ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝
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キラーパンサーに転生
17ベビーパンサーは見ていた
あたしとドーラちゃんとおんなじで、前世の記憶があるってわかったヘンリーくんと、ドーラちゃんがお話ししてます。
「早速だけど。俺、独りで誘拐されるから。放っといてくれ」
ヘンリーくんは、一人で誘拐されるつもりなんだ。
未来のドーラちゃんのお話を聞いてなかったら、あたしもそれがいいと思ったかもしれないけど。
あたしたちになにか悪いことをしたわけじゃないヘンリーくんが、死ねばいいなんて思ってないけど。
あたしが一番生きててほしいドーラちゃんと、ドーラちゃんの大事なパパさんが、それで助かるっていうんなら。
ヘンリーくんだって、ドレイにはされても死なないはずなんだから、ドーラちゃんたちだけでも助かるならって。
だけどそうはならないことを、あたしもドーラちゃんも知ってるから。
「お断りします」
ドーラちゃんは、断るしかない。
あたしだって、それでいいなんて思えない。
……でもこんなに可愛いドーラちゃんを前にしても、予定通りに一人で誘拐されようとするなんて。
中身は大人でも、ロリコンの変な人ではないみたいだね!
うん、下がりきった株が、ちょっと持ち直したかも!
「……なんでだよ。お前、親父が死んでもいいのか?仮にも、親だろ?」
ヘンリーくんは、やっぱりパパさんを助けてくれるつもりなんだね。
ロリコンでもないし、自分がドレイにされるからってヤケになって他の人を巻き込もうとはしてないし!
結構いい人かも、このヘンリーくん!
ドーラちゃんが、未来のドーラちゃんから聞いたお話を簡単に説明して、ヘンリーくんも驚いてたけど理解はしてくれたみたいで。
「とにかく、ゲーム通りに、誘拐されたヘンリーをパパ……スと私が追いかけて、私がヘンリーと一緒に奴隷やるのが、一番被害が少ないの」
「……俺は、王妃と組んで、俺の誘拐を仕組んでる。俺は、誘拐された後は、他の国に逃がしてもらえる手筈になってる」
でも理解してくれるのと、信じて納得してくれるのは、やっぱり別みたいで。
……もしも、ヘンリーくんの言う通りに、うまく逃がしてもらえるんなら。
弟のデールくんと王位を争わされたり、魔物が入り込んでくるかもしれなかったり。
嫌なことがたくさんあるこの国からせっかく逃げ出せるチャンスなのに、パパさんが追いかけてきたら台無しになっちゃうってことだよね。
だけど、もしもほんとにそうだったら。
ヘンリーくんが言う通りの、王妃さまと仕組んだだけの誘拐だったなら。
パパさんが追いかけたせいでヘンリーくんが逃げるのに失敗するんだとしても、パパさんを殺せるような魔物はきてないはずだし、ドーラちゃんだってドレイにされるなんてことはないはずで。
ほんとにそうだって思ってるなら、パパさんが死んでもいいのかなんて、なんでドーラちゃんに聞いたの?
ヘンリーくんは、ほんとにそう思ってるの?
ドーラちゃんはなんとか信じてもらおうとして、説明を続けてるけど。
ヘンリーくんは、そういうんじゃない気がする。
全部を信じてないのはそうかもしれないけど、自分が助かるためって、そういうんじゃない気がする。
あたしが思ったように、ドーラちゃんも思ったのかはわからないけど。
「お願い。付き合ってもらっても、返せるものとか、無いけど。あなたからすれば、ただのゲームの中の、モブでも。私には、六年近く一緒にいた、大事な人たちなの。助けたいの。あなたのことも、ウソは言ってない。お願いだから、私を信じて。私に、あなたの人生を、預けて」
説明をやめて、自分の気持ちを伝えて、お願いしてました。
……最後のそれって、なんだかプロポーズみたいだけど……。
ヘンリーくんはかなりしっかりしたいい人みたいだし、ドーラちゃんがいいっていうなら、あたしはそれでもいいと思うけど。
でもドーラちゃんは、ヘンリーくんとは結婚したくなかったはずじゃ……。
ドーラちゃんってしっかりしてるようで、結構うっかりしてるところあるよね……。
いろんな意味でハラハラしながら見守るあたしの前で、見つめ合うドーラちゃんとヘンリーくん。
事情を知らなかったらこれも、可愛い女の子とステキな王子さまが、熱く見つめ合ってるみたいに見えるよね……。
今にも将来を誓い合いそうな……。
ドーラちゃんは熱く見つめる視線をいつまでも逸らさずに、ヘンリーくんのほうが目を逸らします。
「……あー!もう!わかったよ!」
照れ隠しみたいに、頭をガシガシかいてるけど。
……これって……。
「……信じて、くれるの?」
思い詰めてちょっと泣きそうな感じだったドーラちゃんが、とたんに顔を輝かせます。
……可愛いなあ、ドーラちゃん。
でもこのタイミングでそんな可愛い顔して、いいのかなあ……。
「……別に、そこまで疑ってたわけでも無いしな。奴隷とか、避けられるもんなら避けたかったけど。そのせいで人が死ぬなら、話は別だからな」
ヘンリーくんがまた照れ隠しみたいに、言い訳みたいなことを……。
アルカパのバカな男の子たちみたいに、わかりやすく赤くなってるなんてことはないけど。
前世の記憶があるっていう大きな共通点がある、精神年齢も近い、こんなに可愛い子に、必死にお願いされて。
しかも相手のためって思って聞かずにいただけのことを、根負けして受け入れたっていうだけで。
「ありがとう!本当に、ありがとう!」
さっきまで泣きそうな顔をしてた女の子に、花が咲いたような笑顔っていうのかな、そんな風に思いっきり喜ばれて、手を握られちゃって。
そんな風に、されたら。
……好きになっちゃうと思います。
いま赤くなってないのだって、たぶんヘンリーくんの中身が大人だからで。
ロリコンじゃないなら今のドーラちゃんはそういう目で見られないかもしれないけど、十年も経ったら大人になるんだから……。
ドーラちゃんは全然そんなつもりないだろうけど、ヘンリーくんからしたら、もう運命の相手とか思っちゃうんじゃないかな……。
……うん、それならそれで。
最終的にヘンリーくんはやっぱり合格ラインだったし、前世のことも全部わかってるヘンリーくんがドーラちゃんをずっと守ってくれるなら、きっとそれが一番いいよね。
ドーラちゃんだってヘンリーくんが嫌なわけじゃなくて、コリンズくんが嫌って言ってたし。
ヘンリーくんの頑張り次第では、ドーラちゃんの気持ちも変わるかもしれないし。
マリアさんのこととかこの国のこととか、他にもいろいろ問題はあるから、そう簡単にはいかないと思うけど。
ドーラちゃんがハッと気が付いたようにヘンリーくんの手を離して謝ってるけど、もう手遅れだと思います。
「……一応、聞くけど。中の人……女?」
ほら。
このまま好きになっちゃっても大丈夫かどうか、それは最終確認だと思う。
「そうですが、なにか?」
やっぱりドーラちゃん、わかってない。
あたしがお話しできたら……ううん、それでも余計なことは言わないほうがいいよね。
応援するのと邪魔するのと、どっちがドーラちゃんのためになるかわからないんだから。
「……聞くけど。中の人……男?」
ドーラちゃん、この流れで聞きたくなる気持ちはわかるけど。
「当たり前だろ!!」
ヘンリーくんからしたら、ムキになっても仕方ないと思う。
もう好きになっちゃったのか、これから好きになりそうなのかわからないけど、そんな風に思ってる女の子にそんなこと聞かれたら。
「……そろそろ、時間だ。俺は予定通り、拐われるけど。お前はお前で、勝手にやれよ」
ヘンリーくんてばまた、そんな照れ隠しみたいな。
助けようと思ってもできないんだから、仕方ないかもしれないけど。
「おうともさ!」
ドーラちゃんはドーラちゃんで、すっかり元気になって。
相手がヘンリーくんだからか、もう残念さを隠そうともしてないし。
「……え?そんなキャラ?」
ヘンリーくんが、なんだか意外そうな顔をしてるけど。
「おおむね」
「……まあ、いいか。じゃ、後でな」
「うん!後でね!」
こういうの知ってる、あばたもえくぼっていうの。
好きになっちゃったら、そんなところももう可愛く見えるだけだと思う。
あたしだってそうだし。
ちょっと残念なところを見せたくらいじゃ、きっともう無理だと思う。
……でも、あたしはドーラちゃんがちゃんと生きてて、幸せになってくれればいいんだから!
ドーラちゃんもヘンリーくんを好きになって結婚するかどうかはともかくとして、ヘンリーくんが十年間ドーラちゃんを守ってくれるなら、それはきっといいことだよね!
うん、ドーラちゃんの予定通りに無事にヘンリーくんと一緒にドレイになれるように、あたしも頑張るからね!
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