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少女1人>リリカルマジカル

作者:アスカ
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第四十三話 少年期【26】



 俺ことアルヴィン・テスタロッサは、結構単純な性格だと思う。

 おいしいものや好きなものがあったら喜ぶし、笑みが浮かんでしまう。逆に嫌なことや苦手なことがあったらがっかりするし、落ち込んでしまう。さすがに空気を読んで、露骨な態度は取らないように気を付けてはいるけど、それでも結構はっきりと表に出してしまうのである。

 ちょっと機嫌が悪くても、好きなことがあるとコロッと機嫌が良くなることなんて何回もあった。特に好きなことや面白そうなことは、とことんのめり込んでしまう。でも逆に嫌なことがあるとずっと落ち込みっぱなしの時もあった。めんどくさい性格であると同時に、自分でもわかりやすい性格だと思っている。

「故に、俺の眼前におわせられるコタツ様とみかん様のコンビの前に、俺のテンションが上がってしまうのは致し方ないことなんだ」
「致し方ないじゃないよ。さっきからアルヴィン、みかん食べ過ぎだから」

 少年Bがミカンを食べるのが遅いだけだろ、と言い訳しておく。みかんの食べ過ぎで怒られてしまったようだ。だけど文句を言われようと、俺を惑わすみかん様が悪い。食欲を旺盛にするコタツ様の包容力が悪いんだ。

「アレックスが持ってきたみかんなのに…」
「いいよ、ティオ。お母さんが昨日特売だからっていっぱい買ってきてくれたおみやげだし」
「まぁ、確かにこのコタツとみかんの組み合わせはわかる気がする」

 順にティオール、アレックス、ランディと会話が続く。なんだかんだ言ってこいつらもみかんを食う手が止まっていないので、この至福の時間がわからないわけではないのだろう。やっぱりコタツにみかんは定番である。それは異世界でも通じるらしい。

 そんなこんなでもう1個むきむき。

「…………」
「…………」
「いや、何か会話しようよ。友人5人揃って無言でみかんをむき合うとかなんか怖いんだけど」
「リトスが無心に食いまくるのは予想が付いていたけど、俺はアルヴィンが無言なのが怖い」
「アルヴィンってしゃべらなくても大丈夫なんだ。……明日ぷにゅが降る?」
「おい、なんで俺が静かにしているだけでここまで言われ……、あっ、少年E! それ俺のみかんッ!」
「……油断大敵」
「リトスって食い意地に関してはハッスルするよね」

 男5人集まるとやっぱり騒がしかった。



「というかみかん食ってて思ったけど、食い方がみんな違うんだな」
「えっ、……本当だ。俺は薄皮が好きじゃないから取っちゃうけど」
「食べ方は人それぞれだけどさ。少年A、それめんどくさくね」

 俺はまたみかんを一房ちぎっては口に放り込んでいく。うん、おいしい。現在冬真っ只中のこの季節。子どもは風の子と言えど、寒いものは寒い。地球でもそうだったが、1月を過ぎると急激に冷え込んでくるものだ。だから時にはこうして、コタツでぽかぽかする日があってもいいはずだろう。

「他人の家のコタツでよくそこまでくつろげるね」
「……節度は守るよ? けど、ここちきゅうやじゃん。他人行儀は今更すぎて」
「僕もそこは否定しづらいけど、正直すぎるよ」

 微妙な顔をしながら、少年Bは丁寧にみかんの房についている筋を1本1本全部取っている。食べ方を見ているだけでも几帳面だ。少年Cも筋取り派らしいが、大きい筋だけをある程度取ってから食っている。俺のみかんの消費量が多い理由が何となくつかめた。

「アルヴィンって、筋取らないんだね。苦くないの?」
「いやいや少年A、この筋があるのがいいんじゃん。みかんの筋も房も丸ごと食うもんだ。がん予防にもなり、栄養も豊富。女性にも優しいので大変おすすめだ」
「君って変なことは本当にいろいろ知ってるよね」

 そこはせめて雑学好きだと言ってくれ。


「というか、さっきから俺らみかんの話しかしていないぞ。他に話題はないのかよ」
「……まぁ、平和だしね」

 さすがにこのぐだぐだな空気にランディが痺れを切らしたらしい。といっても、アレックスの言うとおり本当に最近何もない。12月はクリパ(仮)して、1月は正月(仮)したけど、2月は地球でもそこまで有名なのがな…。男の俺からチョコをくれ、というのはさすがに家族ぐらいにしか言えん。

 それなりに行事はあれど、この次元世界ではイベント系は少ない。その訳を学校の授業で簡単に教えてもらったが、要は次元世界はまだまだ立て直し期間中だかららしい。つまりそんなに騒げる余裕がまだないのだ。娯楽がないのは仕事人間の多いミッドでも辛いのは変わらないので、適度にイベントがある程度だったりする。

 日本で例えれば、明治維新が起こって、そこから新制度を作り上げ、日本という国を新しくしている最中って感じなのかな。次元世界をまとめ上げたのが今から130年前。新暦に代わり、管理局が発足したのが40年前。国1個で大変なのに、世界単位複数なら、こりゃまだまだ難しそうだな。

「アルヴィンどうしたの? ぼぉーとして」
「いや、イベントを増やすにはどうしたらいいか考えていたら、なんか世界平和について考えていた」
「君の思考は、どこで化学変化を起こしたんだ」

 そう言われても気づいたら、としか言えん。普通に考えていたはずなんだが、自分でも不思議です。とりあえず他に話題を探そうかと考えた時、そういえば……と思ったことが頭に浮かんだ。なので、早速話題を投入してみた。

「少年A、そういえばいつの間にかメガネをかけていたんだな」
「えっ、今更!?」
「話題求めた俺が言うのもあれだが、それは唐突過ぎね。俺も今思うとそういえば……、って思ったけど」
「ランディまで!? 1週間前からかけていたよ! 俺ってどんだけ存在感が薄いの!?」

 いや、決して気づかなかった訳ではないが、ただタイミングがつかめなくて。少年Aとしては、メガネデビューした当日は緊張していたらしいが、俺たちがあまりにもいつも通り過ぎて、メガネのリアクションは諦めていたらしい。

「そこはメガネデビューしました!(星)ってぐらいアピールしないと」
「アルヴィン、それが出来る人は少ないと思うよ」
「メガネ男子か…。そういえば、女の子の中にはメガネをポイントにしている子もいるらしいし。なるほど。アレックス、お前は俺が知らないうちにメガネ男子に進化していたんだな」
「いや、そんな目的じゃないから」
「待て、ランディ。さすがにそれはちがうだろう」

 珍しくツッコミに回っていた少年Aに、元祖ツッコミの少年Bの援護が来る。それに少年Aの目が輝いた。

「メガネは視力を補うためのものだ。つまり、アレックスの視力が低下してしまったからこそメガネをかけたんだ。だからそこは進化ではなく、言い方は悪いが退化ではないのか?」
「俺の求めていたツッコミと違うよ!?」

 こんな騒ぎをしていても、コタツでぬくぬくしながらみかんを食い続ける少年E。ある意味マイペース軍団が揃った光景がこれなのである。うん、俺たちの中ではこんな感じが日常なのであった。



******



 同日、同時刻。クラナガンの住宅地に建てられた、2階建ての一軒家のリビングでのこと。今までなかなか都合がつけなかったメンバーたちが、遂に集結したのだった。

「それでは、初めての女子会にかんぱーい!」
「かんぱーい!」
「テンション高いな、お前ら」

 クイントの一声に、元気よくアリシアは手に持ったジュースを上に掲げた。それに続いて、くすくすと楽しそうに笑いながらメリニスとメガーヌも同じように「かんぱい」と言い合って、コップを鳴らし合った。ちなみにエイカは、それを見てものすごくコップを鳴らしたそうに見つめてきたアリシアの目に負け、乾杯したのだった。

 俺はなんでここにいるんだろう、とぼんやり考えながらエイカはもらったジュースを口に含んでいく。そして、この会場を提供してくれた家主に作ってもらったお菓子に手を伸ばす。まぁ、うまいものが食えるからいっか、と納得するあたりは、ある意味エイカとアルヴィンの思考回路は似ていた。本人に言ったら本気で嫌がられるだろうが。

「テンションが高いのは仕方がないよ。アリシアはイベントが好きだし、クイントはみんなで楽しく盛り上がるのが好きだから」
「お前は…」
「メリニス」
「…………メリ、ニスはついていけるのか」
「あははは。でも、今回は楽しくおしゃべりはしたいかな」

 なんらかの圧力に負けたエイカ。しかし呼んだ瞬間、花が綻ぶように笑顔を向けられたので気恥ずかしげに顔を背ける。彼女は大人しい見た目と性格だが、自分が絶対譲れないところは譲らない。1年間なんだかんだで過ごしてきてわかった彼女の性格だ。


「そうそう。特に私なんて新参者だからね。みんなフレンドリーだけど、幼馴染集団に入っていくのって結構勇気がいるのよ。こういうおしゃべりができる機会は嬉しいわ」
「お前、気づいたら普通に入り込んでいたと思うが」
「あら、私もメリニスみたいに名前を呼んでくれないの? 誰を呼んでいるのかわからなくなっちゃうでしょ?」

 おかしそうに口元に笑みを浮かべる紫色の少女。その言葉にエイカはむっと眉を寄せた。

「ふん、お前なんて紫で十分だ」
「あらら、残念」

 ちっとも残念そうな感じに見えないメガーヌに、エイカは不機嫌そうにジュースを無言で飲んでいく。メガーヌは人にイタズラしたり、いじるのが好きな少女だ。特に反応が面白いエイカやティオール、アレックスあたりは、彼女にとって楽しみの1つであった。

 ただ同じ性質のアルヴィンとその方面でタッグを組むことはほとんどない。別に同族嫌悪とかそんなものではなく、アルヴィン相手だといつの間にかペースを持って行かれてしまうのだ。しかも変な方向に。気づくと自分も巻き込まれている。

 テスタロッサ兄妹は、何をやらかすかわからない。どこか着眼点がズレている所為か、予想もしていないところから球を飛ばしてくるのだ。

 そんなことをなんとなく考えていたメガーヌと、黙々とジュースを飲むエイカに向けて、先ほどから2人の話を聞いていたアリシアが、笑顔で一言告げた。

「今のエーちゃんの名前の付け方、お兄ちゃんとそっくりだったね」
「―――ゴホォッ!!」
「……エ、エイカ。そこまでショックを受けなくても」

 エイカはジュースを吹き出しそうになりながらも、なんとか耐えるがむせた。あまりの反応にメガーヌは慌ててエイカの背中を撫でる。そんな2人の様子にきょとんと首を傾げるアリシアだった。

「向こうはなんだか盛り上がっているわねー、メリニス」
「クイント、あなたいつか大物になれるわよ」

 少し離れたところから、仲良さげな雰囲気に嬉しそうに顔を綻ばせるクイント。しっかり者なのだが、どこか抜けている友人にメリニスは肩をすくませたのであった。



「そういえば、お前の母親はどこにいったんだ」
「お母さんのこと?」

 少し時間が経ち、落ち着いた頃にふとエイカは気になった疑問を口にする。彼女たち5人がおじゃました時に挨拶をした黒髪の女性。エイカは、髪と目の色が自分のよく知る人物にそっくりだったため、すぐにアリシアたちの母親だと気づいたのだ。

 プレシアはお菓子と飲み物を用意した後、そのままアリシアと少し話をしていた。その後、挨拶をして、姿を消してしまった。おそらく出かけたのだろう。なんとなく普通の会話がほしかったため、エイカは気になったことを口に出してみた。

「うーん、お出かけしたのは知っているけど、お母さんとコーラルとリニスがどこに行ったのかはわからないかな」
「わからない? あと、あのデバイスも一緒なのか」
「うん。時々お母さんとコーラルとリニスでお出かけする時があるんだよね。お兄ちゃんも知らないって言っていたし」
「ふーん」

 アリシアは不思議そうに自分の母親のことを考える。3人で行った後、プレシアは買い物袋を持って、帰って来るのでただ買い物にいっているだけかもしれない。でも、それなら子どもたちに頼んでもいいはずだ。デバイスと猫をわざわざ連れて行く必要はない。

 隠し事でもあるのだろうか。もし何か悩みがあるのなら少しでも力になりたいと思うが、どうもそういう様子ではなかった。むしろどこか楽しげな雰囲気があった気がする。そのためアリシアは、プレシアに聞くことを戸惑っていた。

「アリシアのお母様、どうかしたの?」
「うーん、ううん。たぶん大丈夫だよ」

 メリニスの心配そうな声に、アリシアは静かに頭を振った。気になりはしたが、きっといつか教えてくれるだろう、とアリシアは気持ちを整理する。彼女は昔から勘がよかった。兄のことも、母親の仕事のこともわからないなりに、なんとなく悟っていた。

 故に、いつの間にかその悟ってしまった気持ちを表に出さない術を身に付けてしまっていた。母に心労をかけさせたくない。兄に心配をかけさせたくない。2人がアリシアに教えないのは、何か訳があるんだ、仕方がないんだと考えるようになった。それが幼かったアリシアが覚えた処世術だった。

 そんなアリシアの様子を訝しげにエイカは見つめる。笑顔で話し始めたアリシアを見た後、少し不機嫌そうにしながら小さく鼻を鳴らした。


「……そういえば、向こうも男連中で集まっているらしいな」
「え、えぇ。そういえば、ランディがそんなことを言っていたわね」

 エイカの話の切り返しに驚きながらも、クイントは一つうなずいてみせる。こちらは家のリビングでクッションに座りながら、暖房器具でぬくぬくしている。おそらく向こうでは、こたつの中にでも丸まっているのだろう、とエイカは予想した。

「コタツかぁ。確かちきゅうやに置いてある日本って国の暖房器具よね」
「あぁ。そういえばお前らって入ったことなかったっけ」

 ちきゅうや関連で色々覚えてきたメリニスは、コタツの知識を話す。しかし、さすがに人様の家のコタツに遠慮なく入るのは気が引ける。店主なら笑って許可を出すだろうが、さすがに申し訳がない。そんな気持ちもあってか、クイントとメガーヌとメリニスにとって、コタツは知識でしか知らなかった。

「コタツは私好きだなー。お兄ちゃんとエーちゃんと一緒に入ったことあるけど、あったかかったよね」
「あれはちきゅうやを知ってよかったと思えた物だな」
「そこまでの代物なの…?」

 2人の話に、メガーヌは恐る恐る聞いてみる。それに2人は素直にうなずく。そこまでくれば、当然3人も興味が出てくる。だが、アリシアは「だけど」とコタツ初心者のために一つ付け加えをした。

「コタツを使う上で、注意しないといけないことがあるの」
「……のぼせちゃうとか?」
「いや、下手したら戦争が起きる」
「コタツでッ!?」

 天国と地獄を味わえる。それが我らがコタツ様であった。



******



「……みかんが無くなった」
「……ついにか」

 グダグダしゃべりながらみかんを食い続けた結果、当然の帰結を俺たちは迎えた。

「えっと、確か台所の方に俺が持ってきたみかんがまだ残っていたはずだけど…」
「ありがとう少年A。わざわざ持ってきてくれるんだね」
「決定事項!?」

 コタツから出たくないんだよ。たぶん誰もが同じことを心の中で思っている。

「……アルヴィンが行けよ。転移使ったらすぐだろ」
「少年Cの方が台所に近いだろうが」

 バチバチと俺とランディとの間に火花が散る。アレックスは、俺はみかんを持ってきたから、と宣言。ティオールは、僕はもうお腹いっぱいだから、と戦線離脱。リトスは……みかんがなくなった悲しみからコタツに突っ伏していた。

 リトスをつつくがへんじがない。ただのしかばねのようだ。

「……なんか大人げなくなってきたから、俺が行くよ」
「あぁ…、うん、ありがとう」

 少年Eの悲しみ様になんか居た堪れなくなった俺は、自らみかんを取ってくることを伝える。少年Cも申し訳なさそうにしていた。

 さて、みかんがほしいのは変わらないが、コタツから出たくない気持ちも変わらない。みかんが俺たちの方に来てくれたらいいのに、なんてしょうもないことを考える。実際にみかんが動き出したら即行で逃げだすだろうが。

「みかんを転移できたらな…」

 離れた場所にあるものを転移させる。俺は自分自身か俺が触れているもの以外を転移させることはできない。故に離れた位置にあるものにはどうすることもできないのだ。魔法を使ってもいいんだが、みかんを取るために使うのは、果たして魔導師としていいのだろうか。

 どうでもいいことを考えていたが、そろそろ行かないとまずいな。どうせみかんを動かすことも、ましてやコタツごと動くわけにもいかないんだし、……ん?

 俺はふと気づいたことに、そっとコタツ布団を手で触ってみる。そういえば、俺の転移って重量制限とかあるんだろうか。昔ながらなコタツと布団なので、合わさると大人でも持ち運ぶのが難しい重量だ。今まで人を1、2人ぐらいなら普通に運べたが、今更な疑問を俺は持った。

 ……できるんだろうか。俺は自分の持つ能力について考える。そうだ、自分の能力を深く知ることは大切なことだ。今度色々実験する必要があるだろう。できることが増えていくのは、嬉しいものだしな。

 早速実験をやってみよう、と俺は意気込みをつける。狙いはもちろん台所へ!


 そして俺は転移を発動したのだった。―――コタツごと。

「よっしゃ成功した! ……あっ、やっべ、コンセントが抜けちまった!?」
『それ以前の問題だろうがッ!?』

 みかん取って戻ってきた俺に、全員からみかんの汁を発射されたのだった。



******



「あいつら5人が揃っているとなると、すごいアホなことをしていそうだが」
「否定できないわね…」

 エイカの言葉に、ありありと想像できてしまったクイントは乾いた笑みを浮かべてしまった。まぁ、なんだかんだで仲がいいというか、喧嘩が長続きするようなことがないので心配はしていないが。むしろ周りが迷惑を受けていないかが心配になる。

「喧嘩といえば、アリシアはアルヴィンと喧嘩とかするの? あんまりアルヴィンが怒るところを見たことないけど」
「むしろ、アルって怒るの?」

 このメンバーの中で、妹がいるメリニスはそんなことを思う。年が少し離れているので、さすがに姉として妹と衝突をしないように立ち回っている。だけど、同じ年の双子の兄妹ならどうなのだろう。クイントとしては、純粋な疑問だった。

「布団の取り合いはしたことあるよ?」
「あぁ、うん。仲いいわよね、あなたたち」

 それ喧嘩ちがう、とか頭に思い浮かべながらもメガーヌは無難に笑っておく。正直この兄妹が大声で怒鳴り合ったり、手を出したりする光景が思い浮かばない。完全な平和地帯だ。たぶんこの兄妹がいるかぎり、このぐだぐだした空気は続くのだろう、とある意味心理をついていた。

 アルヴィンは怒るよりも、むしろ怒られている姿が印象に残っている。それだけマイペースすぎるせいもあるが、そのせいで彼に関わったほとんどの者が、その空気に慣れてきてしまうのだ。つまり多少の奇行では動じなくなる。果たしてそれがいいことなのか、悪いことなのか。


「まぁアルって楽しいことが好きだから、それでいいんじゃない? エイカの誕生日パーティーだって一番張り切っていたし」
「お、お前な…」

 ここでその話を出すのか、とエイカは胡乱気にクイントを見る。2ヶ月ほど前に行われた誕生日&クリスマスパーティー。こんな時は必ず有言実行な店主とアルヴィンの手によって、騒がしくなったのは2ヶ月経ってもまだ記憶に残っている。

「大体お祭り好きが多すぎなんだよ、このメンバーは。お前らだって騒ぎやがって」
「む? だってパーティーだよ?」
「うん、それに知らない世界のお祭りを実際に体験できるいい機会でもあったし」
「何より、友達を祝うなら盛り上がらなきゃ」
「そうそう、クイントの言うとおり。友人の誕生日を祝うのは当然でしょ」
「……ふん。というか、ニヤニヤするな紫」

 エイカの言葉に、「あら、ひどい」とメガーヌはくすくす笑うが、これ以上いじめるつもりはない。照れている彼女をいじるのは楽しいが、お祝いした気持ちは本心なのだから。

「いいじゃない、エイカ。メガーヌはエイカが花が好きだって聞いてから、ずっと夜遅くまで特訓して、花のイリュージョンのプレゼントを作っていたんだから」
「ちょっ、クイントッ!?」

 まさかの隠していた裏話を親友に暴露された。誕生日当日に何でもない顔をして、魔法で花吹雪の幻覚を見せたメガーヌ。これぐらい当然、と胸を張って魔法を披露していたのだ。だから誰も彼女が苦労して魔法を習得したということを知らなかった。いつも一緒にいるクイント以外。

「……ぷっ」
「あっ、ちょっとエイカ! 今笑ったでしょ! 本当にちょっと大変だっただけで、あれぐらい簡単にできるのよ!」
「はいはい、あれだけ堂々とやっていたのに、裏で頑張っていたんだなー」
「棒読みやめてー!」

 真っ赤な顔でアワアワするメガーヌに、エイカはまた噴き出してしまう。いつも澄ましているようで、どこか子どもっぽい。特に不意打ちされると、それが顕著に出てしまうのであった。

 そんな2人の様子を見て、確信犯だなぁ、とメリニスはクイントに目を向ける。それにウインクでかえされたので、メリニスはまた小さく肩を竦めたのであった。


「……そういえば、クリスマスで思い出したけど。サンタって本当にいたんだな」
「あっ、エーちゃんもサンタさんにプレゼントもらったんだ」
『えっ…』

 なんとか騒ぎが落ち着いて、数刻後。エイカがぽつり、と言った言葉に3人は固まった。エイカとアリシアが楽しそうにサンタさんについて語っている。地球にある、伝承であるサンタさん。アリシアが信じるのはわかるけど、エイカさん…。

 3人はこのことについては触れないでおこう、と純粋に信じ切っている2人を見ながら心に誓ったのであった。



******



「アルヴィンなら、宅配業とかでも稼げるんじゃない?」
「ちわぁー、山猫宅急便でーす。というノリでか。転移の使い道って色々あるよな」
「もう少し君には、堅実な使い道をしてほしいところだけど」

 少年B、それは言わない約束だよ。コタツ転移からの汁フルボッコを、なんとか俺は乗り切りました。少年Bにめっちゃ叱られたので、それじゃあ他にどんな転移の使い道があるのかを話し合っていたところです。

「でも、宅急便は2ヶ月前にやっちゃったしな…」
「え、もうなんかやらかした後なのか?」
「少年C、俺がやらかす前提ってどういうことだ。あの時は普通の使い道だったぞ。こう、子どもに夢を届けるような感じ的に」
「どんな感じだ」

 いやいや、結構あの時は本格的だったんだよ。店主さんと協力して演出も頑張ったし。パーティーで遅くなったあの日。ちきゅうやに泊まったあいつの部屋に、蹄の足跡スタンプをちょっと残したり、閉めたはずの窓を微妙に開けておいたり。奥さんに生暖かい目で見られたが、止められなかったし大丈夫だろう。

 アリシアにも同じようにしたら、すごい喜んでくれたからな。きっとあいつもびっくりしたんじゃないかな。まぁ、びっくりさせ過ぎてしまって、罪悪感からネタ晴らしができなくなってしまったのは誤算だったが。そういえばあいつ、流されやすいやつだった。


「そういえば、そろそろ俺たちも2年生かー」
「本当だね。なんだか季節が過ぎていくのが早く感じるよ」

 ランディとアレックスの会話にそういえば、と俺も同じことを感じる。もうすぐ進級すると思うと、この1年間が走馬灯のように俺の頭を駆けぬけていく。……大概が先生の困った顔なのは、気のせいだろうか。

「そういえば、2年生から実際に魔法が使えるようになるんだよな」
「そのはず。なぁアルヴィン。魔法ってどんな感じ?」
「ファンタジーじゃない。悟り開く」
「夢壊さないでよ」

 2年生になると、学校では魔法の実習がとうとう始まる。俺とリトスは個人持ちのデバイスがあったため、自主学習ができた。しかしアレックスたちはデバイスを持っていなかったため、魔法を使う機会がなかったのだ。

 デバイスはその性能から、なかなかの値段がつく。そのため個人持ちは、あまりいなかったりする。そのため、学校でストレージデバイスを貸すことで魔法を教えるようになっているのだ。台数に限りがあるのと、危険防止のため、魔法の実習は2年生からとなっていた。

「学校でさ、魔法ってあんまり教えてくれないよな」
「危ないからって理由もあるだろうね」

 実際、学校で教えてくれる魔法は、危険性がないものだったり、せいぜい射撃や防御魔法、捕獲系魔法などが主だったりする。あとは自分で選択授業を選ぶか、専門的に学ぶしかない。ほとんど座学ばっかりだけど、何事にも基礎は大切ということらしい。


 ……そういえば、2年生になったら母さんに本格的に魔法を教えてもらえるようになるんだよな。

 ふと思い出した約束を俺は思い出す。母さんに射撃魔法や防御魔法といった学校で習う魔法を予習として教えてもらうことはできた。だけど、母さんが使うようなBランク以上の魔法は教えてくれなかったのだ。

 学校でしっかり学習して、魔導師としての心得を覚えてから。非殺傷設定があるとはいえ、魔法が危険なものであることに変わりはない。母さんの言葉は当然のことだったし、教えを乞う立場として当たり前のことだった。

 それがもうすぐできるようになる。そう思うだけで、すごくわくわくしてきてしまう。一体どんな魔法が使えるようになるんだろう。どんな新しいことを知れるのだろう。この冬を越せば、俺たちは2年生になる。次はどんな出会いや出来事が起こるのか、と俺は胸がいっぱいな気持ちになった。

「……楽しみだな」
「うん、そうだね」

 コタツに入り、みかんを食いながら俺たちは笑いあう。でも変わっていっても、来年も再来年もこんな風にぐだぐだできたらいいな。そんなことを思いながら、俺は思いをはせていった。


「あれだな。やっぱ空とか飛んでみたいよな」
「あ、わかる。でも落っこちそうで怖いよね」
「……僕も、空戦適正はあまりないから不安」

 そうだ、飛行魔法も練習できるようになるじゃないか。3人の会話にうなずくと同時に、確かに高度が上がれば落ちる恐怖は大きくなるだろう。テレビの中で見るのとは違う。アニメでは簡単に空を飛んでいたりするのにな……あっ。

「そうだ。アニメみたいに箒に乗ったらいいんじゃね?」
『ッツ!!』
「おい、それだ! って納得するんじゃない。どこに箒を持った魔導師がいるんだ」

 でも憧れはすると思いました。

 
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