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IS-最強の不良少女-

作者:炎狼
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臨海学校 後編

 
前書き
今回で福音を出します
響がどうなるのか……

ではどうぞ 

 
 臨海学校2日目、今日は朝から晩までISの各種装備の試験運用、データ取りなどが行われる。専用機持ちは特に大変なのだが、

「ふあ~、ねみぃ……」

 一応専用機持ちである響なのだが、彼女の戦法は殴る蹴るなどの武装を使わない。さらに神炎ノ御手が発動して以降、夜天月を調べた結果。既に夜天月には許容量をフルに使った装備が整っているようなのだ。

 そのため新しい武装がインストールできないので、今日も響は暇なのだ。とはいっても、千冬がそんなことを許すはずもなく、

「暇なのであれば他のヤツらを手伝え」

 とのことだ。

「相変わらず、めんどくせー人」

 響が千冬の方をジト目で見ると、出席簿がすっ飛んできた。

 しかし、それに響が当たるわけもなくらくらくと指で挟みとる。

「何か言ったか鳴雨?」

「いえ、何でもありません。とりあえずポンポン出席簿投げない方がいいと思いますよ?」

 言いつつ響も出席簿を投げ返す。

「投げるのは貴様だけだ。基本ははたく」

 千冬は目を閉じながら飛んでくる出席簿を先ほど響がやったように挟みとると、小さくため息をつく。

「まぁいい、ではこれより班ごとに分かれISの装備試験を行え。各自迅速に行動するように」

 千冬が告げると皆がそろって返事をする。

「鳴雨、お前は――」

「他の専用機持ちの奴らの手伝いでしょ? わかってますよ」

 響は何を今更というようにため息をつきながら千冬を一瞥する。

「――わかっているならいい。ああ、それと篠ノ之ちょっとこっちに来い」

「はい」

 千冬は打鉄のパーツを運んでいる箒を呼び止めた。

「お前は今日から専用――――」

「ちーちゃ~~~ん!!!!」

 千冬の言葉を遮るような大声を発しながら砂煙を巻き上げつつ、こちらに接近する人影があった。兎耳を揺らしながらかなりの速さで近づいてくるその人物は、

「……束」

「……ウサギ女」

 千冬と響はそろって苦い顔をした。稀代の天才、篠ノ之束はそんなことはまるで考えていないかのような、満面の笑みを携えながら千冬の元に駆けてきた。

「やあやあやあ! 会いたかったよちーちゃん!! さあさあ、ハグをしようじゃないか! 私達の愛を確かめ――ばへっ」

「うるさいぞ束、少し静かにしろ」

 テンション高めで千冬にすりよったまではいいものの、千冬から帰って来たのは痛烈なアイアンクローだった。

 束はそれから何とか抜け出すと、

「むむっ……。ちーちゃんはしてくれないのかーざーんねん。でもいいもん!! 私はびっきーに慰めてもら――はがぁ!!??」

 千冬のアイアンクローから抜け出した束が響の方に向き直り、響を抱きしめようとするものの、今度は響のアイアンクローが決まった。

 先ほど動揺すぐに抜け出すのかと思いきや、

「あだだだだだだだ!!!??? ちょ、ちょーっとびっきー!? 前から思ってたんだけど何でびっきーのアイアンクローはこんなに痛いのってやめてー!! 割れる脳が割れるってば!!」

「安心しろー、多分人間の脳はそんなにやわじゃないはずだー」

「そういう問題じゃないたたたたた!!!!????」

 響の冷淡な口調は変わらないが、束は本当に痛そうだ。するとそれを見ていた千冬が、

「鳴雨、もう構わん。解放してやれ」

「へーい」

 溜息混じりに手を離すと、束は砂浜にうずくまりこめかみの辺りをさする。しかも若干涙目だ。

「おおおおお……、なんという痛み……。いつか束さんの頭はびっきーによって破壊されるんじゃないかと心配になってきたよ」

 未だにさする手を休めずに響を見つめる束は悲しげに瞳を潤ませるものの、響は明後日の方向を向いている。

「束、いい加減起き上がって自己紹介でもしろ。生徒が混乱している」

「えー、めんどくさいなぁもう。えーっと、はろー私が天才の束さんです、ハイお終い」

 なんとも適当な挨拶だった。

 生徒達はこの人物が誰なのかやっと理解したようで、皆ざわつき始めた。何せISを開発した人物が目の前にいるのだ。それで逆に黙っていろと言うほうが難しいだろう。

 だが、そんな皆の姿を見かねてか千冬が真耶に声をかける。

「山田先生。すいませんが皆の準備を手伝ってやってください。このままではいつまでたってもはじめられない」

「あ、はい! わかりました!!」

「鳴雨、お前ももう行け」

「へいへい」

 響と真耶は皆の元にかけていく。





「よう、準備は順調か? お前ら」

 響が行ったのは専用機持ち五人のところだ。

「うん、粗方ね。でも驚いたよ、まさかあの人が篠ノ之博士だなんて」

「まぁ普通は思わないよな……」

 シャルロットの隣で準備していた一夏も苦笑いで応じてくる。

「時に一夏、アイツ。結構性格に難ありだろ?」

「気付いたか? ……うーん、まぁそうなんだよな。俺と千冬姉、箒にはあんな感じなんだけどそれ以外の人だと全然違うんだ。だから驚いたぜ、響に対する束さんの態度には」

 一夏は心底驚いたような顔をした。それだけあの篠ノ之束という人物は、他者を隔絶してきたのだろう。

「まぁあんなのに好かれても、別にうれしかねーけどな」

 響が肩をすくめ鼻で笑った瞬間、

 突然大きなおそらく鋼鉄製であろう箱が空から飛来した。

 辺りに振動を与え落下した箱は、突然前が開き、その中身をあらわにした。それと同時に束が大きな声で宣言する。

「じゃんじゃじゃーん!! これぞ箒ちゃん専用ISこと『紅椿』だよーん!! 全スペックが現行のISを上回る束さんお手製のISだよ!」

 箱の中の真紅のIS、紅椿を誇らしげに胸を張って説明する束。生徒の殆どがその機体に目を奪われる中、響はただ黙々と機材を運ぶ。

「響さん? あのIS見ないんですの?」

 作業を続ける響に疑問を持ったセシリアが怪訝そうに聞くものの、響は小さく溜息をつきながら、

「さっさと準備終わらして、さっさと試験運用かたしちまったほうが楽だろ? それに篠ノ之のISなんて興味ねぇし」

「だが全スペックが現行ISを上回っているということは、かなりの機体なのではないか?」

 ラウラも箒の機体を見つめつつ、響に語りかけるものの、

「だからどうした? 結局どんなに物が良くても、乗るヤツがそれを有効に使えるか腐らせるかどっちかだ。機体を見たからって何かが変るわけじゃねぇだろっと」

 現在響は紅椿や箒たちには目もくれていない。ただ黙々と自分の仕事をこなしていく。それに触発されてか、セシリアやシャルロットも準備を再開し始めた。

 するとまたしても轟音が鳴った。

 どうやら今度は紅椿の武装チェックをしているらしい、上空二百メートルほどで装備されている刀を持った箒が誇らしげに顔を緩ませている。

 だが、響はそれを快くは思わなかった。

「……慢心しすぎていつか自分の首を絞めなきゃいいけどな……」

「響? 今何か言った?」

「いんや、気のせいだろ」

 響は聞いて来たシャルロットに笑いながら返す。

 ……強すぎる力はいずれ自らを苦しめる足かせとなる、か。父さんが言ってたっけな。

 今は亡き父の言葉を思い返しながら、響は自らのIS、紅椿の強さに興奮しているであろう箒をじっと見つめていた。

 するとそのとき、

「お、織斑先生! 大変です!!」

 真耶の焦りを孕んだ声が聞こえた。

「どうした?」

「と、とにかくこれを!」

 真耶から渡された小型端末の画面を確認しながら千冬は顔をしかめる。

「特務任務A、現時刻より対策をかいしされたし……」

「そ、それがハワイ沖で試験運用に当たっていた軍用の――」

 真耶はまだ焦った様子で告げようとするものの、千冬がそれを遮った。

「しっ。軍事機密を声に出すな。生徒に聞こえる」

 それに頷いた真耶は声ではなく、今度は手話で現状を伝え始める。どうやら普通の手話ではなく、軍用の手話のようだ。

 それを遠めで見ながら響は、

 ……こりゃあ確実に何かあったな。絶対めんどくせぇことが。

「何かあったのかな?」

「さぁな」

 隣のシャルロットが肩を叩いて聞いてくるものの、響の返事は空返事だ。すると、

「で、では私は他の先生にも伝えてきます!」

 全てを伝え終えたのか、真耶が別のクラスの教員のもとへ駆けていった。

「全員注目!!」

 千冬の凛とした声に、その場にいた全員が背筋を伸ばす。

「現時刻よりIS学園教員は特別任務に入る。よって今日の試験運用は中止とする! 各自、旅館に戻り、連絡があるまで自室待機!!」

 突然の運用中止にざわつく一同だが、さらにそこで千冬が追い討ちをかける。

「いいから黙ってとっとと戻れ!! 以後、許可なく室外に出たものは容赦なく拘束する!! いいな!!」

 千冬の一喝に、全員が準備中だった機材を片付けていく。接続仕掛けだったコンソールやISを待機状態に戻し台車で運んでいく。

 無論専用機持ちの五人も片づけを開始している。ただし、響は嫌な予感がしていた。

「それと、専用機持ちは全員集合だ。織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、鳴雨!そして――篠ノ之。お前も来い」

「はい!」

 やたらと元気よく返事をした箒の顔はやる気に満ち溢れていた。

 だが響はというと、

「うへぇ~、めんどくせー……」

 全然やる気になっていなかった。

 ……嫌な予感はしてたけどまさかどんぴしゃだとは思わなかったぜちくしょう。

 大きなため息をつきながら響は残りの機材を片し終えた。






 花月壮の宴会場に儲けられた緊急の作戦会議室に、千冬と真耶、そして響を含めた六人の専用機持ち達が顔をそろえていた。

 薄暗い部屋の中央には巨大な空間投影ディスプレイが淡く光を放っている。千冬はその前に立つと、

「ではこれより現状の説明を開始する」

 千冬が冷静な口調で告げると同時にディスプレイの中に次々と情報が展開されていく。響はその様を頬杖をつきながら眺めている。

 他の専用機持ち達は皆、背筋をピンと伸ばした状態で正座をしているのだが、響だけは胡座をかいてだらりとしている。

 ……ねむ、こんな薄暗い部屋で難しい話されちゃ眠気がやばいっての。

 響は千冬が現在の状況を説明している中、時折大あくびをしながらじっと眺めていた。

「鳴雨!! 聞いているのか!?」

 その姿を確認した千冬が響を恫喝するが響はそれに臆することなく、けだるそうに答えた。

「そんなに怒鳴らなくても聞いてますよー。アレでしょ? ハワイ沖で試験運用? してたえーっとなんだっけ……ああ、そうそう『銀の福音』(シルバリオ・ゴスペル)でしたっけ? それが暴走してこの辺りの海域を通過するからそれを止めろってことでしょ?」

 響は一見聞いていないかと思いきや、どうやらしっかり聞いていたようだった。それに皆が驚く中、響はさらに続けた。

「ところで織斑先生? 確かその銀の福音、超音速で飛行中なわけですよね、アプローチは?」

「……おそらく一回が限界だろうな」

「とすれば……一撃必殺で落とすしかないってわけだ。てぇことは適任は――」

 そこまで言いつつ、響は一夏の方を見据える。それと同時に場にいた全員も一夏を見つめる。

「お、俺か?」

「そりゃあそうでしょうよ一夏。アンタの零落白夜しか相手を無効化できるやつなんてないんだから」

 鈴音があきれ口調で一夏に告げた。

「問題は一夏をどうやってそこまで運ぶかだよね……」

「そうだな、なおかつ目標に追いつけるだけの速度が出せるISでなければならん」

 シャルロットとラウラが口元に手を当てつつ考え込むが、

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 本当に俺がやるのか?」

「「「「当然」」」」

 一夏の再度の問いに響以外が声をそろえて頷いた。

「まぁ当たり前だわな。がんばれよー一夏」

 響はまったく興味がなさそうにひらひらと手を振りながら、ゴロンと後ろに寝転がった。

 千冬はそれに気付いてはいるものの、もう注意する気も起きないのか軽くため息をつく。

「ではこの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 千冬の言葉にその場にいた全員が響を見つめる。それもそうだ、実際この中で一番速いISは響の所有する夜天月のみだからだ。

「あの、響?」

「知らんめんどい」

 シャルロットが響の肩を叩くものの、彼女は体を横に傾けそっぽを向く。

 千冬も溜息をため息をつきつつ響に聞いた。

「鳴雨。どうしてもやる気にはならんか?」

「響さん……」

「響……」

 千冬の声に続くようにセシリアとラウラが彼女の名を呼ぶと、響は大きく息を吐きながら、

「あー……はいはい。わかったよやりゃあいいんだろやりゃあ!! だけどただでとはいかねぇぞ? 一つ条件を聞いてもらう」

「聞こう」

「簡単なことだ。これから私が授業をサボっても何もいわねぇって約束しろ。あと追い掛け回すのもなしだ」

 響は人差し指を立てつつ千冬を見据える。

「ああ……わかった。約束しよう」

 千冬は眉間を押さえつつ了承した。

「よし、交渉成立だ。んじゃあぱぱっと済ませちまおうぜ一夏」

「おう!」

 響の言葉に一夏も力強く頷いた。。それを見た千冬は皆の方を向き、

「よし、ではこの任務は織斑、鳴雨両名に――」

「ちょぉぉぉっとまったぁぁぁ!!」

 千冬がそこまで言いかけたところで、またしても束の声が聞こえた。声のするほうを見ると、なんと天井裏から束が頭を出しているではないか。

 それを見ながら、千冬はため息をつくと、

「……出て行け束」

「あーんもう! 少しぐらいは束さんの話聞いてってば! その作戦にはびっきーの夜天月より紅椿の方が絶対いいんだって!!」

「何?」

 束の発言に千冬だけでなく、その場にいた響以外の全員が怪訝そうな顔をする。

「確かに夜天月ならスピードだけならいいかもしれないけど、もし戦闘が長引いた時夜天月だときついんだよ。なにせ遠距離武装がないから援護ができないしね。その点紅椿の場合は遠距離はできるし何より展開装甲を搭載しているからね」

 展開装甲、という始めて聞く単語に皆が首をかしげると、束はそれを知ってか知らずか説明を始めた。

「展開装甲って言うのは私が作った第四世代ISの装備でねー。簡単に言えばいっくんの持ってる『雪片弐型』に搭載されてるヤツでね。攻撃や防御に使えるほかに、出力をちょちょいといじってやれば展開装甲だけでも射出系の武器にもなる優れものなんだよ」

 えっへん、というように束は胸を揺らす。だがその場にいる全員はポカンとした顔をしている。それもそうだろう、なにせ今の説明の中だけでとんでもない単語が出てきたのだ。

 それは紅椿が未だ世界の何処の国でも開発がされていない第四世代のISということだ。しかもその紅椿には展開装甲などという、新たな武装まで搭載されているというのだ。

 これで驚かない方がおかしいというものだろう。

「ありゃ? なして皆固まってるん?」

 当の本人は小首をかしげ、皆が固まってしまっていることが理解できていないようだ。その様子に千冬は一息ため息をつくと、

「――言ったはずだぞ束。やりすぎるなとな」

「いや~、やり始めたら止まんなくなっちゃってさー」

 頭をかきながら束はにやけている。

「束、紅椿の調整にはどの程度かかる?」

「7分もあれば余裕だよん」

 束はくるりと回りながらウインクした。その姿は親に褒められて嬉しそうに飛び跳ねる幼子のようだった。

「よし、では今回の作戦は内容を変更。鳴雨は作戦から除外し、篠ノ之、織斑両名での出撃とする」

 一夏と箒はそれに頷く。一方響はというと、

「私はいらないって事か……あーよかったよかった。めんどくさいことから解放されて」

 大きく伸びをしていた。だが、しかし、

「あーちょっとまってー。できればびっきーも行ったほうがいいと思うよ。戦闘はいっくん達に任せればいいけど移動はびっきーがいた方が断然速いから」

 紅椿をいじりつつ、束が告げた。

「夜天月のブースター全開でふかせば福音に追いつくなんてあっという間だよ。とりあえず戦闘海域まではびっきーに運んでもらって、そこからいっくんたちが戦えばいいんじゃない? 紅椿がいれば囮役も成り立つし」

 紅椿をアームアーマーでいじくりまわし、顔を向けもせず束は淡々と述べていく。そして最後、一番の爆弾を投下した。

「あ、言い忘れてたけどびっきーの夜天月も一応第四世代だから」

「「「「「は?」」」」」

 その場にいた五人の言葉が重なった。そして次にやってきたのは、主に欧州三人組みからの驚愕の声だった。

「響さん!? どういうことなんですの!?」

「響!! どうして黙ってたの!?」

「お姉さま!! 何故そんな大事なことを!?」

 三者三様の声を発しながら三人は一気に詰め寄った。響はそれにげんなりとしつつ、

「あー……、それはその……なんだ。面倒くさかったし? 言ったってあんましかわんねーかと思ったし?」

 頬をかきつつ、響は三人から視線をそらす。

 だが三人がそれを許すわけもなく、

「ちゃんと目を見て話してよ響!」

「そうですわ!!」

「いくらお姉さまでもこれは見逃すことはできん!」

 またしても浴びせられる声に今度は耳をふさぐ響。しかしそれを見ていた千冬が、

「黙っていろ貴様ら!! 今は鳴雨が第四世代を所持していたことなどどうでもいい!!」

 腕を組みながら怒号を飛ばした。そう、まだ事件は終結していないのだ。千冬からしてみれば何をやっているこの馬鹿共、状態である。

「……鳴雨、聞いたとおりだ。やれるか?」

「……へーい。やりますよやりゃあいんでしょう」

 半ば投げやりに答えながら響は大きく溜息をついた。

「よし、では今から三十分後に出撃だ。各自準備を整えておけ。もたもたするな!!」

 千冬の号令に場にいた皆もそれぞれの持ち場に離れていった。一夏はどうやらセシリアたちから高速戦闘のレクチャーを受けているようだ。

 響はというと束の背後に近寄り、その耳元まで顔を寄せるとささやいた。

「この事件が終結するまでテメェ、どこにも行くんじゃねぇぞ」

 対し、束も微笑を浮かべながら、

「フフッ、りょーかい。この事件が終結するまでは消えないよ」

「もし消えたら承知しねぇからな」

 最後にドスを聞かせながら束に告げた響は一夏達の元に戻っていった。




 作戦会議から三十分後。響、箒、一夏の三人は砂浜にたたずんでいた。

 そして、箒と一夏が目を閉じた瞬間、響は一瞬で夜天月を展開した。それに遅れ、二人も紅椿と白式を展開する。

「じゃあ響、頼んだ」

「めんどくせぇがやるしかねぇもんな。じゃあ篠ノ之、私の上に乗れ」

「ああ、一夏。言っておくが本来女が男の下になるなど私のプライドが――」

「テメェのプライドなんざどうでもいいからさっさと乗れ」

 一夏に意見する箒の言葉を途中で遮りながら響が告げると、箒は面を食らったような顔をするが渋々と響の上に乗った。

 さらにその二人の上に一夏が乗り、随分とおかしな格好だがこれが一番最適な形なのだという。

『織斑、篠ノ之、鳴雨聞こえるか?』

 オープン・チャネルから千冬の声が聞こえた。

『いいか、まず鳴雨が瞬時加速を行いトップスピードに乗ったところで篠ノ之が飛び上がり、そこからは篠ノ之と織斑二人での行動だ。あと先ほども言ったが今回の作戦は一撃必殺だ。それを忘れるな』

「「了解(しました)」」

「へーい」

 3人はそれぞれ頷く、すると、

『鳴雨、お前は二人を運び終わった後は帰投せずにそのまま滞空しろ』

 今度はプライベートチャネルが響の元に入ってきた。

「わかりましたよー」

『それと今一夏にも言ったところだがどうにも篠ノ之が浮かれているようだ。もしサポートが必要であれば助けてやれ』

「余裕があればしますよ」

 肩をすくめながら響が答えると、千冬はまた回線をオープンにし、

『では、作戦開始!』

 千冬の宣言と共に響が夜天月の全ブースターを開放する。

 同時に金きり音が聞こえ始め、夜天月の脚部から熱風が吹き荒れた。その衝撃で後ろの砂が砂塵となるが響はお構いなしだ。

「行くぞテメェら、振り落とされねぇようにしっかり掴まってろよ!!」

 響の声と共に夜天月が一気に上空およそ500mまで一秒もみたいない速さで飛び上がると、さらにそこから急加速を行う。

「ぐっ!?」

 ……はやい!! なんつー速さだよ。響はこんなISに乗ってたのか!?

 あまりの速さに一夏、箒共に顔をしかめた、だが響は涼しい顔だ。

「一夏!! 篠ノ之!! そろそろトップスピードだ! 気ぃ抜くんじゃねぇぞ!!」

『お、おう!』

『了解した!』

 二人は互いに頷きながら答える。

 それからおよそ数秒後、

「トップスピードだ! 行け! 篠ノ之!!」

『了解!! 行くぞ一夏!』

 響の言葉に答えながら箒は紅椿の展開装甲を起動させ、響から離脱した。

 二人が上がったのを確認した響は、夜天月の速度をゆっくりと落とし、やがてある空域で滞空した。

「こちら鳴雨響。織斑、篠ノ之両名の離脱完了しました」

『わかった。では引き続き滞空しつつ援護できる時は援護を頼む』

「了解」

 千冬とのオープンチャネルを閉じ、響は二人の飛んでいた方向をISのハイパーセンサーで見つめる。どうやら無事に飛んでいるようだ。

 ……さて、問題は篠ノ之か――。

「――ミスらなきゃいいけどな」

 響は呟きつつ二人のあとを追尾した。





 響と離れた箒と一夏は福音と接触していた。

「一夏! 今だ!」

「おう!」

 箒の声と共に、一夏は零落白夜を発動させ一気に福音との間合いを詰め、斬りかかった。

 ……いける!!

 一夏はその攻撃が当たると確信した。しかし彼の予想は大きく裏切られた。

「敵機確認。迎撃モードへ移行。『銀の鐘』(シルバー・ベル)起動」

 不気味なまでの機械音声を発したかと思うと、福音はその体を捻り、数ミリのところで雪片の刃を避けた。

 福音はそのまま翼のスラスターを駆使し、なおも斬りかかる一夏の攻撃を舞うように避けていく。

「くそっ! 箒! 援護頼む!!」

「任せろ!」

 このままでは圧倒的にに不利だと考えた一夏は箒に救援を頼んだ。

「箒! 左右から同時に攻めよう! 左は頼んだぜ!」

「了解した!」

 箒に指示を出し、一夏は箒と逆方向に飛んでいく。だが、それすらも福音は軽々と避ける。痺れを切らしたのか箒が一夏に告げた。

「一夏! 私がヤツの動きを止める!」

「わかった! 無理すんなよ!!」

 箒は刀を抜き放ち、二刀で福音に斬撃を繰り出してゆく。さらに彼女は、紅椿の展開装甲も使い福音との距離を着実に縮めていく。

 さすがの福音も、回避ばかりでは手が回らなくなったのか、防御の体制をとり始めた。すると福音が動きを一瞬止める。

 ……今だ!!

「うおおおお!!」

 一夏が斬りかかるものの、今度は背中のウイングスラスターに内蔵された36の砲門が火を噴いた。しかもそれは全方位に向けての一斉射撃だ。

 だが箒も負けておらず、放たれた光弾をかわし、福音に迫撃をする。

 それにより隙が生まれる。が、

 一夏は福音とは真逆の方向に飛び、降り注ぐ光弾を切り裂いた。

「一夏!! 何をしている!! せっかくのチャンスを!!」

「船がいるんだ放って置く訳にはって密漁船かよ!! ったく!」

「馬鹿者!! 犯罪者などほうっておけばよいものを――!」

「そんなことできるか! どうしたんだ箒!! お前らしくないぞ!!弱いものを見捨てようとするなんて」

「わ、私は……」

 二人は互いに声をぶつけ合う、だがそんな隙だらけの二人を福音が見逃すわけもなく。

 銀の機体は箒を確実に狙っていた。

「箒いいいいい!!!!」

 一夏は絶叫しながら持っていた雪片を投げ出し、残った全エネルギーを使い瞬時加速を行った。

 同時に、放たれたおびただしい数の光弾が箒を捕らえた。

 しかし、一夏は箒を守るため光弾と箒の間に割って入った。

「ぐあああああ!!」

 一夏の痛みによる叫びがこだまする。白式自体エネルギー残量は多くなかったあの状況で、あれほどまでの光弾の嵐を喰らえば容易に想像はついた。

「一夏! 一夏ぁ!!」

 箒は自らを立てとして自分を守った一夏の名を呼ぶが、一夏は既に目を閉じていた。息はあるようだがそれでも彼の状態はひどかった。

「一夏! 目を開けてくれ一夏!!」

 再度名を呼ぶが一夏は反応しない。

 そしてまた、福音から光弾が放たれた。

 ……やられる!!

 箒は一夏を抱きしめ、守るように抱くが光弾の雨はいっこうに降り注いでくる気配はなかった。なぜならば、

「あっぶねー。ギリギリ……でもねぇか。悪いな篠ノ之、遅くなった」

 夜天月を駆りその巨大な左腕で二人を守る響の姿があった。





「篠ノ之、一夏は?」

 響が聞くも箒の返答は帰ってこない。

「篠ノ之箒!!!!」

「はっ! す、すまない。い、一夏はなんとか息を続けているが重症だ。このままでは……」

「ちっ! やっぱりかよ」

 響は毒づきながらオープンチャネルを開く。

「織斑先生! 一夏が負傷しました。重態のようですがどうしますか!?」

『なんだと!? くそっ! やむ終えん、鳴雨! 二人を連れて帰投しろ!』

「了解。……聞いたとおりだ、篠ノ之この空域から離脱するぞ」

 響はなおも降り注ぐ光弾の雨を防ぎながら箒に告げる。彼女も涙目になりながら頷く。

 ……しかし、この攻撃の中どうやって二人を逃がすか。

 未だに福音は攻撃の手を休めようとはしなかった。先ほどから光弾をひっきりなしに放ってきているのだ。

 ……このまま一夏をほうっておくわけにもいかねぇ。どうする。

「だけどやっぱ、この手しかねぇよな」

 響は後ろを一瞥すると箒に告げた。

「篠ノ之。私が囮になる、その隙に安全な空域まで離脱しろ」

「あ、ああ。わかった。響は……?」

「すぐ追いつくさ。いいかヤツの攻撃がやんだらなりふり構わずとにかく全速で駆け抜けろ。後ろを決して振り返るな」

 響の命令に箒は深く頷いた。

 そして数秒後、光弾の雨がやんだ。

「今だ! 行けぇ!!」

 声と共に箒は一気にその場から離脱した。

 同時に響も福音に向けて瞬時加速を行い突っ込んだ。

「テメェの相手はこの私だ! 行くぞ! この機械野郎が!!」

 言い放った響は福音を箒たちからできるだけ遠ざけた。そして響の耳に福音の不気味な機械音声が入ってきた。

「標的変更。前方の敵を排除」

 抑揚のない冷たい声で福音が告げると同時に響は福音に殴りかかっていた。だがそれも福音は軽々と避ける。

「ちっ! ……まぁいい、今はテメェからあいつらを遠ざけるることが先決だ。少しの間付き合ってもらうぜ!」

 響は福音に拳を当てようとするものの、やはり福音には当たらない。それが数回続いた時響は顔をしかめつつ、

「ちょこまか動きやがってめんどくせぇ……! だが、頃合だな」

 表示されたディスプレイのマップから紅椿の反応が消えたことを確認すると、

「勝負はお預けだ。首を洗って待ってな」

 告げて響がその場から立ち去ろうとした瞬間だった。福音が一瞬にして響の間合いに詰め寄ったかと思うと再び、光弾の雨を降らせた。

「なんっ!?」

 回避運動を取ろうとする響だが、あることに気付いた。

 ……ブースターが起動しねぇ!?

 そう、夜天月に装備されていたブースターが機能を停止していたのだ。しかし、損傷したような箇所はない。

 ……どういうことだ!? ホバリングのためのスラスターは動いてるのに……まさかエラーだってのか!?

 響が思った頃にはもう遅かった光弾が眼前に迫って来ていたのだ。

「くっ!?」

 何とか頭への直撃は避けることができたものの、それ以外は無理だった。まず右腕に、そして腹部に、肩に、足にと次々と光弾が降り注いだ。

 その圧倒的な数に動けない響はなすすべもなく飲み込まれていく。

 あっという間に0になったシールドエネルギーの影響で一気に危険域に達しそうになった瞬間。

 唐突に攻撃がやんだ。

「ぐ……う……!」

 うめき声を上げながら響が福音を見据えるが福音はまたも冷淡な機会音声で告げてきた。

「対象戦闘不能。攻撃終了。この空域から離脱する」

 それだけ告げると福音は目にも止まらぬ速さでその場から消えた。

 後に残された響は虚ろになりながらもゆっくりとした動きでその場から立ち去った。

「っく……あの野郎。ぜってーこの借りは返してやる」

 毒づく響だが彼女の体の損傷はひどいものだった。出血はもちろんのこと、おそらく筋肉の断裂。打撲にさらには骨折もあるだろう。しかも最初の攻撃が当たった右腕はブランと垂れ下がったまま動く気配がない。

「こりゃあ右腕脱臼してるかもな……ハハッ、ざまぁねぇや」

 苦笑する響だがその目には光が灯っていなかった。






 そして箒たちが戻った10数分後、連絡の途絶えた響の捜索をした千冬達が発見したのは、浜辺で血みどろになって倒れ付している響の姿だった。 
 

 
後書き
さて、なぜ夜天月のブースターが止まったのでしょうか。
例のアノ人の故意によるものでしょうか?
はたまた、ただの偶然か?
それは次回に明らかになります

次回は臨海学校福音編完結でございます
果たして響はどうなるのか!?

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