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IS-最強の不良少女-

作者:炎狼
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流星

 
前書き
臨海学校完結!! 

 
 花月壮の一室に響は寝かされていた。体のいたるところには包帯が巻かれ、口にも酸素吸入器が取り付けられている。

 呼吸こそ落ち着いてはいるものの、外傷は一夏の比ではなかったらしい。

 幸いだったのが内臓に損傷はなかったことだ。だが、骨折こそしなかったものの、重度の捻挫に加え、右肩の脱臼、大腿骨にはひびが入っていたらしい。

 出血箇所もあり、髪にこびり付いてしまった血から未だに鉄臭さが残っている。

 響の隣には、セシリアとシャルロット、ラウラが顔を俯かせていた。

「響さん……」

 セシリアが呟くが響はいつものように返事をしてはくれない。

 彼女はそれがどうしようもなく悲しくなって、目じりに涙を溜める。だが、

「っ!!」

 涙を乱暴に拭うとセシリアは立ち上がった。

「……響さん。ここで休んでいてください……わたくしは福音を墜としてきますわ」

 セシリアの宣言にシャルロットとラウラも驚いた表情をするが、彼女の目に宿っていた闘志の光に気付くと互いにうなずき合い、

「セシリア。僕達も行くよ」

「うむ、響をこんな目にあわせた福音に落とし前をつけさせなければな」

「お二人とも……。わかりましたわ、行きましょう」

 セシリアは頷くと、襖を開け廊下に出る。するとちょうど同じ時に向かいの部屋。一夏が寝かされている部屋から鈴音と箒が姿を現した。

「アンタ達もいくの?」

「も、ということは鈴さんと箒さんもですわね?」

「当然! 確実にアイツを墜とすわ」

 鈴音は拳を握り決意をあらわにする。箒もここに運ばれたときの魂の抜けたような瞳はしておらず、しっかりとした闘気が溢れていた。

「じゃあ、作戦会議といきましょうか」

 鈴の言葉に皆が頷きその場をさっていく中、セシリアだけは眠る響に微笑みかけながら、

「いってまいります。響さん」

 セシリアは襖を静かに閉じ、その場を後にした。





 千冬は作戦会議室にて眉をひそめていた。

「私の責任だ。鳴雨を行かせなければあんなことにはならなかった」

「織斑先生……あまり自分を責めては……」

 真耶が声をかけるが千冬は柱を叩く。それだけでこの部屋全体が揺れたような気がしたが、今の千冬にそんなことを気にしている暇はない。

「山田先生……しばらくここをお願いします。私は鳴雨の家に連絡をとって来ます」

 千冬は悔しげに顔を歪ませながら室内から去った。

 廊下の一角に来た千冬は端末を開き、響の家に連絡をした。

 数コールの後、柔和な女性の声が聞こえた。

『はーい。鳴雨ですがどちらさまでしょうか?』

「突然のお電話申し訳ありません。私、IS学園で御宅の響さんの担任の織斑千冬と申します」

『あらあら、ご丁寧にどうも。響の母の紫音です、でも担任の先生からお電話なんて……うちの子何かやらかしました?』

「いえ……そうではないのですが……実は――」

 千冬は起こった事をを包み隠さず全て紫音に話した。紫音は時折驚いたような声を上げながらそれを聞いていた。

『重傷ですか……』

「はい……申し訳ありませんでした! 私がついていながらご息女に怪我をさせてしまい」
 
 千冬は罵倒される覚悟で電話越しにだが深々と頭を下げた。だが、受話器から聞こえてきたのは思いもよらぬ声だった。

『ああいいえ。気にしないでください織斑先生』

「は?」

 思いもよらない軽い返しに千冬自身自分でもこんな声が出たのかというほど素っ頓狂な声を上げてしまった。

 だが、紫音はそんな千冬のことなどお構いなしに続けていく。

『ですから、御気になさらないでください。あの子結構頑丈ですから……前だってすっごい怪我してきて入院したんですよ?』

「はぁ……」

『全治一ヶ月って言われてたところをあの子ったら二週間もかからずに感知させましたからねー。ああ、そうそう! 他にも――』

 今度は逆に千冬が紫音の話に付き合わされることになってしまった。しかも紫音は響が傷ついている話をしているというのに、なぜか上機嫌だ。

 例えるのであれば、暇な時間をすごしていた主婦が話し相手を見つけたといったような状況だろう。

『――なので、大丈夫です! 心配なさらず! 先生はご自分の弟さんの心配をしてあげてくださいな。では、また』

 一方的に話をされ、一方的に切られた千冬はただただ首をかしげていた。

「……いいのか? これで……?」

 すると、その後ろから、

「織斑先生!! 大変です!! オルコットさんや篠ノ之さんたちが――!!」







 響は満天の星空と大きな満月が浮かぶ空の下にたたずんでいた。

 地上を見てもまた星と月。

 ここは千李が以前夢で見た光景である。

「どこだよここ。えっと確か私はあの羽ヤローと戦ってて、夜天月が何でかわかんねぇけど止まって怪我したんだっけ?」

 顎に手を当てながら響は一人ごちた。

「つーかここって結局なんなわけ?」

 響が首をかしげながら考えていると、不意に背後に気配がした。

 それに気付いた響はすぐさま後ろを振り向き、構えを取る。だが、そこにいたのは、

「女?」

 怪訝そうに呟く響の前に立っていたのは、身長や体つきが何処となく千冬に似た大人っぽい雰囲気を醸し出す女性だった。

 彼女は藍色を基調とした豪奢なドレスに身を包んでいた。そのドレスは所々白い配色がされており、藍色と白のコントラストがなんともいえない雰囲気を溢れさせている。

 腰まである長い髪を先のほうで一くくりにまとめている。

「あんた、なにもんだ?」

「……よかった。今度は私の姿も見えているのですね……」

 響の言葉に女性は臆することなく柔和な笑みを浮かべる。その笑みは嬉しげでもあり、同時に悲しげでもあった。

「私の姿も……? その口ぶりだと一回会った事があるみたいな口ぶりだな」

「ええ、私は貴女に一回お会いしています。ですが、貴女は私の声だけしか聞こえていなかった……。でも仕方がありませんね。あの時は……」

「まてまてまて! 話が見えないここは何処だ!? それでお前は誰なんだよ!!」

 自分の問いを聴かず話を続けようとする女性に対し、響は若干声を荒げた。すると女性ははたと気づいたように響の顔を見据えて頭を下げる。

「これは申し訳ありませんでした。少し舞い上がってしまったみたいです」

 口元に手を当てながらクスリと笑う女性はとても可愛らしかった。

「それで、ここは一体何処なわけ?」

「ここは貴女の心象風景。いわば心の中です。まぁ夢の中とでも思ってください」

「夢……ねぇ……」

 響はまだ納得がいかなげに辺りを見回す。

「まぁいいや……そんで私の心象風景の中に堂々と入っちゃってるお前はなんなわけ?」

「それは私に触って頂ければわかると思います」

 彼女は右腕を響の方に向ける。

 響は顔をしかめながらも女性の手を握り返す。瞬間、彼女の体に慣れ親しんだ感覚が走る。そう、この感覚は、

「夜天月……?」

 響は小さく声を漏らす。彼女の手を握った瞬間に響の体に走ったのは、夜天月と同期する時と同じ感覚だったのだ。

 対し、響に呼ばれた女性もコクンと頷くと僅かに目を潤ませながら、

「はい、マスター」

 自分の胸に手を手ながら夜天月は笑みをこぼす。

 だが響は未だに状況がつかめずにいる。

「どういうことだってんだ……? 夜天月は人間で、私の夢の中にいて? あー!! わからん!!」

 頭から煙が出てきそうな勢いで考え込む響に夜天月はやんわりと声をかける。

「落ち着いてくださいマスター。ここに居る私は深度リンクの際、生まれたものです」

「深度リンクってアレか?」

「はい、アレです」

「ISって皆お前みたいに意思持ってんの?」

「……さぁ?」

「しらねぇのかよ!!」

 首をかしげる夜天月に対し、響は思わずツッコミを入れてしまった。それにクスクスと夜天月が笑うと、

「やっぱりマスターは面白い人ですね。そして優しくもあります」

「うっせ……。それで? なんで私はこんなところにいる?」

 明るい雰囲気をかき消すように響が夜天月を見据えると、彼女もまた目を細めながら話を始めた。

「銀の福音と戦って私が動かなくなり、マスターが大怪我を負ったことは覚えていますね?」

「ああ。つーかどうしてあの時動かなくなったんだよ」

「それはあとで説明いたします。今はそれよりも重要なことを貴女に伝えねばなりません」

「重要なこと?」

 響が怪訝そうに聞くと、夜天月は近くにある岩場に腰をかけながら言葉をつなぐ。

「マスターはまだ私の真の力を発揮していません」

「真の力ってーと第二時移行(セカンドシフト)のことか?」

 問いに対し、夜天月は首を横に振る。

「いいえ、第二次移行ではありません。今の形態の状態でまだ解放されていない力があるのです」

「今の状態で? つか、まどろっこしいからさっさと教えてくれや」

「……それもそうですね。私には紅椿と同じ展開装甲が搭載されています。まぁ紅椿の翼のように広がるわけではありませんが」

 響は紅椿の展開装甲の形状を思い出していた。確かに言われて見れば、紅椿の展開装甲は翼のような形状だった。

「じゃあどういう形なんだよ」

 眉をひそめつつ響が聞き返すと、

「……」

 夜天月ははとが豆鉄砲を食らったような表情をしていた。

「なんだよ」

「あ、いえ。随分とあっさり信じてしまうのだと思いまして」

「はぁ? 信じるに決まってんだろうが、お前は夜天月自身なんだろ? だったら自分のことを嘘なんていわねぇだろ」

 響は肩をすくめながら夜天月に告げた。それに、多少驚きながらも夜天月は頷くと話を続ける。

「えっと、形はですね……現在ある装甲の下に組み込まれています。簡単に言ってしまうと装甲が開いてその下に展開装甲が組み込まれています。わかりました?」

「ようは、装甲の下にさらに装甲ってことか?」

「そんなもんです」

 夜天月は適当に言い切るが、響はさらに聞いた。

「そんで、その展開装甲はどうやったらだせるんだ?」

「簡単です。起動コードを言ってくれればすぐにでもできます」

 あっけからんとした様子で夜天月は告げた。あまりの軽さに微妙にこの夜天月をことを疑いたくなった響だが何とかそれを押し殺した。

「起動コードは今じゃなくてもいいが、一番聞きたかったことがある」

 響は夜天月を見据えると、夜天月も響の意図を感じ取ったのか静かに頷く。

「あの時何故私が動かなくなったか、ですね?」

 夜天月の問いに響は無言のまま頷いた。

「おそらくマスターは篠ノ之束がやった、とでも思っているかもしれませんが……それは違います」

「じゃあなんだってんだ?」

「……それは、その……なんといいましょうか……」

 夜天月はもじもじとしながら指を組んだり閉じたりし始める。さらに響をチラチラと見ながらしているため、響からすればイラついてしょうがない。

「だぁー!! まどろっこしい、さっさと言えや!!」

 ついに我慢の限界を迎えた響が夜天月に詰め寄ると、彼女もいよいよ観念したのかおずおずと告白しはじめる。

「……本当に言いづらいことなのですが……あの時私が止まってしまったのは……整備不足なのです」

「は? せいびぶそく?」

 返って来た言葉に響は若干声を上ずらせながら反応してしまった。

「その、マスターは私を手に入れたときから一回も私を整備しておりませんよね? それが原因かと……」

「え? ちょっとまて? ISって自分で整備すんの?」

「普通はそうですね。ただマスターはその辺りに疎い様なのでお友達や先生方にやってもらえばよろしいかと……ってどうかしました?」

 響のほうに目をやると彼女はしゃがみこみながら頭を抱えて悶えていた。

 ……やっべー、自分の整備不足で大怪我するとかアホらしくて涙が出そうだぜちくしょう!!

 普段の響からは考えられないほど、今の彼女は悶え苦しんでいた。恥ずかしさで。

 しかし、そこで夜天月が声を上げた。

「マスター! 大変です!!」

「ほえ?」

「気の抜けた返事なんてしてないで聞いてください!! たった今マスターの友人たちが福音と接触しました!!」

 その言葉に響が目の色を変える。同時に憎憎しげに顔を歪ませる。

「あの馬鹿共! 夜天月!! さっさと起動コードを教えろ!!」

「わかりました。起動コードは『天翔流星』(てんしょうりゅうせい)です。あとマスターの体の中に医療用ナノマシンを注入しておきましたので、傷はほぼ回復しています」

「ありがとよ。でも福音の場所は――」

 響が言いかけると、夜天月はにやりと笑い、

「ご心配なく、既に探知済みです。私もアレに勝ちたいので」

「――いい心意気だ。じゃあ、行くか!」

 響は高らかに宣言する。




 響は目を覚ました。

「ここは……現実か。傷は――」

 彼女は怪我をしたであろう腕や足を動かしてみるが痛みはなくなっていた。拳を握り締め力を確認しても元に戻っているようだ。

「夜天月の言ったとおりか……うっし!」

 響は立ち上がると体に巻かれている包帯をすべて取っ払うと、窓を開け放ち外に飛び出した。そのまま彼女は海岸まで走る。

 ……よし体は何とかなりそうだ。問題は――。

「整備してない夜天月が持つかどうかか……」

 響はそれが気がかりだった。あの場では一瞬止まっただけだったが、今度はどうなるかわからない。だが今、夜天月が答えられるはずもなく、また眠って夢の中に行くわけにもいかない。

「まっ何とかなるか……」

 響は走る足を速め海岸まで一気に駆け抜けた。

 海岸に立ち海を見据えると響は一呼吸で夜天月を展開する。展開したところでは違和感はない。問題はブースターが作動するかどうかだ。

「ちょっくら試してみるか」

 響は軽くブースターをふかしてみるが、異音やブースターが止まることなどはない。

「とりあえずは問題ねぇか」

 ブースターを止めた響は、大きく深呼吸し呼吸を整えると、小さく告げた。

「夜天月、『天翔流星』起動」

 瞬間、夜天月の装甲が開く。

 そして中から現れたのは淡く青みがかったエネルギーで構成されている展開装甲だ。

 全ての装甲が開き終わった夜天月は、一回り大きさが増している。

「これが夜天月の展開装甲……ん?」

 響は眼前のモニタで別の作業が行われていることに気がついた。すると、completeという文字が表示され、夜天月の左腕が開き始め、中から展開装甲と同じ輝きを放つ四つの爪が現れた。

 同時にモニタには『断爪(たちづめ)起動完了』の文字が表示されていた。

「断爪? 新しい武装か? まぁいい。今はいそがねぇと」

 響は呟くと同時に瞬時加速を行った。

 砂浜に砂煙が舞うが、そんなことは気にせず響はぐんぐんとスピードを上げていく。すでに通常状態の夜天月の限界速度はゆうに超えているが、展開装甲の影響なのか夜天月はまだ限界スピードに達していない。

 ……私が行くまで耐えてろよ。

 心の中で福音に挑んだ友人達の顔を思い浮かべながら、響は夕闇を翔けていく。





 セシリアたちは劣勢に追いやられていた。

 つい先ほど一夏が復帰し一度は優勢に立ったかと思ったが甘かった。福音はそのエネルギー翼をさらに広げ、着実に六人を追い込んでいった。

「くっこの――!?」

 鈴音が憎憎しげに衝撃砲を放つが、福音はまるでそれが見えているかのように的確に避けると一気に鈴音の懐に潜り込み、攻撃を浴びせる。

「きゃあああ!!」

「鈴さん!!」

 鈴音は間近で食らった攻撃の影響で海面に落下していく。それを見た一夏が海面すれすれのところで何とかキャッチする。

 その場にいた全員がほっと胸をなでおろすが、

「セシリア!!」

「え……?」

 一夏の悲痛な叫びが聞こえたかと思うと、セシリアの後ろに白銀の機体が躍り出る。

 ……しまっ!?

 セシリアが後ろを振り向いた時にはもう遅かった。福音はエネルギー翼から光弾を発射する態勢に入っていた。

 ……響さん!!

 セシリアは自らが一番頼りにする人の名を心の中で叫ぶ。

 だが無常にも福音から光弾が放たれる。

 そして光弾がセシリアに着弾する。

 が、

 既に福音の前にセシリアの姿はなかった。変わりにそこに残ったのは淡い青の光の帯だった。その光はすぐに空気中に霧散する。

「え?」

 セシリアから疑問の声が上がる。彼女自身何が起きたかわかっていないのだろう。すると彼女の頭上から聞きなれた声が聞こえた。

「大丈夫かセシリア?」

「響……さん?」

 セシリアは顔を上げる。

 そこには小さく笑みをこぼす響の姿があった。

「まったく無茶しやがって……うおっ!?」

「響さん……!!」

 セシリアは響の声を最後の声まで聴かず、その首に抱きついた。

 そして彼女の目じりからは涙が零れ落ち、口からは嗚咽が漏れる。

 響はそれに苦笑しながらセシリアに声をかける。

「心配かけて悪かった……。あと、ありがとよ私の仇取ろうとしてくれたんだろ?」

「はい……! でも良かったです響さんが目覚められて。でもお怪我のほうは?」

「その辺は問題ねぇ。悪いがセシリア、そろそろ離れてくれねぇか?」

 響が言うとセシリアは慌てた様子で響から離れる。すると、彼女は響のISの変化に気付いたのか首をかしげながら問う。

「響さん? ISの形が……」

「ああ、その辺はあとで説明してやる。今はあのヤローを堕とすのが先だ」

 響は福音と対峙する。福音はセシリアたちには目もくれず響だけを見据えるとその不気味な機械音声で静かに告げた。

「対象変更。新たに現れたISを最優先で撃墜する」

「早速私狙いか? いいねぇ、こっちもテメェを叩き潰したくてウズウズしてたところだ」

 響はにやりと口角を上げ福音を睨みつける。

「だけど残念ながら今度はあっという間に終わらせてやるよ。中のヤツもしっかり救ってみせるしな」

 告げると響は態勢を低くし瞬時加速を行う。その速さはまさに流星のような速さで、ISのハイパーセンサーでも夜天月が生み出す青い光の帯を追うのがやっとだ。

 そして響は福音の横を通り過ぎると同時に福音の左腕の装甲を切り裂いた。『断爪』を使ったのだ。

 しかし、それだけで響の攻撃は終わることはなく、反転した響は今度は福音の足を切り裂く。有人のためかなりギリギリで装甲を削いでいる。

「コイツで終いにしてやるよ!!」

 響がまたも福音に接近するが、福音はそれを飛び上がって避けると、エネルギー翼から光弾を撃ち放つ。

「チッ! こいつが一番めんどくせぇ!!」

 舌打ちをしながら響はその場から離脱する。

「あの弾何とかしねぇといくら装甲削ってもダメか」

「響!!」

 一人呟く響の元に一夏と箒がやってくる。

「おう、一夏。体の調子は大丈夫か?」

「ああ。なんとかな。それよりどうする」

「とりあえず、あの装甲はまだ何とかなるが問題はあの翼だ。アレから出る弾何とかしねぇと近づけやしねぇ。アレを無効にするにゃ――」

 響は一夏に見やる。一夏もそれが意味することに気付いたのか真剣な面持ちで頷く。

「白式の零落白夜か……」

「または私の神炎ノ御手だな」

「では私達全員で陽動を」

 箒の言葉に響は苦い顔をする。

「それもありだが……問題はアイツの全方向攻撃だ。いくら追い詰めても最終的にアレを使われたら振り出しに戻っちまう」

「ではどうすればいい?」

「現実味があるとすれば私と一夏が同時に突っ込んで私の神炎ノ御手で攻撃を相殺して、最終的に一夏の零落白夜でとどめって感じだな」

 響は福音を見据えつつ、二人に説明する。

 福音はというと、先ほどの響の動きを警戒してか追撃をしてくる様子はない。

「どうだ一夏、やれるか?」

「ああ。やってやるさ!」

 一夏が大きく頷いたのを確認した響は全員に回線を開く。

『全員聞こえるな? 今から私と一夏で福音に止めを刺す。お前らは何でもいい、何でもいいからとにかくヤツの気を引け』

 響の声に皆は小さく笑いながら頷いた。

「じゃあいくぜ? 作戦……開始!!」

 響の声と同時にセシリアがブルー・ティアーズ六機をすべて展開し、それぞれの砲門から一気にレーザーを放ち、自らもスターライトmkⅡを構え狙撃をしてゆく。

「くらいなさいな!!」

 放たれたレーザーを福音は難なく避けながらセシリアを見据えるが、その後ろに鈴音が姿を現す。

「さっきのお返し!」

 鈴音は衝撃砲の砲門を構築し、圧縮した空気を最大出力で撃ち放つ。

 だが、福音は空中で体を反転させ、優雅にそれをよけて見せる。しかし、その福音の動きをラウラが止める。

「逃がさん!!」

 ラウラはアンカーを射出し、福音の足に打ち込むと動きを制限する。

「行くよ!!」

 その好機を見計らい、シャルロットの二丁のショットガン『レイン・オブ・サタディ』が火を噴く。その攻撃をもろに喰らいながらも、福音は止まることはせず、ラウラのアンカーを無理やりに解くと、シャルロットに狙いを定める。

「まだ私がいるぞ!!」

 箒が言いながら展開装甲を2方向から射出させ、福音を追い詰める。

 これまでの連続攻撃の影響なのか、さすがの福音もたまらず上に避けながら、攻撃を加えた皆を撃墜するように、エネルギー翼から光弾の雨を降らせる。

「一夏!! 響!!」

「「おう!」」

 箒の言葉を皮切りに、響が一夏と共に光弾の雨の中に突っ込んでいく。

「いいか一夏!! チャンスはこれっきりだと思えよ!! 夜天月の展開装甲を維持するのもあと30秒が限界だ!!」

「わかった!! 絶対に終わらせてやる!!」

 唐突に言われたことに対しても一夏は力強く答える。

 そして響は右腕を掲げながら叫ぶ。

「神炎ノ御手、起動!!」

 言うと同時に夜天月の右の掌の中心が解放される。

 同時に響達の前方の光弾が次々と消えていく。

「行け!! 一夏!!」

「ああ!!」

 響の声に一夏は雪片を構えながら、響の後ろから躍り出ると、瞬時加速を行い福音接近すると、に雪片を衝き立てる。だが、

「なっ!?」

 一夏が驚愕の声を上げる。

 なんと福音は雪片がつきたてられる瞬間、残った足のブースターを使い体をよじって一夏の突きをよけたのだ。

 それを見た場の全員が顔を蒼白に染める。

 しかし響は、まだ諦めていなかった。

 ……夜天月!! ちっとばかし無理させすぎるかもしれねぇが我慢してくれよ!!

 響は夜天月のブースターを無理やりにふかす。その影響か、夜天月に紫電が走るがそんなことお構いなしに彼女は突っ込む。

「どぉぉらぁぁぁぁぁぁ!!」

 雄たけびを上げながら一夏の隣を蒼い光の帯を作りながら駆け抜け、右手で福音の頭部を掴む。

「燃え尽きろおおおおおお!!!!」

 掴んだ瞬間、ギリギリ残っていた神炎ノ御手のエネルギーを使い福音の全エネルギーを燃焼させる。
 
 同時に福音のエネルギー翼も消え、白銀の機体は力なくその肢体をだらりと下げ、装甲も量子変換されパイロットの姿があらわになる。

 幸いパイロットに大きな外傷はないが、意識はないようだ。響はパイロットを受け止めると、大きく息をつく。

「響さん!」

「おお、セシリアこの人頼む」

 満面の笑みで響の元にやってきたセシリアに福音のパイロットを渡す。

 瞬間、夜天月が量子変換され待機状態の指輪に戻ってしまった。

「あ……」

 小さく驚きの声を上げた響は真っ逆さまに海面に落ちていくが、

「よっと」

 リヴァイヴを駆るシャルロットが響を優しく受け止める。

「あー、サンキューなシャル」

「どういたしまして。それよりもどうして急にISが?」

「ちょっと無理させすぎたかもな……戻ったら山田先生に診てもらうか」

「そうだね。じゃあ帰ろうか」

「おう。それにしても……疲れたなーちくしょう」

 響は毒づきながら大きく息を吐いた。

 こうして福音事件は幕を閉じた。七人の専用機持ちの生徒の手によって。

 因みに、花月壮に帰った皆を待っていたのは千冬の拳骨と、反省文。そして、滅多に言うことのない千冬の賞賛の言葉だった。






 その日の夜。

「ぐあー……つ・か・れ・た!!」

 響は花月壮の露天風呂にて岩に背を預けながら大きく体を伸ばす。

「お疲れ様でした、響さん。それよりも……」

「傷の方か? 心配いらねぇよもう全部直ってるし」

 セシリアに対し体が全快しているところを見せるため、響は腕を回してみる。

「まったくアンタどういう体してるわけ?」

「知るか。まぁ直ったもんは直ったんだからいいじゃねぇか」

 鈴音の問いに面倒くさそうに答えながら響は空を見上げる。

 空には夢の中で出てきたような満点の星空と、まん丸な月が浮かんでいる。

「そういえば響? 夜天月はどうして急に戻っちゃったの?」

「んー? 多分無理のさせすぎじゃねぇかな。山田先生に渡してあるし、明日ぐらいにゃわかるだろ」

「そういえば、夜天月は若干形が変わっていたがアレはどういうことだ?」

 ラウラの問いに対し、響は若干顔を引きつらせつつ、

「……それ、いわねぇとダメ?」

「「「「「うん」」」」」

 有無を言わさず場にいた全員が綺麗に頷いた。それにもう一度大きく息を吐いた響は告げる。

「あれはまぁ……夜天月の展開装甲だ」

「え? でも篠ノ之博士は――」

「篠ノ之の紅椿にしか付いていないとは言ってなかったぜ? だからあるかと思ったらあったってだけ」

「誰に教えてもらったの? やっぱり篠ノ之博士?」

「……まぁそんなところだ」

 響は言葉を濁しながら答えた。

 ……実際、夜天月に教えてもらったなんていったらこいつ等がどんな反応するかわかったもんじゃねぇからな。

「そういや篠ノ之――あーまどろっこしい! 箒の姿が見えねぇがどっかいったのか?」

「そういえばそうですわね……」

 皆が露天風呂を見渡すが、何処にも箒の姿はなかった。

 すると何かを感じ取ったような鈴音が、

「あたし先に上がるわ。あんたらはゆっくりしてなさいな」

 鈴音はそのまま、振り返ることなくスタスタと脱衣所に向かいどこかに駆けて行った。

「なんだ? あいつ」

 全員が首をかしげていると、海のほうから衝撃音がひびいた。

 皆何事かと外を見ようとするが、その後聞こえてきた一夏の叫び声を聞いた一同は、わかりきったように湯船につかりなおした。

「戦いが終わったばっかだってのに、アイツも大変だねぇ」

 しみじみといった様子で響が呟くと、皆もそれに深く頷いた。






 深夜。

 砂浜に浴衣姿の響が佇んでいた。すると、その後ろから、

「やーやー大変だったねびっきー! まさか、びっきーが怪我するなんて思わなかったよ!!」

 束がハイテンションなまま響の後ろに現れた。

「そうかよ。だが、んなことはどうでもいい。お前に聞きたいことがある、篠ノ之束」

「ん? なにかななにかな? 束さんが答えられることがあるなら何でも答えるよん!」

「あの福音を暴走させたのはお前か?」

 響はにらみをきかせながら束を見据える。対し、束は口元に手を当てながら、

「んー? なんのことー? そんなわけないじゃーん!」

「……まぁどうせそう答えると思ったけどな。じゃあ――」

「ストーップ! 次は私が聞きたいことがあるんだけど」

 若干声音を変えながら束は響を見つめる。

「びっきーは誰から『天翔流星』のこと聞いたのかな? アレは私しか知らないんだけど?」

「……さぁな、それぐらいテメェで考えたらどうだ? 天才さんよ」

「むっ……」

 いつも笑みを浮かべたままの束だが、今の返しには若干顔をしかめる。それだけ腑に落ちないのだろう。

 二人の間に重い空気と沈黙が流れる。

 すると、その空気を壊すように響がその場から一歩踏み出し、束に告げる。

「もう一個聞こうかと思ったがどうでもよくなっちまった。でもよこれだけは言わせてくれ――」

 響は歩みを進めながら淡々と述べていくと、束の隣を通り過ぎざまにドスをきかせながら言い放った。

「――次にふざけたことしやがったら問答無用でぶっ潰すから覚悟しとけ」

 吐き捨てるように告げた響はそのまま振り合えることはせず、夜の闇に消えていった。





 残された束は小さく笑いながら、

「ふーん。ぶっ潰すか……いいよやれるものならやって見せてびっきー」

 響を嘲る様に束は呟くが、その体は小刻みに震えていた。

 残念ながら今の束にはこれが何から来る震えなのかわからなかった。だがそれは、確実な恐怖から来る震えだった。 
 

 
後書き
はい、もう夜天月のモチーフになった機体はお分かりですよね!
そう! 夜天月のモチーフになった期待はあのバンシry

とりあえずこれで臨海学校編は終了です
次からは夏休み編です
オリキャラが数人出ます!

感想などおまちしております!! 
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