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パンデミック

作者:マチェテ
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第三十三話「暗殺者」

ーーー本部防衛作戦開始から30分………


エクスカリバー本部の第1装甲壁が破られ、防壁内には無数の化け物が侵入してきた。
防壁内は僅か30分の間に、地獄と化した。

その頃、本部の中枢でも、ある混乱が起きていた。




ーーー【エクスカリバー本部内・通路】


「急げ!応援要請がきた!」

「衛生兵、まだか!?」


武装した兵士達が慌ただしく通路を行き来している。
一刻の猶予も与えられない、緊迫した状況で歩いている兵士など一人もいない。


「誰か来てください!!本部内に感染者が!!」


一人の兵士が、信じられない言葉を叫び出した。

「なっ、本部内に!?」

「嘘だろ!?防壁がまだ2つあるはずだ!それももう突破されたのかよ!?」

「クソッ!どこだ!?感染者は!」

「こ、こっちです!急いで!」

感染者侵入を叫んだ若い兵士が、他の兵士達を誘導し始めた。




ザシュッ



兵士達の無防備な背中に、抉るような斬撃。
突然の不意討ちに対応できるわけもなく、兵士達は呆気なく血塗れの死体に変わった。

「ゴフッ…………なん……だ………どうなって………!?………何故、お前……が……………」


一人の兵士が死ぬ間際に見たのは、感染者の本部侵入を叫んだ若い兵士だった……








「ここまで、簡単に誘い出せるとは……これは思ったより早く本部を制圧出来そうですね」

コンバットナイフを手にした兵士を、黒い煙状のものが覆い尽くす。
黒い煙が消え、次に姿を現したのは、若い兵士ではなく、フード付きのパーカーを着た青年……
ジェミニだった。

「潜入していた頃も、今も………警戒心の足りなさは変わらないんですね」






これが、ジェミニの"適合能力"だ。

"万能擬態"

一度触れた物質の特徴を、そのままコピーすることができる。
粒子状のウイルス胞子を放出し、自身の身体に吸着させる。
吸着したウイルス胞子は、ジェミニの意思通りに形質を変異させる。

この能力のタチが悪いポイントは、自分以外にもウイルス胞子を吸着させられる点と、ジェミニ自身に
声帯を変異させる別の能力が重なっている点だ。
他人にウイルス胞子を吸着させれば、時間稼ぎに使える。
声帯を変異させ、化けた人物と同じ声を出されては、もう"見分ける"のは不可能に近い。

適合者の中では、戦闘においては非力だが十分に厄介な能力だ。









「これは………一体何があったの?」

ついさっきまで兵士が走り回っていた通路に、ユニはただ一人突っ立っていた。

「さっきまで、あんなに人がいたのに………」

人影どころか、気配もない。
段々と怖くなってきた。冷や汗が出てきた。

すると、通路の向こうに人影が見えた。
ユニは心の底から安堵した。この状況で一人きりは心細すぎる。

「…………ユニ?」

通路の向こうから現れたのは、ソレンスだった。

「ソレンス?なんであなたが!?」

ソレンスは確か第1装甲壁の防衛に行ったはずなのに……なんでここにいるの?
ユニの頭から、安堵が薄れ疑問が浮かんでくる。

「敵の数が予想外に多くてな……怪我人を担いで本部内に逃げ込んだんだ。逃げ込んだはいいが……
どうなってる?なんで兵士が一人もいない?中に入ってから、このフロアだけ人に会えていないんだ……」

「私も……どうなっているの?ソレンス以外の人に、ちゃんと会えないなんて………」

「とにかく、ここを一旦離れよう」

「…………………うん」




ソレンスに会えた安心感で、ユニは気づくことができなかった。

ソレンスの足元に、僅かに黒い煙のようなものが出ていたことに……… 
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