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久遠の神話

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第八十七話 スフィンクスの問い掛けその一

                    久遠の神話
                第八十七話  スフィンクスの問い掛け
 権藤は見事当選した、上城はテレビでその当選のことを速報で聞いた、彼はこの時代自宅のリビングで夕食を食べていた。
 その中でその速報のテロップを見てだ、こう言った。
「やっぱり当選したんだ」
「それはな、もう一人の候補があれじゃあな」
「通らない筈がないわ」
 両親はこう息子に言った、それも二人で。
「ヤクザと付き合いがあって同じ事務所のタレントやスタッフへの暴行や恐喝の話が次から次に出てだったからな」
「それじゃあね」
「通る筈がないな」
「タレント候補でもね」
 そうならない筈がないというのだ。
「まして権藤さんは言ってることは確かだからな」
「選挙活動も真面目な感じだったし」
「下手なタレント候補よりずっといいだろ」
「スキャンダルだらけで政策なんかない人よりはね」
「そうだね、だからだね」
 上城は夕食を食べつつ両親の言葉に応える。夕食は秋刀魚の焼き魚と葱と若布の味噌汁に菊菜のいたし、そして漬物と海苔だ。
 その海苔を御飯の上に乗せながらだ、こう言ったのである。
「権藤さんが通ったんだね」
「それにしてもあんな人間をよく候補に出したな」
「そうね、野党の方もね」
 ここで両親はこう話した。
「政策もなければ素行も悪い人間をな」
「ただ有名ってだけで」
「タレント候補なんか出してもな」
「その候補によるわね」
「本当にな、あんなのだから野党になったんだな」
「そうなったのね」
 二人で一方のタレント候補だった男とその男を擁立した野党についても話した。
「与党になったのも何かの間違いでな」
「すぐに野党になったのもね」
「当然だな」
「これじゃあもっと落ちるわね」
「政治のことはよくわからないけれど」
 上城はまだ若い、政治のこともじっくり学んだことはない。テレビや新聞で出ていることを目や耳にしているだけだ。
 だからだ、両親にこう前置きしてから問うたのだった。
「今の野党は駄目なんだ」
「ああ、駄目だ」
「もう全然ね」
 両親は我が子の問いに顔を顰めさせて返した、それも即座に。
「あれじゃあな」
「どうしようもないわ」
「あれだけ馬鹿な人間ばかりいたらな」
「誰も支持しないわ」
「けれど一回政権に就いたよね」
 このことについて問うのだった、今度は。
「それはどうしてかな」
「選挙ってのは間違いこともあるんだ」
「投票する方もね」
「まあお父さんは最初から入れなかったがな」
「お母さんもね」
 二人は最初から票を入れなかったというのだ。
「そんな何でもかんでもあっという間によくなる筈がないからな」
「あの人達が言っていたみたいに」
 野党は政権に就く前の選挙では自分達が政権に就けばまさに薔薇色の未来がはじまると喧伝していた、マスコミもそれを大々的に喧伝した。
 しかしだ、両親はその誇大妄想狂のごとき喧伝をだというのだ。
「そんな何でもかんでもよくなるものだ」
「それも急にね」
「そんなことを普通に言う奴は詐欺師だ」
「お父さんもお母さんもそう思ったからなのよ」
「あの政党には最初から票を入れなかった」
「そうしたのよ」
「ううん、全部が急によくなるってことはないんだ」
 このことをだ、上城は噛み締めながら述べた。
「そうなんだね」
「そうだぞ、よく覚えておけよ」
「そんなことは有り得ないのよ」
 あらゆることが一変してよくなることはというのだ。 
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