【SAO】デスゲーム化したと思ったらTSバグに巻き込まれた件
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《Avant-story》
前書き
物語が始まるのは次話から。
2022年、世界初のVRマシンを用いたMMORPG《ソードアート・オンライン》通称SAOの正式サービスが開始された。
VRマシンの第二世代機である《ナーヴギア》。 このハードは内側に埋め込まれた無数の信号素子で発生させた多重電界でユーザーの脳を直接接続し、感覚器官を介さずに脳に直接仮想の五感情報を与えて仮想空間を生成することができる夢の技術が搭載されたマシンだ。
その技術によって成立する世界初の仮想大規模空間オンラインロールプレイングゲーム――すなわちVRMMORPGであるSAOは、仮想空間を舞台とした限りなく現実に近い環境下にて生み出される圧倒的な臨場感によって既存のあらゆるゲームを過去の物とし、世のゲーマー達にとって正に究極のRPGを体現した。
そして今日――2022年11月6日、日曜日。
満を持して《ソードアート・オンライン》正式サービスが開始され、約1万人のユーザーが完全なる仮想空間を謳歌していた。
桐ケ谷和人もその一人だ。
生まれて間もなく一家で事故に遭い両親を失った彼は、母の妹夫婦である桐ヶ谷家の養子となった。 わが子同然の愛情を受けて育った彼であったが、10歳の時に自身の生い立ちを偶然知って以来、自分と他者との距離感が狂い出し、人付き合いが苦手な少年へと成長する。
いつしか仮想世界に安寧を求めるようになった彼は、βテスターとしてこのゲームを二か月先行体験し、その二か月ですっかりSAOに魅了されていた。 当然、今日はサービスが始まる30分前から待機し、一秒も遅れることなくゲームにログインした。
キャラクターネームは《Kirito》。 桐ケ谷の『桐』と、和人の『人』をとって『キリト』。 安直である。
ログインしてすぐにクラインというプレイヤーに話しかけられる。
涼し気な侍風のアバターを持つ彼は、ログインしてすぐに駆け出したキリトの迷いの無い動きから、キリトがβテスターであると看破し、技術指導を頼み込んできたのだ。
人の懐に自然と入り込んでくるような魅力を持ったクラインとパーティを組み、人付き合いが苦手な自分でも彼となら友達になれるかもしれないと胸をときめかせつつ、ゲームを楽しんでいたキリトであったが、その楽しみは長くは続かなかった。
夕食のためにログアウトしようとしたクラインがログアウト出来なくなっていることに気づく。
最初はサービス開始初日ということでこういうこともあるだろうと考えていたが、いつまでたっても運営からのアナウンスが無いことや、ログインする手段が存在しないという事実に、少しずつ焦燥が募り始める。
――リンゴーン……リンゴーン……
不意に、大音量で響き渡る鐘の音がキリトとクラインの耳を打った。
その直後、青い光が二人を包み《はじまりの街》の中央広場に強制転移される。 はじまりの街には二人以外の多くの人々――どう見ても数千、一万人以上の人がいる――おそらく、全ユーザーが強制的に転移させられており、混乱の様相を表していた。
そんな人々の上空――本来ならば真っ青なすがすがしい蒼穹の青空が広がるはずの空が、一瞬にして血のような赤に染まる。 そして、不快な赤に染まった空から真紅のローブが出現し、プレイヤー達が唖然と見上げる中翻された。
そのローブは見慣れたGMの着用するローブであったが、普段ならばローブの中に収まっているはずの顔が無く空虚であり、その間隙が無性に不安を感じさせる。
そのGMは己をゲームマスターにしてSAO開発者である天才プログラマー、茅場晶彦であると名乗り、プレイヤーたちに非情な宣言をする。
すなわち、SAOからの自発的ログアウトは不可能であること、SAOの舞台《浮遊城アインクラッド》の最上部第100層のボスを倒してゲームをクリアすることだけがこの世界から脱出する唯一の方法であること、そしてこの世界で死亡した場合は、現実世界のプレイヤー自身が本当に死亡するということを――。
GMに向け、非難と罵倒、悲鳴が飛び交う中、茅場は『これはゲームであっても遊びでは無い』と宣言し、『現実であることを証明しよう』と一つのアイテムを人々に配布する。
それは、一つの小さな手鏡であった。
キリトは、何故、こんな物を? と疑問に思いつつも恐る恐る鏡を覗き込むと、突如白い光に包まれ視界がホワイトアウトする。
そして、光が消え視界がもとに戻った時――彼にとっての地獄が始まるのだった。
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