Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#17 チーグルの森・遭遇
この場に立っているのは4人だけとなり、周囲にはモンスター達の残骸が転がる。動く気配も無く、本当に戦闘は、無事終わったようだ。
動かないモンスター達だが、十分に注意しながら、アルはイオンの傍にまで来た。
「もうっ、イオン! 危ないじゃないかっ! どうせ、チーグルの森に来るならせめて、オレに声を掛けてくれればよかったのに」
アルは、イオンを叱っていた。純粋に、イオンの事を心配していたから。イオンが戦えるかどうかは、置いといたとしても、だ。さっき、本当に危なかったから。だから、イオンは、アルの言葉を真摯に受け止めた様だ。
「すみません。アル……。ですが、僕は、どうしても早く真実を知りたかったのです……」
頭を下げ、謝罪をしていた。導師が一般人に謝罪をする、何て事は滅多に無いんじゃないか? と思ったけれど、イオンなら結構ありそうだとも思えた。
(んー……。やっぱり、思った通りだったなぁ。イオンの性格なら、こうなるよね……)
アルは、とりあえず、イオンを叱ってはいたけれど、イオンと言う人を知っているし、半ば仕方ないかな? と初めから思っていたようだった。
その時だ。
「おいおい、あんま ネチネチと苛めるなよ。 無事だったんだから許してやれよ」
「ちょっと! ルーク! 無事だったのは彼が助けてくれたおかげでしょう!」
丁度、2人も一緒にこっちに来た様で、2人の声が聞こえてきた。……どうやら、傍から見てると、イオンを虐めてる様に見えた様だ。ルークは、そう見えて、そしてティアはルークの物言いに抗議をしていた。
(……それにしても、この2人はいつも言い争ってる様に思う)
それは、所謂 喧嘩するほど仲がいいってことだろうか? とアルは思っていた。
「あはは……。その、イオンの事、苛めてたわけじゃないんだけど。……まあ、良いよ。君の言うとおり 皆、無事だったんだし。結果オーライだよね」
アルは、とりあえず 険しかった表情を緩めた。イオンは、ずっと申し訳なさそうな顔をしていたけど。アルは笑顔に戻って、『もう良いよ。次からは呼んでね?』 と言っていたのでととりあえず、落ち着いてくれた。
正直な所、アルはイオンのそんな表情なんてあまり見たくないと思っているから。
そして、一行は一緒に行動をしていた。
「そーいやぁ イオンはこんなとこに何しに来たんだ? 後お前も」
暫く森の奥へと進んでいく途中で、ルークが訊いていた。
「あ……はい 実は盗難事件が気になって……。 チーグルが人間の食べ物を盗むなんて、やはりおかしいんです……。それで僕は………」
「やっぱり! 予想的中だね。 それで、オレの方はイオンを追いかけて ここまで……だね。 後、オレの名前はアルっていうんだ。皆よろしく」
一通り自己紹介とここに来た理由を説明した。ルークとティアも、自己紹介をしてくれた。物凄く息があっていたから、2人は恋人なのかな? と、アルが聞いたら凄い勢いで否定していた。騒がしくなってしまった。……その火種がアル自身だったけれど、騒がしい、と言うより賑やかだったので、楽しそうにしていた。
そして、話は戻る。
「フーン、だったら オレ達と目的は一緒ってワケか」
「えっ……。 では、御二人も?」
イオンは少し驚きながら訊き返していた。疑いは晴れたんだし、自分と同じ理由でとは思ってなかったからだ。そして ルークは更に。
「仕方ねぇな。お前らもついてこいや」
ルークは、イオンとアルの2人と一緒に行く事を提案していた。でも、ティアはルークの提案に真っ向から反対した。
「何を言うのっ! イオン様を危険なところへお連れするなんて、ダメに決まってるでしょ! 直ぐにエンゲーブの村に送っていって差し上げないと。 あなたもそう思うでしょう?」
ティアは、アルに同意を求めようと思い、アルの方を向いた。ルークは、ティアの言葉を訊いて意外そうに答える。
「えーっ? でもよ、帰したってコイツ、また、のこのことこの森に来るだろ? こんな青白い顔で、今にもぶっ倒れそうなヤツをほっとくわけにもいかねーじゃんか」
ティアの言葉を返そうと、したアルだったが、その前にルークが言っていた。ルークの言葉を訊いてアルは。
(ルークは……、ほんと口は悪いけど、……根は、とても優しい感じがする)
ルークに対する印象、だった。そして アルは笑顔を見せながら。会話を繋げる。
「あはは。そうだよね……。 そもそもイオンは、皆に黙って 1人で ここに来るぐらいだからね。 仮にこのまま村に帰って、って言っても 頑なに拒むと思うよ。真相を明らかにするまで帰らない! って感じでさ? 何より、聖獣のチーグルなんだし。ティアさんが言う事も判るけど、こう言う人なんだイオンって……。オレは イオンとはたった数日程度の付き合いだけど大体理解したよ」
アルは 最後には苦笑しながら話していた。ティアはアルの言葉を聞いて少し驚いていた。イオンを守って、戦っている姿を見ていたから。
「……たった数日? えっ、貴方は導師守護役じゃなかったの? あなた、戦いの腕も凄く立つみたいだから、新たに推薦されたのかと……」
アルは、それを訊いて思い出していた。ティアと出会ったのはエンゲーブの村。村長の家だ。その時ずっと、アルは、イオンに付きっ切りだった。……だから、そう思っても仕方ない事だろう。
アルはそう思うと、説明を続けた。
「えっと、その守護する人は、確か……女の子の方、ですね。 オレは違いますよ。あー後イオン?」
アルは、説明をした後、思い返した様に、イオンのほうに向きなおした。
「ここからは、絶対ムリをしたらダメだからね? イオンは、元々身体は良くないみたいだし、2人は、協力してくれるみたいだから、ここは オレ達に任せて……ね?」
イオンにそう伝えると、イオンは花開くかの様な笑顔で。
「あ……っ ありがとうございます! アル! それに、ルーク殿もとても優しい方なんですね。ありがとうございます」
そのアルに向けられた満面の笑顔はルークに向けられていて、礼を言っていた。それを訊いたルークはと言うと、固まっていた。イオンが何を言っているのか判らないのか? といった感じで。
「「は?」」
漸く声を上げたかと思えば、ルークだけではなく、ティアもビックリ仰天していた。丁度、2人の横でいたアルは首を傾げていた。
「……え? 2人とも、なんでそこで《?》が出るの? イオンはお礼を言っただけなのにさ……?」
アルがそう訊いた途端、ルークはアルの言葉には答えず、イオンの方を見て慌てていた。
「だ だ 誰が優しいだァ!! んな、アホな事言ってないで大人しく着いてくりゃいいんだよ!!」
と、大騒ぎをしながらそう言っていた。これが所謂ツンデレと言うヤツだ。そのルークのツンデレを訊いたイオンは、更に 感激してしまい、ルークは、またまたテレ騒ぎをするのだった。
「あはは。面白い人なんだね…… ルークって……」
アルは、まだ騒いでいるルークを見ながら、ティアに話しかけた。
「彼、ルークは、正真正銘の箱入りだったらしくてね。……こんな風に、感謝されたり、色々と言ってくれる事、あまり無かったんじゃないかしら?」
「へぇ……箱入りなんだ……? と言う事はルークは貴族の人だったのかぁ……」
ティアの言葉を訊いて、アルは興味津々にルークを見ていた。イオンは目を輝かせながら言っていたから……まだルークは、メチャクチャ照れていた。本当に楽しそうだ。
「さ……さぁ…… 私はあまり、彼の事は詳しくは知らないから………」
「ん??」
ティアは、ルークの事を言った途端に、態度があからさまに変わっていた。アルは、それを見て、大体察した。何か秘密があるのだという事を。
「……話したくなければ、別に構いませんよ。オレは、マルクトの軍人じゃ無いですし、だから、報告したりー、とかはしないので」
その事情に関しては追求しない事を、ティアに伝えた。……別に、ルークの事に興味が無いと言うわけでは無いけれど、それよりも今はする事があるから。
「そう。……助かるわ。(………ありがとう)」
アルの言葉を訊いて、ティアは聞こえない程の声の大きさでアルに礼をいっていた。そして、更に森の奥へと進んでいった所で。
「あ!!」
「ん??」
「みゅっ!!!」
一瞬だったけど、何かの影が見えた。小さい影。
「あ、チーグルです」
「何ィ!?」
イオンが、そう言うと同時にルークも反応した。
「ああ!!逃げやがったっ!!」
小さくて、とても素早い。……気づいたらその影はいなくなっていたのだ。とは言え、ルークが、 いきなりあんな大声を出すんだから逃げられても仕方ない。
「えーい畜生っ!! とりあえずアイツを追うぞ!!」
逃げられた事に相当腹を立てたのか、森中に聞こえんばかりの声量で叫びながら、ルークはチーグルが逃げていっただろう場所へと追いかけていった。……あの声を訊いて怖がって出てこなくならなければ良いけれど。
「ヴァンの事……、聞かないほうがいいですか?」
イオンが心配そうにティアを見ながら聞いた。それは、確か、命を狙ってるとか何とかと話していた事だ。
アルも、そこにいた訳じゃないけれど、ルークが大声で騒いでいたので内容は大体把握している。
「すみません……。私の故郷に関わる事です……。 ルークやアル……そして、イオン様を巻き込みたくはありません……」
そのティアの話を聞いて、アルはティアの顔を見た。そして確信できた。何か、とても深い事情があるのだろうと言う事を。
だけど、それでも やっぱりアルは言わずにはいられなかった。
「ティアさん……オレも話は訊いていたよ。 ……あまり詮索はしない。事情については、ね。 でも、兄妹同士で、……家族で争うなんて、 とても悲しい事だと思うよ。オレ……、過去の記憶が無いし、家族も判らないけど。それ位は分かるから……」
アルは、少し表情を暗くし、ティアにそう言っていた。
家族と言えば、今のアルにとって、サラ、ガーランド、レイの3人だ。……今の過去の記憶の無いアルには当てはまるだろう。
その皆と争う事になったしたら? 何か、重大な理由があって、やむを得なく、仕方なく争い戦ったとしたら?……どうしても、その先。全てを終えた時、アルには悲しみしか浮かばなかったのだ。
ティアは、それを訊いて目を瞑った。
「……ありがたく受け取っておくわ。 ……だけど、これだけは、私に譲れない思いがあるから」
目を開き……ティアは、アルに一礼をしながらそう言っていた。その後、アルの顔をみて。
「……それよりも、貴方も記憶が無いの?」
「え?……貴方、も? えっと、ひょっとしてルークも、なの?」
アルは、ティアの言葉を訊いて、そう訊き返した。
この場にいる皆は、別に記憶が無いそぶりを見せている人はいない。
そして、記憶があることに明確なのは、イオンは勿論、ティアも自身の故郷の事も言っていたから、記憶が無い……とは思えない。だから消去法で行くと、ルークだけになる。ルークとアルは、あまりそこまで話してはいないから。
「ええ……そうらしいの……。」
ティアは、頷いた。
「へぇ……、そうなんだ? ふふ、同じ記憶障害者同士、仲良くできたらいいけどね」
そう言っていて笑い、ルークを見ていた。
チーグルを追いかけて、更に森の奥へと向かっている最中、ティアは考える。
ティアは、思わずアルに、記憶の事を。……余計な事を、訊いてしまった。と思って、アルに謝ったが、アルは笑いながら『気にしなくていいですよ』と言ってくれた。
ティアは、アルの事を森の奥へと向かう最中にイオンに色々と訊いていた。イオン曰く、『とても強い心を持っている人ですよ。アルは』と説明された。
そして、何よりも、記憶が無いというハンデを背負いながらも前を向いて歩いていると言う事も合わせて訊いた。
そういう風に言うと、アルは聞こえていた様で、あからさまに照れていた。『早くルークを追いかけよう!』っと、話題をそらしながら、奥へと追いかける。
――……イオン様もとてもまっすぐな御方だ。
ティアはそう思う。
基本的に、イオンは、思った事は直ぐ口にする。それは、もちろん相手を罵るような事ではなく、良い所を見つけ、それしか言わない。
これは 良い事なのか…… 相手によると思うが悪いことではない。
ルークにとっては、 おそらく初めて屋敷の外で褒めてくれた人だから。
そして、同時に強く思う所も合った。
(はぁ……、少しでもいいから、ルークはアルを見習って欲しいわ)
ティアはそう感じていたのだった。
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