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IS-最強の不良少女-

作者:炎狼
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夏休み

 
前書き
夏休み編1話目です

オリキャラ数人出ます。 

 
 八月。

 灼熱の太陽がじりじりと照りつけるこの季節。IS学園は普通の高校と違いちょっと遅めの夏休みに入る。

 海外からの生徒が多いため、現在IS学園に生徒はあまり残っていない。

「うっし。荷物は全部まとまったな」

 寮の一室、響と本音の部屋では響が荷物をまとめ終わり、それを肩に担ぐ。

「あーあー、ひーちゃんがいなくなっちゃうんじゃつまんないなー」

「つまんねーって言ってる割には漫画読んでゲラゲラ笑ってるじゃねーか」

「ばれたかー」

 ベッドの上でゴロゴロしている本音を見ながら響は苦笑しながら軽くため息をつく。

 響はそのままドアノブに手をかけると、

「じゃあ本音。あんまゴロゴロしすぎんなよー」

「はいはーい。またねーひーちゃん、お土産よろしくー」

 ベッドの端から顔だけ突き出しながら本音は響を見送った。それに軽く手を振りながら響は部屋をあとにした。



「響ちゃんのお胸ゲットー!」

「フン!!」

 職員室に行くため校内の廊下を歩いていた響の胸を掴もうとした楯無に響が強烈な裏拳を放つ。しかし、楯無はそれを軽く後ろに飛び退きながら避ける。

「危ないじゃない響ちゃん!」

「なーにが危ないだボケ。軽々と避けやがって、それに人様の胸揉もうとしたんだから殴られろ」

「いーじゃない減るもんじゃなしー。――そ・れ・と・も……響ちゃんは私のおっぱい触りたいのかしら?」

「……」

 楯無の言葉に響は無言で左手をゴキゴキと鳴らす。

「あー! ごめんごめん! 冗談よー」

 さすがに響のアイアンクローは喰らいたくないのか、楯無は多少焦った声を漏らしながら首を横に振る。

 静かに左手を降ろしながら響は楯無に問う。

「ハァ……そんでなんの用だ、楯無」

「ん? あ、そうそう。前にも言ったけど夏休み中でも生徒会はあるから。でも響ちゃんは帰省しちゃうみたいだから……はい」

 楯無は懐から一つの端末を渡す。それは黒の板状の端末で、カメラのレンズのようなものが付いている。

「これは?」

「自宅にいても生徒会会議ができるようになってる立体映像投影装置。電源を入れて前にいるだけで生徒会の様子が確認できるから。勿論音声も出るようになってるから安心してねー」

「ふーん。それで時間は?」

「いつもと同じ。水曜日の四時半ぐらいからよ」

「りょーかい。じゃあ私はそろそろ行くぜ?」

「うん。じゃあまた夏休みの終わりにね。ぐれちゃダメよ?」

 楯無の忠告のような意見に響は振り返りながら手を振ると、職員室に向かって歩き始めた。




 職員室のドアに手をかけようと響が手を延ばした瞬間。

「鳴雨」

 響が振り返るといつものスーツに身を包んだ千冬が腰に手を当てながらたたずんでいた。

「織斑先生。ちょうどいいところに、格納庫の鍵開けてくれませんかね?」

「格納庫? ……ああ、あれか。待っていろ」

 千冬は職員室に入ると、中にある金庫からIDカードのようなものを取り出し戻ってきた。

「待たせたな。では行くとするか」

「どーも」

 二人は並びながら外にある第六格納庫に歩き出す。

 道中、千冬が響きに問うた。

「時に鳴雨。お前のISはあの後から大きな変化はないか?」

「そうっすね。特に故障したり、ブースターが止まったりすることはないです。でも――」

「でも、なんだ?」

 響が口元に手を当てながら眉間に皺を寄せると、小さく息をつきながら千冬に告げた。

「――なんつーか前よりも夜天月との一体感が増した感じがするんですよねー」

「ふむ……具体的にはどんな感じだ?」

「いや、前も結構一体感はあったんですけど、超薄い膜みたいなので少しだけ邪魔されてるような感じがあったんですよ。でもあの事件の後からその膜みたいなのがなくなったって言うか……」

「膜……か……。それ以外に体への不調のようなものはないか?」

「体はもう全快っすね。てかどうしたんですか織斑先生? さっきから私の心配ばかり」

 響は素直に疑問を思ったことを口にする。

 なにせ普段はアレだけ生徒に対して厳しい千冬なのだが、今日ばかりは異様に響の心配をするので気味が悪くてしょうがなかったのだ。

「私とて鬼ではない。自分の生徒がアレだけの大怪我を負ったのだ、心配して悪いか?」

「いーえ。でもなんかいつもと違ったんで気になっただけっすよ」

「そうか」

 千冬は小さく笑いながら返す。

 その後も二人は他愛のない話をしながら、格納庫に向かっていった。



 IS学園の一角。第六格納庫。

 ここは基本的に生徒の私物などを一時的に預かる言わば倉庫のようなものである。例えば、宅配便で送られた荷物などは、一度ここに入れられ異常がないかなど、検査が通される。

 他にも生徒の部屋に入らないほど大きなものなども収容されている。

「さて、鳴雨。少し下がっていろ」

「うっす」

 千冬は響に促すと、巨大な扉の横に設置されているセキュリティ装置にカードを通すと、暗証番号のようなものを打ち、手をかざす。

 すると、目の前の巨大な扉が重厚な音を立てながらゆっくりと開く。

 外は灼熱だというのに、中はそれなりにすごしやすい温度のようで、扉が開くと共に多少冷気を孕んだ空気が響達の肌を撫でる。

 千冬が先に入ると、真っ暗だった格納庫に光が灯される。響もそれに続き奥へと進むと、ある一つの布がかぶせられた物の前で止まった。

 響は小さく笑い布を取っ払う。

 そして中から姿を現したのは、全体的に黒塗りで所々鈍い銀色が光る単車。いわばバイクだった。それを見た千冬は思わず関心とも呆れとも取れるようなため息をついた。

「まったく、IS学園で初だろうな。在学中にバイクの免許を取るなど……」

「別に禁止はされてないでしょ? だったら別にねぇ?」

「それもそうだがな。状態はどうだ?」

 千冬が聞くと響はバイクのサスペンションなどを確認して行き、頷いた。

「よし、問題なし。ガソリンは……まぁ途中で入れればいっか」

「問題はなさそうだな。それにしても普通二輪車とは思えん大きさだな」

 千冬の言うとおり、明らかに響のバイクは普通二輪車よりも大きく見える。

「でも一応これで排気量は普通二輪車と同じですからね。特に何か引っかかってるわけではないです」

「なるほど。まぁここに入れる前、厳重なチェックをして問題はなかったから大丈夫だろう。ところで荷物はそれだけか?」

 千冬が指をさす先には、響のバイクの座席の後部に縛りつけられたバックのみだ。

「必要最低限のモンだけ詰め込んだだけっすからね。……さて、んじゃそろそろ行きますかね」

 響は言うとバイクのエンジンをかける。

 マフラーから熱い排気が噴出し、エンジンが唸る。数回エンジンをふかすし、音を確認した響に千冬が聞いた。

「オルコットたちにはお前が帰っていることを伝えてあるのか?」

「ええ。一応住所も教えてありますし。……」

「どうした?」

 急に黙った響に対し、千冬が首をかしげる。

「いえ、なんというかバイクで走ってる時に夜天月のブースター起動したらスッゲーことになるんじゃないかと」

「やめんか馬鹿者」

 呆れ顔のまま千冬はため息をつく。それに小さく笑い、

「冗談ですよ、冗談」

「お前ではやりかねんからな」

「信用ねぇなぁ。じゃあそろそろ本当に行きます。また夏休み後半で会おうぜ織斑先生」

 響はそれだけ告げると、バイクを走らせる。千冬はそれを見送りつつ苦笑する。

 が、

 その顔は一瞬にして苦悶に歪む。

「ヘルメットを被らんか馬鹿者がーーーー!!」

 既に響はIS学園から離れてしまっており、千冬の怒声が届くことはなかった。





 IS学園を出てからおよそ6時間後、響はやっと自宅に到着した。

「ふいー……。疲れた疲れた」

 響は荷物を担ぐと玄関を開ける。

「ただいまー」

 ドアを引いて中に入ると中から黒い影が飛び出してきた。その影の正体とは、

「おっかえりー響ちゃーん!」

「ぐほぁ!? ……母さん、いきなり飛び込んでくんのやめてくれねぇかな?」

 飛び込んできた影は響の母親、鳴雨紫音だった。すると彼女は不服そうに頬を膨らませながら、

「えー、だって久しぶりの響ちゃんの感触を味わいたいし」

「つーかもう味わってんじゃん!!」

「まぁまぁ。それぐらい許して上げなよ姉さん」
 
 玄関でじゃれ付く二人を見ながらリビングから出てきた若干赤茶けた髪色をした少女、響の妹である鳴雨渉がやって来た。

 その顔は何処となくやつれて見える。

 ……ああ、私がいない間母さんの餌食になってたわけか。すまん渉。

 内心で妹に謝罪しながら響は自らの胸に顔をうずめる紫音を引っぺがす。

「母さん、いい加減私に抱きつくのは終了!」

「むー……響ちゃんのケチー」

「あーはいはい。疲れたから少し寝てるから夕飯になったら起こしてくれ。渉」

 むくれる紫音を尻目に、響は渉の肩に手を置くとそそくさと二階にある自分の部屋に上がっていく。

「だってさ母さん。疲れてるみたいだから今は休ませてあげよう?」

「それもそうね。さて! じゃあ今日は腕によりをかけて夕飯作っちゃおっかなー!」

「私も手伝うよ」

 渉と紫音はキッチンに向かう。

 一方自分の部屋に戻った響はベッドに倒れ付す。

 なにせIS学園から家まで六時間という長時間、ずっと運転してきたのだ。疲れも溜まっているのだろう。

 ベッドにうつ伏せの状態で倒れた響はそのまま大きく息を吸う。

「……はぁ。やっぱ家は落ち着く……な……」

 最後の方は尻すぼみになりながら、響はまぶたを閉じ、意識を手放した。





「姉さん、起きて。ご飯できたよ」

「ん……おう」

 響が眠ってから数時間後、渉が響を揺さぶり起こしにやってきた。

 すでに日は暮れており、窓の外から見える町並みは既に灯りがともっている。

「今何時だ?」

「七時半だよ。大体三時間ぐらい寝てたね」

「そっか……くあーよく寝たようなそうでない様な」

 大きく伸びをしつつ響は立ち上がる。口元には涎を垂らして寝ていたのか白いすじができている。

「姉さん、涎のすじついてるよ?」

 渉がそれを指摘すると、響はすじを指の腹でぬぐう。

「じゃあ久々に家のメシにありつきますかね」

 響は嬉しそうに笑いながら渡るとともに部屋から出る。

 すると、一階から鼻腔をくすぐる芳しい香りが漂ってきた。それに呼応するかのように響の腹の虫が小さくなる。

「フフッ。相変わらず可愛い音だよね姉さんのお腹の音」

「うっせ。……そうだ、私が寝てる間悠璃から連絡はあったか?」

「なかったよ。何か約束してるの?」

「んー、まぁちょっとな」

 言葉を濁すように響は頬を掻きながら返す。すると渉は何かを見透かしたかの様にジト目になると、

「また喧嘩?」

「うっ」

「はぁ……それが姉さんだから別に止めはしないけどさ、あんまり怪我しないようにね?」

「わーってるよ。ったくお前は心配性すぎんだよ」

 渉の忠告に響は気だるそうにため息をつくが渉は、呆れ顔で響に聞こえないように呟いた。

「姉さんの心配もそうだけど相手方の方も心配になってくるよ……」

「あん? 何か言ったか?」

「んーん。何もー」

 渉の反応に首をかしげながらも響はリビングのドアを開ける。同時に先ほどまで香っていたおいしそうな香りが、一気に濃密になる。

 見るとテーブルの上に所狭しと大量の料理が並べられている。しかも殆どがさらにこれでもかと盛られている。

「おお」

 響は思わず驚愕の声を上げる。すると、キッチンからもう一つ料理を持ってきた紫音が、

「じゃあ響ちゃんに渉ちゃん。席についてー」

「「はーい」」

 紫音の言葉に従い二人はそれぞれの席につくと、手を合わせそろって言う。

「「いただきます」」

「はいどうぞー」

 紫音が柔和な笑みを浮かべながら答えると、響は一気に料理にがっついた。

 二、三口食べた後、響は満足げに頬を緩ませながら呟いた。

「いやー、IS学園の料理もうまいけどやっぱ家の料理が一番だなー」

「IS学園てどんな料理が出るの?」

「世界中から生徒が来るからいろんなのがあるぜ。本格的なフレンチとかもあったし、あとは宗教上肉が食えない奴らとかのための料理もあったしな」

 渉の問いにハンバーグにかじりつきながら響が答える。

「なら響ちゃん海外のお友達とかもできたのかしら?」

「まぁ友達と呼べるヤツは四人とかその辺、話す程度の奴らも四人くらいかな」

「なん……だと……!?」

 響の答えに渉は驚愕の声を上げる。あまりにも驚きすぎたのか持っていた箸を落とす始末だ。

「中学で話せる人なんていなかった姉さんが八人も話すことができるなんて……凄い進歩だね母さん!!」

「そうねぇ、中学では響ちゃんボッチだったものねぇ」

「ボッチじゃねぇ! ただ周りの奴等が怖がって近寄らなかっただけだろうが!!」

 哀れみの視線を送ってくる二人に対し、響は顔を引きつらせながら怒声を上げる。

「落ち着ついて姉さん。でも姉さん――」

 渉が響を嗜めようとしたとき、響の携帯がなる。

「悠璃? ったく……」

 どうやら電話の相手は舎弟の悠璃の様だ。響は小さくため息をつくとリビングから出て行く。残された渉と紫音はそれを見送りながら、

「多分姉さんの言ってるうちの中の何人かは姉さんのこと好きそうだよね」

「そうねー。私も思ったけど響ちゃんはもてるわよねー。主に同性に」

「未だに中学校で人気あるからね」

 どうやら二人は響が気付いていないことに気がついているようだ。

 実際響が同性にもてるのは今に始まったことではない、本人は気付いていないが中学の頃は男子は怖がって近寄らなかったものの、女子は話しかけるのが恥ずかしくて声をかけなかったのだ。

「そこんところはにぶいよねぇ、姉さんは」

 ため息をつく渉の声が届くはずもなく、響は廊下で話しこんでいた。




『響さん、わかってるとは思いますけど明日の夜からですからね!』

「わかってる。夜8時にいつものところだろ?」

『ウッス! じゃあまた明日お願いします!」

「おう、さっさと寝ろよ」

 響は言うと電話を切りながらため息をつく、

「明日は久しぶりの喧嘩か……。楽しみだな」

 彼女は歯をギラリと光らせながら、心底楽しそうに笑う。

 その後、食卓に戻った響はIS学園のことや友人達のことを話しながら過ごした。





 時間は経って翌日の午後八時、響はバイクにまたがりある場所に向かっていた。

 この街には『三凶(さんきょう)』と呼ばれる三つの不良グループがある。

 一つは海岸沿いに存在する、空き倉庫をたまり場としている不良グループ『蛇皇(じゃおう)』。

 そしてもう一つ、街の西側にある廃ビルを根城とする『鬼火(おにび)』。

 さらにこれに響が入ることにより、三つになる。ただし、響はグループを持たず、持っているのは舎弟である華霧悠璃ただ一人のみである。また、他の二つに対し、響はグループの名を持たない。

 その理由は「ダセェ」であるとのこと。

 今日は蛇皇の頭、暮空真琴(くれそらまこと)と鬼火の頭、時鐘琉牙(ときかねりゅうが)の二人とサシでの勝負をすることとなっている。

 その場所となったのは、蛇皇の根城である廃倉庫である。約束の時刻は過ぎているが、響はそんなこと気にした風もなくバイクを走らせる。

 おそらく、既に真琴や琉牙達は待ちくたびれている事だろう。いや、待ちくたびれているというよりも、苛立ちが頂点に達していることだろう。

 ……あ、悠璃先に行かせちまったからもしかしたらやべぇことになってるかもな。

「まっ大丈夫か」

 楽観的に呟くと、鼻歌を歌いながら響は目的地を目指す。

 そして八時二十分。

 予定より二十分遅れ、響は廃倉庫に到着した。すでに外には目つきの悪い連中が響のことを睨んでいるが、響はそんなことは気にせず進んでいく。

「ウィース。鳴雨響到着しましたー」

 かなりふざけた態度で響は廃倉庫の中に入る。

 すると、

「遅せぇ!! なにやってやがった響!!」

 甲高い怒声が聞こえてきた。そのほうを見やると、赤茶けた髪をショートカットにしている小柄な少女が響を睨みつけていた。

 彼女は時鐘琉牙。鬼火の頭である。因みに琉牙という名前は偽名であるらしく、本名は響も知らない。そして彼女は響よりも二つ年上の高校三年生である。

「なにやってたって……ちょっと道が込んでてさ」

「そうか、じゃあしょうがねぇな!! ってなるわけねぇだろ馬鹿か! お前馬鹿か!!」

「うっせーなぁ。きゃんきゃん吼えんな子猫ちゃんよぉ」

 琉牙の突っ込みに響はため息をつきつつ、頭をガリガリと掻く。

「相変わらず時間は守らないのね、響」

 今度は響の横の方から落ち着いた感じの声が聞こえてきた。そちらにいたのは、腰まである長い黒髪をそのままストレートに流しているどこか大人な雰囲気を漂わせる少女だ。彼女は暮空真琴。蛇皇の頭である。

「よう真琴。相変わらず大人っぽいな」

「そりゃどうも。だけど一応アンタと同い年だからね?」

「知ってるよ。だからそう睨むなって」

 カラカラと笑いながら響は答える。すると、

「響さーん!!」

 廃倉庫の暗がりから目に涙を溜めながら駆け寄ってくる茶髪をシャギーにした少女がいた。

「おー、悠璃ー。久々だなー元気してたかー?」

「元気してたかー?、じゃないっすよ!? なに遅れて来てんですか! もうなんか蛇皇の頭が笑顔で威圧感与えてきてめっちゃ怖かったんですけど!!」

「そっかー。おいおい、真琴よー。あんま私の舎弟脅すんじゃねーよ」

「失礼ね。誰も脅してなんかいないわよ、ただこのままアンタが来なかったらどんな方法で痛めつけてあげようか考えていただけよ……」

「余計性質が悪いな。大体お前は――」

「お前らアタシを無視すんなああああああ!!!!」

 響が言いかけたところでずっと黙っていた琉牙がまたも大声を張り上げた。

「なんなんだよお前ら! なんでいきなり談笑し始めてんだよ!! アタシ等は今日勝負しに来たんだろうが!!」

「あぁそういえばそうだったな」

「すっかり忘れるところだったわ」

「くっ! なんなんだよこいつ等ぁ……」

 響と真琴がお互いに言い合うのを見た琉牙は地団駄を踏む。そんな姿を琉牙の後ろから見ていた琉牙の部下達は、

「琉牙さんがんばれー!」

「それぐらいで負けちゃだめっすよ!!」

 琉牙に声援を送っていた。

 それを見ていた響は軽くため息をつくと、

「じゃあさっさとはじめるか? 私もさっさと帰りたいし」

 響が言った瞬間、二人の目の色が変わる。琉牙は待ってましたとばかりに口元をにやりと上げ、真琴は妖艶にその顔を歪ませる。

 すると、真琴が一旦退き壁に背を預ける。それと入れ替わるように琉牙がズイッと前に出る。

「待ってたぜこの時を! 今日こそテメェを叩き潰してやる!!」

「あーはいはい。わかったからさっさとかかってこい」

 響は悠璃を脇に退かせながら、琉牙を見据える。琉牙は軽く拳を打ち鳴らすと、

「いくぜおらああああ!!」

 雄たけびを上げながら態勢を低くし突貫してきた。

「相変わらず馬鹿の一つ覚えみてぇに突っ込むことしか脳がねぇのかテメェは!!」

「ハッ!! そうじゃねぇ、これがアタシの戦術なんだよ!!」

 響の罵倒とも取れる言葉を聞きながらも琉牙は走る足を休めず、ただひたすらに突っ込んでくる。

「ったく、少しは学習しろっ!!」

 直前まで迫った琉牙を響が叩き伏せるため拳を放つ。だが、拳は空を斬った。

「ありゃっ?」

「こっちだバーカ!!!!」

 素っ頓狂な声を上げる響とは裏腹に、琉牙は響の横から顔面に強烈なハイキックを打ち込む。

「チッ!!?」

 苦い顔をしながらも、響はそれを左手を使い直撃する瞬間に防いだ。

 しかし、衝撃は中々のものだったのか、響は軽く後ろに後退させられた。それを見た観衆が、「おお!」という声を上げる。

「おーいってー……。まさかそこまで足速くなってるとは思わなかったぜ」

 後退させられた響は左手をプラプラと回すと琉牙を見据える。それに対し、琉牙も小さく笑いながら、

「油断してると、今度はガチで顔面にぶち込むぜ?」

 響を煽るように挑発すると、また先ほどと同じように響に一直線に突っ込む、すると響は口元をにやりと歪ませ言い放った。

「まったくよぉ、もう少しド派手に攻めてくることはできねぇのかぁ!? ちまちま削ってるだけじゃ私は倒せねぇぞ!! それとも何か? テメェやっぱビビッてんのか『オチビ』ちゃんよぉ!!」

 すると駆けていた琉牙の足が止まる。彼女は俯くと、

「おいテメェ……いまなんてった?」

「ハァ? 聞こえなかったか? ビビってんのか『オチビ』ちゃんって言ったんだよボケ!!」

「誰がビビッてるだゴラアアアアアア!!!!」

 途端に琉牙が怒声をあげる。眉間に濃くしわを寄せ響を睨みつける。だが、今ここに居る全員は同じことを思っているだろう、それは、

 ……チビには反応しないのか……。

 である。

 実際響は「チビ」という単語を強調していたのだが、琉牙はそんなことよりも「ビビッてる」と言われた方が気に入らないらしかった。

「……まぁいいや。ホレ、遊んでやるから来な……」

「ぶっっっっっっ潰すっ!!!!」

 響の安い挑発に乗り、琉牙はなりふり構わず突撃してくる。それを見ていた真琴は小さくため息をつくと、「……馬鹿」と呟いた。

「これで潰れろ響いいいいいい!!!!」

 憤りの叫びを上げながら琉牙は駆ける速度をそのままに、渾身の力をこめた拳を響に放つ。

「……バーカ」

 呟きと同時に響は琉牙の顎に強烈なアッパーカットを叩き込む。その影響で琉牙は大きく後ろに吹っ飛ばされ、力なく地面に叩き付けられた。

「ずりぃぞ……響……」

「何がずるいって? 喧嘩は試合じゃねぇんだよ。引っかかったお前が悪い」

「くそっ……たれ……」

 最後に言い残し、琉牙は動かなくなった。おそらく軽い脳震盪が起きているのだろう。そんな琉牙を手下達が急いで回収する。

 それをため息をつきながら見送る響の右頬に拳が叩き込まれた。いきなりのことに受け身が取れなかった響はそのまま飛ばされる。

「喧嘩は試合じゃないんでしょ? だったらアンタも気を抜かないことね響」

 先ほどまで響がいた場所に真琴が妖艶な笑みを浮かべながら響を見つめていた。

「ハッ……! そりゃあそうだ、自分で自分の言ったこと忘れてたぜ」

 ゆらりと立ち上がりながら鼻血を指の腹でぬぐい、ニヤリと口元を上げ、拳と掌を打ち鳴らす。

 両者はどちらかともなく駆け出すと、

「ラァ!!」

「ハァ!!」

 同時に拳を放ち、それぞれの拳がそれぞれの顔面に直撃する。どちらも一瞬のけぞるが、響のほうが一瞬早く回復し、真琴に追撃のわき腹への蹴りを叩き込む。

「がっ!?」

「まだまだぁ!!」

 わき腹に蹴りを入れられ隙ができた真琴にさらに肘鉄をかまそうとするが、

「なめんじゃねぇ!!」

 言い放つと同時に真琴は響の肘鉄が当たるよりも早く響の鳩尾に頭突きを叩き込む。

「っ!?」

 鳩尾に重みのある一撃がはいり、一瞬息が止まりのけぞる響。だが、それでも真琴に対しての攻撃は緩めない。

 ……喰らっとけ!

 のけぞる体重をそのままに、響は真琴の顔面に膝蹴りを見舞いする。

 膝蹴りを叩き込まれ、血を飛び散らせながら真琴は響と同じようにのけぞるが倒れない。

「こんなもんじゃねぇだろ響!!!!」

「ったりめぇだろうが! テメェこそやっと火がついてきたんじゃねぇか!? さっきまでの気色ワリー言葉遣い消えてるぜっと!!」

「ハン! テメェも同じだろうが! 目がぎらついてるぜ!?」

 互いに罵り合いながら、二人は拳や蹴りをぶつけていく。だが、二人の顔はとても嬉しそうだ。

「やっぱ喧嘩はぁ……生身じゃねぇとなぁ!!!!」

「何を、今更、言ってやがるこのボケが!!」

 互いに殴り合い、鼻や口から血を流しながら二人は戦いあう。二人の瞳は獲物を狩る野獣のように爛々と輝かせながら、拳を交えていく。

 すると、そんな二人に触発されたのか、周りで二人の喧嘩を見ていた不良たちも喧嘩を始める。だが、二人はそんなことお構いなしに殴り、蹴り、頭突きあう。

「やっぱ喧嘩は楽しいなぁ! 真琴ぉ!!」

「そうだ、なぁ!!」

 笑顔で喧嘩をし合うという異様な光景だが、響たちは心底楽しそうだ。しかし、数分間殴りあった末、ついに真琴が膝を付いた。

「これで締めだ沈めや真琴おおおおお!!!!」

 この好機を見逃さず、響は真琴を蹴り飛ばした。

「がはっ!!」

 真琴はそのまま吹き飛び地面を転がる。意識はあるようで、何とか立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かないのか、力なくその場に倒れ付す。

 それを確認した響は周りで喧嘩を始めた不良たちに高らかに宣言した。

「テメェらもかかって来いやああああ!!!!!」

 一際大きな雄たけびに、一瞬動きが止まる不良たちだが、すぐに場の状況を理解すると、一斉に響に向かっていった。

「さぁ……楽しくやろうじゃねぇか!! 最っ高の喧嘩をよぉ!!」

 向かってくる不良たちと対峙しながら、響は口角を吊り上げた。







「あー……疲れた……」

 一時間後、響は気だるそうな表情で廃倉庫の壁にもたれかかりながら腰を下ろした。

 彼女の前には響にかかってきた不良たちが山のように積みあがっていた。

「おーい悠璃ー大丈夫かー?」

「あーい……なんとかー……」

 響が悠璃を呼ぶと彼女は不良たちの山の一角から這い出てきた。

「じゃあ帰るか? 用も果たしたし……。おい! 真琴に琉牙!! 私は先に帰るからテメェらもさっさと引き上げろよ!」

「お、おう……」

「言われなくても……」

 その声に二人は力なく返事をする。二人の様子に溜息をつきながらも、響と悠璃はその場を後にした。

 バイクの所までやってくると、響はまたがりつつ悠璃に声をかける。

「さて……送ってやるから乗れよ悠璃」

「え? いいんスか!?」

「ああ、舎弟の面倒見るのは当たり前だろ?」

「アザッス!!」

 悠璃は一礼すると、響の後ろに乗り込み、彼女の腰に手を回す。

「じゃあいくかー。しっかりつかまってろよー」

 響は言うと走り出した。






 十数分後、響は商店街の一角で悠璃をおろした。

 悠璃はこの商店街の弁当屋の娘だ。時折響も利用していたため、悠璃の両親とも知り合いであり、悠璃の両親は二人とも響達の様な不良には寛大で、不良達からも好かれている。

 特に悠璃の父親は昔かなりのワルだったらしく、「自分の若い頃を見ているようで懐かしい」などと響に話したことがある。
 
「響さん、いつまでこっちにいるんスか?」

 バイクから降りた悠璃がくるりと踵を返し響を見つめる。

「そうだな……少なくとも八月の終わりぐらいまではいると思うぜ?」

「じゃあ、遊びに行ったりしても!?」

 悠璃は若干鼻息を荒くしながら響に詰め寄る。それに苦笑しつつ、響は小さく頷く。

「ああ、好きにしろ。じゃあまたな、さっさと寝ろよ」

「ウッス! おつかれっした!!」

 腰を直角に曲げ、悠璃は響を見送った。





 悠璃を送った後、軽い夜食や飲み物を買うためコンビニに寄った響は十時ごろに家に到着した。

「いって……口ん中切れてるっぽいな。こりゃ明日まで残るな」

 自身の傷の具合に肩すくめながら響は玄関の扉に手をかける。

「アレ? 響?」

「あん? ……げっ」

 ふとかけられた声に振り向くと、そこにいたのは一人の少年だった。

 耳にかかるかかからないかの黒髪に端整な顔立ち、身長も高い所謂イケメンがそこにはいた。運動中だったのか服装はジャージ姿だった。

 少年は少し嬉しそうに響に笑顔を見せている。

 だが、対する響はというと鬱陶しそうに顔をしかめている。

「帰ってるなら言ってくれればよかったのに」

「うるせぇ黙れ殺すぞ。誰がテメェなんぞに連絡するかボケ」

「あ、またそういう言葉遣いを……。まったく、ダメだよ響。君だって女の子なんだからもっとお淑やかに」

「あーあーあー! きーこーえーなーいー!!」

 少年の忠告を響は子供のように耳をふさぎながら声を上げる。それにため息をつきながらも少年は苦笑する。

「なに笑ってんだ。つーかテメェはこんな時間になにやってんだよ?」

「ん? 見てのとおりのジョギングだけど?」

「はっ! 相変わらずの体力馬鹿だなお前は」

「響だって似たようなもんだと思うけどね」

「ああん? 誰が体力馬鹿だソウシ?」

 響の凄みのある睨みにソウシと呼ばれた少年は苦笑いを浮かべる。

 この少年は響の幼馴染であり、おそらく最初の友達、葵奏嗣(あおいそうし)である。実家は剣術道場を開いていて、奏嗣自身かなりの腕前だとのことだ。

 因みに、以前響が言っていた『アイツ』とは奏嗣のことである。

「そう怒らないでって、でも本当に久々だよ君とこうやって話すの」

「私は別に話したくなかったけどな」

「もう……っともうこんな時間か。呼び止めちゃってゴメンね響。また来るよ」

 奏嗣はそれだけ言い残し、響に手を振りながらその場からかけていった。

「来なくていいぞー、ソウシー」

 響は口元に手を当て棒読み加減で告げるが、おそらく奏嗣にそれが届いていることはないだろう。

「はぁ……やっぱりアイツはめんどくせぇ!」

 最後に軽く声を荒げ、響は家の中に消えていった。 
 

 
後書き
響のバイクのイメージとしてはV-MAXのちょっとちっこい版とでも思ってくださいw

初! 男キャラ!!
やっと出せた……。
あ、でも恋愛するかどうかはわからんのであしからず……

感想お待ちしております 
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