Fate/DreamFantom
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stay night
04Wahrer Name
教会の一角で、綺礼とギルガメッシュはワインを飲んでいた。
「綺礼、奴はどうだ?」
「夕璃か? やはり狂っているな」
実はあの会話を、ギルガメッシュの宝具を使って覗いていたのだ。
「ほぉ。狂っているか。どのようにだ?」
「生きることへの執着が全くない。死ぬことすら当然だと思っているな」
その言葉に対し、ギルガメッシュは怪訝な顔をする。
「生への執着がないだと? あの小僧も戯けたことを言うな」
一緒に見ていたのに態々聞いていたのは、会話に興味があまりなかったからだが大切なところや表情はしっかりとみていた。
「奴の顔は恋する顔だったな。恋とはつまり性への欲求だ。子供を作りたいと考えている癖に、生に執着がないなどありえん」
恋という言葉に綺礼が思い出したのは、クラウディアのことだった。
「しかしギルガメッシュ。あの女は、厄介だ」
「真名を名乗ったと言っていたな。名は?」
「ルー・アリシア」
その言葉にギルガメッシュの目が開かれ、同時に一瞬憎しみを浮かべる。
「太陽神ルーの孫であり、完全な直結の子孫だ」
だからこそ、ギルガメッシュはその神という存在を憎むあまりルーに対し憎しみを向けた。
「ルーの直結の子孫だからこそ、ルーを祀る村で三代目ルーとして崇められていた様だな。ただ異教徒粛清を言う名目で送り込まれた少年に殺された様だが。まぁ神のせいで人らしい生活を送ることができなかったらしい」
祀られるだけの存在であり、時には神になりたい愚か者に犯され、時に祭壇に飾りの様に供えられ。逃げ出さないように檻に閉じ込められて生涯を過ごした悲しき少女。
「小娘はいいだろう。奴も神の被害者なのだから」
ギルガメッシュはそう言うとワインを飲みほした。
「そろそろ動くのか、綺礼」
「あぁ。ではギルガメッシュ。頼んだぞ」
「戯け。我は我の為に動くのみだ」
こうして教会に存在する二人が動く。
結果的にこれがどうなるのかは、まだわからない。
夕璃は図書館にいた。
「はぁ」
ストライカーの過去。それはあまりにも悲惨な過去だった。
最高クラスの神格を持つ太陽神ルーの実の孫ということで、ルーを信仰する村で崇められていたというのはわかる。ただその子供を産ませようとして10歳の少女を犯すと言う行為や、何かある度にストライカーのせいにされ暴力を振る行為。もっと言えば逃げないように檻の中で暮らさせる。
「ふざけるな」
ビキリという音と共に机にヒビが入る。
あまりにも不条理であまりにも悲劇的な過去。
夕璃の怒りは頂点に達していた。
「マスター、落ち着く」
そのストライカーが慰めるのだから、怒りを鎮めるしかない。
ただ夕璃の心にはある感情が生まれていた。
殺意だ。
「ストライカーのことを考えると、中々落ち着けなくてね」
心のどこかでは既にストライカーのことが好きと認めている自分がいるのだが、それを言葉にすることはできなかった。
「優しい」
ストライカーは今、水色のワンピース姿となっている。
霊体化させるのを夕璃がやめたからだ。
ストライカーは生前檻の中で過ごしていたため世界というものを知らない。
だからこそ夕璃は世界を知ってもらおうと、霊体化させるのをやめているのだ。
「っ」
息を飲む声が聞こえて、夕璃が振り向くとそこには凛とその同盟者である衛宮士郎がいた。
「あんた、こんなところで何してるの? というか、サーヴァントを霊体化させないなんて馬鹿なの?」
嘲笑うかのように言う凛に対して、夕璃は怒りに染まった瞳を向けた。
「ストライカーのことを何も知らない人が、口を出すな」
今までのような畏まった話し方ではなく、完全な命令形の言葉に凛は押された。
士郎も思うところがあるのか、強気な姿勢になる。
「マスター、殺す?」
「いいよ。ストライカーはもう殺さなくていい。殺すじゃなくて勝つでいいんだ」
ストライカーの頭を撫でてから、夕璃は本を持って立ち上がる。
「もう話かけないでください」
「待ってくれ」
士郎の声に夕璃は立ち止まる。
「何ですか?」
「君は聖杯に何を望むんだ?」
その言葉に対して、夕璃は今までとは違う慈愛の表情に変化した。
「全てのサーヴァントがこの平和な世界で暮らせますように」
立ち去ろうとする夕璃に対し、士郎はその右手を掴んだ。
「どうしてその願いにしたんだ!? 俺は迷ってるんだ。セイバーの願いを叶えたいけど、自分の願いが決まってなくて」
「知らないですよ。というかセイバーって誰ですか?」
士郎に飲まれた夕璃は、そのまま話を聞くために士郎の家に連行された。
「士郎……誰ですか?」
「ストライカーのマスター。仞凪夕璃君だ」
その言葉にセイバーは剣を構えて夕璃を睨みつける。
「やめろセイバー。夕璃は俺と話すために来たんだ」
「訂正してください。話したくもなかったのに図書館にいた俺を引っ張ってきたに」
夕璃は完全に乗り気ではないのだが、ここで逃げ出せば二体のサーヴァントを相手にしなければならなくなる。
だから抵抗しないのだ。
「ではユーリと。貴方は聖杯に何を望むのです?」
「その話ばかり。自分が願いたいものを願えばいいじゃん。第一、聖杯って何? もしかしてあの泥?」
泥という言葉に、士郎とセイバーが反応した。
「泥って、十年前のあの?」
「話は聞いています。聖杯戦争の時ですね。ちなみに私が令呪を使われて破壊しました」
「もしかして士郎さんも泥を?」
「俺は親父のおかげで生き延びたんだ。確か」
話を聞いて夕璃は同じ境遇の人だと思ったが、その考えをやめた。
「あれが聖杯じゃないの? 破壊したら出てきたんでしょ?」
確かにと頷く二人に対し、夕璃は立ち上がった。
「士郎さん。勝負しよう。勝ったら士郎さんの質問に何でも答えてあげるよ。ストライカーのこと以外なら」
「いいぜ。お前が勝ったらセイバーのこと以外で質問に答えてやる」
靴を履いて外に出ると、凛とアーチャーが観戦しに来た。
「衛宮士郎。貴様に奴を倒すことができるか?」
「どういう意味だ? アーチャー」
皮肉気に言っているが、アーチャーは一度夕璃の戦闘を見ている。
「奴はサーヴァント並みに強いぞ?」
試合が始まると同時に血で槍を作成。
早々に切りかかった。
「なっ!?」
投影した剣で槍を防ぐが、夕璃は槍の形状を変えると一気に踏み込んだ。
槍は夕璃の拳を覆い、硬化した。
「せい!」
投影した剣を粉々に砕いてそのまま士郎を殴り飛ばす。
「夕璃! その魔術の使用、だめ!」
「少しなら大丈夫だよ」
ストライカーの言葉を全員が気にしながらも、夕璃は血を剣に変えて士郎に襲い掛かった。
「はぁ!」
士郎が夫婦剣を投影させると、夕璃は血を槍に戻した。
そして突撃していき、夫婦剣の一撃を左腕で止めた。
「なっ!?」
鮮血が迸り、夕璃の左腕が切断される。
ただし右腕にある槍は残っているのだ。
「俺の勝ち」
士郎の首に矛先を当てると、勝敗が決まる。
「お前腕を!?」
「これですか?」
両手を差し出すと、その場にいたストライカー以外の全員が驚愕する。
しかしストライカーだけは無言で夕璃に近づくと、槍の柄で夕璃の頭を殴った。
「っ~」
「使用禁止。もう二度と使っちゃダメ。封印しようか?」
ストライカーの言葉に対し、夕璃は無言で黙り込んだ。
「言ったはず。使えば、夢から戻れなくなる」
夢から戻れない。
だとしたらと考えた凛の頭に、ストライカーと同じ考えが生まれた。
「もしかして、いや。もしかしなくても夢が固有結界? それで怪我を夢に変換してるって言うの!?」
驚く凜に意味が分からない士郎は頭を傾げた。
「いい? 夢に変換してるってことは、それは全てを夢に変える能力と考えられるわ。全てを夢に変える能力を多用して出るように現実に現れやすくなれば、彼は夢の中に閉じ込められる。もっと悪ければ、彼自身の存在も夢に返還されてしまうのよ!?」
絶句する士郎は夕璃を見るが、夕璃は何も言わない。
「ユーリ! 貴方はそれでいいのですか!?」
「別に。自分が決めた道だよ? それを進んでるだけ。後悔はあるけど、戻りたいって思ったら自分が信じてきた正義がなくなっちゃう。それは自分だけじゃなくて、ストライカーを裏切るって結果になっちゃうから」
黙り込むセイバーを見かねた士郎が、口を開いた。
「夕璃、お前の信じる正義って何だ?」
「全ての人が互いに許せて、皆が笑顔の世界。別に一生笑っていられる世界を作りたいってわけじゃなくて、悲しい時は誰かが一緒に泣いてくれて、嬉しい時も誰かが一緒に喜んでくれる。そんな一人きりがいない世界を作りたいって思いが正義かな」
恥ずかしそうに言う夕璃だが、ただの正義の味方に憧れている士郎から見れば凄いことだった。
しっかりと自分の意思を決めて動いているということなのだから。
「俺は、正義の味方になりたいんだ」
その呟きを聞いたアーチャーが怪訝な顔をするが、それ以上に夕璃が苦笑していた。
「何だよ。子供っぽいとでも思ってるのか?」
だが違う。夕璃はそんなことでは笑わない。
「違うんです。正義の味方なんてなれるわけがない」
断言した夕璃に対してもアーチャーは怪訝な顔をした。
「正義の味方は確かに凄い夢です。でも、それはその時悪事をしていない人から見れば」
夕璃の顔は悲痛に歪んでいた。
「その時悪事をしていた人から見れば一方的な虐殺者。関係がないのに相手の言い分を聞かずに悪と決めつけ、殺していく魔の人物。小さい頃は悪の敵を倒す正義の味方に憧れましたけど、今では虐殺者にしか見えない。ただの虐殺者を好きになることなんて……できない」
黙り込む士郎に対し、夕璃は悲しそうな顔をした。
「それに、正義の味方がいつも助けてくれるなんてありえないんだよ」
はっとする士郎。
確かに士郎は正義の味方によって助けられた。
だが夕璃は違う。助けてもらうことなどなく、たった一人生き残ったということで蔑まれて生きてきたのだ。
そうたった一人で。
「俺は帰ります。もう話すこともないでしょう」
去ろうとしてあ、と止まった。
「聖杯戦争が終わったら、お茶会とかだったら大歓迎ですけど」
手を振って出ていった夕璃の後を、ストライカーがついていった。
「……虐殺者か」
「自分の決めた道を信じて進む……」
二人の男女が夕璃の言葉によって、少し報われた。
家に戻ると、金髪の男性が立っていた。
「誰ですか?」
「我に名乗らせるとは……まぁいい。今回は勧誘で来たのだ」
「勧……誘?」
怪訝な顔をする夕璃に対し、金髪の男性は不遜に笑っている。
「我の臣下に下れ」
ライダースーツは金色の鎧に代わり、その姿を見たストライカーが反応する。
「サーヴァント!?」
「その様な下種な存在ではない。既に受肉している」
完全に見下した態度。
恐ろしいほどに絶対的な自信を持つ男。
「我が名は英雄王ギルガメッシュ。貴様が下るべき王だ」
最強を冠する英雄が、夕璃の前に立ちふさがった。
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