黄昏アバンチュール
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温もりの中で
9.
「はぁ…」
楽しかった頃を懐かしんでみたところで、あの日々がもどってくるわけではない。ただ虚しさが心の中に広がっていくだけだ。
昇降口まで行くと、はたとおもだした。
「あ…化学のレポート」
この前沙耶が言っていた。レポートの提出は今日までだ。
…下校時間が過ぎてしまう。でも、今は応援団の練習で残っている人もたくさんいるので大丈夫だろう。
「いそがなきゃ…」
急いで三階の化学室まで駆け上がる。まだ、明かりがついていた。
そして引き戸を開ける。
「あのー、せんせ…」
そこには沙耶がいた。「沙耶…」
沙耶がこちらに何の感情もない目でこちらを見る。
「どうしたのっ…?!」
私は沙耶に駆け寄って抱きついた。すると、沙耶の目に光が戻った。
「ねえ、さ…」
「とりあえず、ここから出なきゃ…花乃ちゃんも!!!」
「…う、うん」
そこから昇降口まで二人で走った。靴を履いて、そして電車に飛び乗って。
いつもと反対側の電車。沙耶は家まで私を連れていくつもりなのだ。
沈黙だけが流れて、お互いにすっかり暗くなった車窓から外を見つめていた。
そして沙耶の家の前について階段を登っている途中、はじめて沙耶が振り向いた。
「はなし、合わせてね」
私は無言で頷いてついていく。
「ただいまー」
「おかえりなさい、」
「今日花乃ちゃんきてるから、泊まっていくって」
「んー、わかった、ご飯は?」
「食べる」
「もうできるからすぐきてね」
「はーい」
無言で沙耶の部屋に入る。
「…久しぶりだね、花乃ちゃんがうちくるの」
「うん、」
沙耶の家は兄弟がたくさんいる。5人兄弟なのだ。沙耶のお父さんは船乗り、お母さんは会社で働いているらしいのだが、二人ともほとんど家にはいないらしい。
「そういえば、花乃ちゃん、おうちに連絡入れなくて大丈夫?」
「…大丈夫!!朝、今日は帰れないって言ってたから」
「そっか、それなら大丈夫だね」
朝起きたら千円札が1枚テーブルの上にそのまま置かれていた。前は置き手紙がおいてあったりしたが、今はそんなことはない。
どこに行っているかなんて知らない。もう、知りたくもなかった。
去年のクリスマス、少しだけ楽しみにしていたのに結局だれもその日家に居ないとわかって落ち込んでいた私を沙耶が木暮家のクリスマスパーティーに誘ってくれたのだ。
その日は沙耶のお父さんも、お母さんも帰ってきていてみんなで大騒ぎをしたのを覚えている。
あの温かさがうらやましかった。私の家にはなかったもの、そして、これからもきっとないもの。
ベランダで泣きそうになりながら風に当たっていると、沙耶のお父さんが話しかけてくれた。
「どうかしたのかい?」
私はその時話してくれたことを、いまでもよく覚えている。
「花乃ちゃん?ごはんたべよう」
「…あ、うん、いこっか…」
いつだって木暮家の食卓は賑やかだ。長女の知沙さん、そして沙耶、双子、そして幼稚園の弟だ。
大学生の知沙さんか沙耶が生活を切り盛りしているらしい。
「沙耶…もういいの?」
「うん、大丈夫。」
「そっか。」
「もう、部屋に戻るね」
そうして、二人で部屋に戻ってきたものの、沙耶はだまっだままだった。
「…さや」
「…あのねっ」
二人の声が重なる。私はそっと頷いた。
「…あのね…」
そうして、私は事の顛末。自分の勘違いを知ったのだ。
*
「そっか…」
私は沙耶の背中をもう一度強く抱きしめた。
沙耶がしがみついてくる。
「これから…どうする?」
「私は…大事にしたくないの。そのまま、あと一年間だけ過ごしたい…」
「そんなにうまくいくもんかな?」
「でも、こんなこと、他の人にはいいたくないよ…」
「そうだよね…でも、やっぱりこのままはよくないよ。」
「…でも…」
「じゃあさ、二人にだけ話すのはどう?うちの部活の顧問の先生。あの人化学だし、女だし。あとね、お姉ちゃんには話しなよ?きっと、なんかあったって気づいてるよ」
「…うん、わかった、今日じゃなくたっていいよね…」
「うん。」
「…あのね、花乃ちゃん、今日だけでいいから…一緒にいてくれる?」
そうして私と沙耶はぴったりとくっついて二人で寝た。沙耶が私を握る手が痛かった。
後書き
遅くなりました…。なかなか、書き方がわからなかったのとテストが重なってしまった…
これからはちゃんとかきます。
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