えすえふ(仮)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
プロローグ
前書き
リレー小説で、不定期更新です。
高校二年生になったばかりの頃、俺――結城冬二(ゆうき・とうじ)は自宅を失った。
いや、正確には破壊されたというべきだろう。御先祖様が代々暮らし、俺が生まれ育った結城邸は突如、見るも無残に破壊されてしまったのである。
天井があった部分に開いた大きな穴の向こうには、雲一つない蒼天があった。柔らかい風が頬を撫でる。そういえば季節はまだ春だ。
……どうしてこうなった?
目の前には珍妙な恰好ですやすやと眠る少女の姿。こいつだ。こいつが全ての元凶なのだ。
信じてもらえないかもしれないが、突然降ってきたのだ。何がってその、女の子が。
久々の休日だし自室でくつろいでゲーム三昧の自堕落な休暇を過ごそうと思っていた矢先、轟音と共に我が家の天井や床を破壊しながら、女の子が落ちてきたのである。いや、墜落と言うべきか。
奇跡的に怪我はしなかったもものの、我が家は半壊状態になってしまった。
とにかく俺の平和な日常はこの少女によって破壊されたのだった。
「う……」
さて問題の我が家に墜落した少女だが、現在彼女は一階の居間であった場所で突っ伏していた。
屋根を破壊し、天井や床や家具を巻き込みながら彼女は、クレーターのようにへこんでいるフローリングの上で横になったまま、ピクピクと痙攣していた。
美しい少女だった。
透き通るように白い肌に健康的な肢体。
瞳は吸い込まれそうになるように大きく、目鼻はスッと整っている。
黒曜石を溶かしたような美しい黒髪は腰の辺りまで伸ばしており、艶やかで何ともいえない色気があった。
何故かやけに露出度の高いアニメチックな服を着ているが、それがやけに似合っていた。
「……はっ!」
あ、起きた。ガバっと豪快に起き上がるとキョロキョロと辺りを見渡す。
そして、近くにいた俺と完全に目が合った。
「こ、ここは!?」
外見に相応しい、凛とした美しい声だった。
だが今彼女に見とれてる暇は無い。こいつは俺の自宅とささやかなプライベートを破壊したのだ。とりあえず何か言って……
「そこの人! ここはどこだ!?」
俺が文句を言おうとするもそれを許さぬ勢いで、彼女は俺の胸元を掴み聞いてくる。端正な顔が目の前に迫り、不覚にもドキっとしてしまう。
「答えてくれ、君! ここはどこだ!? 地球か!? 地球なのか!? だとしたらどの辺りだ!?」
ぐわんぐわんと、体を激しく揺さぶられる。女の子なのになんて力だ……
「ま、待て! いきなり何するんだよ! なんなんだお前!」
「む……」
至極真っ当な俺の質問に彼女の動きは止まった。
「……そうか、申し訳ない。自己紹介が遅れていたな」
俺から手を離し、彼女は真っ直ぐこちらを見て言った。
「私は宇宙刑事だ」
「……は?」
「私は宇宙警察に所属する宇宙刑事だ。地球に逃走した宇宙犯罪者確保のために地球にやってきた」
「…………」
「しかし着陸に失敗してしまってな。どうやら君に迷惑をかけてしまったらしい。そこは謝る。すまない」
ぺこりと礼儀正しく頭を下げる彼女。だが俺は彼女の言ったことがまるっきり理解できなかった。
いや、そもそも彼女は空から落ちてきたのだ。普通じゃないに決まっている。
混乱の渦に飲みこまれる俺に対し、彼女は太陽のような笑顔を見せて手を差し出した。
「というわけで、よろしく!」
ページ上へ戻る