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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第四話


「能力が……拘束されてる……?」

「ええ」


永琳はそう言ってうなずく。

確かに、彼女の言ってることはあながち間違ってはいなかった。どう考えても、さっき彼女たちの能力を発動した際の出来事が、それを物語っていた。

だが、問題はなぜそんなことをしようとしていたかだ。周りに革命軍が潜んでいるような気配など、さっきまでなかった。

そう、さっきまでは。


「とにかく、ここから離れないと話にならないわ。永遠亭まで戻れれば、悠斗君に頼んで鍵をはずしてもらえるはずよ」

「そうね……敵もいないうちに――」

「まって!」


霊夢がそう言った瞬間、全員になんとも言い難い感覚が走る。いや、走ったというよりかは、襲われたに近いだろうか。

四人は、殺気に近い何かを、神社の鳥居の近くから感じ取っていた。もちろん、霊夢達が探索をしていたときは、誰もいなかったはずだ。


「……どういうこと?」

「隠れてたの……? いや、だったら気配でわかるはず」

「でも、紅魔館では気配を消す何かを持っていたと、あの門番が言ってたんじゃないの?」

「そうね……でも、そんなことはどうでもいいわ。この状況をどうにかしないと」


紫はそう言うと、三人を連れて神社の鳥居へと向かい始める。

鳥居の下には、二十人くらいで構成された革命軍の部隊がいた。全員の兵装はそこまで重装備と言えるものでもなく、かといって軽装備ともいえない。

そのかわりなのか、彼らの背後には二台の大きな機械が置かれていた。見た感じ、大きな扇風機みたいな形をしている。


「……来たか」


霊夢達の姿を見た瞬間、中央に立っていた男が静かに右手を挙げる。それに合わせて、兵士達がゆっくりと銃を構えた。


「これはこれは……こんなところでなにをしてるんだ?」

「それはこっちのセリフね。あなた達こそ、結界を破って侵入した挙句……こんなものまで用意して、どうするつもり?」


紫がそう言うと、男は鼻で笑っていた。


「あんたらの拘束。それが我々の目的だ」

「私達を? 馬鹿ね。そう簡単に捕まるわけがないわ!!」


そう言った輝夜は、問答無用で弾幕を作り出すと、兵士達に向けて飛ばし始める。別にこった弾幕ではなかったが、相手は今までなんども倒してきた弾幕もよけられない外来人。倒すのは簡単なはずだと思っていた。

しかし、すぐに倒れると思われていた革命軍だったが、予想を返して弾幕をきれいによけ始めていた。これまで見ていた、一般の兵士達のような動きではなかった。


「やるわね……それなりの兵士を連れてきたってことかしら」

「そのようね……姫様、私達も援護しま……!?」


弾幕で応戦している輝夜をチラッと見た瞬間、永琳は体中から冷や汗が吹き出る感覚を覚えた。

まだ弾幕を出し始めてから五分も経っていない。にもかかわらず、輝夜は顔色を悪くしていた。医者の永琳ならわかる。疲労による疲れで表れる症状だった。

輝夜の力は人間やそこら中の妖怪よりは、力も魔力も高い。こんな短時間の弾幕で疲れるような人間ではなかった。それは輝夜の従者である彼女なら、わかり切っていたことだ。ならなぜ、彼女はあんなにも体力を消費している?

わかるわけがなかった。


「姫様!」

「大丈夫よ永琳! このくらい……」


だが、一番驚いていたのはとうの本人のようだった。

昨日は早めに眠って体調を整えていたはずだった。今日の朝だって、別に疲れているとかだるいとか、変わったところなんてなかった。

しかし、弾幕を出し始めてから急に体が悲鳴をあげていた。まるでいつもの自分じゃない。そういわんばかりに。


(なんで……昨日はこんなことなかったのに!)

「輝夜下がって! 私達が援護するわ!!」


紫はスキマのかわりに手を使って弾幕を作り出すと、革命軍に向けて飛ばし始める。

だが、その数秒後今まで感じたことのない異変が、彼女をおそっていた。


(なっ……!?)


弾幕を出しながら、微かに自分の力が多めに伝わっていくのを感じた。それも微々たるものじゃない。盛大にだ。

ふだんならこんな弾幕を使うのに、自分の力を多く伝えるなんてことは、決してあり得ない。ならなぜ、無意識に力を伝えてしまっているのか……


(力の入れ具合が違う……まるで自分の本来の力を抑えられたかのような……!?)


抑えられた。その言葉が浮かんだ瞬間、彼女は手首に付けられた二つの手錠を見ていた。

永琳は、自分たちの能力を抑えるために付けたんだろうと推測していた。ならなぜ二つ必要だったのだろうか。それが今になって疑問として浮かび上がっていた。

もし二つの手錠が別々の効果を持っていたとすれば、もう片方は何のために付けたのか。考えれば……簡単なことだった。

もう一つの手錠は、彼女達が弾幕や能力へ費やすための力を拘束するものだったのだ。

もしそうなら、今自身が経験したことも、輝夜の体がすぐに悲鳴を上げたのも説明がつく。というか、むしろそうとしか考えられなかった。


「みんな……!」


三人に伝えようとした紫だったが、どうやら彼女達もすでに気づいていたみたいだった。輝夜の異常と紫の異常。すべてが物語っている。


「……どうする?」

「弾幕の攻撃はやめましょう……ここは近距離戦で」

「わかったわ」


普段は近距離戦などあまりしない彼女体だが、こうなっているいじょうしかたがない。すぐに接近戦へと持ち込もうと、体勢を立て直す。

だが、そんな彼女達を見て、中央にいた男は不敵な笑みを浮かべていた。


「装置を稼働させろ」

「了解」


男の命令で、後ろで待機していた四人の兵士が、設置していた機械を動かし始める。

機械は、始動するとともに大きな音を立て始める。まるで中で何かをかきまぜているみたいだった。


「なに……?」


さすがの紫達も、警戒して前に出ようとはしない。

機械からはさらに不穏な雰囲気が漂っていた。なにかよからぬことしか起きないに違いない。

そう考えていた時だった。


「攻撃始め!」

「了解」


兵士の一人が、機械のスイッチをひねる。

すると、機械の中央にあった大きな穴から、徐々に赤い光がもれだしていた。光は大きくなりつつ、エネルギーを蓄えているみたいだった。


「あのエメルギー……もしかして……」


永琳がそう呟いた瞬間、機械から大量の何かが勢いよく放出された。


(まさか……弾幕!?)


赤い光をまとってエネルギー弾のようなもの、自分達が良く見る弾幕で使われる似ていたそれは、大きくひろがりながらこちらにむかってくる。

簡単なものではあったが、弾幕そのものだった。


「弾幕!?」

「あいつらこんなもの……とにかく避けるわよ!」


身体能力を制限されていなかったため、弾幕を避けることは余裕だった。これで能力さえあれば、一気に近寄って攻撃もできるのに、今はできない。

四人は少しずつ前進しながら、攻撃を加える瞬間を見極めていく。だが、中央にいた男は、それでも余裕の表情を浮かべていた。


(追いこんでるはずなのに……あまりあせってないみたい。まだなにか策が……!?)


ふと思いこんでいた紫は、周囲からある違和感を感じ取っていた。何か気配を感じる。気のせいかとあたりを見渡すが、目に映る敵はいない。しかし、気配は少しずつ彼女に近寄っていた。


(まさか!!)


彼女はふと振り返ってみる。

そこには、半透明の物体が、目と鼻の先で何かをしようとしていた。


「くっ!?」


間一髪でそれを避けた紫は、身をねじりながらその半透明の物体を地面にたたきつける。その瞬間、大きな機械音が辺りを駆け巡った。

半透明の物体は全く動かなくなり、その姿をあらわにしていく。


「こ……これは!?」


そこにいたのは、ずいぶんと前に基地でみていた、アンドロイドの姿だった。


「それって……!?」


アンドロイドが姿を現した瞬間、付近から違った気配が彼女達にむかっていた。もちろん、他にもアンドロイドがいるという証拠だ。

へたに動けば、弾幕を避けきれなかったり、アンドロイドに気が回らず攻撃を受けたりと、かなり危険だ。霊夢は、三人をそばに集めると、結界をはり時間を作り始めた。


「まずいわね。能力も弾幕もない。力だけならなんとかと思ったけど……これじゃあ」

「そうね。でも、短時間で決着をつけないと」

「どうもこうもないわ。これをよけながら行くしかないじゃない」

「それはそうですが姫様……!」


ふと視線を前に向けた瞬間、永琳は結界越しに半透明の物体が三体、何かしようとしたのが見えた。何か振りかぶったような姿勢をとり、攻撃をしようとする。

攻撃は結界にはじかれていたが、なぜか彼らは攻撃をやめようとはしない。


「何をして……!」


よく見ると、攻撃の度に結界がゆらゆら揺らいでいた。それもどんどん薄くなり、今にも壊れそうになっていた。

霊夢を見ると、明らかに疲れ果てた様子をしていた。息は荒くなり、思考も定まってないみたいだ。

「霊夢!!」

「三人とも……結界きるわよ……あとはなんとか……しなさい」


霊夢はそう言って結界を解く。余程のダメージだったのか、彼女は一瞬ふらついていた。

そしてそれが、彼女に大きな隙を作ってしまった。


(やば……)


霊夢は自分の目の前に半透明の物体があることに気付いていた。だが、体が思うように動かない。力を押さえられていた彼女は、結界の使用でかなりの力を消費していた。それが体のダメージを大きくしていたのだ。

物体はどこからどう見ても攻撃しようとしている。


「霊夢!!」


紫は手をのばすが、間に合いそうにもない。

最悪の事態。だが誰も止めることはできない。四人はただただ、それをみることしかできなかった。









だが、そのあとに聞こえてきたのは、金属がはじきあったような、音程の高い音だった。


「えっ……?」


なにがおこったかわからず、呆気にとられる四人。

彼女達の目の前には、フードをかぶりナイフを持った人物が、霊夢を守るようにして立っていた。
 
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