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ワンピース~ただ側で~

作者:をもち
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番外13話『終戦』

 肌に感じる鋭い風で、目が覚めた。

「……」

 青い景色が広がっていた。
 海だろうかと考えて、太陽が浮かんでいることに気づいた。

 ――まぶしい。

 どうやら今の俺は空にいるらしい。
 空に浮かんでいるとでも思えばいいのだろうか。
 とにかく体を起こさないと何もわからない
 ゆっくりと体を起こそうとして、体中に激痛が走った。

「っ」

 予期していなかった痛みに一瞬だけ気が遠のいた。
 痛みにはある程度慣れていると思っていたけど、そういえば俺が最後に死にかけたのは2年前に初対面のエースにこっぴどくやられたのが最後だった。もちろんあれからも師匠や白ヒゲさんたちには修行とか手合せとか言う名目で色々と怪我をしたけど、なんだかんだで試合感覚だったせいか重傷を負うことはなかった。

 重傷といっていいほどの痛みの感覚を忘れかけていた自分を、そういう傷をなかなか負わないぐらいに強くなったからだと喜べばいいのか、それとも痛みという感覚に対して弱くなってしまったと嘆けばいいのかは今は置いておくとして、ずいぶんと久しぶりに感じるこの痛みは、一体なんだろうか。
 それを考えた途端、思い出した。

「……あぁ……負けたのか」

 砂嵐に気を取られて、負けた。
 言い訳をする気にもならないほどの負けだ。

「……情けない」

 色々と自分の殻に閉じこもりたくなるぐらいの敗北だけど、俺がクロコダイルに負けたとなるとどういう状況なのかをすぐにでも知らないといけない。
 というか、今の俺はどういう状況だ? 
 それを知るために、今度はゆっくりと上半身を起こし――

「な」

 唖然としてしまった。

「――お、目ぇ覚めたか。ハント」

 幻でもなんでもなく、俺と同じように風に髪を揺られながら。 

「……ルフィ?」

 ルフィがそこにいた。
 なんでここに?
 そういえば最後にルフィの声が聞こえた気がしたけど、あれは気のせいじゃなかったのか?
 ルフィがここにいるからには、とりあえずみんな檻から無事に脱出したんだろう。
 それに案してはホッとしたけど、正直なところあまり心配していなかったから感慨はわかない。それよりもルフィに合わせる顔がなくて、なんとも居心地が悪い。

「ハント」 
「……ん」
「悪い」
「ん?」

 謝られた? 
 ……え? なんで? 
 ……どういうことだ?
 意味が分からない。
 クロコダイルを倒すと息巻いて、みんなを放置した結果俺は負けた。
 謝らなければいけないのは俺のほうだろう? 

「俺もあいつに負けちまった」
「……なっ」

 理解するのに少しだけ時間がかかってしまった。
 とりあえず察するに、どうやら俺の耳に最後に届いたルフィの声は本物だったらしい。俺が敗北の時にルフィが来て、ルフィもクロコダイルに敗北したということだろうか。
 それはそうだろう。
 ロギア系に覇気なしで勝つなんて聞いたことがない。
 本来ならクロコダイルを倒すのは俺の役目だったはずだ。それが出来ずに、ルフィにまで負担を強いてしまった。
 なんて言えばいいのかもわからないから、俺も頭を下げる。

「悪い、俺も負けた」
「……ハント」
「ん?」
「今、俺たちはクロコダイルのとこに運んでもらってる」
「なに?」 
「今度は負けねぇ。お前ぇには悪ぃけど俺が戦うからな」
「……なに?」

 待て。
 待て待て。
 ちょっと色々と突っ込みどころがあって把握できないぞ。
 ルフィが、らしい目つきで宣言したのはこの際後回しにして、順番に聞かせてもらおう。

「とりあえず運んでもらってるって……誰にだ?」
「誰って」

 ルフィが人差し指で俺たちの足場を示した。
 あぁ、そういえば俺は今空にいるんだった。
 いきなりルフィの顔見たからそのことすら頭から飛んでいた。

「宜しく、ハント君……と言ったかな。 私はペル。アラバスタ王国の護衛兵をやっている」
「あ、これはどうもご丁寧に。えっと俺はハントで……海賊やって……ん? ペル?」

 ミス・オールサンデーにやられてた人じゃなかったか?
 そういえばミス・オールサンデーがこの人のことを王国最強の戦士って言ってたような……まぁそれはいいか。

「私に何か?」
「あ、いやごめん。なんでもない……それより、えっと人が飛んでるのか? しかもなんか随分と速度出てるけど」
「私は悪魔の実の能力者で、いわゆる鳥人間だ」

 あぁ、言われれば確かに鳥だ。
 俺とルフィを背中に乗せて、まだ一人ぐらいは乗れそうに巨大な鳥。
 これは確かに悪魔の実の能力って感じ。
 しかし飛べるのってまた珍しいな。
 マルコさん以外だと初めて見たのか? ……なんて、どうでもいいか。

「……なるほど、納得。運んでくれてありがとう」
「こちらこそ色々と国に尽力してくれているようで礼を言わせてもらいたい」

 正確にはこの国に、というよりは仲間のビビに。
 だけど結果的には同じことになるのでそこは黙っておく。
 俺がクロコダイルに負けたせいでその尽力も全然できてないのが情けないとかも、もちろん心の中で黙っておく。
 今はそれよりも次の疑問が気になるし。

「で、クロコダイルのところに運んでもらってるって聞いたけど……しかもルフィ、お前が戦って勝つって?」
「ああ」

 俺の疑問はどうやら間違いじゃなかったようで、ルフィは相変わらずに強く頷いてくれやがった。
 クロコダイルのところに運んでいるというのは、まあ100歩譲ってもいい。俺が――この体で勝てるかは別にして――再戦を挑めばいいんだから。けど。次の言葉だけは聞き捨てならない。

「バカ言うな。どうやってお前がクロコダイルに勝つんだ」

 あのクロコダイルに、ルフィが勝つ?
 はっきり言って無謀以外の何ものでもない。
 もしも俺の体が重傷を負っていなかったら唾をまき散らして怒鳴りつけているところだと思う。多分今それをやったら腹の傷がまたぱっくりといきそうだ。
 ……あれ?
 そういえばこの傷を誰が手当てしてくれたんだろうか。拳も足も腹も包帯が巻かれている……いや、たぶん今俺たちを運んでくれているペルって人がやってくれたんだろう。となるとクロコダイルに敗北したっていうルフィを助けたのもこの人か。応急処置だろうがなんだろうが、本当にありがたい。
 ……頭が上がらないな、これは。

「カラカラのおっちゃんがくれた水が教えてくれたんだ……あいつの弱点を」
「……弱点?」
「ああ」

 クロコダイルの弱点?
 俺は戦っていてそれらしきものを見つけられなかったけど、ルフィは見つけられたのだろうか。
 と、そこでルフィが大きな樽を背負っていることに気づいた。

「……それは?」
「水だ」
「水?」
「あいつは水に触れたら砂になれなくなるんだ」

 悪魔の実の能力の相性。
 その弱点。
 それが水。
 なるほど。それがルフィにとっての突破口か。
 けど、水樽があるからといって、その弱点を突いたからと言ってクロコダイルを倒せるとは限らない。ルフィはただクロコダイルを殴れるという、いわばやっと土俵に立っただけの状態だ。
 しかもその土俵は、水樽を壊されればまた瓦解してしまうという脆い土俵でしかない。

「これでもう負けねぇ!」

 ルフィは自信をもって言うけど、まだ俺が戦った方がクロコダイルに勝てるはずだ。

「水があるからってクロコダイルに勝てるとは限らないんだぞ?」
「わかってるさ」
「わかってない! お前は無茶す、ぎっ――」
「……ハント?」
「――っ」

 ちょっと大きい声を出そうとした。
 それだけでどうやら腹の傷が開いたらしい。

「ほら見ろ、今のお前ぇじゃもうまともに戦うことも出来ねぇじゃねぇか」 

 しかも、普段のルフィは鈍いくせになんか今日は鋭いし。
 これで勝てるだろうか、クロコダイルに。
 右足の自由がきかなければ右拳も力が入らない。ちょっと動けば腹が破れる。
 考えるまでもない。
 不可能だ。
 どうやら任せるしかないらしい。

「……わかった。ルフィ、お前に任せる。頼んだ」
「おう!」

 強く答えるルフィの言葉を、俺は信じるしかない。
 それが歯がゆくて、情けない。

「見えてきたぞ、二人とも!」

 まるでタイミングを見計らっていたかのように声が響く。
 俺には俺の出来ることをやる。
 それがあるかはわからないけど、きっとある。
 それを信じて眼下を見つめる。




 首都『アルバーナ』――

 ――そこで既に国王軍と反乱軍はぶつかり合っていた。

 血で血を洗う、お互いがお互いの正義を信じて命を賭ける。
 これは反乱というよりももはや戦争。
 本来なら同じ正義をもつ彼らが、一つの組織により様々な歪みを経て、もうここまで来てしまった。

 彼らは知らない。
 町の中心部の広場が大規模な爆破をされることを。 
 クロコダイルによって描かれたこの計画は既に終盤。あとは爆破予定時刻を待つだけ。

 爆破までは約15分。
 続々と広場でぶつかりあう国王軍と反乱軍。それらのすべてが爆殺されてしまう。
 それはもはや虐殺に近い。決して、あってはならないことだ。

 だからこそ、それを止めるためにビビの姿は宮前広場にあった。
 ここに至るまでに死力を尽くしてきた彼女だったが、既に彼女の命も風前の灯火。高さ十m以上はあるであろう城壁から、今にも落とされようとしていた。もちろん、クロコダイルの手によって。
 今のビビを支えているのは、彼女の首をつかむクロコダイルの腕と、その腕にしがみつくビビの腕のそれだけ。体はもう城壁の外、中空にある。
 クロコダイルが自然系の悪魔の実の能力者であることを考えれば、クロコダイルが腕を砂に変えてしまえばもうビビは落下死することしかできない。そんな、絶望的な状況にあってクロコダイルはこれが最後だと言わんばかりに薄ら笑みを浮かべて、言葉を突きつけた。

「教えてやろうか……お前に国は救えない」

 その一言にビビの目から大粒の涙が。
 そして、クロコダイルの腕が砂に。
 自然落下を始めたビビの姿に、クロコダイルが大口を開けて笑い――

 ――気づいた。

 太陽から高速で飛来する一陣の影。隼となっているペルと、それに乗る二人の男の姿に。

「ばかなっ!」
「クロコダイルーーー!」

 ルフィが叫び、影の背中からクロコダイルへと真っ向に飛ぶ。

「麦わら……それに、あいつも」

 ルフィとそれ以上にハントを睨み付けて呟いたクロコダイルにとってルフィの姿はほとんどおまけ。実際、ルフィが彼に触れることなど不可能なのだからクロコダイルにとってその程度でもおかしくはない。
 落下するビビをペルとハントが無事に受け止めたのを見たクロコダイルが、ハントごとペルとビビを切り裂いてしまおうと腕を振り上げた。ルフィなど眼中にない様子だ。だが、今度のルフィは違う。

「砂漠の宝――」
「――ワーーーーーニーーーーーーーーー!」

 ルフィの水にぬれた拳が、砂漠の宝刀を放とうとしていたクロコダイルを殴り飛ばした。

「クッ、小僧!」
「ゴムゴムのぉ――」

 完全に油断していたところにもらったルフィの一撃は決して軽くはない。それでも態勢を整えたクロコダイルは流石といえば流石。だが、既にルフィの次の一撃は始まっていた。ルフィの腕がクロコダイルの服の襟をつかみ、そして――

「――丸鋸!」

 ――クロコダイルの顎を足で打ち抜いた。

 壁に貼り付けられていた国王コブラとその脇で立っていたミス・オールサンデーが見守る中、ルフィがそこに立った。

「立て……こっからが本当のケンカだぞ」

 血を漏らしつつも、何事もなかったように立ったクロコダイルが、ルフィを見据えて言う。

「……覇気使いの小僧も生きていたようだが、来ねぇのか?」
「お前をブッ飛ばすのは俺だ」

 言外にハントはこないという言葉を受け、クロコダイルは「クク」と笑い、言葉をつづける。

「あいつはリタイアか……当然といえば当然だな。刺されただけのお前と違ってあいつは俺の技を何度も受けた。まともに動けるはずがねぇ」

 どこか自慢げに言う彼だが、それをわざわざ笑うクロコダイルの姿にルフィは首を傾げて「なんだお前ぇ、ハントが戦えないからホッとしてんのか?」
「っ!?」

 その言葉はもしかしたら的を射ていたのかもしれない。
 クロコダイルが「この俺が?」と屈辱からか怒りからか、拳を震わせてルフィを視線で射殺さんばかりに睨み付けた。ルフィはそれを気にせずにいつでも戦えるように態勢を整え、また言う。

「もう一度言うぞ、お前をブッ飛ばすのはハントじゃねぇ……俺だ!」

 言い切った。
 クロコダイルを相手に。

「ハッハッハッハッハ! お前が俺に勝つ気なのか?」
「ああ」
「確かに水が弱点だとよく見抜いたもんだ死に際のあの状況でな……だがそんなことじゃあ埋め尽くせねぇ格の差がおれとお前にはある! それが七武海のレベルだ」
「お前が七武海だからなんだ! だったら俺は……八武海だ!」

 傍から聞いていれば完全に意味の分からないルフィの言葉だが、それはとにかく。
 ルフィとクロコダイルの2回戦。
 それが始まろうとしていた。




 全員が解散した。もちろん広場を爆破するという大砲を見つけ出すためだ。 
 残り時間はもう12分ほど。
 ここは既に戦地で、各自解散はいろいろと危険だけどそんなことを言っている場合じゃない。
 サンジとゾロに雑魚は任せて先に行こうとするのは賛成で、俺もそうしたいのは山々だけど、真っ先に空に飛ぼうとした隼のペルさんには待ってもらう。

「時間がない……どうしたんだ?」

 そんなに怖い顔してないでほしい。
 俺だって無駄話をしようと思うほど馬鹿じゃないんだから。

「めぼしい場所は大体わかったから乗せてほしいんだ」
「なにっ!? 本当かハント君」

 場所を特定するのは難しいことじゃなかった。
 アルバーナ全体を見聞色の射程に入れれば一発でそれらしき場所が浮かんだ。。
 元気があるのに全く動いていない、しかもそれはたったの二人で、さらにいうならそこは戦場のど真ん中。
 明らかに不自然だ。これほど不自然な場所はほかにはなく、9割方そこで決まりだ。
 ここじゃなかったら……いや、それは信じるしかない。ほかのみんなに説明しないのは、もしも違っていたら目も当てられないことになるから。みんなにはみんなで探してもらった方がいいだろう。

「とりあえず説明するから、先に乗せてほしいんだけど」
「ああ」

 ペルさんの背中に乗って、一気に急上昇。
「こっちにまっすぐ!」
「わかった!」

 速い。
 これなら1分もかからずに目的の場所につく。

「見えた」

 それらしき建物がすぐに目についた。
 高さ、位置から見れば答えは一目瞭然。
 広場に高くそびえたつあの時計塔のてっぺんだ。
 気配はあそこの中から感じる。

「……あそこいる、かな」
「なるほど、あそこなら確かに」

 塵旋風のせいでほとんど視界は効かないけど、さすがに巨大な建物ぐらいは視界に入る。
 多分この塵旋風もクロコダイルの仕業なんだろう。
 ルフィのことを少しだけ心配になるけど、今はそれよりも大砲を見つけて砲撃手を仕留めるのが先。正直、満足に動かない体だけど無理をすれば若葉瓦正拳の一撃ぐらいなら撃てるはず。その後とかを考えるとちょっと傷の痛さとかが怖そうだけど、ここで広場ごと吹き飛ばされるよりはずっとマシ――

 ――っ!?

 見聞色を発動していたから、気づいた。

「だめだ! 回避!」 
「……え?」

 この塵旋風にまみれた景色は上空から見る限り視界がまったく効かない。けど中から外にいるこっちを視認するのはきっと簡単なことだ。だから、狙われた。狙われていることすらわかっていなかったのに、いきなり回避と言われて瞬間的に動くには俺とペルさんの関係はまだまだ浅すぎる。
 結構な速度が出てたからいきなり回避行動はどっちにしても難しかったのかもしれない……ハヤブサは急に止まれない的な? いや、実際はどうなのか知らないけど。
 ……そんなことを考えている場合じゃない。

「くっそ!」

 銃弾コースに、反射的に右腕を差し出した。2発の銃弾が衝突して炸裂して右腕に突き刺さる。

「いっ……たぇ」
「銃撃!? 大丈夫か、ハント君!?」 

 大丈夫なわけがない。
 痛すぎて悪態をつきそうになったのを我慢して、けどもうそんな言葉に答えずに俺は無言でペルさんの背中から飛び降りた。

「ハント君!?」

 ペルさんの呼び声を後ろに、塵旋風の中へと飛び込む。

 ――見えた。

 時計塔のてっぺんの時計、そこがわずかに開いて銃口が二つ見えた。慌てて銃口を引っ込めて時計の隙間を閉じたようだけど、もう時計塔の時計の内部にいることは百も承知。

「魚人空手陸式――」

 左手に力を込めてためておく。

「ふっ!」

 呼吸を鋭く吐き出して、左足で時計をぶち抜いて、中へと侵入。勢いのままに両足で着地した。
 内部は予想通り、大きな大砲とその横には驚いた顔をしている男女のペアが。この二人が、たぶんB.Wの砲撃手。眉毛が7の男とカエルの帽子をかぶった女だ。俺にぶち抜かれた時計が奥の壁にぶつかってド派手な音をたてたせいで、二人の注意はそっちに。
 悪いけど雑魚とじゃれあっている時間はない。
 話す時間すらもったいない。
 あとさっきの銃弾が痛いからその恨みも込みで。

「――若葉瓦正拳」

 左手で放った。
 今更のごとく俺に気づいた二人が銃口を俺に向けながら口を開こうとして――

「おほっ!?」
「ゲロっ!?」

 ――炸裂した。

 二人がその場で崩れ落ちた。
 まぁ、半日は目を覚まさないだろう。この二人弱そうだし。
 両足で着地したせいでクロコダイルに切られた右足から血が滲む。というかさっきの若葉瓦正拳で腹の傷が完全に開いたし。滅茶苦茶痛い。もう座り込みたい。とはいえまだ休む気にはなれない。

 周囲に火種になりそうなものがないかを確認。
 念のためオホ男とゲロ女の持ち物も見て、火種になりそうなものすべてを外に放り投げてしまう。銃も投げ捨てていいのか考えたけどさすがにそのまま投げると危ないから弾丸だけ捨てて放り棄てておく。

「これでとりあえずは大丈夫……ん?」

 なんかカチカチ聞こえるけど……これは何だ。 
 大砲の中身を覗く。

「……マジか」

 ホッと一息とはいかせてもらえないらしい。
 大砲の中身、その砲弾はどうも時限式の爆弾にもなっているらしく、時間が設定されていた。
 残り時間はもう10分しかない。
 ぶん投げてみようか? ……いや、ここから町の外に投げれたとしても多分この爆弾の範囲が大きすぎてあまり意味がない気がする。というかそもそもこれだけ大きいと町の外までは投げられないかもしれない。せめてここからじゃなくて町の外からどこか遠くへと投げたらいけるんじゃないだろうか。
 じゃあどうやってこれを町の外に運ぶ?
 転がすとか……どっかで爆発するに決まってるよな。

「ハント君!」

 悩んでたらペルさんが来た。
 ナイスタイミング、ペルさん!
 さぁ、知恵の足りない俺にナイスなプランを!

「この砲弾あと10分で爆発するみたいなんだけど、どうしたらいいかな」
「……なに?」

 俺と同じようにペルさんも砲弾を覗いて、けど俺とは違ってすぐに頷いた。

「私が誰もいない砂漠へとこれを運んで来よう」
「……え?」
「残り10分。それだけの時間があるならばお釣りが出るくらいさ……砂漠の地形が少し変わってしまうかもしれないが、人の命にはかえられないだろう」
「俺も一応行こうか? この爆弾を捨てる場所の周囲に人がいるかどうかを確認できるし」
「……なるほど、では頼む」

 爆弾を運ぶペルさんの背中に乗る。
 ものすごく重そうな爆弾プラス俺を運んでいるにも関わらずペルさんはグングンと高度を上げて一気に町の外へと翼をはためかせ、町から離脱。そのまま砂漠のど真ん中へ。
 残り時間が5分になったところで、ペルさんが移動を止めた。

「ここなら?」
「……うん、人はいない。というか動物も虫もいない……なんでだ?」
「ここは既にアルバーナの圏外だからね」
「?」
「クロコダイルがダンスパウダーでアルバーナ以外の水を奪った結果――」
「――動物も虫も移動したか、死んだかってこと?」
「……おかげで爆弾を放置することに幾分か気が楽だよ」
「……まぁ、確かに」

 とはいえすさまじいまでの爆発がここで起きるわけで、この周辺数キロにはなんの生命反応もないけど、たぶんこの砂漠に何らかの影響があるはずだ。詳しいことは俺にはわからないし、ペルさんもそういう分野は詳しくないみたいだからわからないようだけど、さすがに何の影響も与えないとは考えにく。

「……この国に大きな影響を与えないといいんだが」

 ペルさんがどこか浮かない顔で呟いて、爆弾をゆっくりと砂の地面に置く。

「動植物にも影響がないと俺も気が楽でいいけど」 

 なんとなく俺も思ったことを呟く。でも、こればっかりは流石に放置する以外に方法はない。
 残り時間はもう4分。
 そろそろ俺たちも戻ってみんなに爆弾の心配はもうないって言いたい。
 と思ってたら「なぁ、ハント君」
 ペルさんが声をかけてきた。

「どこにも被害が及ばないように空中で爆発させることはできないだろうか」
「……空中で?」
「残り時間2分になったら俺が高度限界まで飛ぶ。で、5秒になったら爆弾を捨てて逃げる」

 とりあえず思った。
 危なすぎるだろ、それ。しかも5秒で爆破範囲から逃げられるんだろうか。正確な範囲もわからないのに。

「……いい考えだと思うんだが」

 しかもペルさんやる気満々だし。

「いや、流石にそれは――」
「――頼む、やらせてくれ。君はこのまま逃げてくれて構わない。君なら5分あれば範囲から逃れられるだろう」

 マジかよこの人マジだよ。
 しかも一人でやる気だし。

「……わかった、やるよ。俺も手伝う」
「いやしかし――」
「――残り5秒になったら俺が爆弾を全力で投げる。で、すぐに俺たちは逃げる。この方が距離稼げるからまだ安全と思う」
「……投げる? このどでかい砲弾を?」
「ん? ……うん。怪我のせいでちょっと距離とか速度は落ちそうだけど、まぁこのぐらいの重さならある程度の距離は稼げるんじゃないかな」
「……そ、そうか。わかった」

 なんでか戸惑ったような顔で頷いて納得してくれたペルさんだけど、すぐにまた首を傾げた。

「いや、だがここまで死力を尽くしてくれた君にそこまで危険なことをさせるわけには――」
「――一応ペルさんは命の恩人だからさ。ペルさんが危険がことをするなら放置するのはやっぱり嫌だ……あと、まぁペルさんの作戦でうまくいくならそれが俺も一番嬉しいし」
「ハント君……ありがとう」

 ペルさん全部真顔だからこっちが照れる。
 なんて話している間に
 残り時間はもう2分。

「いくぞ、ハント君!」
「了解!」

 言葉通り、ぐんぐんあがる。
 そういえばみんな今頃必死になって爆弾探してるんだろうか。
 大砲を見つけたはいいけど砲弾が見つからなくて焦ってたら……申し訳ないけどちょっと面白いかも。いや笑いごとじゃないから面白いとか言ったら殺されそうだ。砲弾運んでくるってちゃんと言えればよかったけどあの時はそんな余裕なかったしなぁ。ま、仕方ない。みんなもわかってくれるだろう。

「ハント君、残り時間は?」

 促されるままに爆弾の時計を確認。

「爆発まであと30秒」

 ペルさんの限界高度まで到達した。
 わずかにそこで静止。
 5キロ以上は離れているのに、風に乗って聞こえてくる戦争の音がどこか虚しく胸に響く。

「……」
「……」

 黙り込む、ただ時間がくるのを待つ。 
 そして。

「残り10秒……8……7――」
「いくぞ! ハント君」
「おっしゃ!」

 これが最後のふんばりだ。
 ペルさんが爆弾を捨てる。同じく、爆弾に掴っていた俺も自然と落下が始まる。

 ――あと6秒。

 爆弾を右手に添えて、ただ全力ではるか彼方へと「おおおおおおおおりゃあああああああああ!」投げ捨てた。腹の傷に腕がすくみそうになる。けど、俺に出来ることはもうきっとこれだけだ。だから、必死にそれらを無視した。
 腹の傷を無視して投げた爆弾はなかなかの勢いではるか上空へと飛んでいく。落下をつづける俺はペルさんの背中に拾われてそのまま爆弾から遠ざかる。

「4……3……2……1」

 そして。
 空中で閃光と轟音。

「……」
「……」

 空中で爆発したはずなのにその余波のせいで熱い砂が顔にかかって気持ち悪いけど、被害はそれぐらいだ。
 とりあえず作戦は成功した。

「あとはビビとルフィに任せるだけだな」

 ホッとした瞬間、ルフィとクロコダイルはまだ戦っているんだろうか? それを思って、少しだけまた胸が痛んだ。

 ――戦争をやめてください!

 そんな、ビビの声が聞こえた気がした。

 
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