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ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝

作者:あさつき
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キラーパンサーに転生
  19終わりと始まり

 イカダから降りて、ドーラちゃんとヘンリーくんと一緒に遺跡の入り口に戻って。

 今まで感じたことのない、強くて気持ちの悪い気配に、思わず立ちすくみます。

 ……雪の女王さまも、かなり強いと思ったけど。
 そんなレベルじゃない、戦って勝てるなんてそんな気が全然しない、あたし一人ならとっくに逃げ出してる、次元が違う強さとまがまがしさを感じさせる、そんな気配。

 あたしたちを順番に見渡して、最後にドーラちゃんに視線を戻したソイツはなにかを言ってたけど、あたしはそんなの全然聞いてる場合じゃなくて。
 ケモノの衝動に負けないようにその場に踏ん張って、ただ逃げ出さないようにしてるだけで精一杯だった。

 そうやって必死に踏み留まって敵をにらみつけるあたしの耳に、ドーラちゃんの声が聞こえてきて。

「……ヘンリー!!下がって!!」

 あたしにはなにも言わずに、ドーラちゃんが武器を構えて敵に向かう後ろ姿が目に入って。

 ……あたしは、ドーラちゃんを助けてあげるんだから!
 ちょっと強い敵が出てきたからって、怯えて、固まってる場合じゃない!
 ドーラちゃんをひとりぼっちで戦わせるなんて、あたしは、そんなのはいやだ!!

 金縛りにあったみたいに動かなかった体が急に動くようになって、あたしも敵に向かって駆け出します。

 敵はゆっくりと持ち上げた手から火の玉を放ってきて、あたしは出遅れたぶんだけ反応が遅れて。

「くっ!」
「キャンッ」
「ひっ」

 ドーラちゃんはなんとか避けられたみたいだけど、あたしは避けきれずに火の玉がお腹をかすって。
 後ろのヘンリーくんも悲鳴をあげてたけど、当たってたらあんな程度ではすまないだろうし、後ろのことまで気にしてる余裕はあたしにはない。

 焼けつく痛みをこらえながら、そのまま敵に向かって鉄の爪を振るいます。

 先に向かってたドーラちゃんに追いついて、二人で同時に攻撃をしかけるような形になったけど、敵は避けようともしないで軽く腕を振って、ドーラちゃんとあたしをまとめて吹き飛ばして。

 あたしはなんとか着地したけど、視界の端でドーラちゃんが転んでるのが見えます。

 ……今、あんな状態で、ドーラちゃんが攻撃されたら。
 ドーラちゃんが、死んじゃうかもしれない。
 殺されはしなくても、時間をかせがないといけないって言ってたのに。
 一番強くて、回復ができるドーラちゃんが、最初にやられちゃったら。
 時間をかせげなくて、パパさんがくる前にドーラちゃんたちはさらわれて、ドーラちゃんの予定通りにいかなくて、サンチョさんが、村のみんなが。

「モモ!ダメ!戻って!」

 あたしは、ドーラちゃんを助けてあげるんだから。
 そのためなら、あたしの命なんて惜しくない。
 本当は、あたしだって死にたくないけど。
 もっと、ずっと、ドーラちゃんと一緒にいて、もっとドーラちゃんを助けて、一緒に楽しく過ごしたいけど。

 でも、ドーラちゃんがいないなら、あたしだけ生きてても意味がないの。
 ドーラちゃんが死んじゃったら、あたしが生きてても、意味がないの。
 あたしがあたしのままでいるには、生きていくには、どうしてもドーラちゃんが必要だから。

 あたしがドーラちゃんを助けて死んじゃったら、きっとドーラちゃんは悲しむと思うけど。
 でもあたしが死んでも、きっとドーラちゃんは生きていってくれるから。
 あたしのせいでドーラちゃんを悲しませてもドーラちゃんに生きててほしいだなんて、そんなのあたしのわがままだってわかってるけど。
 でも、それでも生きていてくれるなら。

 小細工もしないでまっすぐ向かっていくあたしに、また敵はゆっくりと手を持ち上げて、指先を向けてきて。

 ……さっきの魔法、正面からまともに受けたら、きっとあたしは死んじゃうけど。
 でもこれで時間がかせげたから、ドーラちゃんは体勢を立て直せるから、そしたらドーラちゃんは大丈夫。

 ごめんね、ドーラちゃん。
 甘えてばっかりで、最後に勝手なことして。
 でもドーラちゃんはどうか、生きていて。

 魔法が放たれようとしてるのにも構わず、まっすぐ突っ込んでいくあたしの背後で、また叫ぶ声がして。

「モモ!!」
「メラ!!」

 きっと死んじゃうけど、でも死んでもぶつかっていくつもりで突っ込んだのに、目の前で火の玉は上に逸れて、あたしは抵抗なく攻撃をしかけることができて、驚きながらもまた距離を取って。

「……少々、おイタが過ぎるようですね?」
「ひっ……!!」

 敵が、いま攻撃したあたしじゃなくて、後ろにいたヘンリーくんを見ています。

 ……そっか、『メラ』って聞こえた。
 小さな火の玉が、飛んでいくのも見えた気がする。
 ヘンリーくんが、助けてくれたんだ。

 ありがとう、ヘンリーくん。
 あたしは、ドーラちゃんのためなら死んでもよかったけど。
 でもやっぱり、死にたくなかったから。
 ヘンリーくんが助けてくれたから、あたしはまだ戦える。
 まだ、ドーラちゃんを助けてあげられる。
 あたしのせいで、ドーラちゃんを悲しませることもない。

「お前の相手は、私だあああ!!」

 ヘンリーくんをかばって、敵の注意を引くように叫びながら向かっていくドーラちゃんに、あたしも続きます。

 積極的に攻撃を当てようとしないで、牽制して自分たちが攻撃を受けないようにしてるドーラちゃんを見て、あたしも撹乱を始めます。

 これなら、たくさん練習したんだから!
 あのときよりレベルも上がってるし、簡単には負けない!
 絶対に、必要な時間はかせいでみせる!

 敵がなにか言ってるのはほとんど耳に入らないくらい集中して、動き続けてたけど。

「……!!モモ!!下がれ!!」

 ドーラちゃんが鋭く叫んだのははっきり聞こえて、素早く後ろに下がります。

 ドーラちゃんが盾を構えて身を守ってるのを確認しながら、あたしも身を縮めて守りの姿勢を取って。

 大きく息を吸い込んだ敵が、大きく吐き出したと思ったら、目の前に火炎が迫っていて、避けようにも範囲が広くて逃げ場がなくて。
 縮こまって顔を伏せて、目をつぶって息を止めて。
 必死にこらえるけど、熱さと痛みと息ができないのとで、だんだん気が遠くなってきて。
 火炎が収まってようやく息ができるとほっとすると同時に、赤かった視界が白くなって、そのまま意識を失ってしまったようでした。





 意識を失ってる間のことは、よく覚えてないけど。
 でも全く感覚がなかったわけじゃなくて、焼けて痛んでた体が途中で急に楽になって、楽に息ができるようになって。

 温かいなにかに包まれて、でもすぐに離れていってしまって、寂しくて。

 追いかけたいのに体は動かなくて、目も開けられなくて。

 なにを言ってるのかはわからなかったけど、でも懐かしい感じがする声が聞こえて、だけどそれがとっても悲しそうで、あたしも悲しくなってきて。

 また熱い空気が動くのを感じて、本当に悲しそうな叫び声を聞いた気がして、すぐに静かになって。





 あたしが気がつくまでに、どれくらいの時間が経ってたのかわからなかったけど。

 でも、気がついたときには誰もいなくて、あたし一人だった。

 ドーラちゃんの焼け焦げたケープの他に、パパさんの剣もそこにあったから、きっとうまくいったんだろう。

 うまくいって、それでパパさんは、やっぱり死んじゃったんだ。

 体はだるかったけど、ドーラちゃんが治してくれたのか、ケガは完全に治ってて。


 いろいろ考えてしまって顔を落とすと、焼け焦げて切れたリボンがそこに落ちてました。

 ……ビアンカちゃんにもらった、ドーラちゃんとお揃いのリボン。
 こんなになっちゃったんだ。

 こんなになっても、大切な思い出のリボンをそのまま捨てていくなんて、本当はしたくなかったけど。

 だけどパパさんの剣を運ぶだけでも大変なのに、このリボンまで一緒にくわえていくなんて、海を越えて運んでいくなんて、きっとできない。
 もうすぐ兵士さんたちが追いついてくるだろうから、その前に急いで剣を持って、ここを出ないといけないのに。
 兵士さんたちがきたらきっとパパさんの剣は持っていかれてしまうし、人間と一緒にいないあたしはどう扱われるかわからない。
 パパさんの剣を持ってないあたしを、ドーラちゃんがわかってくれるかどうかもわからない。


 後ろ髪引かれるのを振りきって、パパさんの剣だけをくわえて歩き始めます。

 ……どこにいったらいいんだろう。
 ゲームだとすぐに十年後で、キラーパンサーはあの洞窟にいて、村の畑を荒らしてるけど。
 それまでの十年間、あたしはどこでどうしてたらいいんだろう。

 わからないけど、今はとにかくここを出なくちゃ。

 どうしたらいいか全然わからないけど、でもあたしは絶対にまた、ドーラちゃんに会いたいから。

 頑張って、十年間、生き抜こう。 
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