東方攻勢録
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第七話
「みんな死んだかと思ったわよ……って、死んでたんだっけ? まあ、元気そうでなによりだわ」
「またあんたに助けられるなんてね……しかも、あの時もこんな感じだったかしら。ありがとね」
「亡霊になったなんてね……でも、やっぱり見た目に変わりないのね。今度身体検査しても?」
「永琳さん……それしゃれにならないですから」
霊夢達三人も、俊司の登場に一瞬は驚いていたが、いたって特別な反応を返すことなく迎えてくれた。幻想郷は常識に捕らわれてはいけない。そういわんばかりの反応だった。
しかし、ところどころでぼろが出ていた。軽く目に涙をためたり、笑みがこぼれたり、それぞれ違った反応を見せてくれていた。
なんともいいがたい感覚が、俊司の中を駆け巡っていた。
「で、あなたは一人で来たの?」
「いえ、もちろん何人かで来てますよ」
俊司が振り返ると、ちょうど茂みから映姫達が姿を現していた。
「ずいぶん派手にやってしまいましたね」
「すいません」
「いえ、ここまで我慢させていたのは私ですから。さて、お久しぶりですね。八雲紫」
「そうね四季映姫。あなたがここに来て地獄は大丈夫なのかしら?」
「あいにく私は勝手な判決を下したため謹慎中ですので」
「あら珍しいのね?」
「そうかもしれませんね」
映姫はそういって笑っていた。
「霊夢ーーー!! 久々だなぁ!」
「うわっ! 萃香!?」
「あら、あなた毒使いの人形さんじゃない」
「こんにちは永琳さん。お元気そうで何よりです」
「ずいぶん派手にやられたじゃない月の姫様?」
「うるさいわね。たまたまよ花妖怪」
それぞれ再開を果たし、たわいない会話を交わす。久々の光景が、俊司の心を躍らせていた。
「それにしても、どうしてここに?」
「ああ、それはな……」
俊司はここに来るまでの経緯を簡単に伝えた。
革命軍である宮下からの情報提供。地霊殿での活動と手錠のなぞについて。そして新しいチップに関する情報を簡潔に伝えた。
「地霊殿でねぇ……よくこの人数で戦えたわね」
「旧都の妖怪にも手伝ってもらったからさ。さすがに五人だともうちょっと手間がかかったと思うけど」
「そうかしらね。ところで、その宮下という男が、私達の捕獲作戦とこの手錠に関する情報を伝えたの?」
「ああ。それがなかったら、俺達はここに来なかった……」
「しかし、私情でそんなことをするなんてかわってるのね。まあ……おかげで助かったけど」
「ところで、この手錠外れるの?」
「俺のスペルカードでも十分はずせます。悠斗さんの能力でもできるんじゃないですかね」
「ならいいわ。一度帰りましょう。死神さん、悪いけど永遠亭まで飛ばしてくれるかしら?」
「ああ」
小町は言われたとおり、俊司達を永遠亭まで飛ばそうとする。
「……ちょっと待って」
だが、何を思ったのか俊司はそういって引き止めた。
「どうかした?」
「いや……紫、妖夢……どうしてる?」
「妖夢? あの子なら心配要らないわ。ちゃんと立ち直ってるわよ……あなたの手紙を読んでね」
紫がそう言った瞬間、俊司は思わず安堵のため息をもらしていた。
俊司は亡霊になってからずっと紫達のことを気にかけていたが、とくに妖夢のことを一番気にかけていた。自分が死んだら、妖夢がどういった状態に陥るかなんて目に見えていたからだ。
一番不安に思っていたのは、かばんに入れてあった手紙に気づいてくれたかどうかだった。自分の思いが伝わったのかどうかよりも、それをみて彼女が立ち直ってくれてるかが気になっていた。
「そっか……」
「まったく、あなたが死んで一番やつれていたのはあの子なのよ? 毎日毎日まるで屍のようにすごしてたんだから」
「……だよな。でも、元気にしてるならそれで安心だよ」
そう言うと、俊司はなぜかフードをかぶった。
「……なにやってるの?」
「いや、こうやって出てやろうと思って」
「あなたねぇ……」
「本音を言うと、ぱっと出る勇気がないんだ。あれだけのことがあって、あいつの前にのこのこ出る勇気がさ……」
そう言って俊司は苦笑いを返した。
「……まあいいわ。あの子はどんな反応するかしらね」
「この時間帯、妖夢はどこにいる?」
「あなた達が特訓してたとこにいるわ。今日は一人で練習中かしらね」
「わかった。小町さん、俺だけ永遠亭の西側に飛ばしてくれませんか?」
「了解。じゃあ飛ばすよ」
全員はそのまま永遠亭へと飛ばされていった。
「……なかなか面白かったよ。里中俊司君」
近くの木の陰にいた男に見送られながら。
同時刻、永遠亭付近の竹林
風が吹くたびに竹の葉がぶつかり合い、サワサワとした心地よい音があたりを包む。そんな中で、刀を握った白髪の少女が、風を切る音を作り出しながらひたすら刀を振るっていた。
(次はアンドロイド三体……囲まれた状態で)
少女は軽く目を閉じると、二・三歩後ろに下がって軽く息を吐く。その直後、目を開くと同時に前に飛び出し刀を振り下ろした。軽くあたりを見渡し、想像している敵を思い浮かべると、スピードを落とさない様にして地面をけり、刀を振りながら宙を舞った。
それから三分ほど刀を振り続けた後、ゆっくりと刀を鞘に戻しため息をついた。
「はあ……少しは実力がつけばいいのだけど」
少女はそうつぶやいたあと、近くにあったちょうどいい石に腰を下ろした。
「今何時だったかな……ん?」
時間を気にしていた少女の目の前に、何か変な切れ目が現れる。すると、その間から一枚の紙が出てきた。
「紫様かな……」
手紙には『妖夢へ 話があるので一度戻ってきなさい』と書かれていた。
「話……なんだろう」
不思議に思いながら立ち上がると、妖夢は永遠亭に向けて歩こうとする。
その背後で誰かが見ていたにもかかわらず。
「今後の内容かな……でも手紙をだすなんていままでなかった……!?」
妖夢は背後から漂ってくる違和感を感じ取っていた。違和感の中には人の気配に似たものが混ざっている。左手を刀に添えながらゆっくりと振り返ってみる。そこには、フードをかぶった謎の人物が、こっちを見ていた。
「……誰ですか?」
「……」
謎の人物は何も答えない。
よく見ると、右手に光る鋭利なものを持っていた。似たようなものを持っている妖夢から見れば、それが何なのか一瞬で見分けがついた。長さからしてナイフだろう。それに模造品や偽者ではない。きちんと人を殺せるものだ。
緊張感が一気に張り詰める。
(いったいどこから――)
そう考えた瞬間、謎の人物から殺気が勢いよくあふれた。あまりの勢いに、妖夢は一瞬ひるんでしまう。
その後、謎の人物はナイフを握り締めたまま妖夢に向かってきていた。
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