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Fate/DreamFantom

作者:東雲ケイ
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03Entschädigung

 影の世界。
 それは夕璃の頭のどこかに存在する、黒夕璃が存在する空間。
 そこには黒と泥で構成されており、何故か存在する椅子の上に黒夕璃が座っていた。
「くくく」
 口から発せられた笑い声を聞けば、聞いた者は恐怖を覚えるだろう。
「魔術を使わせたが、中々いい力だったな」
 黒夕璃が行ったのは魔術の知識を夕璃に譲渡したことだけ。
 副作用については何もしていない。
「まずは一時間」
 気づいただろう。夕璃の固有結界には副作用が存在している。
 夢幻という名ばかりの能力ならばまだましだった。
 最強の固有結界にして最悪の固有結界は夕璃に牙をむく。
「奴が死ねば俺も死ぬ。奴に寿命がない代わりに、俺に寿命があるからな」
 だからこそ、夕璃は生き残ることができた。
 夕璃が受けた傷も、死も、固有結界によって夢幻に変化する。
 永遠に死なない永遠の命。
 寿命で簡単に死ぬ有限の命。
 相反する二つの存在を内包する夕璃は、どうしても破綻する。
 どれ程足掻こうと、どれ程考えようと変えられない絶対の決まり。
 それを知っている黒夕璃だからこそ、夕璃の味方をする。
「さぁ、戦争を始めよう」
 黒夕璃の手のひらから垂れた泥が、異様な音を立てる。
この世全ての悪(アンリ・マユ)がこの戦争を破滅に導いてやる」
 泥を飲み込んだ少年が存在することによって、物語は大きく変化する。



 放課後になり、夕璃は静かに考え込んでいた。
 今まで眠ったことがなかったのに寝てしまったことにではない。
「どうすれば聖杯戦争を止められるかなぁ……」
 人と人が殺しあうのは間違っている。
 だからこそ夕璃はその聖杯戦争が二度と起こらないように願っているのだ。
 だがそんなことが許される世界ではないことも、同時にわかっている。
「ん?」
 ふとした瞬間、それは起こった。
 近づいてはいけないと自分で分かるような程、不気味な雰囲気が辺りを包んでいたのだ。
「やっちゃえ、バーサーカー」
 後ろから聞こえた声と共に雄叫びが辺りに響き、2mを超す大男が現れた。
「っ!? いきなり!?」
 バーサーカーが振り回す斧剣をジャンプで避けると、ストライカーが現れて斧剣を槍先でずらした。
「ランサーじゃないようね。特殊なサーヴァント?」
「ストライカー。殺す」
 出てきたのは雪の妖精と思えるほど白い少女。
 夕璃はその中にある憎悪とも悲しみとも取れる感情を見抜いていた。
「君は……」
「マスター!」
 直後、バーサーカーの狙いが夕璃に変わる。
「血盾!」
 一瞬で指を切ってその血でバーサーカーの斧剣を防ぐ。
 しかし力があまりにも強すぎて盾ごと吹き飛ばされた。
 ボキボキという音と共に右腕が折れる。
「がはっ」
「バーサーカーの一撃を防ぐなんて、強いね」
 笑う少女を見て、夕璃は立ち上がり左手に血で槍を作り出した。
「ストライカー。倒せる?」
「よ、ゆー」
 ストライカーは突撃すると、ジャンプをしてバーサーカーの背後を狙った。
天駆ける神槍(ウラヌス・ブリューナク)!」
 投げられた一本の槍をバーサーカーは軽々と避けるが、地面に当たった『天駆ける神槍』はバーサーカーの方向へ槍先を変えて貫いた。
「必中の槍!?」
 驚く少女に対し、ストライカーは既に動き出していた。
黒炎司る死聖槍(メラヌ・ブリューナク)!」
 もう一本の槍で攻撃するが、バーサーカーを貫くことはできなかった。
「なっ!?」
「バーサーカー!」
 振り向いたバーサーカーがストライカーを掴み、地面に打ち付けた。
 更に斧剣を振り回し、落ちたストライカーに打ち付け粉塵が舞う。
「ストライカー!?」
「あははは! お兄ちゃんの負けだね」
 笑いながら言う少女に対し、夕璃は力を込めた。
「人を殺して、何が楽しいんだ!」
 槍を構えて突撃すると、バーサーカーが振り向いて夕璃に斧剣を振った。
 だが夕璃はその斧剣に乗ると、勢いに身を任せて少女を狙った。
「っ!?」
 しかし槍は少女にあたることはなく、バーサーカーに右足を掴まれていた。
「しゃーねーか」
 雰囲気が変わった夕璃に、少女とバーサーカーはぞっとした。
「そら!」
 槍で自分の右足を切り裂いた夕璃は地面に()()で着地すると、少女を睨みつけた。
「令呪を持って命ずる。ストライカー、自身の傷を回復せよ」
 途端に倒れていたストライカーの傷が癒え、立ち上がった。
「だ、れ?」
「俺は黒夕璃って言えばいいのか? ともかく俺は夕璃だ」
 黒夕璃はそれからバーサーカーを見た。
「おーおー。こいつはヘラクレスか? だとしたらつえーよなぁ」
 にやりと笑った黒夕璃は、一瞬にしてバーサーカーの目の前まで移動していた。
「はっはー!」
 殴ると同時にバーサーカーの巨体が吹き飛び、道路を抉った。
「さて、一発借りを返したし戻るか」
 雰囲気が変わると、夕璃は倒れこんだ。
「……今日はもういいわ。行こう、バーサーカー」
 バーサーカーと共に去って行く少女を見ながら、ストライカーは夕璃を背負った。
「ごめん」
「気に、しない」
 ストライカーと共に家に戻ると、何故か体の怪我は修復されていた。
(どういう、こと?)
 黒夕璃といい、夕璃は異常すぎる。
(体の怪我の修復。宝具の具現化。人の領域じゃない)
 サーヴァントの様だが、夕璃からそんな反応は全くない。
「固有結界?」
 そうすれば大体の辻褄が合う。
 だがそれには可笑しいものがあった。
「効果が、一つじゃない」
 第四次のライダーは、部下をサーヴァントとして召喚できた。
 衛宮士郎は、宝具を無限に内蔵し投影していた。
 ならば夕璃は何なのか。
 血。雷。回復。
「悪夢を、見る?」
 ストライカーが夕璃から聞いた言葉。悪夢を見ていたという言葉。
「悪夢を具現化?」
 しかしそれではおかしい。宝具を作ることなどできない。
 ただ思いつくふしがあった。
「夢が、固有結界?」
 夢が固有結界ならば、夢から血を、雷を。そして怪我を夢に変換することもできるかもしれない。
 だがそれは可能なのか。
 夢自体が固有結界だとすれば、夢から起きれないのではないだろ――。
「予兆が、あった!」
 居眠りしていたことに夕璃はとてつもなく疑問を抱いていた。
 今まで寝たことがなかったのにと。
 それも能力を初めて使用したと思われる、ランサーと戦った後に。
 更に今も眠っているのだ。
「使うと、夢に入る?」
 それはつまり、使いすぎれば起きることがなくなるということ。
 夢に閉じ込められる。
「あ」
 能力を使わせてはいけない。
 まだ仮定の段階だが、ストライカーはそう確信した。
「どうしよう」
 このままでは夕璃が死ぬ可能性もなくはない。
 聖杯戦争を続ければ夕璃は早くに夢に閉じ込められてしまうだろう。
 ふと、現状を考えて止まった。
「なんで、閉じ込められてほしくないの?」
 夕璃が閉じ込められた場合、確かにマスターとしては機能するが眠っているから邪魔になるだろう。
 だが眠っているならば護衛もしやすく、狙われるとしても狙われにくいところにいればいいだけの話。
 邪魔をされることもなく、精一杯戦って聖杯を手に入れることができる。
「わから、ない」
 ストライカーは考え込んだ。
 自らの頬を少し赤く染めているとも知らずに。



 目を開いた夕璃がまず考えたことは、今何時だろうだ。
 時計を探してから時間を見ると、3時30分。
 しかも目は完全に冴えている。
「あー。変な時間に起きちゃったな」
 外の風を浴びようとベランダに出ると、そこには月光に照らされているストライカーの姿があった。
 その姿に夕璃は目を奪われる。
 キラキラとストライカーの蒼い髪が靡き、まるで宝石の様に光り輝いている。
 更に月光だけしかないというのに、まるでそこだけは聖地の様に明るい。
 錯覚だとわかっていても、見入ってしまう光景だった。
「起きた?」
 夕璃に気付いたストライカーが屋根からベランダに飛び移ろうとしたのを夕璃が止め、逆に夕璃が屋根の上に乗った。
「マスターはもう魔術を使っちゃダメ」
 悩んだ結果、ストライカーは伝えることにした。
「何で?」
「あの魔術を使いすぎると、マスターは永遠に夢から出られなくなる」
 驚く夕璃は口を開けて呆けている。
「マスターに、死んでほしくない」
 ストライカーの口から紡がれた言葉に、夕璃は息を飲んだ。
「そんなことか」
 だが次に驚くとなったのは、ストライカーの方だった。
「そんな、こと?」
「俺が死ぬなんて些細なこと、ストライカーは気にしちゃだめだよ」
 些細なことと、夕璃は平然と言ったのだ。
「ストライカーも叶えたい願いがあるんでしょ? だったらストライカーはそれだけ追いかけていればいいよ。俺はそれを出来る限りバックアップするから」
 ようやくストライカーは完全に知った。
 夕璃の歪さに。
「マスター、本気で言ってる?」
「俺の命一つで沢山の人が救われるなら、俺はそれでいい。俺の命なんて元々無価値みたいなものだから、失ったところでどう考えても影響はないし」
 自分の命を卑下しているというレベルではない。
 本当に無価値。存在してもしなくてもいいものだと思っている。
「マスターは、狂ってる」
「狂っててもいいよ。俺はそれで人が救えるならいい。悪事を犯した人も、結局はそうしなければならない理由があったんだ。それなら俺はそれを許す。だって可哀そうでしょ?」
 完全に逝かれた考えを持っている夕璃に、ストライカーは悲しみしか浮かばなかった。
「無価値じゃ、ない」
「だって親が死んだ時に一緒に乗っていたのに俺だけ生き残って、保護者となった人にも見捨てられた俺だよ? 何の価値があるのさ」
 人生にあったことで既にそう判断してしまっているのだ。
 夕璃を救うことは、ストライカーですらできるかわからないほどに。
「こんな話はお終いにしようストライカー。それよりも、今日は星がきれいだね」
 自身の命の話を星の話以下と考えるほど、夕璃は歪なのだから。
「マスターは、ダメ人間」
「いきなり酷いなぁ」
 ストライカーは立ち上がると、夕璃の頭をぺしっと叩いた。
「でも、大切」
 頬を染めて言った言葉に、夕璃は完全に思考を停止した。
「この感情、わからない。でもわかる。大切」
 ストライカーは初めて、感情というものを見せた。
「だから、死んじゃダメ」
 それに対して夕璃は、考え込んだ。
「できるだけ死なない様には対処してみるよ」
 できるだけというところに夕璃らしさがあるが、夕璃もストライカーに対して思うことはある。
 勿論恋愛感情を。
「私の名前。教える」
 堂々とした態度で口を開いたストライカー。
 その真名を知り、夕璃は絶句した。
「驚いた?」
「うん。だって、あの■■・■■■■でしょ? 俺も知ってるよ」
 あり得ないほど強いはずのストライカーのことを聞き、夕璃は聖杯戦争で召喚できるレベルだったのか考え込んでしまった。
「一応ストライカーって呼ぶね。ストライカー、聖杯に託す願いを教えて」
「受肉すること」
 たった13歳で死んでしまったストライカーにとっては、女の子として生きるということしか叶わなかったのだろう。
 いや、周りの状況がそれを許さなかったのか。
「ストライカー、必ず聖杯を取ろうね。できれば二人で願えばいいよ」
「わかった」
 二人が話す最後に、流れ星が落ちた。
 
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