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人形の姫と高校生の鬼

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形を変える世界-1-

ピピピピピピピ・・・・・・

「う・・・・・・朝か」

枕元に置いていた携帯電話のアラームが鳴った。寝ぼけ眼のまま手探りで携帯を探しアラームを止める。今日も快晴らしく、カーテン越しに認識出来る程、太陽の輝きが満ちているのがわかる。俺はベッドから降り、軽く体を伸ばした。現在時刻は朝の7時、まだ布団が恋しいのだが、これ以上のんびりしていると二度寝を決めてしまう上に最悪の場合遅刻してしまう。これは、去年の一年間で充分身に染みた事であった。

「さっさと飯食ってシャワー浴びて・・・・・・」

朝飯にありつく為に、階段を降りてリビングに向かう。母さんが台所で朝食の準備をしていてくれるからだ。しかし、軽く体をほぐして眠気を追い払ったと思っていたが、まだ完全に目が覚めた訳ではないらしく若干足がおぼつかない。

「母さん、おはよ・・・・・・ってあれ?」

そこに母さんの姿は無かった。辺りを見回すと昨日の晩飯時に使ったテーブルの上に、まだ焼いて間もないと思われるソーセージ、玉子焼きに味噌汁、千切りキャベツとトマトのサラダ、そして広告の裏にマジックで書いた手紙が置いてあった。

「『急な仕事が入ったから先に出ます、ご飯は炊いてあるから勝手に食べて学校に行ってください。戸締りだけしっかり宜しく。』か。朝から大変だなぁ母さんも」

事務仕事と聞いてはいるが、事務に早出をしなければいけない仕事などあるのだろうか?相変わらず不透明な仕事をしてるなぁ。

「さてと、んじゃ適当に食ってちゃっちゃと学校行くか」

リモコンを操作しテレビを付け、用意された朝食を食べる。基本的にウチの玉子焼きは出汁を効かせたタイプでどちらかと言うとしょっぱい味付けになるのだが

「んー・・・・・・なんか最近、砂糖が一杯入った甘い奴の方が好きになってきたな。というか甘党になってきてるな確実に」

昔は、ほんのりしょっぱい玉子焼きをおかずに暖かいご飯を食べるのが毎朝の楽しみであったのだが、大人になるにつれ味覚が変わってきたのであろうか、「ご飯+おかず」と言う組み合わせではなく「ご飯」と「おかず」、一品毎に個性を求める様になった気がする。・・・・・・しかし、何と言うか

「むしろ大人って言うより子供に退行しつつある、ってのが正しいのかもしれんな」

傍から見ると子供がご飯の味付けに対して、我が侭を言っているだけの様にも見える気がする。

「こういうのは自分で稼ぐ様になってから言わないとな」

ご馳走様、と一人呟き台所のシンクに食器を持っていく。そういえばテレビを付けたまま何も見てなかったな、そう思いリモコンを操作しチャンネルを変える。何度か放送局を変えると「女神様の!キラキラ占いコーナー☆」と女子アナウンサーの声が聞こえてきた。

『はい!今週も後半戦に入りましたね!今日から週末にかけての運勢、一番良いのは・・・・・・乙女座の貴方!困った時に、意外な助け舟が現れるかも?助けて欲しい時はちゃんと声に出す事!』

「助けてと言って運良く助かるなんて漫画とかでしか聞かないなぁ・・・・・・」

それにこのご時世に「助けて!」なんて大声を出されて顔を突っ込んだなら、本人の意図とは関係無く善意に牙を剥かれる形で一つの事案が生まれてしまうのではなかろうか。ホント、報われない世界って怖いね。大体、こんな朝にやってる占いコーナーなんてどこの家庭でも見てるだろうし実際言われた通りにすると

『あ、あの人、朝にやってた占いコーナー真に受けてる!』
『うわーホントだ。占いなんて信じるの小学生までだよねー』

とかなるんだよな。人の目は予想以上に厳しいのだ。

「ちなみに獅子座は何位なんだ?・・・・・・っと、やべぇやべぇ!早くシャワー入って寝癖直さないと学校に遅れる!」

時間は現在7時30分を越えたばかり、8時までには何とか家を出たい所だ。俺は慌てて洗面所に向かいお湯を沸かす為に行動を始めた。

その同時刻、俺が洗面所に向かい、誰も居なくなったリビングではテレビから占いコーナーの続きが流れていた。

『そして一番運勢が悪いのは・・・・・・獅子座の貴方!トラブルに巻き込まれやすいかも?予想外のアクシデントで思い通りに行かない一日になるかもです!ラッキーアイテムはストラップ、そして不運を救うラッキーカラーは黒だよ!」



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「長湯し過ぎた俺のアホォォォォォ!!」

時計は8時15分、予定の15分遅れだ。朝のホームルームは8時45分、学校までは歩いて30分、はっきり言って走ってギリギリだ。

Q.何故こんな事になってしまったのか。

A.シャワーを浴びている内に睡魔に襲われ浴場の中で気を失ってしまっていた(つまり寝てしまっていた)のが原因だ。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・!」

朝から全速力はキツイ!シャワーを浴びたばかりなのに、この様に大量に汗をかくのはこれから過ごす一日のモチベーションが根こそぎ奪われてしまう気がした。いつもの通学路が倍近く長く見える。

「もう・・・・・・もうちょっと・・・・・・」

学校が見えた。後は目の前の曲がり角を左に進み、そのまま真っ直ぐ走れば━━━

ここで皆に問いたい。こういう、いかにも遅刻しそうな状態の学生が曲がり角で起こすイベントと言えば何だと思う?・・・・・・そう、一番メジャーと言っても過言でも無い「食パンを咥えた学生(異性に限る)と出会いがしらにごっつんこ☆」しか有り得ないだろう。俺も思ってた。そう、この瞬間。この曲がり角を曲がる瞬間までは。

「さぁて、ここさえ曲がれば━━━・・・・・・ぁ?」

その時見た光景を、俺は生涯忘れる事はないだろう。それ程に目の前で繰る広げられている光景があまりにも・・・・・・常軌を逸していたのだから。そこには

『グルァァァァァ!!!・・・・・・ッガッッッ!!?』

『ヴォォォォォアアアアアアアアア!!!』ゴキン!ベキン!『ァゥ・・・・・・ハァァァァァ・・・・・・!!』

「まだ来るの?これ以上やっても・・・・・・無駄」

・・・・・・そこには、「人間の頭」を両手にぶらさげた人間が居て、その周りには頭をもぎり取られた「何か」が血を撒き散らし散乱する光景が広がっていた。周りの塀が血飛沫でドス黒く染まり、「何か」は羽をもがれた昆虫の様に手足をピクピクと動かしている。

「ぁ・・・・・・あ・・・・・・?」

息が、もしかしたら心臓が一瞬でも止まったかもしれない。声が出ない。何なんだ?何なんだこれ?ヤバイ、逃げよう、逃げなきゃ、ここに居たら、もしかしたら、俺も━━━。混乱に襲われ思考が定まらない。心の中で必死に逃げろと叫ぶ。しかし足が動かない。

「動け・・・・・・走れよ・・・・・・くそっ・・・・・・!!」

まるで杭に打ち付けられた様だ。口を食いしばりながら、その場から動かない足を見下ろす。すると、周りの「何か」から流れてきた血液がつま先を濡らしていた。

「う・・・・・・うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫してしまった。さすがに俺の声が聞こえてしまったのだろう、その場で二人分の人間の頭部を持った人影がこちらを向く気配を感じた。そして

「誰っ!!?」

「・・・・・・!!」

こっちに来る!?足は・・・・・・動く!間近に見た血液の所為で一時的なショックから抜け出せた様だ。気を引き締めるかの様に鞄を肩にかけ直す。学校へは行けない、行く為にはあの惨劇が起きている場所を越えるしか無いからだ。ここから逃げて、一旦交番に駆け込もう!

俺は謎の人影から背を向け、走り出そうとした。しかし

ゴォン!!!

瞬間、何かが俺の頭とぶつかった。いや正確には俺の後頭部、つまり後ろから「何か」がぶつかってきて俺は、膝を付き、地面にうつ伏せに倒れてしまった。

「な・・・・・・に、が・・・・・・」

目の前がぼやけて行く。霞む視線の先、何かが音を立てて転がっていく。あれはもしかして・・・・・・

「・・・・・・あ」

その時、女の声が聞こえた。どうやら俺に追いついて、両膝を地面に付き俺の顔を覗き込む様に見ている様だ。しかし視界がぼやけて、顔の判別は付かない。唯一、分かったのはその女は全身黒ずくめの格好としている言う事だけだった。

「えーっと・・・・・・その、あの・・・・・・ごめんなさい」

ソノアゴメン・・・・・・?ダメだ、意識が遠のいて・・・・・・何を言ってるか・・・・・・

いつしか、そのまま目の前が真っ暗になっていた。

 
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