ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
キラーパンサーに転生
18続・ベビーパンサーは見ていた
ヘンリーくんがさらわれて、ドーラちゃんとあたしはそれを見届けて。
兵士さんと一緒に待ってたパパさんに、ドーラちゃんが大きな声で事情を説明して。
一緒に聞いてた兵士さんがあわただしく動き出して、泣きながら話すドーラちゃんをパパさんは優しくなだめながら、でも素早く状況を確認して。
ドーラちゃんがパパさんと兵士さんの一人をヘンリーくんを見失った場所まで案内して、パパさんは一人でヘンリーくんを追いかけて、兵士さんは報告をしに戻っていって。
「いきましょうか、モモ」
「ニャー」
うん、いこう。
パパさんは待ってろって言ったけど、それはできないんだもんね。
サンタローズの村の人たちを助けるには、あたしたちもいかないといけないんだもんね。
ドーラちゃんは、みんなを助けたいんだもんね。
あたしになにができるかわからないけど、でも最後まで、あたしもドーラちゃんのために頑張るから。
だから、いこう。
そのまま町に出たドーラちゃんは武器屋さんと防具屋さんで手早く買い物をして、あたしにも鉄の爪と毛皮のマントを買ってくれて。
装備を済ませて、町を出ます。
チェーンクロスを装備したドーラちゃんはブーメランだったときよりも攻撃力が上がってるけど、攻撃できる範囲は狭くなってるから。
あたしはドーラちゃんより弱いけど素早さは上だから、敵が出たらまずは一番手強そうな相手か、まとめて攻撃しにくい位置にいる相手を攻撃して、ドーラちゃんの邪魔にならないように素早く離脱します。
そのあとは攻撃を受けても生き残った相手か、ドーラちゃんの攻撃範囲からはずれた相手にまた攻撃して、とにかく急ぎたいらしいドーラちゃんのお手伝いをします。
敵を倒したあとにいつもは集めてるお金や道具も今はいらないみたいで、逃げる相手とか、まだ生きててももう向かってこない相手はそのまま見逃して。
ほとんどお話もしないでひたすら急ぐドーラちゃんに合わせて、あたしも黙って、敵を倒すよりも蹴散らして道を切り開いて、回復の手間を取らせないようにケガをしないことに気を付けながら着いていきます。
途中で倒したスライムナイトが、なんだかドーラちゃんをじっと見てるみたいだったのが気になったけど。
戦意とか殺気とかそういうのではなかったし、急ぐドーラちゃんを追いかけててよく見るどころではなかったので、見えなくなったらそんなことがあったのもすぐに忘れてしまって。
あっという間に、ヘンリーくんとパパさんがいるはずの遺跡に着きました。
遺跡に入ってもまだ急ぐドーラちゃんを、あたしも同じように急いで追いかけて。
またあっという間に、パパさんにも追いつきます。
パパさんの行く手を阻む魔物はまだ残ってたのに、あたしたちの気配にパパさんが振り向いて。
「おとうさん!」
パパさんの背中に襲いかかる魔物の姿にドーラちゃんが思わず叫んでたけど、パパさんは全然動じないで、キレイな動作で魔物を斬り捨てて。
「ドーラ。……どうして、来たんだ」
……いつもと変わらない静かな表情だけど、もしかしてやっぱり、怒ってるのかな?
パパさんがドーラちゃんを怒るなんて、全然想像ができないけど。
でもパパさんの立場なら、きっとここは怒らないといけないんだろうけど!
でも、怒らないであげて!
ドーラちゃんは、ただのわがままでこんなことしたんじゃないの!
パパさんもサンチョさんも村のみんなも、みんなを助けたくて頑張ってるんだから!
説明はできないけど、でもどうか、怒らないで!
みんなのためにこんなに頑張ってるドーラちゃんが、説明できないから仕方ないなんて黙って怒られちゃうのも、そんなに頑張ってることを知らないでパパさんが怒っちゃうのも。
あたしは、どっちもいやだよ!
「……ごめんなさい」
パパさんがなにか言う前に、先にドーラちゃんが謝ってしまったけど。
パパさんから見たら悪いことかもしれないけど、ドーラちゃんはなにも悪いことはしてないのに。
謝るのが一番よかったのかもしれないけど、でもドーラちゃんは、悪くないのに。
パパさんが、ため息をついて言います。
「……来てしまったものは、仕方が無い。説教は後だ。ヘンリー王子を、助けるぞ」
「……はい!」
パパさんはちょっと困ったみたいな顔をしてたけど、でもすぐにドーラちゃんを怒ることはしなくて。
ドーラちゃんはひとまず連れていってもらえることになって、嬉しそうな顔をしていて。
……このあとすぐにお説教ができることなんてないって、ドーラちゃんとあたしは知ってるから。
ドーラちゃんはどう思ってるかわからないけど、すぐに怒られることがなくて、よかった。
ずっと先に、パパさんをちゃんと助けられたら。
そのときは、パパさんにもちゃんと説明できたらいいのに。
パパさんがちゃんとわかってくれて、ドーラちゃんを怒らないで、褒めてくれたらいいのに。
そのときになっても、ドーラちゃんは自分では言わないかもしれないから。
あたしがお話しできたら、ドーラちゃんが言おうとしないこともかわりにちゃんと説明して、わかってもらうのに。
ドーラちゃんは一人で頑張って、自分が悪いみたいになっても、結果がよければそれでいいって思ってるのかもしれないけど。
でもあたしは、そんなのいやだ。
パパさんだって、そんなのきっと、いやだよ。
そんなことを思ったけど、今のあたしにできることはなにもなくて。
ずっと先のそのときになっても、やっぱりできることなんてないかもしれないけど、それを気にするよりも今は他にすることがあるから。
パパさんとドーラちゃんのあとに着いて一緒にイカダに乗って、ヘンリーくんのいる牢に向かいます。
牢の中でなんだかいじけてたヘンリーくんを、パパさんが殴って叱って。
……ドーラちゃんのお話で、ヘンリーくんは納得してくれたのかと思ってたけど。
やっぱり、そんなに簡単にはいかないのかな。
自分のせいでパパさんが死んじゃって、ドーラちゃんも巻き込んじゃうのかもしれないって。
やっぱりまだ、そんな風に思ってるのかな。
もしそうでも、それはヘンリー王子さまに生まれたからそうなってるだけで。
ヘンリー王子さまに生まれた、この人のせいじゃないのに。
パパさんが追っ手の魔物を引き受けて、あたしたちはイカダに乗って入り口を目指してる間、ドーラちゃんとヘンリーくんはそんなことを話してたけど。
そのうち、ヘンリーくんがこんなことを言い出して。
「……なあ、なんでそんな、平気そうなんだ?お前の、父親だろ?」
……平気なわけ、ないじゃない!
ドーラちゃんが頑張って我慢してるのに、なんてこと言うの!?
この方法を選ぶのに、どんなにドーラちゃんが考えて、悩んで、苦しんだかって!
なにも、知らないで!!
あたしはもう本当にヘンリーくんを引っかいてやりたくて、でもドーラちゃんが我慢してるのにあたしだけそんなことしてる場合じゃないって、必死で自分を抑えてたけど。
「平気だと、思うの?」
ドーラちゃんの抑えた声に、あたしの抑えてた気持ちが本当に鎮まって。
……今、ヘンリーくんに当たり散らしても、なんにもならないんだ。
ヘンリーくんがその程度のこともわからない人なら、それはそれで。
あたしたちは、あたしたちがしないといけないことを、ちゃんとしないと。
それは、ヘンリーくんを引っかいて気を晴らすことなんかじゃないんだから。
「……思わねえけど。落ち着きすぎだろ」
……本当に平気だって、ヘンリーくんもそんなことを思ってたわけじゃないんだ。
だからって、あんなこと言っていいわけじゃないけど。
「今は、他に、やることがあるの。のんびりくよくよ考えていい時間は、今じゃ無いの」
そうだね、ドーラちゃん。
今は他に、やることがあるんだから。
余計なことに、気を散らしてる場合じゃない。
「……だけど、そんな……簡単に……」
ドーラちゃんは、簡単に考えて決めたわけじゃないって。
あたしはしゃべれたら、きっとヘンリーくんにそう言ってたけど。
「君に、ゆっくり考える時間をあげられないのは、悪いと思うけど。私はもう十分考えたし、諦めたわけじゃ無い。今は、どうにも出来ないだけ」
ヘンリーくんが言ってるのはドーラちゃんのことじゃなくて、自分のことだったって。
ドーラちゃんのお返事を聞いてわかったから、このときはあたしはしゃべれなくてよかったのかもしれない。
「今は……?」
「それも、後で説明するから」
ドーラちゃんはヘンリーくんがなにを考えてそんなことを言ってるのか、あたしなんかよりもきっとよくわかってるけど。
だから、あたしはしゃべれなくて、口を出せなくて今はよかったのかもしれないけど。
でも、もうそろそろ、本当にやめてほしい。
ヘンリーくんもつらいかもしれないけど、今、一番つらいのは、絶対にドーラちゃんなんだから。
そんなグチみたいなことを、今のドーラちゃんに、いつまでも聞かせないでほしい。
「今は、私を信じて」
そう、ドーラちゃんを、信じて……。
……ドーラちゃん。
ドーラちゃんって、確かヘンリーくんと、結婚したくないんだよね……?
なんでこう、ところどころでそういうこと言うのかな……?
うん、全然そんなつもりはないって、わかってるけど。
ヘンリーくんも、別に言われた意味を勘違いなんて、してないと思うけど。
でもこんなに弱ってる感じのヘンリーくんに、信じてついてこいみたいな……。
それもなんだかちょっと、プロポーズみたいだと思うの……。
「……わかったよ。悪かった」
ほら、さっきまであんなに弱ってたヘンリーくんが。
なんだかちょっと持ち直して、落ち着いてるし。
女の子にイカダを漕がせてるのに気が付いて、カイに手を伸ばしてきてるし。
「……代わるよ」
「レベル1でしょ?無理しなくていいよ」
「……」
……ドーラちゃん!
確かにどう考えても、ドーラちゃんのほうが力も強いと思うけど!
たぶんドーラちゃんのことを好きな男の子に、それはちょっと……!
……うん、仕方ないよね。
命がかかってるんだもんね、そんなこと気にしてる場合じゃないよね。
それにドーラちゃんはヘンリーくんと結婚したくないんだから、意識してる部分でなら、むしろこっちのほうが自然だよね。
他にもヘンリーくんのことを戦力としては全く当てにしてないようなことをドーラちゃんがあっさり言うのを、ヘンリーくんはまたあっさり聞き入れるので、さっきまで引っかきたくてたまらなかったはずのヘンリーくんに、あたしはついつい同情してしまって。
……自分より明らかに強い女の子から、イカダのカイを引き取ろうとする男の子が。
好きな女の子に守られるような感じになっちゃって、平気そうにしてたって、平気なわけないよね……。
……大丈夫!
今は弱くても、この先十年間は一緒なんだから!
今は弱くても、ちゃんとドーラちゃんを気遣って、力さえ付けばきっとドーラちゃんを守ろうとしてくれるヘンリーくんが一緒にいてくれるなら、あたしも少しは安心だし!
二人が無事にドレイになれるように、あたしも頑張るからね!!
ページ上へ戻る