのは時間の問題だぞっ!」
その原因は、彼らの言葉通り海軍の攻撃方法が砲弾ではなく鉄槍であること。砲弾ならばルフィのゴムゴムの風船により弾けて、反撃にも転用できるのだが先の尖っている鉄槍ではそれが出来ない。さらに海軍が東西南北の4方向をそれぞれに2隻ずつで覆っており、2方向から4方向というさまざまな方向から鉄槍を放ってくることも彼らにとって苦戦を強いられている原因となっている。
「きたぁ!」
ナミの警告を促す声に、各船の戦闘員が小さく焦りの声を漏らしながらも迎撃する。
――が。
「何とかしてよあんたたち!」
結局防げるのは一面だけ。ルフィたちが少人数である以上どうしても手が回らない。別方向から飛来する鉄槍のすべてを防ぐことはできずに数本が船底に突き刺さった。それぞれが別タイミングであるならばルフィたちのことだ、簡単に防ぎきるだろう。
それが出来ないのはほぼ同時に鉄槍が飛来するから。離れたそれぞれの船が4方向から同時に鉄槍を飛ばすことは至難のはずだが、この海域を縄張りとする海軍本部大佐『黒檻のヒナ』により調練された艦隊による抜群の連携がそれを可能としていた。
なかなか脱出することが出来ず、それどころか船が沈没するかもしれないという状況に焦りを覚える彼らだったが、不意にその状況に変化が訪れた。
「ぐあ」
「ブラザーっ!」
ウソップが撃ちだした砲弾が、海軍の船の一隻に直撃した。それが、よほどの急所だったのだろうか。ただの一発だったが、その一発で船が沈没を始めた。しかもそれのそばにあった船も巻き込んで沈没事故を起こし、結果としてルフィたちを囲っていた一角が崩れて、道が開けた。
「ウソップお前か、すげーなー!」
「よ、よぉし、計算通りだ! 俺にかかりゃあんなもんああだぜ」
「鼻ちゃんすごいわ! やったわねえい! 南の陣営が崩れた! あそこを一気に突破よ!」
状況が好転したかと思われたのもつかの間、海軍大佐『黒檻のヒナ』が3隻の船を引き連れて登場した。慌てて南へと向かうことを提案したボンクレ―に対し、だが12時に東の港に仲間として現れるかもしれないビビを迎えるためにルフィたちは東へと向かわなければならない。
あくまでも仲間のために強引に東を突破しようとするルフィたちに、本来のそれに関係のないボンクレーが立ち上がった。
「いいか野郎ども、および麦ちゃんチーム。アチシの言うことよぉく聞きねい」
自分たちがおとりになる隙に仲間を迎えに行けと提案するボンクレ―に対して、このままではビビを迎えに行くことすら出来ないかもしれないルフィたちにそれを断る道理はない。全員が頷こうとしたところで「待った」とハントがそれを制止した。
「いいよ、俺がやる」
「……ハント?」
ナミを筆頭に、全員がハントへと振り返った。
「無事な姿であいましょうねぇい! いくわよあんたたち!」
ボンクレー一味が乗っているあひる船がウソップによって撃ち開かれた南へと抜けていく。海軍の連携を見るに、それも簡単なことではないはずなのだが、海軍の狙いは麦わらの一味らしく、ボンクレーたちへの狙いはほとんど牽制程度のもので、海中へと潜り込んだハントから見ても無事にぬけられるであろうことが簡単に見て取れた。
「本当に大丈夫なんだろうなぁ!?」
ウソップの怒鳴り声に、ハントは「ああ!」と同じように声を張り上げた。
「行くぞ、ビビを迎えに!」
ハントの返事を受けてルフィが指示を下し、以下海中にいるハント以外の全員が一斉にメリー号を東へと向けて操作する。
ボンクレーのおとり作戦を否定したハントが提案した作戦は実に単純明快。
『俺が海軍を沈めるよ』
ただ、その一言だった。
現実感のない言葉。全員がそれに対していぶかしげな目を向ける中「け、けどハントはまだ体の傷が!」とハントの提案を却下しようとするナミの言葉を遮って、ルフィが当然のように『わかった』と呟き、今に至る。
――まだ、ルフィは俺を信じてくれる。
いつしか目を閉じていたハントが、自分に言い聞かせるかのように小さな深呼吸を刻む。
――クロコダイルに負けた俺だけど、俺もただで負けたわけじゃない。
「行くぞ」
誰に言うでもないく自分につぶやき、その目を見開いて行動を開始した。
海軍から数本の黒槍がメリー号へと飛来する。普段ならば多方面からそれが飛んでくるのだが、今回はたまたま一方向、メリー号の背面からだけだ。ほとんど牽制に近いのかもしれない。それを防ごうと船上の戦闘員3名が身を乗り出そうとしたところで、ハントが先に動いていた。
「……っ」
息を吐き、海面を両手で叩く。
見る分にはただそれだけの行為だが、それにより海面がまるで滝が逆流するかのように垂直に噴出し、飛来していた全ての黒槍を巻き込んで上空へと高く打ちあがる。完全に無効化されたその数本の黒ヤリを視認しつつ、ハントの側にあったメリー号がビビのいる岬へと向かうために自分から離れていくことも感じながら、ハントは打ちあがった噴水の頂点にまで飛び上がり、それら噴水が勢いをなくし、ただの海面へと戻ろうと落下を始めるタイミングを見計らって、それに合わせて右手の手刀を振り下ろした。
標的はメリー号の突き進む東。その一角を担っている2隻の海軍船。
「魚人空手『海の宝刀(マリン・スパーダ』」
噴水がハントの手刀を受けて大きな一刃と化し、東に陣取っていた2隻の海軍船へと襲い掛かった。
クロコダイルの『砂の宝刀』を明らかに真似た名前の通り、見た目もそっくりだったが何よりも威力までもがそっくりな技らしい。船が避けるにはあまりにも早すぎるその鋭い一刃を受けた海軍船が2隻まとめて両断された。
この技はもちろん、ハントが師匠ジンベエから教わった技では決してない。クロコダイルとの対戦を経て、ハントが独自に今編み出した技だ。
――足りなかったのは経験と……それに。
ふっと息を抜いて、東へと抜けようと海を行くメリー号の後ろ姿を見つめる。
ハントの仕事はこれだけでは終わらない。このまま東を抜けることが出来てもこのままではすぐに、今残っている船に加えて後ろから姿を見せている『黒檻のヒナ』の直属の艦隊が追いかけてきて東の港へと接岸する暇すらなくなってしまう。
それでは意味がない。ビビを船に迎える時間がなければ意味がないのだ。
――ビビ……来るといいけど。
なんとなしに空を見上げてハントは思う。これが本心で、自分がメリー号に帰った時にビビがそこにいてくれるのが一番いいとハントは思っている。ただ、心のどこかで認めたくはないが来ないのではないか、ともハントは思っている。
王国のことを考えてバロックワークスに侵入し、より深い内部情報を探るためにオフィサーエージェントへと昇格し、ただひたすらに国と国民のことを考えて、ビビは生きてきた。その彼女が王女という立場を捨てて海賊になるか、それがハントには想像できない。
例えばビビの代わりとなる後継者が存在しており、そして例えばアラバスタ王国がほとんど無傷でほとんどの被害がこれまでになかったというのならハントにもビビが仲間として海賊になってくれるというのはわかる。ただ、少なくともハントが知る限りビビがいなくなった時に国にとって正統な後継者はいなくなるし、クロコダイルが起こした事件によってアラバスタは様々な爪痕をまだ残している。
だから、あくまでも国のことを第一に考えて生きてきたビビが海賊として来てくれるというイメージがわかない。
とはいえ左腕の×印に誓った通り、やはりハントもビビやカルーのことを大事な仲間と既に想っている。軽くその印に視線を送り、ため息を吐く。
――ま、それは船に帰ってからのお楽しみ……だな。
首を振り、いつまでも海に浮かんでのんびりとしている場合ではないと思い直す。
気付けば『黒檻のヒナ』が乗っている船を含めた3隻の海軍船が、随分と遠のいたメリー号を追いかけて針路をとっており、残りの4隻が海軍船2隻を沈めたハントに対して雨のように激しい砲弾と黒槍の攻撃が始めていた。
「一人相手に豪華なことするなっての!」
一度、深く海中に潜ってそれらをやり過ごす。
――一撃で決めてやる。
そのまま海の中を高速で突き進み、そして時には顔を出して位置を調整。それを何度か繰り返して、自分を狙っている4隻の船とメリー号を追いかける『黒檻のヒナ』たちの3隻の海軍船が直線状に入る位置に身を置く。
「後方にいたぞ、あそこだ! 撃て撃て!」
怒号と砲撃の音が鳴り響き、ハントはそれらを避けながらもメリー号と『黒檻のヒナ』の3隻の船、それに自分を狙う4隻の船の位置を最終確認して、ついにそこで動きを止めた。まだまだ雨あられとつづく海軍船の攻撃にさらされながらも、ハントはゆっくりと目を閉じて、再度、クロコダイルに負けたことを想う。
――クロコダイルに負けたのは経験値と……それに。
ついさっきに自分の心の中で思ったことをまた心の中で唱えて、目を見開く。右こぶしを振り上げて――
「魚人空手『5千枚瓦正拳』」
――海面へと振り下ろした。
先ほど両手で海面をたたいた時の比ではない。天にも昇るのではないだろうかと思われんばかりに海が空へと打ちあがった。そのあまりにも巨大な水柱にあらゆる海軍の攻撃は意味をなさない。
まるでそれは意志を持った海の妖怪か何かかと思ってしまうほどに、その湧き上がった海の壁はあらゆる攻撃を呑みこんで見せる。砲弾も黒槍もまとめて上昇する海水に乗り、ただ無為に空へと昇っていく。
天にも昇る巨大な水柱に、ハントもまた巻き込まれて既にその身を海面においていなかった。撃ち上げられた海柱の中に当然のようにハントの姿がある。もしかしたら海水とともに撃ち上げられることもハントの中では織り込み済みだったのだろうか、そう思ってしまうほどに……いや、事実としてそうだったのだろう。ハントは既に行動を開始していた。
先ほど『海の宝刀』を放った時のように、水柱の頂点へ体を移動させたハントはそこから、徐々に海に戻ろうとする水柱へと、今度は黒く変色した右拳を――
「魚人空手『5千枚瓦正拳』」
――叩き付けた。
海の壁がただ元の海に戻ろうとする、というところからハントに殴られたことでまた形を変える。殴られたままにまっすぐ斜め下へと水柱がすさまじい勢いで海面に叩き付けられた。
「……はれ?」
これはハントの声ではなく、おそらくは海軍船の乗組員の誰かが漏らした声だろう。いきなり天高くあがった水柱が、これまたいきなりこちらに向かって、しかもすさまじい勢いで向かってくるのだからそれが自分たちの船に直撃してしまうという想像をしてしまうのはある意味では仕方のないことかもしれない。だが、ハントの水柱は海軍船ではなく海面へと叩き付けられて――
「奴は攻撃を外したぞ! う、撃て!撃て撃て!」
――だからこそホッと胸をなでおろして、静かに海中へと身を落下させたハントへ
と攻撃を再開させようとする指揮官と、もちろんそれに従う下士官たちだったが残念ながらハントのそれは外れたわけではない。
「魚人空手『大瀑布(だいばくふ)』」
ハントが着水するとほぼ同時、ふと異変が起こった。
海軍船を、黒い影覆っている。
薄暗さを感じて、それに気づいた乗組員が顔を上げて「!?」
目を丸くした。
仲間が茫然としていることに気づき、視線につられて気づく人間が加速度的に増加していく。
「た、退避! 退避ー!」
もはや攻撃をするどころではない。
とはいえ退避と言われても退避できるレベルではない。
「大津波がくるぞーーーー!」
指揮官の言葉通り、空を覆うほどの高度にまでなった一陣の高波が、海軍船をまとめて飲み込まんと大口を開けて迫っていた。
船から逃げてもどうなるものでもない。船に残ってもどうなるものでもない。
彼らになすすべなどあるはずがない。
その高波は海軍船4隻を巻き込み、そのままの勢いで同じく『黒檻のヒナ』を含めた海軍船3隻を呑みこんで、あわやメリー号までも……といったところでぎりぎりずれてそのまま高波にのまれたすべてを岸へと運び、吐き出した。
「けが人はいそうだけど、誰も死んでなさそうだし、ストライク……ってとこかな」
見聞色でそれを感じ取り、海軍船の帆がなくなった一面の海を見渡しながら満足げにつぶやく。
「しかし……予想以上の威力だったな……我ながら」
あまりの大きさにもう少しでメリー号まで飲み込んでしまうところだった。少しだけシャレにならないことになってしまっていた可能性に軽く背筋を震わせつつも、己の両手を見つめる。
――こういう技が……俺にはなかった。
『海の宝刀』はもちろん『大瀑布』もクロコダイルの『砂の宝刀』や『砂嵐』から考えたハントなりの技だ。
経験と攻撃力。
それがハントが思う敗因。
経験はこれから積んでいくしかないとして、それよりも今回のような大きな攻撃がなかったことが一番の原因だったとハントは考えている。
相手は自然系悪魔の実の能力者で、ハントは非能力者。出来ることに可能と不可能の差が出来てしまうのは仕方のないこととはいえ、どんな理由があろうが勝たなければ意味がない。今回はたまたま生き残れてはいるが、もしもハントがたった一人でクロコダイルに挑んでいたならば既に命はない。
このグランドラインという海で、敗北=死という考えは決してシビアすぎるものではない。
あくまでも海がなければ使えない技、それでも海があればこれだけの技が自分にも使える。
その事実にハントは拳を強く握りしめる。
「……俺はまだ……強くなれる」
ハントはクロコダイルに負けた。
その事実はもう過去のもので、すなわちそれが覆ることはない。けれど、得たものはあった。
「こうやって成長していけばいいのか?」
己の強さを求めるハントの問いは静まり返った海の穏やかな波にのまれて流れ去る。
「……っあ! 俺も早くメリー号に戻らないと! ……たぶんまだ海軍の応援とか来るだろうし」
海に潜って、ハントはその姿を海面から消す。
誰もいなくなった海に、ハントの問いはただゆらゆらと。
どこへ流れ着くのか。
まるで、それが答えであるかのように、海は穏やかに揺れていた。
静かになった海で、珍しくメリー号から喧噪が聞こえない。
「もう追ってこねぇな海軍の奴ら」
「んー」
「んー」
「んー」
「……ハントが9割方沈めてたみてぇだし、どっちにしても問題はねぇが」
「んー」
「んー」
「んー」
ゾロの重ねての問いに、船員たちもまた重ねて気の抜けた返事とともにテキトーに頷く。
「あのな……なんだよその気のねぇ返事は」
ゾロの呆れた言葉に、ゾロ以外の全員が同時に「さみしー」とめそめそしながらつぶやいた。
結局ビビはハントの想像通り船を飛び出して海賊に、という選択肢を選ぶことはなかった。ただ、彼らのこれからの立場は違えどずっと仲間だと、その左腕の×印に誓って彼らは笑顔で別れた。
お互い、涙は浮かんでいたがそれでもそれは確かに笑顔だった……の、だが。
やはり寂しいものは寂しいわけで。
時間がたてばたつほどにビビやカル―がいないという事実が、仲間の一人と一羽がいなくなったことを強調するかのように彼らの胸を締め付ける。ビビとカル―が来ないであろうことをある程度は想像していたハントももちろん寂しいことに対して例外ではなく、ルフィたちと同様に肩を落としている。
「そんなに別れたくなきゃ力づくで連れてくりゃよかったんだ」
ゾロの少々乱暴な、とはいえ海賊らしいと言われれば確かに海賊らしい言葉に、だが一同の反応は芳しくない。
「うわぁ野蛮人」
チョッパーを筆頭にゾロへと悪口を言う。
「最低」
ナミが。
「マリモ」
サンジが。
「三刀流」
ルフィ――「待てルフィ、3刀流は悪口じゃねぇぞ」
「四刀流」
今度こそルフィ――「増えてどうすんだよ! いいか納豆があるだろ。納豆にお前、腐ってるとか言ってもよ」
「納豆」
これはハント――「それはちげぇだろ! ゾロに納豆の要素はねぇよ、さすがに!」
若干2名ほど悪口になっていない悪口を言い、それにウソップがあわてて訂正という名の突っ込みを入れているのは、まぁメリー号らしいといえばメリー号らしい姿だろうか。
「わかったよ、好きなだけ泣いてろ」
「やっと島を出たみたいね、ご苦労様」
「ああ」
呆れてそっぽを向いたゾロだったが、不意に船室から出てきた女性の声に反射的に頷き、だがその違和感に気づいて慌てて視線をそちらへと向けた。
「!!!?」
そこにいたのはミス・オールサンデーことニコ・ロビン。
それぞれがぞれぞれに騒がしい態度を見せる中、ニコ・ロビンは彼らと淡々と言葉を交わし、そして最後に笑みを浮かべて言い放った。
「私を……仲間に入れて」
「……は!?」
全員が息を呑んだ。
クロコダイルとルフィの3度目の戦い、いわゆる最終戦。
そこで、捨てることを望んだはずの命をルフィによって助けられた。
「私には行く当ても帰る場所もないの。だからこの船において」
「なんだ、そうか。そらしょうがねぇな……いいぞ」
「ルフィ!!」
つい先ほどまで敵だった女性を相手に、いとも簡単に頷いて見せるルフィへとナミ、ゾロ、ウソップの3人が一斉に異議を唱える。それらを「心配すんなって、こいつは悪い奴じゃねぇからさ」と笑って流すルフィの言葉からとりあえずウソップの取り調べが始まった。
大まかな生い立ちから始まり、特技という段になって「暗殺」と素晴らしい笑顔で言い放った彼女に対して、ウソップがルフィへと「危険すぎる女と判明!」と叫んだはいいが、当のルフィはチョッパーとともにロビンの悪魔の実『ハナハナの実』の能力によって甲板から生えている手とじゃれあってそれをほとんど聞いていない。
ルフィとチョッパーは完全に受け入れている姿勢だ。一番常識人であろうナミも最初は警戒していたのだが、ロビンがクロコダイルのところからくすねてきた宝石にコロリと態度を変え、サンジはサンジで当然の態度でロビンへとおやつを贈る。
「俺たちが砦ってわけだ」
「まったく、世話のやける一味だぜ」
ゾロの言葉に、ウソップも厳しい表情で頷いたのだが「ウソップー」とルフィに呼ばれて振り向いた。
「チョッパー」
ルフィの言葉通り、ルフィの頭から生えた2本の腕がまるでチョッパーの頭のようになっていて、それを見たウソップも結局は爆笑。いとも簡単に砦の一角は陥落してしまった。
「……」
あまりにも情けない態度の彼らにゾロが苛立ちを見せ、それを見ていたハントが口を開いた。
「ゾロはやっぱり反対か?」
「……そういうお前は最初からずっと反対してねぇようだったが?」
ウイスキーピークでも似たようなことがあった以上、ハントも最低限のというか常識的な警戒心を持っていることはゾロもわかっている。
サンジのように女に弱いわけでもなく、ナミのようにお金に弱いわけでもなく、どちらかといえばルフィ、ウソップ、チョッパーのように面白い物に目がないというようなハントだが、今はルフィたちの笑いの輪に参加しておらず、だからこそゾロは余計にニコ・ロビンの参加になんの反応も示さないハントに対して首をかしげる。
逆に質問にかけられたハントは「まぁ、俺はな」と笑顔を見せる。
「?」
その意味がわかるわけもなく、さらに首をかしげるゾロに気づかずハントは言葉を続ける。
「初めて見た時から敵意がなかったっていうか、さ。だからもともとあんまり敵として認識してなかったっていうか……そんな感じなんだよな。だからまぁ俺はもともとロビンが俺たちの仲間になることに反対ではないっていうか……そんな感じかな」
「……」
ロビンを受け入れることに対して、初めて説得力があるというか理解できなくもない言葉を聞いたゾロが考えるように黙り込み、だがやはりすぐに難しい顔を上げて呟く。
「ま、俺なりに目は光らせるがな」
ゾロなりに譲歩した言葉なのかもしれない。ハントは「それでいいと思うぞ」とどこか楽しそうに笑い、ゾロが明後日を向く。同じメリー号にいるにもかかわらずまるで別世界のように穏やかな会話をする二人に、ロビンが「いつもこんなに賑やか?」と不思議そうに尋ねる。
「ん? ああ」
「いつもこんなもんだ」
ハントとゾロの回答が、ロビンには嬉しいものなのか、楽しいものなのか「そ」と笑顔に。
こうして、ビビとカルーという仲間と一旦別れた彼らだが、またロビンという新たな仲間を迎えて航路を行くこととなった。
いつまでたっても賑やかな彼らの船に、だがグランドラインの海はやはり油断の許さない恐ろしい海で。
穏やかな状況は不意に一転する。
――人が空想できるすべての出来事は起こりうる現実である。
物理学者の言葉だが、それをグランドラインが体現して見せた。
メリー号よりも何倍も巨大な船。それが空から――
「ガレオン船?」
「……なんで」
――メリー号のまさに目の前へと落下した。
「海って広いな……というか広すぎだろ、これ」
ハントは海の広さを知り、経験を積んでいく。
恋人となったナミを、自分で守れるように。
師匠との約束を守れるように。
そして、麦わら一味だと胸をはっていえるように。
彼の、いや。
彼らの夢は、まだまだ遠い。
後書き
あとがき
ぼんちゃんは結局他のエージェントを助けようとして捕まります。原作通りですね。
それと、番外的なのがあと1話あります
余談ですが
海の宝刀(マリン・スパーダ)に関して。
本当はオーシャン・スパーダが意味的には最適だと思ってます
シー・スパーダやオーシャン・スパーダよりマリン・スパーダの方が語感がいいかなっていう単純な理由です、あまり深く気になさらないでください
さらに余談ですが、感想がえしはもうちょい待ってください(汗)
ぶっちゃけ感想よむのがこわくてまだ読んでないっていうw
絶対クロコダイル負けたところでたたかれてるわーとかこわいわーとか思っちゃってなかなか勇気がでませんw
途中で心が折れても何なので、あと一つ投稿、もしくは書き終わってから感想返しさせていただきますのでご容赦を!
ページ上へ戻る