東方攻勢録
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第六話
金属音が鳴り響いてから、無音の間が数秒間漂い続けた。
紫達は急に現れた謎の人物を見ながら呆気にとられていた。彼の目の前には、戦闘体勢をとったアンドロイド達が、殺気を出し続けている。革命軍も彼を見ながら戸惑いつつ、戦闘体勢を崩そうとはしない。しかし、弾幕を放出していた機械を止め、弾幕を出すのはやめていた。変に攻撃し続けて、彼が何かしてくることを恐れたのだろう。
「……誰?」
「……」
謎の人物は何も答えようとはしない。
すると、膠着状態で痺れをきらした一体のアンドロイドが、彼に向けて攻撃を仕掛けようとする。だが、謎の人物は軽々とそれをよけると、アンドロイドの首元にナイフを突き刺しコードを切り取った。
彼は強い。紫達は目の前の状況を見ただけでそう感じていた。
「……」
謎の人物は何も言わずにアンドロイドに近寄っていく。
アンドロイド達は、少し後ずさりしながらも隙を見て攻撃してくる。だが、謎の人物はその攻撃をはじいては、カウンターを決めていった。
「な……何者なんだ!?」
「まさか……太陽の畑に現れた……外来人か!?」
(太陽の畑……? 外来人?)
革命軍の会話の内容からして、自分達が知らない外来人がいるらしい。しかし、博麗の大結界で守られている幻想郷に、外来人がいるとしてどうやって入ってきたと言うのだろうか。
革命軍のが作った機械を使ったと言うのであればわかるのだが、革命軍がそうやすやすとその機械を渡すはずがない。それに、革命軍にも正体がわかっていない以上、その可能性はないだろう。それ以前に、紫は何か違和感を感じていた。
(あの動き……どこかで……)
外来人と思われる人物は、どこかで見たことあるような動きをしていた。ナイフの振り方、攻撃を避けるステップとパターン。どこか懐かしく、二度と見ることがない気がしていた動きだった。
「くそっ! 射撃用意!!」
「りょうか――」
「うがっ!?」
中央にいた男が命令を出した瞬間、突然乾いた発砲音が響き渡り、銃を構えようとしていた兵士の一人が倒れこんだ。
一瞬思考が吹き飛んだ男だったが、ふと前にいた謎の人物を見る。すると、さっきまでナイフを構えていた男は、両手にある黒い物体を持っていた。
「ハンドガン!? 怪我は!」
「出血していません……気絶しただけです」
「気絶……だけ……?」
今の発砲音からして、明らかにゴム弾を打ち出したようなものではなかった。鉛だまを兵士に撃ち込んだにちがいない。だが、出血しているどころか、服に弾が貫通したあとすらなかった。
(今度は二丁の銃……!?)
紫も彼が武器を持ち替えていたのを確認していた。
黒く冷たく硬い形をしていた物体は、やはりどこかで見たことがある銃だった。それに見覚えがあるのは紫だけじゃない。霊夢も永琳、輝夜ですらその物体を見たことがあるようだった。
そんなことを考えている間も、目の前の人物は銃で敵を倒していく。しかも、弾丸が当たった敵は、死ぬことが泣く気絶しているだけだった。
この戦い方をしてた人物を紫達は知っている。だが、その人物はもう出会うことがないはずだった。
(どういうことなの……? まさか、ほんとに……)
「おい! 起動させろ!」
このままではまずいと感じたのか、革命軍はとめていた装置のスイッチを入れ再稼動を始めた。機械から赤い光が漏れ出し、さっきと同じ無造作な弾幕が放出される。
「まずい……さけないと」
紫達はその場から立ち上がり、回避行動をとろうとする。しかし、目の前の人物は、弾幕が近寄ってくるにもかかわらず、回避行動をとろうとしなかった。
「あなたもはやく!」
「……いや、このままでかまわないよ……紫」
「え……!?」
目の前の人物から、聞き覚えのある声が発せられた。その声を聞くのは、一体何日ぶりになるんだろうか。もう聞くことがなかった……彼の声が。
「どういうこと……?」
「俺にはこれがあるからさ」
彼は振り向かずにそう答えると、右手にあるカードを持っていた。それを見て、紫の脳内にある出来事がフィードバックされる。あの時も、霊夢が結界をといて、彼があのスペルカードをつかって弾幕を防いだ。今回も、その状況とほとんど同じだ。
目の前の人物はカードに力をこめると、徐々に力を放出させる。そして、そのままスペルカードを発動させた。
変換『コンバートミラー』
スペルカードの発動とともに、見覚えのある大きな鏡の盾が彼の目の前から現れる。それを見て、紫達もこれを知っていた革命軍たちも呆気にとられていた。
鏡の盾は、赤い弾幕を捕らえると徐々に吸収していく。機械から放出され続ける弾幕は、途切れることなく出していくが、鏡の吸収に追いつけていけない。しまいには煙をだしながら、爆音とともに壊れてしまった。おそらくオーバーヒートで中身がいかれてしまったのだろう。
弾幕を吸収しきった鏡は、スッと白くなりながら消え去っていく。それと同時に、スペルカードを使用した人物は、革命軍に向けて二丁の銃を向けていた。
「貴様……死んだはずじゃ……」
「それは俺が一番思ってますよ」
そういった瞬間、彼はなんのためらいもなく引き金を引く。銃口からは、さっきまで機械から発せられていた赤い光が大きく広がっていく。
そして姿を現したのは、さっき飛んできていた無造作な弾幕だった。
「か……回避!」
半分思考が吹っ飛んでしまった革命軍は、ほとんど状況が飲み込めず回避行動がままらない。そのまま被弾して意識を失っていくものが増えていった。
「くそっ! 撤退だ! 撤退しろ!!」
半分以上やられてしまった革命軍は、反撃しても無意味と考えたのか、全員を引き連れて逃げ始めていった。
「終わりか……」
「……」
背後ですべてを見ていた紫達は、あまりの状況に言葉を失っていた。そんな彼女たちに、彼はゆっくりと近づく。
「……」
「……」
向き合ったまま何もしゃべろうとしない。紫は信じられないといった顔でこちらをみていた。
「……ごめん紫」
「っ!」
少年はそういってフードをはずす。そこには、死んだはずの彼の顔があった。
「しゅん……じ……?」
俊司は何も言わずコクリとうなずいた。
紫はそっと手を伸ばすと俊司の頬に触れる。感覚はきとんとあるが、あのころ体温が少し違う。死者とまではいわないが。温度でたとえれば冷めかけたお湯くらいだろう。
「本当に……あなたなの?」
「うん……もう、人間じゃないけど」
そう言って、俊司は笑みを返した。
「人間じゃない……そう。この感覚は亡霊なのね」
「俺はあの戦いであいつに殺された。そして……映姫さんに助けられて亡霊になったんだよ……ごめん」
「……そうだったのね。でも、仕方ないわ。戻ってきてくれただけで……十分よ」
「紫……ありがとう」
俊司はそう言って軽く頭を下げていた。
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