Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#18 チーグルの森・接触と真相
チーグルを追いかけ、更に森の奥へと入っていくと、巨大な木がある少し開けた場所にたどり着いた。間違いなく、この巨木が彼らの住処。……その大きな木の穴の中に、チーグルが入って行ったのをしっかりと皆が目撃したから間違いないのだ。
「あいつら、こん中に入って行ったぞ?」
「チーグルは木の幹を住処としていますから、ここがチーグルの家なのでしょう」
ルークは木を指さしながら、イオンは、木を見ながらそう言っていた。と、言うより、それ以前に、解る事があった。あの巨木に近づけば近づく程、判る。
「んー……。 よく見たらこの辺りに、この森では無い果物が落ちてるね……。それにこの果物、何か印? みたいなのもあるみたいだし、自然果物じゃないよね? これで間違いないんじゃないかな」
気づいた事、それは、この辺りに散らばっている無数の果物だ。食い散らかしてる感じがする。周囲、何処を見ても視界に入るくらい、ちょこちょこと落ちてた。
でも、よく観察をすると少し違う。初見では、チーグル達が、果物を食い散らかしてる、と見えなくも無いが、何かが違う感じがするのだ。
手に持ちきれない程、沢山盗ってきて、運んでいる最中に落とした。と言う感じだ。
落ちている果物は、全て齧っているようなそんな形跡がまるで無く、エンゲーブで生産している証しである、果物の印も残っているのだ。
「ひょっとして…… チーグル達は食べるのが目的じゃなかったりしたりするかもしれないね」
果物を一通り確認していたアルはそう呟いていた。その推測、どうやらイオンも同じ考えだった様だ。
「ええ……そうですねアル。僕もそう思いました。ですから、とりあえずチーグルに、訳を聞いてみましょう。きっと、何か事情があると思います」
(んん? ……チーグルに聞く? モンスターと話をする……、そんなの出来るんだ?)
アルは、流石にモンスターと会話が出来るとは、知らなかった。だから、 若干ポカーンと、やや放心をしてしまっていた。
そうしている間に、イオンは巨木の穴の中へと進んでいった。
(……判らないけど、とりあえず、イオンについて行って、中に入ってみれば分かるかな?)
アルもイオンについていく。そして次にティア、続いてルークも入っていった。
そして、その巨木の中。その中は、外観同様にとても広い。人の住処としても活用出来そうな程に。……更に奥へと進んでいくと。
「おまえたち……ユリア・ジュエの縁者か?」
奥から、声が聞えてきた。そして、その声と同時に大量のチーグル達も巨木の割れめから次々と出てきた。
「うわぁ……めちゃくちゃいる……。 それに、チーグルって、人の言葉を話せるんだね……。その方がびっくりした、かも」
ついアルは、驚きが2つ同時に来たから思わず、声に出てしまった。これまで戦ってきたモンスター達の中で、言葉を発した相手がいた事なんて、一度も無かったから驚くのも無理はない。
「なんだァ こいつら!? ウジャウジャ出てきやがって! モンスターの癖に人間の言葉をしゃべってんぞ!? 一体どうなってんだ??」
ルークも同様のようだった。混乱していた時、イオンが説明をしてくれた。
「アル、ルーク。チーグルが言葉を話せるのは、ソーサラーリングの力です」
イオンが、指を差しながらそう言った。その言葉を喋ったチーグルがつけているリングだ。チーグルにとっては、大きなリングで、身体がすっぽりと入り、宛ら浮き輪の様だ。
「へぇー……、あれがユリアとの契約で与えられたって言う、ソーサラーリングなんだ。……そんな機能がついてる事は流石に知らなかった」
アルは、興味深そうに、ソーサラーリングを見ていた。教本でその名前は知っていたけれど、写真等は載せられてなかったから。
そして、話を聞いていたリングを、付けているチーグルが一歩前に出てきた。
「……左様。このリングはユリア・ジュエとの契約によって与えられたものだ」
アルの言葉に肯定した。間違えてなかった事に、ややほっとしているアル。……外れてなかった事に、ほっとして、素直に喜んでいた。間違った事をそのまま自信満々に言ってたら、恥ずかしいから……。
そして、人間側はイオンが代表して前に出た。
「僕はローレライ教団導師イオンと申します 貴方はチーグル族の長とお見受けしますが」
「いかにも……」
イオンがそのチーグルの長と話していると。イオンより更に一歩、前に出る様にルークが。
「おいコラ、モンスター!! お前らエンゲーブで食い物盗んだ犯人なんだろ!?」
声の勢いそのままに、突撃していくルーク。すると、そのルークの声の大きさと勢いからか、他の大勢のチーグル達が慌てだしていた。
「あ、ルーク! まあ、十中八九、このチーグルたちが犯人だとは思うけどさ。もうちょっと 穏便にしようよ。チーグルの皆、すっごく怯えてるよ?」
とりあえずアルがルークを宥めようとした。怯えているチーグル達を見ていると、可哀想、と思ったからだ。でも、ルークの事をそんな簡単に宥める事なんて、出来っこない、とアルは同時に思っていたけれど。
「だー!こいつらのせいでオレが泥棒扱いされたんだぞ!!」
アルの想像のとおりだった。でも、ルークがイオンとチーグルの話しに入ると先に進めそうに無かったから、アルはまた怒鳴なれると思ったけど、続けた。
「まぁまぁ、とりあえずさ、訳を聞こうよ。幸いな事に、彼らとは言葉は通じるみたいだしさ」
アルがそう言うと、ティアも賛同してくれた。
「ルーク。彼の言うとおりよ。(………わぁぁ、カワイイっ)」
ティアは、そう言いつつ、その傍らで何やらチラチラとチーグルたちを見てたみたいだ。時折頬を赤く染めながら。
「ん? どうしたの? ティアさん」
アルは、そのティアの視線に気付いたようだ。何か、あるのか? と思いそう聞くと。
「ッッ!!な、なんでもないわ!!」
ティアは、慌ててそっぽ向いていたのだった。
そして、イオンとチーグルの長との話は続く。
「あなた方チーグルは、草食ですよね? なのに何故人間の食べ物を? この森は緑が豊かなようですし……、食料には困らないと思うのですが」
イオンのその言葉にチーグルの長はその言葉に言葉を詰まらせていた。その仕草と僅かに現れている表情の変化を、イオンは見逃さなかった。……やはり、何か訳があるのだろう、と。
そして、その読みは的中した。
「……我らの仲間が、ここより更に北の地で、火事を起こしてしまった。 その結果 北の一帯を住処としていた《ライガ》がこの森へ移動してきたのだ……。 我らをエサとするために」
長老の表情は苦痛でいっぱいだった。
「では、村の食料を奪ったのは仲間がライガに食べられない為に……?」
「そうだ……、定期的に食料を届けぬとヤツらは我らの仲間をさらって喰うと言うのだ」
「っ……」
アルはそれを聞いて、思わず表情を強ばらせた。
モンスターが食べ物を盗んだ。ただ、それだけの事なのにそんな事になっているとは思ってもいなかったからだ。
「それは……酷い……。 いくらなんでも」
アルは漸く出てきた言葉が《酷い》だった。
本来、獣は生きる為に 生き残る為に そして、家族の為、種を繁栄させる為に獲物を狩る。……そして、その他に外敵から、仲間や家族を守る為に戦う。
それが自然な事だ。
だけど……ライガと言うモンスターがしている事は違った。脅して……食料を届けさせる。拒否すれば、……喰らう。
人間で言えば、奴隷扱いをしているも同義だ。いや……それ以上に酷い。
「そう……ですね……。」
イオンも、アルの言葉を訊いて、同じ思いだった様だ。表情を険しくさせていた。
だけど、ルークは違った。
「はぁ? んなもん、弱いもんが喰われるのは当たり前の事だろ? それに、大体自業自得じゃねーか」
確かにルークが言っている事は確かに正しい。住処を燃やしてしまったチーグルも確かに悪い。だけど。
「ごめん。オレは……、それは ちょっと賛成できないよルーク」
これまで、アルは、ルークの事を宥めたり、 適当に応対して肯定したり、受け流したり、等、そうしてきたアルだったが、今回はルークに反対をしていた。
「あん? なんでだよ!」
「だってさ。……生き物は生き残る為に獲物を狩るそれが自然だよ。 だから、此処にチーグル達を狩りに来ただけだったら、確かにルークの言うように、自業自得で仕方ない事だと思う。……でも、ライガと言うモンスターは定期的に食料を要求しているんだよ? それも殺すって脅したりして。やっぱり、そんなの酷いよ。納得したくない」
アルはそう言っていた。確かに切欠はチーグルが住みかを燃やしてしまったからだ。
でも……話を聞けば、ライガ達は死んでしまった訳ではなさそうだ。
家を奪われた怒りはあったとしても、行き過ぎているとも思える。
「アル……。 はい、そうですよね……。 僕もアルの言う事もよく判ります。それにこれが本来の食物連鎖ではありません」
イオンはアルの意見に賛成の様だった。それでも、ルークはやはり渋っている。そこへティアが入ってきた。
「ルーク…… 犯人はチーグルと判明したけど この後どうするつもり?」
ティアは、反対をしたりはせず、ルークに問いかけていた。
「そりゃ 村に突き出して……。」
「そうしたら今度はエサを求めてライガが村を襲うでしょうね」
……その事もあった、と アルは今気づいていた。
ライガは、人間も襲う。故に餌が無くなれば更なる餌を求める。そしてその一番近くにあるのがあの村だった。エンゲーブの村だったら、沢山の食料があるのだから。
「ええぇ!? あんな村どうなろうと知ったこっちゃねーよ!」
「ル、ルークっ!」
アルはそのルークの言葉を聞いて思わず前に出る。それはいくらなんでもあんまりだ、と強く思ったから。そう思って前に出て、言おうとしたがそれをイオンに止められた。
「……エンゲーブは食料の町です。そして、その食料は世界中に出荷されています。それでは大変な規模の食糧問題となってしまいます」
イオンは、反論できない且つ不快感をルークに与えないように言っていた。流石にルークもそれは理解したようだ。食糧問題が深刻化したら、自分が暮らす場所にも影響が来ると言う事も理解出来たから。
「ったく、しょーがねぇな」
面倒そうにしていたが、ルークも漸く判ってくれた。
(イオンありがとう。……イオンがいなかったらオレ、ルークにちょっと強く言いそうだったよ)
アルは 小声でイオンに礼を言っていた。その礼にイオンは軽く頷き笑って頷いていた。
「でもよー じゃあ これkらどうすんだ?」
ルークが、何をすれば良いのかを、イオンに訊くと。
「……ライガと交渉しましょう。」
イオンは、そう答えていた。モンスターと交渉をする……とは考えもつかなかった事だ。これまでは、戦ってばかりだったから……。平和的に解決出来るのなら、それが一番だろう。
「へぇ……、ライガっていう魔物も話せるんだ……」
アルは、少し意外そうに呟いていた。
チーグルはユリアから与えられたこのソーサラーリングの力で言葉を発する事が出来る。
そんな凄く重要で、貴重そうなモノが、そんなに幾つもあるもんじゃない。と思えるからだ。そんなアルの疑問を察したのか、イオンはアルの方を向いて答えた。
「いいえ、流石に僕らだけじゃ無理です。なので、チーグル族の誰かに通訳をしてもらえれば、可能です」
モンスター同士なら会話を交わす事が出来る。今回は、それを利用するとの事だ。
「なるほど……、それなら出来そうだね」
アルはそれを聞いて 納得していた。何より、ライガがチーグルに脅迫をして、食料を要求している以上 チーグルとライガは、ちゃんと言葉が通じているのだろう。
アルが、そう納得していると。
「……では通訳の者に、儂のソーサラーリングを貸し与えよう」
チーグルの長がそう言うと、1匹のチーグルを呼び出した。
すると、チーグルの群れの中から、ぴょこ! っと、飛び出てきた。見た感じ、まだ子どもだ。
「……この子供が、北の地で火事を起こした同胞だ。これを連れて行ってくれ」
そう言うと、長の持っていたリングを手渡した。その大きなリングがチーグルの子供の身体に装着された途端。
「ボクはミュウですの よろしくお願いするですの!!」
その子どもチーグルは急に喋りだした。どうやら、まだ小さいからリングが合わない様で、あの長よりも更に動きずらそうにしていてたが、それでも必死にチョコチョコ歩いてきていた。……でも、数歩歩いた所で。
「あう……っ!」
大きなリングに気を取られてしまい、足元を疎かにしてしまって、転んでしまっていた。
なぜか、ルークはそれを見て 怒ってる様子だ。……多分。
「おい!! なんかむかつくぞ!! コイツ!!」
「ごめんなさいですの!ごめんなさいですの!!」
多分、ではなかった。……何でか判らないけれど、ルークは間違いなく苛々してしまっている様だ。
「ま、まーまー…… そんな怒らないでよ。ルーク」
アルがいつもどおり ルークを宥めて。イオンはそんなやり取りを、微笑みながらアルを見ていた。チーグルのミュウは、怒られてると判ると、涙をポロポロと流しながら謝っていた。
そして、ティアはと言うと……。
「わぁ……かわいい………っ」
先ほど同様、ミュウの愛らしい姿を見て、またまた頬を赤く染めていた。
何はともあれ新しい仲間。チーグルのミュウと共に、ライガがいると言う祠へと向かっていった。
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