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Fate/DreamFantom

作者:東雲ケイ
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stay night
  08Schlaf

 ランサーに呼ばれた夕璃は家の近くにある公園に来ていた。
「お前が初めてだ。心臓を貫いても生きていた人間は」
「俺も初めてでしたよ。心臓を貫かれたのは」
 互いに本気。
 それは誰から見てもわかることだった。
「ストライカー、ごめんね。本当ならストライカーがたたかわないといけないと思うんだけど、これは俺が売られた喧嘩だから」
「嬢ちゃんはそこで待ってな。まぁ、本気だから決着は確実につくがな!」
 槍を出したランサーに対し、夕璃はアリストテレスを出す。
「それが坊主の本気か」
 刹那、ランサーは夕璃に向けて突撃していた。
「ちっ!」
 槍をアリストテレスで防ぐと、夕璃はそのままランサーに切りかかった。
「おっと」
 簡単に避けられたことに、夕璃は内心舌打ちする。
 今日だけでかなりの能力を使っているので、これ以上使うのはまずいのだ。
「剣は素人だな。しっかしその剣なんだ?」
 槍が完全にガードされたことに疑問を抱いていた。
「秘密!」
 踏み込んだ夕璃が剣を振るうとランサーは槍で防御した。
 しかしアリストテレスはそれをすり抜けてランサーを左腕を切り裂いた。
「うぉ!?」
 驚くランサーはかなり後ろまでジャンプすると、切られた箇所に触った。
「切られてない?」
「切ったよ。存在を」
 にやりと笑ったランサー。いい獲物ということだろう。
「おら!」
 槍を突き刺して攻撃してくるが、それを夕璃は全てアリストテレスで逸らす。
「夢幻一式!」
 振りぬくと同時にランサーが下がる。
 防御不能な剣に対して効率的な戦い方だ。
 ただ夕璃に関しては例外といえる。
「はぁ!」
 走り出した夕璃はランサーが跳んだ方向に走り始める。
「まじかよ!」
 ランサーが着地する時には既に剣が届く範囲に夕璃がいる。
「せい!」
 次は腹。これで体を捻ることと左手を多用する戦いかたが封じられた。
「ちっ! 仕方ねぇ!」
 槍が途端に赤く染まる。
刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)!」
 放たれた心臓破りの一撃は、心臓の前に置いてあったアリストテレスによって防がれた。
「二度も同じ攻撃は喰らわない!」
「わかってんだよ!」
 宝具を囮に使った蹴りが夕璃の腹にめり込み、夕璃は倒れこんだ。
「結構まずいかな」
 いくら夢幻と言えど、今までアーチャーと士郎と闘ってきたのだ。
 疲労を夢幻にしても経験から疲れが来る。
「俺が宝具を使えばお前は必ず防御に徹する。その時が仇だ」
 立ち上がった夕璃は、ランサーを睨みつけた。
「いい目だ。そう言う奴を殺してぇ!」
 だが夕璃は、そこで倒れた。
「何?」
 途端にストライカーが来て夕璃を運ぶ。
「おい待て! 何で連れてくんだ!」
「マスターは今まで宝具を投影できるマスター、アーチャーと連戦してきた。これ以上はマスターの精神的に無理。そもそもやっと休もうとしていた時に来たせいで、まともに休んでいない。一度固有結界を破壊されて傷だらけになってる。こんなボロボロでよくやったと思う」
 今の夕璃の状況を聞き、ランサーは舌打ちをした。
「そんな状況で戦ってたのかよ」
「理由を作ったのはランサー。謝罪を要求する。マスターの代わりに手伝え」
「はぁ!? 何で俺が……」
 ランサーはそう言いながらも、自分のせいで夕璃はギリギリの状況で戦わせたことに罪悪感があった。
 望んでいるのは全力対全力の勝負であり、こんな戦いを望んでいない。
 この状況の夕璃を倒すことも望んでいないのだ。
「ったくしょうがねぇ」
 ストライカーの代わりに夕璃を持ち上げると、ランサーは仞凪家に入った。



 次の日になっても、夕璃は目を覚まさなかった。
「おいどういうことだストライカー。こいつは何で目を覚まさねえ」
「マスターは能力を使うと夢に囚われる。昨日大量に使ったから、今日は目が覚めないかもしれない。明日も」
 そこでストライカーはあることに気が付いた。
「学校。ランサー、マスターを見てて」
「はぁ!? だからなんで俺が」
「見てて」
 男は女に勝てない。
 それを体現するような状況になり、ランサーは溜息を吐いて夕璃を見ていることにした。
「行ってくる」
「おい待て。どこに行くつもりだ」
「学校。マス……夕璃が休むと伝えてくる」
 その言葉にランサーはため息を吐いた。
「いいか? マスターと呼んだら坊主が怪しまれるから夕璃と言い直したのはいい。だがな、薄い鎧を纏った姿で行けば、坊主は更に怪しまれる」
「わかった」
 ワンピース姿に変化すると、ストライカーは家から出て歩き始めた。
「はぁ。てかこの家、あの坊主一人で住んでるのかよ」
 ピンポーンとインターホンが鳴らされ、面倒そうに現代の服に変えたランサーが出た。
「はーい」
「貴方誰かしら?」
 そこにいたのは少し太っているおばさん。
「あー、ぼ……夕璃の知り合い。昨日熱出して寝込んだから看病してんだよ。あんたは?」
「仞凪木在(きさら)。夕璃の叔母よ」
 その言葉にランサーは怪訝な顔をする。
「寝込んだから来たのか?」
「そんなわけないでしょ? 今月の生活費を置きに来たのよ」
 そして渡されたのは1万円札。
「これだけ?」
「当たり前でしょ? それにしても、友達と遊ぶ金があるということはもう少し減らしてもいいかもしれないわね」
 あり得ないことを言い出す木在を、ランサーは半ばキレかけで尋ねた。
「あんた、夕璃の叔母さんじゃねぇのかよ」
「口の悪いガキね。だからどうしたのよ。あんな気持ち悪い子。貴方も気を付けたほうがいいわよ? 10年前両親が死んだ車に乗っていたのに傷一つついていないくらい可笑しな子だから」
 それだけ言うと木在は去って行った。
 ランサーは渡された一万円札を見ると、木在を殺す様な視線で追った。
「あのババァ。これが夕璃の状況だと?」
 しかも10年間。今の夕璃の年齢から考えればあり得ないような年齢から、夕璃は一人で生きてきたことになる。
 だとしたら彼はどう思っているのだろうか。
 この世界を憎んでいるのではないだろうか?



 ストライカーはてくてくと効果音が出ている様な速さで歩いていた。
 通り過ぎる人が皆ストライカーを見るのは二通りの人物がこの世にいるからだ。
 何故こんな子供が学校があるこの時間にいるのか。
 何故こんな可愛い子が歩いているのか。
 後者の人物は危険だ。
 ストライカーを襲う可能性がある。
「ねぇ」
 そしてそういう人物が現れるのが御法度だ。
「遊びに行かない?」
 ストライカーが振り向くと、そこには5人組の男がいた。
 不良と呼ばれる学生の集団だが、ストライカーにとってはマスター以外の人間で交友がない人間の一択である。
 つまり眼中にない。
 再びてくてくと歩き出す。
 すると不良達がついてくる。
「無視すんなよ」
 一人がストライカーの肩に触れた瞬間、ストライカーは男の腹に蹴りを入れ壁にめり込ませた。
 唖然とする不良を置いて、ストライカーはてくてくと歩き出す。
 不良達は追いかけてつぶそうとするが、その度にストライカーに薙ぎ払われる。
 そして学校についたときには誰もいなかった。
 校門から入ると、一人の教師が近づいてくる。
「君、ここは学校に来ている人が来るところだ」
 大人だがやはりストライカーにとってはマスター以外の人間で交友がない人間の一択。しかし学校に入ったということで、マスターのことを伝えられるかもしれないと考えた。
「夕璃のこと」
「夕璃? 知らないな」
 そうならば興味がない。
 ストライカーはどんどん歩く。
 教師が静止するのも聞かずに歩く。
 そして玄関から入り、窓口の人を見る。
「夕璃のこと」
「夕璃? あぁ仞凪夕璃君ね。確か休んでるけど……」
「夕璃、風邪で暫く来れない」
「伝えに来てくれたの? ありがとう。お礼にこれを上げるね」
 小学生並みの身長からストライカーは飴をもらい、袋から出して口に入れると歩き出す。
 先程止めた教師が怒っているが、ストライカーの身体能力は伊達じゃない。
「邪魔」
 足を掴んで投げ飛ばすと車にめり込んで教師は気を失った。
 この車はその教師の車だったため、事無き事を得た。
だがストライカーは突き進む。
 そんなことは関係ないと突き進む。
 帰り道は誰からも声をかけられることもなく、平然として家の中に入った。
 するとそこにはキレかかっているランサーがいた。
「どう、した?」
「どうもこうも、あのばばぁ! 夕璃を邪魔者扱いしてやがる!」
 キレているランサーを見て、以前聞いた木在の話をストライカーは思い出した。
「夕璃は気にしてない。でも、やだ」
「ぶち殺してやろうか」
 ランサーが考える中、寝室でガタンと音が鳴った。
「起きたか?」
「……早すぎる」
 警戒するストライカーはすぐに寝室に走っていく。
 するとそこには頭を掻いている夕璃がいた。
「違う」
「気づくよな。そう。俺は夕璃じゃねぇ」
 禍々しい視線を向けられたストライカーは、槍を構えた。
「殺せば夕璃も死ぬぜ?」
 無言で槍を消すストライカー。
 ランサーが入ってくると、びしっと指さした。
「夕璃はこれから2日間起きねぇ。戦いてぇんならその後にしな」
「お前が夕璃じゃねぇのかよ」
「違う。あれは黒夕璃」
 黒夕璃は笑うと、ランサーが持っていた封筒を見た。
「それは渡された金か。どうでもいいが、あいつのためになるならそれを机の上に置くだけにしておけ」
 それだけ言うと夕璃は倒れる。
 黒夕璃が元の場所に戻っていったのだ。
「黒夕璃だか何だか知らねぇが、雲行きが怪しくなってきやがったな」
「同感」
 二人のサーヴァントは空を仰ぎ見た。
 
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