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ドリトル先生の来日

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第一幕 困っている先生その三

「この通りね」
「それならいいけれど」
「まあ生きてはいるよ」
「患者さんはいないのね」
「今日も一人も来てくれないよ」
 先生は困った顔で妹さんに言うのでした。
「どうしようかな」
「どうしようって言われてもね」
 サラはお兄さんの言葉に首を左に傾げさせて答えます。
「それがね」
「不況だからだね」
「私の家も困ってるのよ」
「ご主人のお仕事もかい」
「そう、主人も困ってるのよ」
「ご主人は会社を経営していたね」
「小さな会社だけれどね」
 お茶を売っている会社です、イギリス人にとってお茶は欠かせないものです。
「ところが不況でね」
「皆お茶を買ってくれないんだ」
「それで困ってるのよ」
「患者さんもいないしお茶も売れないって」
「イギリスはどうなるのかしら」
「さてね、もうアメリカに抜かれて中国に抜かれて日本に抜かれてだからね」
 大英帝国はもう昔のことになっています。
「オリンピックは失敗したみたいだし」
「オリンピックの話は止めましょう、腹が立つばかりだから」
 サラはこの話は無理に止めました。
「サッカーといいフェシングといい柔道といいね」
「何かあったのかな」
「兄さんはスポーツに興味ないから知らないのね」
「うん、何かあったのかい?」
「知らないならそれでいいわよ、知ったら知ったで怒るから」
 サラはむっとした顔でお兄さんにお話します。
「とにかく、今のイギリスはね」
「不況だね」
「不況になったら長いし深刻だから」
「イギリスの場合はそうだね」
「今はヨーロッパ全体がよ、どうしようもないわ」
「それでこっちもなんだよ」
 先生はまた自分の病院の現状をお話するのでした、何しろ暇で暇で今も動物達と一緒にここでお話をしている位です。
「患者さんがいなくてね」
「往診に出たら?それか割安にするとか」
「お金は元々安いよ、うちは」
 先生はお金にはあまり興味がありません、ですから治療費もかなり安いのです。ですがそれでもなのです。
「けれどそれ以上に不況だから」
「病院に行くお金もないのね」
「そうなんだよね」
「まあね、私も今は多少の風邪だと風邪薬飲んでぐっすり寝てね」
「それで治すんだね」
「それが安くつくから」
 だからそうしているというのです。
「お金が勿体無いから」
「ほら、サラもそう言うじゃないか」
「不況だからね」
 とにかくそれに尽きました、皆不況が悪いといった感じです。
「仕方ないわよ」
「不況不況、何処もかしこも不況だね」
「だから主人の会社も辛くて」
「僕の病院も誰も来ないよ」
「兄さん、うちの会社も心配だけれど」
「そっちもだね」
「ええ、どうするの?」
 サラは真剣にお兄さんを心配して尋ねます。
「小説でも書く?」
「コナン=ドイルになるんかい?」
「ええ、そうしてみたら?」
「売れたらいいけれどね」
 先生は腕を組んだまま首を右に傾げさせて妹さんに応えました。
「けれどね」
「売れそうにもないっていうのね」
「そもそも小説とか書いたことはないよ」
 論文やカルテは書いたことはあってもです。 
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