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Fate/DreamFantom

作者:東雲ケイ
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stay night
  06Bosheit

 世界が再構築されていくのを、夕璃は肌で感じ取っていた。
「よぉ」
 その声に振り替えると、歪んだ笑みを浮かべる黒夕璃が立っている。
「この世界をあんな低能宝具で崩せると思うとか、あの魔女はバカだな」
 黒夕璃がそう言うと、殆ど一瞬で世界は再構築が終わる。
「この世界は夢幻にして地獄。さぁ夕璃、あの魔女に死の断罪を。ストライカーを苦しめるあの魔女に、地獄の審判を!」
「ストライカーを、苦しめる?」
「あぁそうだ。奴はストライカーを鎖に繋ぎ、洗脳して手駒にしようとしている。嫌だろ? ストライカーが昔の様に他の人の道具として扱われることが!」
 夕璃の心が黒夕璃に飲み込まれていく。
「いや、だ」
「ならやろうぜ! キャスターを殺せ! そのための力だ! そのための怒りだ!」
 夕璃の左甲に令呪が浮かぶ。
 本来存在しないはずの令呪。
 絶対にあり得ない、消された令呪。
「令呪を持って命ずる」
 ドクンと、夕璃の心臓が跳ねた。
「宝具を使用しろ、ストライカー」



「っ!?」
 本来ないはずの令呪からの命令。
 キャスターならば逆らうことができるのだが、この命令を逆らうことはできない。
「うん。わかった」
 ストライカーの鎖に縛られた腕に槍が現れる。
 地獄の原典に剣という概念を与えた乖離剣エアと同じEXランクの宝具。
 最強の剣がエアならば、最強の槍。
 その名も――
地獄と化す灼熱の死槍(ブリューナク・ゴットインフィニティ)
 振った瞬間世界が覆され、柳桐寺の地下にあったストライカーが閉じ込められていた部屋が一瞬にして消滅する。
「なにが起こっているの!?」
 キャスターが現れると、ストライカーの視線はキャスターに向けられた。
「令呪が、消えていく?」
 キャスターの腕からストライカーに対する令呪が消える。
 初期化したはずの令呪がだ。
「何故!? あり得ない! 宝具を消した!?」
「マスター、生きてる」
 笑みを浮かべるストライカーは、地獄と化す灼熱の死槍をキャスターに向けた。
「くっ!」
 ヘカティック・グライアーを放つが、ストライカーが一振りするだけでそれは完膚無きまでに消滅した。
「嘘……」
「ただ痛みを与えた罰を、神罰を」
 ストライカーが地獄と化す灼熱の死槍を振りかぶる。
「受けろ」
 投擲されたそれが分身してキャスターを襲う。
 EXランクと呼ばれる最強が何発も当たれば、いかにキャスターが用意をしていたとしても意味がない。
「宗一郎……様……」
 地獄の炎で燃やし尽くされたキャスターが敗北し、豪炎に包まれた地下室の中でストライカーは槍を消滅させた。



 一方士郎の家では、突然の轟音に驚いていた。
「何だ!?」
「あれは……キャスターがいた柳桐寺!?」
 炎の柱が上がるそれを見て、凛は驚いていた。
 自分でもキャスターを倒すのは至難の業と言っていたのだが、あれは確実にキャスターを倒した攻撃だ。
「凛。夕璃の腕に令呪が戻っている。しかし、3画戻ったと思ったら1画消えた」
「まさか、夢の中で命じたっていうの?」
 規格外な存在。
 夕璃について凜はそうとしか思えなくなった。
「起きたら夕璃に聞くわ。その前に、アーチャー。ストライカーを連れてこれる?」
「了解した」
 屋根を飛んで柳桐寺に向かうアーチャーを送ってから、凛はすぐに夕璃が寝ている部屋に入った。
「まだ寝てるわね。でも令呪が確かにある」
 どういうことかわからないが、夕璃はキャスターに奪われた令呪を何らかの方法で奪い返した。
 そしてその令呪で宝具を発動させ、キャスターを倒したのだ。
「3画戻ったのは何故? 2画しかなかったはず」
「どうしたんだ?」
 不思議そうに士郎が聞くと、凛は怪訝な顔で夕璃を睨みつけた。
「夕璃、寝たふりっていうのはどうかしら?」
「あー、ばれてました?」
 起き上がった夕璃は、少しバランスを崩しながらも立ち上がった。
「どうやってキャスターから令呪を取り戻したのかしら?」
「えっと、そのためには俺の固有結界について説明しないといけないんですけど。というかなんで俺士郎さんの家にいるんですか?」
「アーチャーが連れてきたのよ。それで、貴方の固有結界について話しなさい」
 凜に諭されると、夕璃は溜息を吐いてから話始めた。
「俺の固有結界の名前は『我ガ夢幻ノ地獄《アゥンドゥリング・リヴェーンスピエレン》』と言いまして、概念は夢幻と地獄。あ、夢幻って言うのは夢と幻って書くほうです。で、能力は簡単に言うと二つ。地獄となっている固有結界に存在するものを操ったり出したりできること。もう一つが、夢幻にすること」
「成程ね。その夢幻にするって言うのは、怪我を夢にしたりしてたことね」
「はい。まぁ実際は夢に置き換えて固有結界に保存。そこから夢の内容を書き換えて幻で再現。その幻で再現したものを固有結界から出して置き換えた部分に当てはめる。それから幻を現実に変換するっていう作業が行われているんですけど」
 頷く凛だが、一瞬で止まった。
「待って。夢幻にするって言うのは、まさか貴方宝具を受けたことを夢にしたの?」
「えーっと、そうです。だから令呪が夢の中にいたので幻ですけど帰ってきたのでそれを使って命令しました。でも初期化されたのまでは幻にできなくて、令呪が3画に……」
「結果的に、キャスターに刺されたおかげで令呪が2画から3画に増えたと。何そのトンでも能力。で、何で行き成り詳しくなったの?」
 その言葉に夕璃は黙りこんだ。
「俺の中に、聖杯の泥……つまり言うと悪意の塊がいるんですよ。そいつと夢の中で推定3日間くらい話して、色々と教えてもらって。でも悪意の塊と言うよりも、善意を認められなかったための悪意って呼んだほうがいいかもしれないくらい良い奴です。俺に能力の使い方や注意をしてくれたので」
「聖杯の泥? 悪意? まさか聖杯は、汚染されてる?」
「はい。ギルガメッシュさんにも聞きましたけど、汚染されています」
 ギルガメッシュという言葉にセイバーが反応し忌々しそうにするが、夕璃にとっては王を蔑む行為で許せるものではない。
 一応臣下に下ると決めたのだから、王を守る行動をしようと考えたのだ。
「いやな顔をしないで戴けますか? 話しましたけど、ギルガメッシュさんはいい人でした。ただ上から目線過ぎるだけ。俺は貴方からのほうが嫌な感じがする」
 セイバーにそう言うと、セイバーは剣を構えた。
「貴方がその気なら、俺も力を出す」
 夕璃はセイバーを睨みつけた。
「やめろセイバー。お前の気持ちもわかるけど、夕璃は人間なんだ!」
「しかし士郎。騎士の心をここまで侮辱されて黙っておけません!」
 セイバーは踏み込むと、夕璃に切りかかった。
「殺せばいいよセイバー」
 セイバーが剣を振ると、嫌な肉の感触とともに夕璃が真っ二つに切り裂かれ内臓が飛び散った。
「うっ」
 士郎と凛が口元を抑えて倒れこむ。
 しかし夕璃の能力はこの程度ではない。
「王よ……」
 夕璃の顔が、セイバーが第四次聖杯戦争で戦ったランスロットへと変貌する。
「何故何もしていない私を切ったのですか?」
「わ、私は……」
 そして倒れこんだ凛の顔が、士郎の顔が臣下達に変わり、セイバーを責めたてる。
「貴方が否定したせいで、私は聖杯に殺された」
「選択をし直したせいで、私達は生贄にされたのです」
 セイバーの体に縋り付く様に血だらけの臣下が纏わりつく。
「は、離せ!」
 セイバーがそれを振り払うと、全員が憎しみの顔に変わった。
「我らが恨み、幾度となく思い出せ! もし選択をし直すのならば、我らの命を背負いながら血にまみれたこの命を思い出せ!」
 そしてセイバーは倒れた。
「あぁぁぁあああああ!!??」
「セイバー!?」
 倒れこんだセイバーを抱えるようにする士郎。
「夕璃、何をした!?」
「夢を、見てるんだよ」
 夕璃は慈悲深い顔で言った。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 謝り続けるセイバーは、ガクガクと震えながら両肩を掴んで震えていた。
「夕璃!」
「俺は切られそうになったのに、士郎さんは。正義の味方はどう思います?」
 正義の味方なら、夕璃を助けるために動いただろう。
 しかし士郎は止めるように言ったが、正義の味方のように助けることはしなかった。
「今はセイバーを――」
「士郎さん。貴方は正義の味方にはなれない」
 アーチャーがちょうど戻ってきたタイミングで、夕璃はそう言い放った。
「身内を優先して助けない人物を、正義の味方とは言わない。ただの偽善者。いや、家族が大切なだけの男。正義の味方にはなれやしない」
 夕璃は両手にマグマを纏った。
「士郎さん。俺を倒すかい?」
「夕璃、お前は間違ってる!」
 夫婦剣を投影した士郎が夕璃に切りかかるが、夕璃はジャンプで後ろに下がると士郎の攻撃を避けた。
「ストライカー、アーチャー」
 二人を一瞥した夕璃だが、今は士郎との戦いに集中したいのかそれ以上話さなかった。
「Die Welt besteht aus Träumen und phantasms」
 マグマを両腕から放つと、士郎はそれを避けた。
「Reichliche Gerechtigkeit und reichliches Unrecht」
 次は雷。しかしこれは士郎が夫婦剣を投げたのでそれに当たり不発。
「Licht ist unter den Punkten zu Ziel dabei」
 もう一回投影して切りかかってきたのを足の下から炎を出して空中に回避。
「Dunkelheit ist unter den Punkten zu Bedauern」
 空中で自身の指に切れ込みを入れると、そこから出た血で二本剣を作って上から攻撃するが、夫婦剣とぶつかり不発。
 そのまま互いに剣をぶつけ合って攻撃する。
 しかしどちらの剣も強度が同じなのか、同時に壊れてしまって決着がつかない。
「Es gibt roh kein im Punkt eines Aussehens」
 雲を操作した夕璃によって辺りが白い靄に包まれ、互いに姿を認識しにくくなる。
 その中から夕璃が現れて剣をふるうが、士郎は咄嗟に気づいてそれを防ぐ。
「Der Tod lungert in Herzen irgendwo herum」
 互いに決着がつかないが、夕璃は余裕な表情。
 それに比べて士郎はかなり疲れていた。
「衛宮士郎! 奴が詠唱を完結させる前に倒せ! でなければ貴様は負ける!」
 アーチャーの声に夕璃が内心強張る。
「Deshalb existiert das Herz nicht in diesem Körper」
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
 切りかかってきた士郎の連撃に、剣の心得がない夕璃では完全にさばき切ることができない。
 次第に押され始め、夕璃も焦りが見え始めていた。
 しかしそれは夕璃の用意していた罠である。
「Änderung in jenen, die ein Leben spielen」
 刹那、世界が変わった。
 
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