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Fate/DreamFantom

作者:東雲ケイ
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stay night
  07Der Verbündete der Gerechtigkeit

 光に包まれた士郎がゆっくりと目を開けると、そこは戦っていた庭ではなく焼けて荒廃した大地と火山が噴火する世界。空からは血の雨が降り注ぎ、湖の中に溜まっているのはマグマ。雨の中では雷鳴が轟き時に落ちる。地獄と呼ばれるにふさわしい世界。
「これが夕璃の固有結界……」
「士郎さん、呆けていいんですか?」
 夕璃の言葉に士郎が構えているが、一瞬で士郎は背後を取られた。
「なっ!?」
「一発目」
 血の雨を剣に変えて持つと、夕璃は士郎の腹に決して浅くない切り傷を付けた。
「士郎!?」
「凛、下がれ。これはあの二人の戦いだ」
 アーチャーを睨みつけるが、アーチャーの言葉は最もだ。
「こんなことして、何がしたいんだ!」
「士郎さんは正義の味方じゃない。正義の味方になれはしない」
 士郎が目を閉じると、夕璃は剣を作りながらも止まっていた。
 すると士郎の手に剣が作られていく。
 その剣を見て夕璃は冷や汗を流した。
約束された勝利の剣(エクスカリバー)……」
 そして夕璃はセイバーの正体がアーサー王であることに気が付いた。
 しかしだからと言ってこの状況を打倒できるものではない。
「投影できたみたいだし、行こうか」
 剣を構えて突撃すると、士郎の約束された勝利の剣とぶつかる。
 だがその力は本物であり、贋作とは言え最強クラスの剣。
 あっさりと折れた剣。
 夕璃に約束された勝利の剣が迫るが、マグマで盾を作るとその間に避けた。
「はぁ!」
 しかしそれだけで士郎は止まらない。
 盾を切り裂くとそのまま夕璃に切りかかる。
「せや!」
 夕璃は右腕を切られながらも夢幻で修復し、後ろに下がった。
「互いの性質の違いが出始めたな」
「どういうこと? アーチャー」
 アーチャーは厳しい目で夕璃達を見ていた。
「夕璃は夢幻故に長期決戦では最強クラスの人物だ。恐らく英霊にも勝つことができるだろう。ただしそれは長く続けばだ。つまり夕璃の弱点は決定力の無さ。対して士郎は瞬発的な力ならば圧倒的に夕璃を上回る。作り出せるのが宝具なのだから、全てが決定力となりうる力を持っている。しかしその反面長期決戦となれば魔力や精神力が尽きる」
「相反する能力ってこと?」
 しかしそれに対してアーチャーは首を振った。
「今の時点でだが、夕璃はこの世界に何も入れていない。泥によって構成されただけの産物だが、この世界は地獄と言っていた。つまるところ、全てを受け入れる性質も持っている。ここに宝具を入れることも可能だろう。だがそれが入っていない」
 現時点では夕璃は決定力が無いが、宝具や強力な霊装を入れれば決定力は出る。
「魔術を知って日が浅いはずなのにここまでできている時点で、既に脅威に値する程だ」
「ならこの勝負、どちらが勝つと思う?」
 その言葉に対してアーチャーは難しそうな顔をした。
「さて……な」



 一方夕璃は焦っていた。
 固有結界を発動したのはいいが、士郎の力は一発が強力だ。
 今も腹にかなりの痛みがあるはずなのに、平気で約束された勝利の剣を振っている。
「出し惜しみはダメ……か」
 夕璃が手を伸ばすと、そこから2mはありそうな大剣が現れた。
魂閃の大剣(リミテッド・ソーティア)
 その禍々しい姿に、士郎は構えた。
「これは俺が聖杯の泥から生まれた人格と作った俺の魂を夢幻で作り出し、概念に剣を埋め込んだ物。正義の味方ならどう攻略する?」
 走り出した夕璃の太刀筋を見切った士郎が約束された勝利の剣を振るうが、魂閃の大剣と相討ちとなり吹き飛ばされた。
「士郎さんはわかってないなぁ」
 吹き飛ばされた士郎は夕璃を睨みつける。
「これは俺の魂そのものなんです」
 つまりこれを壊せば自分は死んでしまうと、そう言った夕璃は魂閃の大剣を構えて士郎に向けて走り出した。
「くっ!」
 約束された勝利の剣と再び激突し、魂閃の大剣の一部が欠けた。
「がはっ」
 吐血する夕璃を見て、士郎は力を緩めてしまう。
 その間に魂閃の大剣で押し込み、約束された勝利の剣を叩き折った。
「相手が捨て身の特攻をしてきたら手を抜くんですか? 随分といい加減な正義の味方ですね。絶対に助けられません」
 しかし士郎は諦めていなかった。
「うぉぉぉおおおおお!」
 殴りかかってくる士郎に対し、夕璃は魂閃の大剣を消すと士郎を殴り飛ばした。
「俺は、正義の味方になるんだ!」
「正義の味方に救われた人しか、なろうと思えませんよ!」
 切られて身体能力が下がっている士郎の傷口に、夕璃は蹴りを入れた。
「あ、が」
 叫びすら出せずに士郎は転がる。
「俺だって助けてもらいたかった。これが俺の本心です。嫉妬と言われても仕方ないですよね。でも正義の味方は知っている。士郎さんはなれない!」
 夕璃は大量の血の槍を作り出した。
「人を助けたいんじゃなくて、士郎さんは助けている自分が見たいだけなんだ! それは正義の味方なんかじゃない。ただのエゴイストだ!」
 槍を二本持って、士郎に向ける。
「俺は、正義の味方に」
「なりたくてなるものじゃない。周りに認められてなるものだ。最後に言うよ。その夢は叶わない」
 士郎は立ち上がると、視線を夕璃に向ける。
 しかし夕璃は引かない。
「投影!」
「一瞬でケリをつける」
 夫婦剣が届くよりも先に、夕璃の一閃が士郎の心臓を貫いた。
「あ」
「死んでもわからないんでしょ? 士郎さんは」
 もたれかかってくる士郎に対し、夕璃は避けた。
 そして士郎は地面に倒れ、投影されていた夫婦剣は消え去った。
「士郎!? 夕璃!」
 宝石を取り出す凛を止め、アーチャーが前に出る。
「夕璃。お前の言い分はよくわかった」
「出てくると思ったよアーチャー。真名で呼んだほうがいいかな?」
 ストライカーと凛が驚いて夕璃を見つめる中、アーチャーは不適に笑った。
「英雄衛宮士郎さん」
「やはり気づいていたか」
 凜が絶句する。ストライカーはある程度気づいていたのかそこまで驚かなかったが。
 アーチャーは夫婦剣を投影すると、夕璃に向けた。
「その後ろにある夢幻の槍と、我が無限の剣製。どちらが先に力尽きる?」
「そうだね。俺も負けるつもりはないよ」
 槍を構えた瞬間、二人は激突した。
「くっ……!」
 しかし英霊ということもあり、士郎とアーチャーは別格。
「どうした夕璃! 貴様の実力はその程度か!」
 音速の剣戟に、夕璃は押されるしかない。
 夕璃の実力自体はそこまで大したことがないのだから。
「ぐぁ!」
 遂に押し切られた夕璃の体がアーチャーの蹴りによって吹き飛ばされ、倒された。
「貴様の実力だけならば俺が宝具を投影しなくても余裕だ」
「そうだよね。なら本気、見せるよ」
 現れたのは一本の剣。
「夢幻剣アリストテレス」
 鮮やかなラベンダー色のそれを見て、アーチャーは危機を感じていた。
「固有結界を結晶化したものを剣に変えたのか」
「うん。これが固有結界と言ってもいいよ」
 夕璃はアリストテレスをアーチャーに向けると、斬りかかった。
「ちっ」
 速さならば夕璃に分がある。
 仕方なく夫婦剣で防御しようとすると、アリストテレスはアーチャーを平然と切り裂いた。
「何っ!?」
「もう一撃!」
 そのまま振りかぶった夕璃は再びアーチャーを切り付ける。
 しかし夫婦剣は切れていない。
「触れたものを夢に変えているのか!?」
「そういうこと。切るときはもとに戻してるけど」
 防御不能な剣。
 防御としても使えば最強クラスというふざけた剣。
「ちなみに切れば切るほど相手を夢にできる」
 即ち存在を消す。
「凶悪な剣だな」
「自覚はあるよ」
 アリストテレスを構えると夕璃は突撃する。
「だが振る腕が無ければ問題がない!」
 夫婦剣を投げると、更に新たな夫婦剣を投影した。
壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」
 夫婦剣が爆発するが、それを気にせずに夕璃は突撃する。
「はぁ!」
 更に再び夫婦剣が投げられ、夕璃の腕を両肩ごと切り裂いた。
「確かに衛宮士郎には勝てるが、そこまでの実力がなければ俺は倒せないぞ」
「……夢幻覚醒」
 両腕が夢幻によって復元され、アリストテレスを伸びた腕が掴んだ。
「人相手にしてると思っちゃだめだよ」
 翼を生やした夕璃が宙に向かい、アリストテレスを構える。
「はぁ!」
 ジェットエンジンをつけて突撃した夕璃はアーチャーの夫婦剣を完全に破壊し、そのままアリストテレスを構えた。
「夢幻一式」
 銃弾の様な速さで放たれたアリストテレスはそのままアーチャーを切り裂き、腹の存在そのものを消した。
「なっ!?」
「夢幻二式」
 そこから上に切り上げ、十字に切り裂く。
「夢幻三式」
 そして十字の中心を突き刺した。
 ぐったりとしたアーチャーが夕璃に倒れ掛かる。
「見事といいたいが、まだまだ甘いな」
 そう言うと、固有結界が解けた。
「痛た……。怪我が、ない?」
「夕璃、これは一体どういうこと?」
 二人が起き上がると同時に、凜がアーチャーに抱き付きセイバーが士郎に駆け寄った。
「正義の味方じゃなくて、家族の味方を目指した方が士郎さんらしいよ」
「お前、まさかそれを伝えようとして?」
「俺がそんなお人よしに見えますか?」
 それだけ言うと、ストライカーを呼んで夕璃は歩き出した。
「マスター、よかった」
「ストライカーも無事でよかったよ。キャスターは倒したし、後残っているのはバーサーカー、ライダー、ランサー、セイバー、アーチャー、アサシン」
「アサシンは、キャスターがマスターだった。キャスターが死んで、アサシンも消えた」
「出番なし? 可哀そう」
 夕璃はそう言うと、ストライカーの頭を撫でた。
「後5人。早く倒して聖杯の汚れを破壊しないと」
 その呟きは、天に消えていった。



 家に戻ってから夕璃はすぐに夕食の支度をするが、ふと止まった。
「ストライカー、感じた?」
「うん。サーヴァント」
 家の前にサーヴァントがいる。
 気づいた夕璃は警戒を強めた。
「おい小僧。殺しあおうぜ」
 青い全身タイツの男、ランサーがそこに立っていた。
 
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