東方攻勢録
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第五話
数分前
博麗神社から少し離れた森の中。神社の方からは、戦闘による振動や音が、ここまで伝わっていた。
そんな中、ふと風を切るような音がしたと思うと、さっきまでいなかった場所に数人の妖怪たちが、姿を現していた。
「着いた……この音……」
「やっぱり、あの男が言っていたことは正しかったですね」
「急ぎましょう。手遅れにならないうちに」
俊司達は、音のなる方へ走って行った。
鳥居が見える付近まで来ると、二十人ほどの革命軍の兵士達。そして、二つの手錠をつけられた、妖怪たちが見えてきた。言うまでもなく、紫達だった。
「やっぱり交戦中……」
「あれがあの手錠ね。なるほど……確かに、弾幕でかなり力を消費しているみたいね」
幽香の言うとおり、革命軍に向けて弾幕を放っていた黒髪の少女は、顔色を悪くして軽くふらふらしていた。その後、後ろから紫が援護しようと弾幕を出したが、やはり力の消費はかなり大きいみたいだ。
じっとみていると、紫達は弾幕を出すのをやめていた。どうやら近距離戦闘に持ち込むらしい。
「仕方ないですよね……力を抑えられているんですし……」
「そうね。ちょうどいいわ。援護に入りましょう」
六人は紫達の援護に入ろうと、森から出ようとする。
その時だった。
「ちょっと待って下さい!」
映姫がそう言った瞬間、大きな機械音が辺りを駆け巡った。
「なっ……なんだ?」
「もしかして……あれじゃないかい?」
萃香がそう言って指をさしたところには、大きな扇風機のような形をした機械がならんでいた。音の聞こえてくる方向からして、この機械が音を出しているのだろう。それに、機械の中央からなにか赤い光が漏れ出している。
俊司達は、さすがに飛び込むのは危険だと考え、森の中から様子をうかがっていた。
「何の機械かしら……」
「さあ……でも、なんかやばい代物だとは思いますけど」
「そうかもしれませんね。それに……あの光、微かに弾幕の弾に似た力が感じられます」
「弾幕……まさか!」
俊司がふと何かを思いついた瞬間、機械から微かに漏れていた光が、一気に放出されていく。
その数秒後、そこから放出されたのは赤く光る無数の弾だった。
「だっ……弾幕!?」
「あいつらこんなものまで……」
放出され弾は、無雑作ではあったが弾幕を作り出して行く。攻撃としてはあまり効果を見込めないが、足止めとしては最適だった。
紫達も、弾幕に当たることなく次々とよけていく。見た感じやられる心配はないだろう。
「……あの、俊司さん」
「ん? なんですか?」
「……なにかいます」
メディスンは、弾幕の中にゆらゆらと動く何かを発見していた。物体が確実に見えていたわけではないが、半透明の物体が、何かゆらゆらと揺れているのが見えていた。
俊司も、メディスンに言われてその物体に気付いていた。確かに、物体はないがなにかゆらゆらと動いている。そして、どこかで見たような軌道をしていた。
それに、確実に紫達にむかっていくのが見えていた。
「もしかして……影丸!?」
影丸というのは、俊司が紫達と共に再思の道にあった革命軍の基地に向かったとき、相手の主力として現れたアンドロイドだ。忍者の戦闘スタイルをベースとし、相手を翻弄させながら攻撃してくる。それに、姿が常時見えないため、俊司達もかなり苦戦を強いられていた。
しかも、現在その影丸が何体も、弾幕の間をぬって紫達に向かっている。接近されれば、劣勢になるのは目に見えていた。
「ま……まずい!」
俊司が茂みから身を乗り出した瞬間、影丸の一体が紫に攻撃を繰り出す。紫は何とかそれに気づいて、カウンターを入れていたが。さすがに一気に間合いをつめれそうにはない。
すると、霊夢は三人を下げて、弾幕を防ごうと結界を張ろうとし始めていた。
「くっ……あれは……」
「だめだ霊夢!」
俊司はそう叫ぶが、機械から発せられる音と、弾幕の着弾音のせいで届きそうにない。
彼らの願いもむなしく、霊夢は結界を展開させて時間を作ろうとする。しかし、手錠のせいもあってか、結界が安定した様子はなかった。
弾幕を大量に受け、さらには数体の影丸から攻撃。拘束され少なくなった力はすぐに消費されていく。結界も波打ち始め、効力を下げていく。
「くそっ……!!」
俊司はフードをかぶりこむと、茂みから飛び出し弾幕の中へと入っていった。
「おい俊司!?」
「いいです小町。行かせてあげましょう」
「ですが映姫様!」
「今まで我慢させたんです。行かせてあげましょう」
映姫は、まっすぐ走っていく彼を見ながらそう言っていた。
(くそっ……間に合え……間に合え!)
茂みから霊夢達までの距離は結構あり、走ってもかなり時間がかかる。
そうこうしていると、霊夢は体力がつきかけたのか、フラフラになりながら結界をとき始める。
(だめだ……間に合わない!)
霊夢はその場でふらつき、大きなスキを作ってしまう。戦闘用のアンドロイドである影丸が、そのスキを見逃すわけがなかった。
一体の影丸が小刀を持つを伸ばし、霊夢の腹部を切ろうとする。紫が手を伸ばしているが、とても間に合いそうにない。
もはや、なすすべがなかった
(くそっ! くそっ! 何が危機を回避する程度の能力だ! 自分しか守れないくせに何が能力だ!! こんな能力あったって! あったって!!)
『あったって使い物にならない。それはお前の思い込みじゃないか?』
「!?」
半分あきらめかけていた少年に、聞き覚えのある声が声をかける。いつも暗闇の中でしか声をかけなかった、あの男の声だった。
『自分がそう思い込んでいるだけじゃないのか?』
(そっそんなこと!)
『いいや違う。お前は心のどこかでそう感じてるはずだ。だが、あの死神はお前に言っただろ? まだ用なしになったわけではないと』
(それはそうだけど……)
『なら試せ! 集中しろ! このままで終わりたくないなら、本当に彼女達を助けたいなら!』
(……)
俊司だって、彼女達を助けたい。できれば誰も傷つけたくない。その考えが、無意識に彼の集中力を高めていった。
次第に、体が浮き上がりそうな感覚が全身をふんわり支える。体内から何か力のようなものがこみ上げ、彼の能力を引き立てていく。
「なっ……!?」
俊司は、目の前の景色が、徐々に変わっていくことに気付いた。
単刀直入に言えば、時間が止まっていく過程を見ているようだった。弾幕や影丸の小刀の動きは徐々に遅くなり、やがて止まっていく。
そして、霊夢と小刀の間には、光る点が浮かび上がっていた。
「こ……これって……」
俊司は走るのをやめ、呆気にとられていた。
(もしかして……俺の能力が……?)
男の声は聞こえない。俊司の能力を知っていたのか、あるいはたまたまだったのかはわからないが、きっかけを与えようとしていたのだろう。
(ほんと……何者なんだよ)
俊司は苦笑いをしながらあきれていた。
ゆっくりと歩きながら点に近寄っていく。そこには『ディフェンスポイント』という小さい文字が浮かび上がっていた。いつかみた、『アタックポイント』とまったく同じ形と光り方をしている。
それを見て、俊司は少し笑っていた。
(やっと……見つけた。俺の新しい役目……)
俊司はナイフを取り出すと、目の前にあった小刀にぶつける。
その後、金属音とともに、新しい歯車がゆっくりと回り始めた。
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