Fate/DreamFantom
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stay night
05Heldenkönig
ギルガメッシュを前にすれば、普通の人間ならばその格の違いを知り下るだろう。
それは命が惜しいからであり、ギルガメッシュの下ならば成功できるからだ。
そう。命が惜しい人ならば。
「あ、家の中にどうぞ。お茶出しますよ」
「どうも。ではない! 貴様、我のことを愚弄するか!?」
「違いますよ。まぁ立っているのも何ですし、家の中でゆっくりと話しましょう」
「ふむ。それならば許そう」
扉を開けてギルガメッシュと中に入る夕璃を見て、ストライカーは大きく溜息を吐いた。
「本題だが、我の臣下に下れ」
「命令形ですか。俺は別に誰かの下につくとか考えたことありませんし、今は聖杯戦争でストライカーの願いと自分の願いを叶えることだけが夢ですから」
その言葉にギルガメッシュは怪訝な顔をする。
「あれは泥だ。夢など叶える訳がないだろう」
「やっぱりそうですか。ならまずは聖杯を浄化もしくは完全破壊することが目的ですね」
臣下に下る気はあまりないのだ。
ただ意見を聞いて楽しいことがあるから、聞いている。
「なるほど。なら我も協力してやろう。貴様といるのは綺礼といるよりも悦でな」
笑うギルガメッシュを見て、夕璃は少しいい気分になる。
王様という雰囲気から一気にフレンドリーになり、互いに楽しい話ができるからだ。
「そこの小娘も、中々不運であったな。我も神によって不幸を被った。貴様の気持ちはよくわかる」
小娘という言葉に反応した夕璃は、ギルガメッシュが真名を見抜いていると考えた。
「ギルガメッシュさんはこんなところでどうして俺を勧誘を?」
「貴様は泥を飲んだのだろう? 我もそれを飲み込んで受肉したのだ。我と同じようなことができるとは、中々の男。だから臣下にしたいと思ったのだ」
ギルガメッシュの言葉に驚く夕璃だったが、受肉したとはそういうことだったのだろうと理解した。
「成程。全てが終わってからでいいなら。ただしある程度の自由は約束させていただきます」
それが叶うならば自分以外の人が助かるのだ。
だったらいいと考えたのだ。
「わかった。我が待つことに感謝しろ、夕璃」
ギルガメッシュが消えていくのを感じ、夕璃はうすら笑みを浮かべた。
「決めたよストライカー」
あまりにも簡単に、夕璃の口から紡がれた言葉。
「俺は世界を変える」
この瞬間、夕璃は英雄になることを決めた。
ストライカーの一日は夕璃を起こすところから始まる。
と言っても、夕璃はいつも起きている。
決まった時間に起きることがわかっているからだ。
しかし最近は能力を使う度に寝ている時間が長くなるので、偶に速く起きる。
そして夕璃を起こしてからはランニングについて行き、戻ってきたら夕璃と一緒に朝ごはんを食べる。
学校に行っている間は霊体化して夕璃の傍におり、夕璃の危険を探している。
という名分で知らないものを探している。
放課後は夕璃と歩き、食材の買い出しなどに行く。
「マスター。サーヴァントと戦うことは考えないの?」
「考えてるよ? でも今までの習慣を変えるのは嫌なんだ。だからね」
放課後の散歩中に話している二人を見ている姿があった。
アーチャーだ。
ただし別に狙っているわけではない。
あの時の夕璃の言葉が気になったため、単独で行動しているだけだ。
「あの時感じた異常性。あれはまさしく衛宮士郎に感じたものと同じだ」
ならばどこかで行動を起こすかもしれない。
そう思っていたアーチャーが夕璃を見た瞬間、背筋が凍った。
(こっちを見ているだと!?)
しっかりと両目でアーチャーの方向を向いている夕璃を見て、アーチャーは咄嗟に移動した。
「あり得ない。どれだけ離れていると思っているのだ!」
ここから夕璃までは2km以上離れている。
気配察知スキルがEXですら1kmの中でしかわからない。
「奴は何なんだ!?」
アーチャーが叫ぶと同時に、夕璃は行動を映していた。
走り出した夕璃は英霊レベルの速さで屋根をジャンプしながらアーチャーに向かっていく。
「ちっ」
追いつかれると判断したアーチャーが立ち止って夫婦剣を投影すると、夕璃はジャンプでそれを超えた。
「なっ……!?」
「アーチャー下がって!」
血を纏った夕璃の一撃が、アーチャーの後ろにいたバーサーカーの攻撃を防ぐ。
「まさか貴様、これを見て!?」
「今は集中。ストライカー!」
ストライカーがバーサーカーの前に出て槍で攻撃するが、既にバーサーカーにその攻撃は通用しない。
「ヘラクレスだよね。ストライカー、宝具を使うことも考えといて」
「了解」
バーサーカーの攻撃を防ぐのも一苦労だということはわかっている。
「アーチャー、バーサーカーを撃退できる?」
「やってみよう。救われた恩もあることだ」
夫婦剣を大きくするとバーサーカーに突撃していく。
それに対して夕璃は、息を吐いた。
「Die Welt besteht aus Träumen und phantasms」
マグマが夕璃の右腕から吹き出し、バーサーカーを襲う。
「Reichliche Gerechtigkeit und reichliches Unrecht」
雲がその姿を変え黒雲となり、雨が降り出した。
「固有結界の一部を現実に持ち込んだだと!?」
驚くアーチャーを置いて、夕璃はマグマを雨の中にいれ蒸発させる。
すると霧が立ち込めて辺りは見えなくなった。
「ストライカー!」
「はぁ!」
声だけが響いた瞬間、爆音と共に霧が全て吹き飛んで下の民家が倒壊しそうになったがそれを夕璃がマグマで防いで止めた。
「何だ、今のは……」
アーチャーが辺りを確認すると、虫の息となったバーサーカーが倒れているのを発見した。
「馬鹿な!? バーサーカーを倒しただと!?」
たった一撃しか放っていないのに、バーサーカーはかなりのダメージを受けていた。
「三回は殺せた」
「何回死ぬと思う?」」
霧が晴れている夕璃の隣りに、一本の槍しか持っていないストライカーがいた。
「馬鹿な……!」
「本気で打たなかった。バーサーカーのマスター、ひかせるのが賢明」
バーサーカーが消えるのを見届けていると、夕璃は微かな悪寒がした。
「夕璃!」
「え?」
気づいた時にはもう遅い。
後ろにローブを着た女性がいたのだから。
「破戒すべき全ての符」
夕璃に刺された短剣が発光し、夕璃の腕から令呪が消えた。
「あ――」
それだけではなく両腕が、左足が、体中に傷が現れ夕璃が吐血したのだ。
「貴様ぁぁぁぁぁあああああああああああ!」
激昂するストライカーがローブを着た女性に突撃していく。
「令呪を持って命ずる」
しかしその言葉にストライカーは止まった。
「私に矛先を向けるな」
ガチガチと震える手で槍を消すストライカー。
「ふふ。貴方の様な少女、好きよ」
しかしそれ以上の問題が起きている。
夕璃の体がぼろぼろになり、血を流していた。
「くそっ」
アーチャーが夕璃に近づき全て遠き理想郷を投影して夕璃を回復させる。
「固有結界が消えたのか?」
夢にしていた傷が現れたということはそれ以外に考えられないだろう。
「くそっ。助けられたままは主義に反する!」
全て遠き理想郷を夕璃に埋め込むと、夕璃の傷が全て回復した。
しかし夕璃が一向に目覚めないため、アーチャーは夕璃を担いで士郎の家に向かった。
「どうしたんだアーチャー。というか、夕璃!?」
「凛、急いで布団を用意してくれないか?」
「いいけど……」
いきなりアーチャーが夕璃を連れて帰ってきたことで、士郎達は困惑した。
「どうしてアーチャーが夕璃を連れてきたんだ?」
夕璃を布団に寝かせてから、士郎がアーチャーに聞いた。
「バーサーカーに襲われそうだったところを、夕璃に助けられた。奴の直感で気づいたらしい」
「で、バーサーカーにやられたの? 違うでしょ? だったらストライカーがいるはず」
ストライカーがこの場に存在していないことに、凜は疑問を抱いていた。
「その後、キャスターと思われる人物によって夕璃は令呪を奪われた。恐らく魔術による生成物を初期化するもの。それによって、夕璃は固有結界を失った。一時的なものかもしれないが、永遠にかもしれない」
固有結界を失ったという言葉で、凛は察した。
「それで夢にしてあった傷が再び現れたから、貴方の宝具か何かで回復させたけど起きないから連れてきたと」
「生憎、助けられたままは主義ではなくてな」
お道化る様に言うアーチャーだが、その言葉に対して凛は何も言わなかった。
サーヴァントを助けてもらっておいて、文句を言うようなこともないからだ。
「で本題に入ろう。夕璃が何故目を覚まさないかだ」
「激痛で意識を失ったという考えは?」
凛の言葉を考えるが、アーチャーはそれはないと判断した。
「夕璃は今までどんな傷にも耐えてきたのだ。この程度の痛みで気絶するほど愚かじゃない」
「じゃあ、固有結界を再構築しているという考えは?」
それが妥当だと考えられた。
しかしそうすると疑問が生まれる。
「いつ、目覚めるか」
「彼の固有結界が生まれつきとかだったら早いかも。でも、それでも一年かもっと……」
その間に聖杯戦争は終結する。
恐らくストライカーも消滅し、夕璃は困惑することになるだろう。
「どうするんだ?」
「まずは様子を見るしかあるまい。それに、キャスター如きでストライカーを制御できるとは、到底思えないがな……」
「離せ!」
鎖で繋がれたストライカーを見て、キャスターは冷や汗を流していた。
矛先を向けるなという命令に背き、柳桐寺に戻った瞬間槍を出してキャスターを攻撃したのだ。
「殺す!」
狂った様に暴れるストライカー。
「彼がそんなに大事だったのかしら」
キャスターはその様に考えるが、それにしてもストライカーの暴れようは酷かった。
「まぁ、関係ないけど」
キャスターにとってはかわいい少女を愛でることが大切なのだ。
少女の思いなどは関係なしに。
「あぁぁぁあああああ!」
暴れるストライカーに、近づくことすらできないからこそ使うしかなくなった。
「令呪を持って命ずる。ストライカー、私の奴隷になりなさい」
だがなお令呪に逆らってストライカーは暴れる。
初期化したため令呪は3画あるが、今は1画だ。
「どうして令呪が効かないのかしら?」
「オマエは許さない!」
ステータスが明らかにキャスターよりしたに劣化しているはずなのに、キャスターすら近づけない覇気をまとっているのだ。
これが怒りから来るものならば、キャスターは自身の選択を悔いている。
「あれを殺しただけで、ここまで令呪に逆らえるのね」
ギロリという効果音と共にストライカーの瞳がキャスターを捉えた。
「ひっ」
息を飲むキャスター。
「コロス」
ぞっとする怨念の様な声で紡がれた言葉に、キャスターは完全に自分の選択を間違えたと悟った。
彼女は制御できない。
「まぁいいわ。今度洗脳してあげる」
笑いながら出ていくキャスターを他所に、ストライカーは暴れ続けた。
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