東方攻勢録
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第三話
俊司達が博麗神社にむかう一・二時間ほど前、永遠亭では次の戦いに向けた準備を行っていた。
二日前、紅魔館を襲撃・奪還した彼女達は、この状況を利用して一気に攻めていこうと考えていた。地上の拠点をほとんど失った革命軍は、非常に追いこまれているはず。ここでもう一つ拠点を落とすとなると、相手は必死に防衛してくるに違いない。
今の彼女達は士気が高まっている。確実に流れがこちら側に向いてきていた。
「さて、地霊殿と天界……どっちにむかうべきかしら」
「私は地霊殿がいいと思うわ。あそこはやつらの研究施設があるのでしょう?」
「それもそうね……」
ある一室では、スキマ妖怪『八雲紫』と、永遠亭の医者である『八意永琳』が話をしていた。内容はもちろん、次に攻め込む拠点について。
「ところで冥界はいいの?」
「あいつらは冥界に拠点は作らなかったと言ってたわ。死者のいるような場所に造るものじゃないって」
「なるほど。死者への思いやりはあるのね」
「どうかしら。攻め込んだことには変わりないんだし」
真剣な話し合いだが、たまに笑みもこぼれて和んでいた。
そんな時だった。
「紫……ちょっといい?」
そう言って入ってきたのは博麗の巫女『博麗霊夢』だった。なぜか真剣な顔つきをしており、どことなくあせっている感じがする。
そんな彼女を見て、紫はなにかいやな予感がしていた。
「……どうかしたの?」
「……博麗神社に誰か潜入してる」
「!」
霊夢はその場に座ると、事態を軽く説明し始めた。
「異変を感じ始めたのは昨日のことからよ。博麗神社周辺に巻いていた札の結界が、何回か物を防ごうとしたわ。もちろん、今に始まったことじゃなかったから、別に大丈夫だろうと思ってた……でも、時期が悪かったみたい」
「時期が?」
「うん。ちょうど札の効力が弱まってくる時期だったから。外来人なら破れるわけないだろうと思ってたのだけど……今日の早朝ね。結界が破られて潜入された」
「数はどのくらい?」
「わからない……どれくらいの規模なのか、何が目的なのか……」
霊夢は困り果ててるようだった。
博麗神社での異変ならば、すぐにでも調べに行くべきだろう。しかし、規模もわからないなら安易な行動なんて出来ない。
「どうしようか……と言いたいところだけど、行かないとまずいわよね」
「ええ。それで相談しに来たのだけど……」
「ならここにいる人で行きましょうか?」
そう提案したのは永琳だった。
「ここにいる人って……三人で?」
「ええ。あまり多人数で行くと目立つでしょう? それに、私自身もそろそろ外で戦わないといけないって思ってたところだし」
「なるほど……まあ偵察に行くくらいなら、少人数でもいいわね」
「そうね……じゃあ十分後、中庭に集まって頂戴」
一同は軽い打ち合わせを終え、準備のため解散した。
十分後、中庭に集合した一同だったが、なぜかその中に黒髪のロングヘアーの人物が混ざっていた。
「……なぜあなたがいるの?」
「なにって、部下が戦場に出るのよ? ついて行かないわけないじゃない」
「ごめんなさいね。姫様に聞かれてたみたいで、言うことを聞かないのよ」
「あたりまえよ」
そう言って、月の姫様は踏ん反りかえっていた。
「本音を言うと?」
「妹紅ばかりにいいところ見せられたくないから」
「……そんな事だろうと思いましたよ」
「まあいいじゃない。で?博麗神社の偵察でしょ?さっさと終わらせてしまおうじゃないの」
「姫様、一応敵の規模がわからないのですから、慎重にお願いしますね」
「わかってるわ」
自信ありげにしゃべる輝夜だったが、誰もが心配していた。
「じゃあ行きましょうか」
「ええ」
紫がスキマを展開させると、一同はゆっくりと中に入って行った。
スキマを抜けると、そこは博麗神社周辺の森の中だった。
辺りに人や妖怪の気配はなく、辺りは木々が静かに立っていた。紫達は警戒をしながらもゆっくりと進んでいく。
数分後、目の前には半透明のカーテンみたいなものが現れていた。
「これが結界かしら?」
「ええ。やっぱり効力が薄くなってたわね……波打ってる」
霊夢は結界のそばに近寄ると、お祓い棒で結界をつつく。すると、結界は神秘的な音と共にスッと消え去った。
手をかざし通れるようになったのを確認すると、一同は再び歩き始めた。
「この結界に反応があったのよね?」
「ええ。感覚的には突き破る感じかしら」
「突き破る……革命軍にも結界を解ける人物がいたのかしら?」
「それはどうかな……結界が弱くなっていたのもあるし、少し強力な攻撃で破壊されてもおかしくはなかったからなぁ」
「とにかく神社に行ってみればわかることよ。ほら、見えてきた」
森の先には茶色い木製の建物が見え始めていた。赤い鳥居もかすかに見えている。
森を抜け神社に近寄った紫達は、辺りを見渡して異変がないか調べ始めた。しかし、どこを見ても革命軍の姿は見当たらない。
「誰もいないわね……」
「……気のせいだったのかな? でも、そんなはずは……」
「ちょっと! あんた達こっちに来なさい!!」
神社の裏側を探していた輝夜が、急に紫達を呼び始める。
「なによ輝夜」
「これ」
そう言って輝夜が指さしたところには、神社には決してないもの……いや、誰もが見たことのないような機械が置かれていた。
機械には四つの取っ手とふたが付いており、軽くコードも見え隠れしていた。かすかだが、変な音も発している。
「何かしら……これ」
「あいつらが置いて行ったのかしら……でも、何のために?」
「わざわざ結界を解いてまでここにもってくる必要性があったのかしら?」
結界を突破してまで革命軍がしたかったことはこのことだろうが、なぜえたいのしれない機械を置くのか想像もつかなかった。
「どうする……?」
「どうするも何も、爆弾とかだったら解除しないといけないじゃない」
「ふたが四つついてるからおそらく爆弾じゃないとは思うけど……」
「でも、わざわざ博麗神社に置くのもねぇ……結界を解くためのもの?」
「博麗の大結界を? そんなにやすやすと解けるものじゃないわ」
「それもそうね……」
「でも、もしそうなら洒落にならないわ」
思考をフル回転させて考えるが、いい方法が思いつくわけでもなかった。
「まったく……なんなのこれは?」
そう言って輝夜は機械に手を伸ばす。
「姫様!」
「大丈夫よ永琳。ちょっと触れただけでなにもないわ」
輝夜は変な笑みを浮かべたまま機械に触れる。
その時だった。
「きゃっ!?」
「ひめさ……っ!?」
強烈な光と高音が一同を襲う。
機械を見ていた四人は光をもろに受けてしまったため、完全に視界を奪われていた。それに、高音のせいでなにも聞こえない。
(しまっ……た……まさか、罠だったの!?)
うかつな行動だったと、輝夜は後悔した。
聴覚と視覚を奪われた四人は、感覚と気配だけを頼りに警戒を続けた。幸いにも、辺りに革命軍らしき人の気配はない。
だが、白くつつまれた世界の中で、一同は両手首に違和感を覚えていた。
(なにかが手首に……引っ張られてる? いや、なにか重いなにかがのってるような感覚……)
そう考えていると、マヒしていた視覚と聴覚が、少ずつ元に戻り始める。
視覚を取り戻した一同は、ふと両手首を見てみる。
そこには緑と青の手錠が一つずつぶら下がっていた。
「て……手錠?」
「なんでまた手錠なんて……しかも拘束するためじゃなく、くっつけるだけ?」
「これが罠……とにかく危険ね。一旦永遠亭に引き返して……!?」
後ろを向いて何かをしようとした紫だったが、ピタリと手を止めると急にしゃべらなくなってしまった。
「……紫?」
「……かえない」
「え?」
「スキマが……使えない」
手を震わせながら、紫はそう言った。
「はあ? 何言って……」
「使えない……というよりかは制限されてる……に近いのかしら」
紫はそう言うと、手のひらサイズのスキマを展開させていた。
それを見たいた永琳は、ふと何かに気づいたようにハッと目を見開くと、ゆっくりと目を閉じて何かを考え始めていた。
「まったく、じゃあ私の能力でなんとかして……」
そう言いながら輝夜は何かをしようとするそぶりを見せる。
「……あ……れ?」
しかし、自身の異変に気付いたのか、冷や汗を出しながら動きを止めてしまった。
「輝夜……」
「なんで……どうして……」
理由もわからず呆気にとられる輝夜。そんな中、ふと目を開けた永琳が、急に口を開いた。
「霊夢……一度飛んでもらえる?」
「え?」
「いいから」
真剣な目つきをしたままそう言った永琳におされ、霊夢はしぶしぶ飛び上がろうとする。
だが、二十cmくらい浮き上がったところで、その体はピタリと止まってしまった。
「え……あれ?」
「やっぱり、全員こうなってるのね」
「どういうことよ永琳!」
「私もさっきまでわかっていたはずの強力な薬の調合方法が……今になってわかりません」
「はぁ? なんで私達の能力が消えるような……こと……」
そう言いかけた霊夢も、ついに何かに気付いたようだった。
「簡単な話……今この手錠によって、私達の能力は拘束されてる」
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