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ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝

作者:あさつき
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キラーパンサーに転生
  13きっと忘れない

 妖精さんの村に戻って、宿屋さんでお風呂を借りて。
 ドーラちゃんに毎日洗ってもらってフカフカだったあたしの毛皮は、旅と戦いで汚れて雪で湿って、念入りに毛繕いしてもなんだかペッタリしてたけど。
 お風呂でまたキレイに洗ってもらって、うとうとし始めちゃったドーラちゃんの代わりにベラさんにしっかり拭いてもらって、またフカフカになりました!

 あたしは途中で気を抜いて毛繕いしながら休んでるときもあったけど、ドーラちゃんはずっと気を張っててくれたんだもんね。
 まだ子供なんだから、疲れたところでお風呂で暖まったら、眠くもなっちゃうよね。


 ベラさんがお姉さんみたいにドーラちゃんのお世話をしてくれて、宿屋さんのベッドを目指してドーラちゃんの手を引いていってくれるので、あたしもせめてもという気持ちで後ろからドーラちゃんを押してお手伝いします。

 ベッドに寝かせてすぐにドーラちゃんが寝入ったのを見届けて、ベラさんがあたしに声をかけます。

「モモ。それじゃ、私は戻るけど。明日、また迎えに行くからね!また明日ね!」
「ニャー!」

 うん、どうもありがとう、ベラさん!
 また明日、待ってるからね!

 この宿屋さんからどうやってサンタローズのおうちに戻るのか気になったけど、眠ってるドーラちゃんの足元で丸くなったら、あたしもすぐに眠くなってきて。



 目を覚ましたら、もうおうちでした。
 おうちのドーラちゃんのベッドで、ドーラちゃんと一緒でした。

 あたしと同じ頃に目を覚ましたドーラちゃんは、なんだかいつもよりも静かな感じで、お出かけの準備を整えて。
 大人のドーラちゃんにもらった本と、ビアンカちゃんにもらったあたしとお揃いのリボンをツボに入れて、地面に埋めて隠してました。

 ……リボン、はずしちゃうんだ。
 可愛かったのに、あたしとお揃いだったのに、残念。

 リボンなんてなくても、あたしがドーラちゃんのことを忘れるわけはないと思うけど。
 でも、今のあたしはベビーパンサーなんだから。
 人間だったときとは体の作りも感覚も、なにもかもが違うんだから。
 ドーラちゃんとお別れして十年も一人でいたら、やっぱり忘れちゃうのかもしれない。

 だから、絶対になくさないようにこうやって隠しておいてもらうのは、あたしにとっても必要なことなんだろうけど。


 ……嫌だな。

 怖いな。

 こんなに大切で忘れたくない人を、思い出を、忘れちゃうかもしれないなんて。
 そんなのあたしが、あたしじゃなくなっちゃうような。

 ……大丈夫なのかな、あたし。
 人間だった記憶も、ドーラちゃんと過ごしたこの時間も。
 ちゃんと忘れないで十年間、過ごせるだろうか。
 もしも忘れてしまったら、全部忘れてしまったら。
 ドーラちゃんとまた会えるんだとしても、そのときあたしはちゃんと、あたしのままなんだろうか。
 本当にただの、キラーパンサーになってないだろうか。
 あたしが人間だったことを、急に思い出したみたいに。
 急にまた忘れてしまって、そのままもう戻らないなんてこと、ないだろうか。


 すごく心細くなって、作業を終えて井戸の水で手をキレイに洗い終えたドーラちゃんに擦り寄ります。

「モモ?どうしたの?……あ、リボン?ごめんね、お揃いだったのに。でも、どうしても()くしたくないから。あれは、必要なものだから。大丈夫、ちゃんとまた取り出して、持って行くからね」
「……ミャー」

 なんだかまた情けない声を出してしまったあたしを、ドーラちゃんが抱え込むようにしながら、優しく撫でてくれます。

 ……うん。
 考えたって、仕方ない。
 考えたって、そんなのわからないんだから。

 大丈夫、もしも忘れてしまっても。
 ドーラちゃんに会えたら、きっと思い出すから。
 あたしを迎えにくるために、ドーラちゃんはこうやって準備してくれてるんだから。
 ドーラちゃんにまた会えたのに、それでも忘れたままでいるなんて。
 そんなの、あたしにできるわけがないんだから。


 あたしは一人じゃ、あたしでいられないかもしれないけど。
 ドーラちゃんがいるから、きっと迎えにきてくれるんだから、だから絶対に大丈夫。
 忘れないでいられたからって、ドーラちゃんに会えないままであたしが一人でずっと生きていくなんてもう無理なんだから、あたしはなにも心配しないで、ドーラちゃんを信じて、待っていよう。

 だから、ドーラちゃん。
 あたしずっと待ってるから、だからきっと。
 あたしを、ちゃんと、迎えにきてね。





 地下室で待っててくれたベラさんと一緒に、三人でまた妖精さんの世界に戻って。

 ポワンさまにフルートを届けて、春を呼んでもらいます。

 ポワンさまの奏でるキレイな旋律に乗って暖かい風が吹いて、みるみる雪が融けて、草が地面から顔を出して、花が咲いて。
 あっという間に満開になって、辺りを花吹雪が包みます。


 ……あ、桜だ。
 桜の、花吹雪だ。
 この体で見るのは初めてなのに、なんだか懐かしい。
 すごく、キレイ。

 舞い散る花びらに包まれながら、人間だったときの記憶が、まるでついさっきあったことみたいに、鮮明によみがえります。

 ……小さい頃、家族みんなでお花見したな。
 お母さんがお弁当を作ってくれて、お休みの日は起きるのが遅いお父さんも、張り切って早く起きてきて。
 まだ満開には少し早かったけど、すごくキレイで、桜の下で食べるお弁当がおいしくて、少し寒かったけど、すごく楽しかった。

 学校の前の桜並木、すごくキレイだった。
 掃除当番にあたると大変だったけど、桜の時期は友達と眺めながら歩くのが、楽しみだった。


 他にも幸せだったいろんな記憶が思い出されて、幸せだった気持ちも一緒によみがえってすごく胸が痛くなってきて、またなんだか泣きそうになってしまったけど。

 ……うん、やっぱりきっと、大丈夫だ。
 あたしはベビーパンサーでも、こんなにも心が動いて、感情まで一緒に思い出せたんだから。
 ドーラちゃんのことだって、やっぱり絶対に思い出せる。

 きっと、忘れない。


 ポワンさまにお礼を言うドーラちゃんの隣で、あたしはおとなしくしてたけど、気持ちは一緒だった。

 ポワンさま、ありがとう。
 ポワンさまはあたしたちのこと、そんなに詳しく知ってるわけじゃないと思うけど。
 それでも、見せてくれてありがとう。
 待ってるって言ってくれて、ありがとう。

 ベラさんがドーラちゃんに桜のひと枝をくれて、見送ってくれます。

「ドーラ!モモも、元気でね!」

 うん、ベラさんも、元気で!
 その桜を見て、ベラさんのことを思い出すからね!
 ドーラちゃんと一緒に、きっとまた会いに行くから!
 ベラさんのことも、きっと忘れないから!



 ポワンさまの魔法に送られて、おうちの地下室に戻ります。

「……かえって、きちゃいましたね」
「……ミャー」

 そうだね。
 暗くて冷たい地下室にいると、さっきまであんなにあったかい、キレイな妖精さんの村にいたなんて、夢だったみたいな気がするけど。

 でも目の前に落ちてきた桜の花びらが、ドーラちゃんが握ってる桜のひと枝が。
 ずっと一緒だったドーラちゃんが、そこにいるから。
 あれは夢なんかじゃ、なかったんだもんね。

「モモ!いきましょうか!」
「ニャッ!」

 うん!
 これからきっと、ドーラちゃんにもあたしにも、辛いことがたくさんあるけど。
 でも、辛いことばっかりじゃないもんね!
 どんなに辛くても、また会えるんだもんね!

「モモ。わたし、がんばりますから」
「フニャー?」

 うん、あたしも頑張るけど。
 今、あたしに言うっていうのは、どういう意味で?
 頑張ってあたしを早く迎えにきてくれるとか、そういう意味かな?

 そうなら嬉しいけど、でも無理はしないでね?
 あたしのこと以外にも、ドーラちゃんにはたくさんすることがあるんだから。
 あたしのことばっかり、心配してくれなくても大丈夫だからね?
 また会えるなら、あたしはそれだけで。


 もうすぐお別れだけど、それまで、もう少し。
 一緒に頑張ろうね、ドーラちゃん! 
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