【SAO】デスゲーム化したと思ったらTSバグに巻き込まれた件
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❶
白い光が消えて視界が元に戻ると、目の前のクラインの顔がガラリと変わっていた。
板金を繋ぎ合わせた鎧や、悪趣味なバンダナ、つんつんと逆立った赤い髪は元のままだが、その顔だけが似ても似つかぬ容貌へと変化している。
切れ長だった目元はぎょろりとした金壺眼に。 細く通った鼻梁は長い鷲鼻に。 そして頬と顎には、むさ苦しい無精ひげが浮いている。
元のアバターが涼やかな若侍だとすれば、今の容姿は差し詰め野武士――あるいは山賊だ。
キリトは、突然現れたクラインとの共通点が多い謎の男を前に、呆然と呟きざるを得なかった。
「お前……誰?」
しかし、男はキリトの言葉が聞こえていないらしく、頬を赤く染め、口をパクパクさせながらキリトを凝視し、その挙句、ようやく絞り出された言葉はキリトの問いに答える内容では無かった。
「おめぇ……いや、君、あなた、は……ど、どちら様……?」
野武士男の異様な態度に嫌な予感がして、慌てて手鏡を確認する。 そこには、苦心して作り上げた勇者顔では無く、妹と一緒にいると未だに姉妹と間違われることがある程の柔弱な女顔が映し出されていた。 そう、手鏡に映し出されたのはキリトにとって忌避してやまない現実世界の生身の容姿そのものだ。
「うおっ…………俺じゃん……」
慌てた様子で手鏡を確認するキリトに釣られ、同じく手鏡を覗き込んだ野武士男が驚いたように仰け反った。
キリトと野武士男は改めてお互いの顔を見合わせ、同時に叫んだ。
「お前がクラインか!?」「おめぇ、キリトか!?」
どちらの声もボイスエフェクタが停止したらしくトーンが変化していたが、そんなことを気にする余裕がなくなる言葉をクラインが続けた。
「おまっ……女だったのか……!」
「はぁ!?」
キリトの性別は正真正銘男である。 しかし、この忌むべき女顔のせいで過去数えきれないくらい女と間違えられてきた。
またか……と、片手で額を抑え、ため息をついたあと、「あのな」と誤解を解くべく切り出す。
「俺は正真正銘男だ!」
「は? ……いや、女だろ」
男だと言っても信じない奴も過去に少数ながらいた。 そういう奴は大抵キリトに本気で惚れてしまって男だという現実を受け入れられい奴だ。
まさか……と、嫌な予感に今度は両手で頭を抱える。 友達になれるかと思ったのに。
「……体格を見ればわかるだろ。 生まれつき女顔で勘違いされがちだったけど、性別は男だよ」
「体格見たって――まさか、本気で言ってんのか……?」
本気で訝しむクラインの言葉に不審を感じ、視線を下げて自分の身体を確認する。
そこには――
「な、なんじゃこりゃーー!?」
――慎ましやかながらも決して貧相では無い程度に膨らんだ胸。 しなやかにくびれた腰。
胸に恐る恐る触れると、見た目を裏切らずその感触はふにふにと柔らかい。 続いて下腹部にパンッと手を当ててみたが、感触はストン。 何もない。
どこからどう見ても完全に女です。 本当にありがとうございました――なんてフレーズがキリトの頭を過り、思考が停止する。
「おい、キリト? 大丈夫か?」
クラインに肩をポンッと叩かれ我に返ったキリトはガバッとクラインに掴み掛らんばかりの勢いで詰め寄った。
「違う! 違うぞクライン! 俺は本当に男なんだ! バグだバグ! GM――そうだ、GMに言えばきっと修正が入るはず……GMコールすれば……!」
「じ、GMなら上に――」
「そうだった!」
キリトはクライン混乱する頭でGMコールをしようとメニューを開いていると、頬を赤らめ目を逸らしていたクラインに指摘され上を向く。
何やらうだうだと話を続けていたらしいGMこと茅場晶彦に向けてキリトは喉も張り裂けよとばかりの大絶叫でクレームを入れる。
「茅場ぁあああ! このふざけたバグを今すぐ何とかしやが――!」
『――健闘を祈る』
「健闘を祈るじゃねぇよ! あ、ちょ、馬鹿っ消えるなぁあああ!!」
キリトにとっては不幸なことに、ちょうど茅場の話が終わったところらしく、まるで自分に向けられた嫌味のような言葉を最後に真紅のフードが赤い空に溶け込むように消え、それと共にに血のように赤かった空が青く澄み渡っていく。
NPCの演奏によるはじまりの街のBGMが遠くから徐々に近づいてきて、穏やかに聴覚を揺らした。
後書き
この小説はBLでは無いので、クラインとどうこうなることはありません。
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