東方攻勢録
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第二話
「!!」
里中と言われた瞬間、フードをかぶった少年は思わず体を震わせてしまった。
「その反応を見ると、正解ととらえてもよさそうだね」
「……」
「まあ、だからと言ってどうというわけじゃないんだけどさ」
「……しかたないですね。俊司君……」
映姫のアイコンタクトを確認すると、俊司はフードをはずして顔を晒す。
宮下は軽く俊司の顔を確認すると、やっぱりと言わんばかりに鼻で笑った。
「やっぱりか。写真と全く同じ顔をしてる」
「……どうしてわかったんですか?」
「まあいろいろあるけど……やっぱり君のスペルカードが一番の決め手になったかな?」
「スペルカード……」
「もっと絞り込むと、変換『科学で証明されし弾薬』だね。君はそれを使って、太陽の畑でEMP弾を使用した……違うか?」
太陽の畑でメディスンを助ける際、俊司はスペルカードを使用してEMP弾を発射していた。結果電子機器の効力を無効化し、チップの制御をなくすことに成功している。
その際、その場にいた兵士達は何も気づいてはいなかった。そのため、安心はしていたが、やはりわかる人間には疑わしい出来事だったのだろう。
「……そのとおりです」
「まあ、EMP自体幻想入りするわけでもないし、鍵山君がその技術を知ってる訳がないと思うしね。それに、地霊殿の地下牢獄でも、君はスペルカードを使用した。結果的に、それが一番の決定打となったんだけどね」
「……」
「君のことはまだ上層部は気付いてない。もちろん、伝えてもいないけどね」
「そりゃどうも」
「……どうも君には生気を見られないな。もしかして幽霊とか?」
「亡霊です。私が勝手に彼を亡霊にしたのですよ」
映姫は溜息をつきながら、宮下に俊司のことを簡単に説明した。その話を聞きながら、宮下は終始関心しているようだった。
「君の運も計り知れないもんだ。よくそんな運命を引き当てれるね」
「普段は運が悪いんですけどね」
「よく言うさ。しかし……非常に興味深い話でしたよ」
「……で? 他になにか?」
「次は情報提供といこうか」
宮下はそう言うと、さっきまで何も持っていなかった右手にある物を出現させた。
「なっ……」
「これに見覚えは?」
宮下は右手に持ったある物をちらつかせる。
そこにあったのは、赤く色づいた二つの輪を持つ物体。太陽の畑で見た、風見幽香をほぼ無力化させたものだった。
「……手錠……か」
幽香はそう呟いて身構える。あの時の出来事がフィードバックしたのだろう。
そんな彼女を見て、宮下は「攻撃はしない」と言って笑う。それでも、幽香は警戒を解こうとはしなかった。
「まあいいや。これは革命軍が開発したものではない」
「つまり……」
「僕の能力だ」
宮下は不気味な笑みを浮かべる。
急に手錠を出現させたところからだいたいの予想はしていたが、それが本当となるとかなり状況がやばくなる。宮下がその気になれば、この場にいる全員の能力を低下させることができるからだ。
その場にいた誰もが警戒心を放ち、宮下を凝視する。だが、宮下は一度困った顔をすると、手錠をひっこめてしまった。
「困るなぁ。僕は戦いに来たとは言ってないんですよ?」
「だから警戒してるんです」
「そうですか……僕の能力は『対象を拘束する程度の能力』と言っておきましょう。今の赤い手錠は力を拘束するためのものです」
「力……」
「ええ。用途ごとに使い分けも可能です。君達の魔力だとか能力だとか、生命力ですら拘束できる。もちろん、外れれば元に戻りますが、拘束は必ずすべての能力を奪うわけじゃあない。手を縛ってもガタガタと動かすくらいのことはできる。あなたの力も、全部失ったわけではなかったでしょう?」
「……そうね」
「僕の能力は、相手が強ければ強いほど効果が大きくなる。そのためにあなたの捕獲の際渡したのですが、まあ邪魔が入ってしまったもんですから」
宮下は続けざまに自分のことをしゃべり続ける。しかし、なぜ相手に情報を与えるようなまねをしているのだろうか……俊司達には疑問が生まれ始めていた。
「なぜ……俺達にそのことを伝えるんですか?」
「それはねえ……」
宮下は笑いながら答える。
「面白そうだから」
「……はあ?」
「君達がこれを知ってどうなるか。僕はそこに興味があるんだよ。結果を見るためなら、別に戦争に勝とうが負けようがどっちでもいいさ」
「……」
宮下の言動は理解しがたいことだった。
彼は、軍としてではなく、宮下怜個人の意見で行動しているだけだった。そのためなら、軍がどうなってもかまわないとも言っているようなものだ。
俊司達の脳内には、さらに疑問が生まれていく。
「この戦争についてきたのも面白そうだったから。まあ、ある程度勝敗も見えてきましたし、ここからは私情で動かさせてもらおうかなと思いまして」
「あんた……馬鹿なのかい?」
「どうだろうね? まあ、僕みたいな人間はそういないとは思うけどさ」
宮下はそう言ってまた笑う。
「まあ、君達にとってはいい情報じゃないか? このまま、なんなのかわからない手錠に怯えるよりかは」
「……そうですね」
「役に立ったようでなにより。では……もうひとつ情報提供といこうか」
宮下はまた不気味な笑みを浮かべる。
それを見た俊司は、なぜかわからないが背中に悪寒が走る感覚にみまわれた。直感がさえてるのだろうか。なにもいいことのような気がしない。
そして、それが正解だったと気づかされる。
「僕はさっき博麗神社にむかった方がいい……そう言ったね?」
「そうですね」
「それは簡単な話」
次の瞬間、宮下の口から衝撃的な言葉が発せられた。
「君達がこのまま永遠亭に向かえば、八雲紫を含む四人が捕獲されることになる」
「!?」
宮下の言葉に、一同は動揺を隠しきれなかった。
「どういうこと……」
「現在、博麗神社には八雲紫・博麗霊夢・八意永琳・蓬莱山輝夜の四人がいる。革命軍は、その四人を捕獲するために兵士を派遣した」
「その四人に対抗できるとでも?」
「ああ。君達の言うとおり勝ち目はない。これがないなら……だけどね」
宮下はそう言うと、その場に二種類の手錠を生み出した。片方は青色の手錠。もう片方は緑色をしている。
それを見た瞬間、一同に寒気が伝わっていった。
「青は彼女達の能力を……緑は物理的ではない力……つまり、弾幕や結界で使用する力を拘束させる」
「なっ!」
「これを四つずつ用意し、触れただけで対象に設置させる機械も作成した。見た目は不格好だけど、触れると強烈な光を発し、片手に一つずつ手錠を取り付ける仕組みになってる」
「まさか……」
「そのまさかさ。その装置を博麗神社に設置した」
宮下はまた笑みを浮かべる。
これが本当だと非常にまずい。能力も弾幕も封じられてしまえば、中・遠距離での対抗手段を完全に失うのと同じだ。銃を使う革命軍に対抗しずらくなってしまう。
つまり、宮下は今すぐ助けに行かないと間に合わないといいたのだ。だが、本当かどうかは定かではない。
「嘘だ!!」
急に反論したのは俊司だった。
「なんで?」
「博麗神社には結界があったはずだ! 革命軍がそれを突破するなんて……」
「ああ、それも突破済みさ」
「!?」
「札の効力も時間によって減ってしまうだろう? だから、効力が少なくなったこの時期を狙ったのさ」
宮下は淡々と受け答えていく。その表情には嘘をついているようには見えなかった。
「そして今、博麗神社の異変を調べに来た彼女達はその罠にかかった。もちろん、非常にまずい状態になっている。このことは無線で確認済みだ」
「……」
「どうする? 君達がむかったところでどうなるかはわからないが?」
もしこれが本当なら、俊司達がむかわなければ紫達は捕まる。だが嘘だった場合、逆に罠を仕掛けられている可能性もある。
時間だけが過ぎてしまう。そうしている間にも、紫達に危機が迫っているかもしれない。俊司の顔には、徐々にあせりの色が見え始めていた。
「……行きましょう」
「えっ!?」
そう提案したのは映姫だった。
「宮下さん、あなたはなぜそのことを伝えるのですか?」
「どうなるか面白そうだからだよ。それ以外なにもない」
「……残念ながら、私は彼が嘘をついているとは思えませんでした。私の能力を持って保証します」
映姫の能力は『白黒はっきりつける程度の能力』だ。そんな彼女が嘘を見抜けない訳がない。
もちろん。信じないわけがなかった。
「……わかりました。行きましょう」
「小町!」
「了解」
映姫の命令で、小町は全員の博麗神社への距離を操る。
数秒後、宮下の目の前から全員がいなくなっていた。
「さーって、どうなるのかなぁ」
宮下はそう言って満面の笑みを浮かべていた。
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