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久遠の神話

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第八十六話 運という実力その十四

「あの女神様にとってはいいことじゃないな」
「セレネー女神としてはか」
「あの女神様は戦いから俺達の力を集めて恋人に注ぎ込んでるからな」
「永遠の命を授ける為にな」
「眠らせたうえで」
「神話にある通りだ」
 エンディミオンの話だ、セレネーは恋人であるエンディミオンが老いて死んでいく人間だからこそ眠らせ老いて死なない様にしているのだ。
 そしてそれがだ、神話にある通りなのだ。
「しかしそれと共にだ」
「恋人を自分と同じ神様にしてな」
「共に生きたいのだ」
「だから俺達を戦わせてきたんだな」
「神話の頃からな。そうしていた」
「気持ちはわかるんだがな」
 セレネーの恋人を想う気持ちはだ、中田はその感情は理解出来るとした。
 だが、だ。その行動はどうかというと。
「戦わされる方はな」
「あまりいいものではないな」
「利用されてるってことだしな」
「神話の頃からな」
「それこそ何十代、いや百代は超えてるか」
 中田の言葉はここで果てしなく長いものになった。
「その時の悪事で今も戦わされてるってのはな」
「いい気分はしないものだ」
「何度も言うけれど俺は戦いは嫌いなんだよ」
 このことは強く言う中田だった、軽い口調ではあっても。
「俺の家族のことは別に女神様が何かをした訳じゃないみたいだけれどな」
「そのことはな」
「悪い女神様じゃないからな」
「ギリシア神話ではよくあることだがな」
「ああ、神様が相手の家族を殺したりすることはな」
「いい意味でも悪い意味でも人間的だ」
 それがギリシアの神々だ。
「その思考と行動はな」
「本当に人間的な神様達だよな」
「ある意味人間以上にな」
 人間的だとだ、権藤は言った。
「そうした神々だがな」
「セレネーさんはそうした女神様じゃないか」
「君はご家族のことがなくとも戦う運命にあった」
「何かしらの理由でな」
「しかしだ、君のご家族のことはだ」
「あの女神様じゃないな」
「偶然の事故だ」
 それに過ぎないというのだ。
「しかしその事故がだ」
「俺を戦わせているな」
「セレネー女神が仕向けたことではない」
「けれど利用はしてるんだよな」
「そうなるな」
「そのこともいい気はしていないんだよ」
 権藤は笑顔だが口調はやや厳しいものだった。
「実際な」
「そうか」
「ああ、そうだよ」
 こう権藤に話す。
「だから戦いから降りられそうでな」
「有り難いか」
「清々するな」
 こう考えているというのだ。
「切った張ったの性格じゃなくなってな」
「なら降りるといい」
「家族さえ何とかなったらな」
 まさにそうするとだ、中田は権藤に話す。そのうえで間も無く戦いから降りる剣士として戦いから降りた剣士にこう言った。
「それじゃあな」
「今日はこれでか」
「ああ、帰るな」
 そうするというのだ。
「今から大学に行くよ」
「講義があるのか」
「あまり好きな講義じゃないけれど出ないとな」
 今からはじまる講義はとだ、だがそれでもだというのだ。
「けれど出てな」
「そうしてだな」
「単位は取るさ」
 このことは忘れないというのだ。
「ちゃんとな」
「真面目と言うべきか」
「一応講義には出る主義なんだよ」
 この考えから取る行動だというのだ。
「だからな」
「今から大学に行くのか」
「そうするさ、八条大学な」
「懐かしいな、母校だ」
「へえ、先輩だったのかよ」
「そうなるな。とはいっても八条グループの人間ではないが」
 それでもだというのだ。
「あの大学が私の母校だ」
「いい大学だよ、雰囲気もいいし綺麗でな」
「設備も揃っている」
「あそこにいて不便はないさ」
 何をするにもというのだ。
「そうした意味でもいい大学だよ」
「全くだな」
「あんたにも学生時代ってあるんだな」
「当然だ」
 権藤もそれまで生きてきた、それなら当然のことである。
「私もそれなりに楽しい学生時代を過ごしてきた」
「あまりそうは見えないところもあるがね」
「私の喋り方からか」
「堅苦しいからな、どうも」
「当然だ、私は経営者だ」
「今の仕事をする様になってか」
「喋り方が変わった、責任のある立場になったからな」
 だからだというのだ。
「もっとも一人称は高校、いや中学の頃からだ」
「私だったのかよ」
「この呼び方が好きだ」
 私という一人称がというのだ。
「気品があってな」
「俺はそういう几帳面な感じの喋り方は好きじゃないんだがね」
「君はそうか」
「ああ、俺はな」
 そこは違うというのだ、中田と権藤は。
 そのことを話してだ、権藤に対してあらためて言うのだった。
「まああんたはあんただな」
「何時でもこの一人称で通している」
「そういうことなんだな」
「そうだ、では次に君と会う時はだ」
 その時はというと。権藤は中田に顔を向けて言う。
「君も剣士でなくなっていることを祈る」
「俺もそうありたいね」
「君のご家族が目を覚ましたうえでな」
「それは絶対だな」
「そうなることはな」
 こう話してだった、二人で。
 中田は今は権藤の前から去った、そのうえで今は戦う。外に出て怪物達と戦うのだった、今はまだ剣士だからこそ。


第八十六話   完


                            2013・10・23 
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