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黄昏アバンチュール

作者:どるちぇ
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開き出した傷口



8.


応援団の練習を一人、見ている男がいた。

「…あいつめ、人の許可もなしに…」





私は一人で応援団の練習にでていた。今日はペアダンの練習をするかできるだけ来いと言われていたので、花乃ちゃんからメールがたときは驚いてしまった。
花乃ちゃんはさぼると決めたときは授業があってもさっさと帰ってしまうような子なので何もないといいのだけど…


だんだんと赤団の練習場所の桜広場にも部活帰りの人が集まってきた。この学校は中学、高校と両方の設備があるのだけどそれにしても広い。その割には都心に近いところにある。
この桜広場も小さな丘の上にある広場なのだ。

「あれ?木暮さん?花乃子ちゃんいないの?」
クラスの女の子が話しかけてきた。花乃ちゃんはいつも私といるようで他のクラスの女子とも仲がいいのだ。
「花乃ちゃん今日は帰っちゃったみたい」
「そーなんだ、折角今日からペアダンの練習始まるのに、まぁ、あの子彼氏いるみたいだしね」
「そうだね…」と私は笑った。

花乃ちゃん以外の友達と話していると、なんだか顔が引き攣ってしまう。笑ってる筈なのにかわいたような笑いになってしまうのだ。

「沙耶ちゃん、高木くんとペアダンするんでしょ?いいなー、かっこいいよね蓮君って」
「高木くん、イケメンだよね」私は笑った。



「ごめん…もう始まってた?」
噂の高木くんがやってきた。
「まだだよ。部活の人達まだ全然来てないみたい。」
「よかった…あれ?和泉さんは一緒じゃないの?」
「花乃ちゃん今日はこないみたい。」
「そっか…」

私には高木くんの頬が一瞬紅く染まったようにみえた。

そのあとすぐに練習は始まった。私も高木くんもそれなりにちゃんと練習に出ていたのですぐに合わせるのは終わってしまった。

「…もう、これで大丈夫かな?」
「うん、他のとこみたいに手間取ってもないし…あとは本番前に一回やれば十分だね」
「そうだね…あ、あのさっ!!!」
「ん?どうしたの?あ、そうだ!化学のプリントまだ出してないや出してから帰るね、さよならっ」
レポートは今日まで。先生はもう帰ってしまったかもしれない…



全力で階段を駆け上がる。化学室は三回だ。
「…はっ…まだ、でんきついてる…」
扉から光が漏れている。まだ先生がいるかもしれない。

扉を開ける。私達の化学の担当は長谷川先生だ。

「失礼します。長谷川先生先生いらっしゃいますか…?」
化学準備室の奥に人影が見える。
「残念。もう、長谷川先生はお帰りになったよ、木暮さん」





心臓が止まるかと思った。
その優しげな表情の奥の射抜くような視線に身体が動かなくなる。

どうして。どうしてこんな時にこの人と会わなければ行けないのだ。

「どうして…」
「どうしてって僕は化学教員だ。明日実験があるのでね、その準備があるんだよ」
「…なんでもないです。先生いないなら失礼します。」

早くここから逃げ出したい。それなのにどうしても身体が動かない。

「まぁ、そんなこと言わないで。折角久しぶりに話したのだから、いいじゃないか」
「でも、でも下校時間が…」
「それくらいなんとでも言っておこう。勉強についての相談を受けていた、とでもいったら問題ない。」

早く、早く逃げ出さなきゃ。

「いやー、いつぶりだろうね。君が化学部をやめてしまって以来だね。元気だった?」

何を言っているんだろう、この人は。

「返事くらいしてくれたっていいじゃないか。去年、化学部はとても雰囲気が悪かっただろう?なんというか、みんなしてよってたかって君に色々な雑務を押し付けていた。嫌だっただろう?」

「そんなこと…ないです。」
唇噛み締める。きっとここで嫌だったと言ったら相手の思うつぼになってしまう。

「あぁ、あの日が懐かしいね…」


やめて、あの日を、あの日のことを思い出させないで…
そんな私の思いとは裏腹に記憶が流れ込んでくる。





あの日まで、化学部で一人、器具の片付けなどを押し付けられてた私と一緒に片付けを手伝ってくれていた吉川先生のことが好きだった。
それが淡い恋心なのだ、と気がついたのはしばらくたってからだった。私の家は父親がいないし、四姉妹で女ばかりの家庭で育った私の目に、男の人というのはとても新鮮にうつった。
それからというもの、片付のし時間が楽しみになった。いくら部活の時間に嫌がらせをされてもその時間を思うと耐えられた。
そして、夏休み前のある日。期末テストの成績が出た日だった。私は他の一年生部員達にこっぴどく殴られた。
今までいろいろやられたが、あそこまであからさまにやられたのは初めてだった。
その時現れたのが吉川先生だった。一年生をこっぴどくしかり、どこかに連れていった。
そしてまた現れた先生と一緒に私は後片付けをしていた。
洗い場でビーカーを洗っていると突然後ろから声をかけられて振り向くと

そこに先生の顔があった。
「吉川先生…?」
「悟でいいよ」
「悟先生…?」
いつもと同じはずの目がその日はなんだが違った。爛々と光っていてどこか怖かった。

すっと顎をつかまると、顔を舐められた。そして首筋へとするすると顔が降りていく。そのまま、制服のリボンを解かれた。
「や、やめてっ」
唇を指でふさがれた。
「君はまたあの生活に戻りたいのかい?」
身体がこわばる。殴られた身体がひとぐ痛かった。それでも、先生の手を押し返す。
「僕に…逆らうのかい?」
身体に電流が走ったかのように私の身体は固まった。そして思考が完全に停止した。


気がつくと私は化学準備室の部屋に寝ていた。目の前には、割れたビーカーが転がっていた。

散らばっている制服がなんなのかよくわからなくて座り込んでいるとき記憶が徐々に戻っていた。何もかもを思い出しすと、慌てて服を着て化学準備室を飛び出した。


割れたビーカーはそのまま転がっていた。






思い出してしまった。この一年、忘れよう、忘れようとしていた記憶。

そのあと、私は化学部に退部届けをだした。好きだった化学も嫌いになって成績も落ちた。


「思い出したかい?」


気がつくと吉川先生が目の前にいた。
あの日同じ時間、同じ場所で。同じことが繰り返されようとしている。

すっと顎を掴まれる。そして…
唇を塞がれた。
気持ち悪い。嫌悪感がわたしの心を支配していく。それなのに…逃げられない。
優しげな顔をした先生が目の前にいて…私はここから逃げられないのか、そう思った。
頭のいいこの人のことだ。きっとこの部屋には誰も来ないのだ。

「知ってた?レポートはね、明日までなんだよ…?」


そういって私のリボンを解いていく。制服が私の周りに散らばっていく。

もう、何も感じない。何もできない。赤い夕日が窓から差し込んでいる。
私は先生のされるがままになっていた。

















 
 

 
後書き



今回は沙耶視点です。

好き放題書いてしまった…よかった、R15にしといて、18…ではないよね? 
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