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えすえふ(仮)

作者:えすえふ
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第一話

 
前書き
2人目です。小説という物自体初挑戦ですが頑張っていきます。
拙い文ですが、どうぞお楽しみください。 

 
俺の日常の崩壊から2日……

「よお。どうしたんだ?朝っぱらから」

登校しクラスの最前列にある自分の机で突っ伏していた俺に声がかかる。
顔を上げるとそこにはクラスメイトの影島幹也(かげしまみきや)がいた。

「徹夜で撮り溜めてたアニメでもみてたか?」

小学校からの腐れ縁でずっとクラスも同じ。俺より少し背が高く、髪は茶色がかっている。
そして俺をアニメやゲーム、いわゆる2次元への世界へ引っ張り込んだ張本人でもある。

「……まあそんなとこ」

「今期のアニメはアタリが多いからなあ。消費しておきたい気持ちもわかる」

2次元への世界に連れ込んだことに関しては、なんの文句もない。
いろんなアニメを見ることや、多くの個性的なゲームを知ることができたことに感謝すらしている。しかし……

「イチオシはやっぱ○○○かな。あの小学生の妹がカワイイのなんのって……」

でた。コイツの一番の欠点はロリコンだということだ。まだ高校生だというのに小学校低学年に鼻の下を伸ばしている。
下校中に幼稚園帰りの児童を凝視していた時は、本気で警察に駆け込みそうになった。

「……との絡みがもう……おい聞いてんのかよ冬二!」

ガララッ。と教室の戸が開き、担任の教師が入ってきた。話の続きは後でなと、幹也は自分の席へと戻っていく。
生憎だが今はアニメやゲームの話はどうでもいい。

「あ~これからホームルームを始めるがその前に連絡がある」

というより今、そういった話が頭に入らないのだ。

「突然だがこのクラスに転校生が来た」

なぜなら

「入りなさい」

結城春香(ゆうきはるか)です。よろしく!」

……俺の非日常が目の前にいるからだ。






話は2日前に戻る


「……よろしくって……」

「ん?君の家にお世話になるのだから、よろしくで合ってるだろ?」

満面の笑みでとんでもないことを言い出した。何?お世話になる?
混乱している頭をなんとか落ち着かせ、ぶっ飛んだ発言の意味を確認する。

「……なんでうちの世話になるんだ?」

「さっきも話したが私は宇宙犯罪者確保のために地球に来た」

確かにそう言った

「しかし私は今まで地球に来たことがない。ある程度の常識は学習済みだが知識と実践は違うものだ」

フムフム

「だからお世話になる」

「待て待て待て待て」

いかん。発言だけじゃなく頭までぶっ飛んでる。思考の段階をスキップで飛び越してきた。

「いや、実践するなら何もうちじゃなくても……」

「地球人と接触したのはこれが初めてなんだ。なら初めてあった人に協力を依頼したほうが馴染みやすいだろ?」

「馴染みやすいかもしれないけどさ……」

独自の理論を展開する彼女に対して突っ込んだことを言えない俺だったが、ふと気がつくと外がざわざわと騒いでいたことに気づいた。

「なんだなんだ?」 「ひでえなこりゃ。隕石か?」

どうやら自分の家から発された爆音や惨状に気づいた近所の人が野次馬に集まってきたようだ。

「そもそもだ!家がこんなことになったんだから人なんてもう住めないよ!それに近所になんて説明すれば……」

不可思議な少女に気を取られて気づいていなかったが、現実的に見ればこれはとんだ大事件だ。
家は半壊、原因は少女の落下、こんなこと近所にどう説明すればいいかと焦っていたが、

「そうだ!まずは迷惑をかけたお詫びをしなければ!」

「お詫びなんて何すんだよ!そのお詫びでこの壊れた家がなんとかなるのかよ!」

もう大汗を流しながらいろんなことが頭をよぎった。先祖代々の家のこと、ここで暮らした家族のこと、
遊んだゲームやパソコンのデータのことなど、こんなことどうにもならないとぐるぐるの頭で彼女に叫んだが、帰ってきた答えは意外なものだった。

「なるぞ」

え?と振り向くと彼女はどこから取り出したのか、何やら右手に小さな銀色の道具を持っていた。
そしてその道具を持った手で俺の左手を取り、ふたりの手のひらを合わせ、道具を包み込んだあと、お互いの指が重なり合うように握り締めた。

「このまま強く念じるんだ。家が元どうりになりますようにって」

「い、いったいなにを……」

「いいから、これはそうゆう道具だ、さあ」

彼女の手は小さかったがとても暖かく、さあと言ってくれた彼女の微笑みは柔らかくて、心が安らいだ。
この道具がなんなのかはさっぱりわからなかったが、彼女の笑顔に落ち着かされ、ゆっくり目を閉じ、祈った。
昔から今までずっと自分たちを守ってくれたこの家を、数々の名作ゲームをプレイしたこの家を、
アニメで大笑いしたこの家を、そして……



家族との大切な思い出のあるこの家が……元どうりになりますように。



再び目を開けるとそこには自分と同じように目をつむり、祈っているのであろう彼女、そして大穴がなくなり、床や家具が元通りになった、
以前のままの家だった。

「こんな……嘘だろ……」

その言葉を聞いて目を開けた彼女がにこやかな笑顔、そして空いている左手の親指を立てて言った。

「よっし!大成功!」

俺があっけにとられていると、彼女は握った手を離し、その道具を自分の両手で包み込んだ。
すると今度はその道具が、ホイッスルの形になり、彼女の手から出てきた。

「あとは外の人たちだな。私が戻ってくるまでずっと耳をふさいでいるんだ。」

「どうゆうことだ?」

「記憶がなくなってしまうぞ」

「え゛」

そう言うと、彼女は耳栓をして元に戻った玄関から野次馬達の前まで出て行った。

「どうなってんだ!?」「家がひとりでに……」「何だあの娘」「うわスゲエ格好」「も、萌えーーーっ!萌えーーーーーッ!」

なんか一人危ない奴がいるなと思いつつ、俺は両手で耳を思い切りふさいだ。
耳を塞ぎつつ、玄関から彼女の様子を覗き見ていると、彼女はその場でホイッスルを吹き始めた。
俺はホイッスルの音は聞こえないせいかなんともないが、外にいる人たちは、どんどん目が虚ろになっていく。
彼女がホイッスルを吹き終わり、俺が耳をふさいでいた手をどかすと、外で騒いでいた人たちは、

「あれ?ここは一体……」「いつの間に外に出ていたんだ?」「早く帰ってアニメの続きを……」

ここで起こった騒ぎのことを忘れているようで、それぞれの家に帰っていった。
彼女が家に戻り、俺にこれで大丈夫だと言うと、一体野次馬たちに何をしたのか問いただした。

「今のは一体……それにそのホイッスルはさっきまで別の形を……」

「わかっている。これから共に暮らすのだしちゃんと話すさ」

家に戻ろうと背を向けた彼女は、はっと思い出したようにこちらを向き、大成功と笑い、親指を立てた。






「なるほど、これが緑茶か。この葉っぱの香りがなんとも……」

とりあえず落ち着いて話すために、自分の部屋に座らせ、お茶を出すことにした。
改めて彼女を見ると、やっぱり美しい。体は小さくても、お茶をすする姿はとても凛々しかった。
このままずっと眺めるわけにも行かず、まだ名前も知らない少女に話しかける。

「それで、あの、えっと」

「ああ、まだ名乗っていなかったな、私のことは春香と呼んでくれ」

「春香?」

「そう、地球で活動するためにつけた、いわばコードネームだ」

「そ、そうか。あ、俺は冬二。結城冬二だ。」

お互いに自己紹介を済ませ、気になっていたさっきの道具の話題に入る。

「それでえーっと、さっきの道具の話だけど」

「ああ、あれは今ここにある」

そう言って彼女……春香が髪を上げ、右耳を見せると、耳に銀色のイヤリングがあった。
どうやらあのイヤリングがさっきの道具であり、ホイッスルでもあるようだ。

「これはいろんな形になる。手のひらに収まる大きさ限定だが」

「それは…宇宙警察の道具なのか?」

「いや、母の形見だ」

形見、そう言った春香の表情が少し暗くなり、俯いたが、すぐに明るくなる。

「持ち主の清く正しい願いに反応し、形を変え、願いどおりの効果を発揮する。大きな願いなら、その願いも強いものでなくてはならない」

「じゃあ、さっき家が治ったのは」

「君……冬二の願いが強く、正しいものだったからだろうな。あと二人が一緒に祈ったというのも大きい」

「春香もあの時、家を直して欲しいと?」

「んー少し違う。」

そう言って、春香は手を重ね、目を閉じ、祈るポーズをとると、

「前にいる、この人の願いが叶いますように。そう祈った」

「……そうか」

しばらく二人の間に沈黙が続いた。そのうち春香の方から口を開いた。

「その……嫌なら別にかまわない」

「……ん?」

「私がここに住むのが嫌なら私も無理に押し入る気はない。元々誰にも正体を明かさない隠密の任務だった。だから……」

では何故出会い頭に自分の正体を明かしたのか、という疑問が頭をよぎったが、それは無視して自分の思いを今にも泣き出しそうな顔の彼女に伝える。

「……いいよ」

「…え」

「正直、最初は何言ってるのかわからなかったし、家も壊れて、なんだこいつとも思った。でも家は直ったし、不思議な道具も見せてもらったから宇宙から来たってのは信じる。」

「………」

「それに地球には初めて来たんだろ?こんな知り合いも誰もいない所にほっぽり出す訳にもいかないからな。」

「……………」



まあ理由はそれだけじゃないけどこれは言わないでおこう。




「というわけで、よろしく」

「……………………」

……あれ?

「……………………………あ」

あ?

「ありがとう!!」

「うお!?」

突然飛びついてきた!?!?

「ホントにありがとう!放り出されたら行くあてもないから心細くって!」

い、いきなり抱きつかれてしまった。目には涙を浮かべていて、よほど断れるのが怖かったと見える。
しかし抱きつかれるのは少しまずい。ただでさえ露出の高い服なのに触れ合ってみるとこの服とても生地が薄い。
それに加えて、彼女は少女の見た目とは言え、出るとこは出ている体型だ。
あ、なんかいい香りもしてきた。こ…このままだと……

「す、少し離れて………」

「あ……ご、ごめんなさい」

やっと離れてくれた、これで落ち着いて話せる。

「そ、それでこれからどうする?住むのはいいけどずっと家にいるわけにもいかないだろ」

「そ、そうだな。できれば協力者と常に一緒に行動したいが………ん?」

彼女が壁に目を向けた。そこには俺の学生服がかかっている。

「あの服は……君は学生なのか」

「そうだけど………………まさか」

「よし、私も君の学校に通おう!」

まただ。彼女は一見真面目そうだが、時折見せる笑顔は少女のそれだし、いきなり突拍子もない思考や発言をする。

「いやいや待て待て!いくらなんでもそれは……」

「大丈夫だ、君のいとこだということにすれば何も問題はない」

「いやそうじゃなくて転校の手続きとか……」

「安心しろ、そういった細かいところは何とかする!」






そんなこんなで場面が戻り………




「へ~春香ちゃん結城くんのいとこなんだ~」「どうしてこんな時期に転校を?」「前の学校はどんな所?」

「あ、あの~質問はひとりづつで……」

春香はいまクラスの女子から様々な質問をされまくっている。
質問に答え終わってもまたさらに次の質問をされるその様子は、いっそ尋問と形容したほうがいいかも知れない。
少し心配していたが、まああの様子だと学校に馴染めないということはないだろう。
それにしても一体どうやって2日で転校できたのだろうか。あの道具を使ったのか、それとも宇宙警察の力か。
どちらにしても彼女は思ったこと、思いついたことを即実行する性格だということだ。
それ自体はいいことだと思うが、彼女の突拍子もない思考から即実行すると考えると少し恐ろしくもある。

「おい………冬二ィ………」

そんなことを考えていると、幹也が俺に襲いかかりそうな目つきで近寄ってきた。

「なんだよ」

「なんだよじゃねえよ!何だよあの娘!あんないとこ居るなんて知らなかったぞ!」

「言わなかったからな」

「ひっでーな。もう少し親友に対してもっと………」

幹也は、俺に対して彼女を隠していた不平不満を言ってくる。今朝のアニメの話なんかとうの昔に忘れたようだ。
そんな話をしていると質問攻めから解放された春香がこちらに来た。

「やっほ、おにいちゃん」

「「お、おにいちゃん!?」」

幹也とセリフが被ってしまった。家では名前で呼ばれているので少し面食らってしまった。

「……なんでお前まで驚いてんだよ」

い、いかん。幹也が疑惑の目を向けている。なんとかしなくては………

「あ、おにいちゃんのお友達ですか!少しおにいちゃんと話したいことがあるのでぇ、少しおにいちゃんを借りてもいいですか?」

「あ、はい!どうぞどうぞ~」

おい、なんで鼻の下を伸ばしている。疑惑の目はなくなったが、なんか納得が行かんぞ。
そんな親友(仮)に見送られ、俺と春香は学校の裏、人目のつかないところまでやってきた。

「おい!なんだよおにいちゃんて!後その話し方もだ!」

「前地球に来たことのある先輩に相談してな、いろいろレクチャーしてもらったんだ。そうゆう設定なら、おにいちゃんと読んだほうがいろいろいいって」

いろいろってなんだいろいろって。恨むぞその先輩。

「それにどうやって転校できたんだ、まさかその道具の………」

「違う!宇宙警察の力だ。これは本当に大事な時しか使わん」

「…………それで、話ってなんだ」

「…………ああ、その先輩からの連絡なんだが、どうやら宇宙犯罪者の何人かはこの学校にいるらしい」

「………え!?」

「やはり冬二の学校に転校して正解だった」

「……………………」

「さあ、これから忙しくなる、まずはこの学校を案内してくれ。」

そう言って校舎に戻ろうとする彼女を見つつ、俺は考える。
本当にこれからはアニメやゲームのことが頭に入らなくなるかもしれない。
なぜなら、アニメやゲームで起こる出来事が、現実になりそうだからだ。


そういえば、この非日常を世話すると決めたとき、彼女に言わなかった理由が2つある。


「ほら、早く行くぞ冬二」

「お、おい春香!」


1つは彼女……春香が見ず知らずの自分のために祈ってくれる心優しい子だったこと。


もう1つは………


「よろしく!おにいちゃん!」



彼女の笑顔がとても可愛かったから。


第一話 おわり

 
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