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久遠の神話

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第百五話 テューポーンその八

「あれだけの相手でも」
「そうなんですね」
「そうです、そして」
「そしてですか」
「これで終わりではありません」
 今度は宙から力を放った上城を見上げつつの言葉だ。
「確かに脚は凍らせましたが」
「それでもですか」
「そうです、まだです」
 テューポーnはまだ倒せないというのだ。
「あれだけでは」
「それじゃあ」
「これからです」
 その上城を見つつ言う聡美だった。
「彼がどう攻めるのか」
「さらにですね」
「見させてもらいます」
 こう言ってだった、彼をさらに見るのだった。
 テューポーンは確かに脚を止められた、それで動けなくなった。しかしそれでもだった、上半身は動いていてだった。 
 巨大な両腕と百の首は動きだ、それに。
 暴風も起こっていた、その暴風がだった。
 上城を襲う、強さは変わらなかった。
 だが上城は焦っていなかった、その目は冷静であった。そして動きも冷静でありだ、巨人のあらゆる攻撃をかわしていた。
 そうしてだ、その暴風に向けて。
 上城は力を放った、また冷気だった。
 しかしその冷気はだ、今度は大地に向けて放ったのではなく。
 その暴風に向けて放ったのだ、それでだった。
 その暴風を周りに覆っているテューポーンを圧倒的な冷気で覆わせた、上城は己の力を全て注ぎ込んだのだ。
 するとだ、その冷気によってだった。
 テューポーンは全身の動きを止めた、羽毛が凍り。
 両腕、そして百の頭もだ。全てがだった。
 凍った、巨人はそのままの姿で氷の彫刻となった。
 その巨人を見てだ、上城はスフィンクスに言った。彼はまだ宙にいる。
「これで、ですね」
「ええ、間もなくその冷気がね」
 それがとだ、スフィンクスも上城に答えて言う。
「この方の中にまで入るわ」
「もう心臓は」
「凍っているわ」
 それは既にというのだ。
「だからね」
「終わりですね」
「脳もね」
 それもだった。
「凍っているわ」
「じゃあ」
「心臓と脳が凍れば」
 巨人のその百の頭の全ての脳がというのだ。
「終わりよ」
「そうですね、これで」
「よくやったわ」
 スフィンクスは上城を素直に褒め称えた。
「私の言葉を理解したのね」
「はい、何とか」
「戦いは力と」
「頭脳ですね」
「だから貴方はね」
「この巨人にもですね」
「勝てたのよ」
 テューポーン、ギリシア神話における最強の荒ぶる神にもというのだ。
「そして力もね」
「それもですね」
「手に入れたわ」
「そうですね、それじゃあ」
 巨人はもう完全に凍っていた、それは即ち生命の終焉だった。
 そしてだ、そのうえでだった。
 巨人の身体は蜃気楼の様に朧になるその中で消えていった、後に残ったのは上城が見たこともないだけの量の金塊だった。
 その金塊を見てだ、上城はその前に降り立って言った。
「この金塊は」
「いつも通りね」
「はい、少しだけ貰いますけれど」
「その殆どは」
「誰かに寄付します」
 無欲さはこの時もだった。 
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