Element Magic Trinity
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真実は悲しき氷の刃
「絶対氷結!?」
「「アイスドシェル?」」
驚愕の声を上げるリオンに対し、首を傾げるナツとルー。
その時、2人はグレイとリオンの言葉を思い出した。
―ウルはこの悪魔に絶対氷結っていう魔法をかけた―
―ウルが命をかけて封じた悪魔だ―
―ウルは既に死んでいる―
「!」
「まさかっ・・・!」
そして、合点がいった。
今、グレイが何をしようとしているのか。
「き、貴様・・・血迷ったか!?」
「今すぐ島の人の姿を元に戻せ・・・そして仲間を連れて出ていけ。これはお前に与える最後のチャンスだ」
「なるほど、その魔法は脅しか・・・くだらん」
うっすらと笑みを浮かべてそう言うリオン。
だが、次の瞬間、グレイを中心にすさまじい魔力と冷気、風が巻き起こった。
「くっ!」
「ぬぉぉっ!」
「わぁぁっ!」
吹き荒れる風にナツとルーは吹き飛ばされ、リオンは何とか踏み止まる。
「本気だ」
そう言うグレイを見たルーは、再び近づくがあえなく吹き飛ばされた。
「コイツ・・・!」
阻止するため、リオンは右手に冷気を集中させる。
「うおぁっ!」
が、絶対氷結のすさまじい魔力を前に、近づく事すら出来なかった。
「この先何年経とうが・・・俺のせいでウルが死んだという事実は変わらねぇ。どこかで責任をとらなきゃいけなかったんだ」
グレイに巻かれていた包帯やガーゼが取れていく。
そんなグレイを3人は驚愕に似た表情で見つめていた。
「それをここにした。死ぬ覚悟は出来ている」
ぺり、と額に貼ってあった湿布が剥がれた。
「本気・・・なのか・・・!?」
「答えろ、リオン!」
何とか立ち上がろうとするリオンにグレイは叫ぶ。
「共に死ぬか、生きるかだ!」
グレイは決死の言葉でリオンに問いかける。
だが、それに対し、リオンはニヤッと笑みを浮かべた。
「やれよ。お前には死ぬ勇気はない」
その笑みはどこか挑発的だ。
それを見たグレイは1度目を閉じ、ゆっくりと開く。
「残念だ」
「ぬぅえあぁっ!」
「うぐぐぐぐっ!」
ナツとルーが力任せに立ち上がる。
「これで全て終わりだ!アイスド・・・」
グレイがクロスした両腕を開こうとした、その時!
「どアホォ!」
「大バカーっ!」
横から突然ナツとルーが現れ、容赦なくグレイの顔面に拳を決める。
それによって、魔法は中断された。
その様子を見ていたリオンはまた目を見開く。
「ナツ・・・ルー・・・」
「勝手に出てきて責任だ何だうるせぇんだよ」
「そーだよっ!人の獲物とらないでよっ!」
「え・・・えもの!?」
ナツとルーの獲物発言にグレイは目を丸くする。
「アイツは俺とルーが倒すんだよ!」
「な・・・!俺にケジメつけさせてくれって言ったじゃねーか!」
「『はい了解しました』なんて僕もナツも言ってないよ」
「テメェ等・・・」
「お?やんのか?」
「手加減しないよ」
ナツが挑発的な笑みを浮かべ、ルーがぶんぶん拳を振り回す。
すると、グレイはナツの胸倉を掴んだ。
「アイツとの決着は俺がつけなきゃならねぇんだよ!」
それを聞く2人の表情は変わらない。
「死ぬ覚悟だって出来てんだ!」
が、それを聞いた瞬間、ナツは自分の胸倉を掴むグレイの腕を掴む。
ルーはいつもの笑顔を消し、グレイを睨んでいた。
「死ぬ事が決着かよ、あ?逃げてんじゃねぇぞ、コラ」
「生き死にだけが決着じゃないって言ったの、グレイでしょ?」
ナツとルーの言葉に絶句し、呆然とするグレイ。
すると、突然遺跡が揺れ始めた。
「な・・・何だ!?」
その音は、遺跡の外にまで伝わっていた。
ルーシィ、エルザ、ティア、ハッピーは、先ほど草むらから飛び出して来た覆面集団を全員倒し終えたところだった。
「何の音だ?」
「エルザ、遺跡が・・・!」
「そんな・・・」
ルーシィは呆然と遺跡を見た。
「傾いていた遺跡が・・・元に戻ってる・・・」
「ど・・・どーなってんだ!?」
「一体何が起こったの!?」
そう言いながらバンバンと足を勢いよく踏み鳴らすナツとルー。
「こ、これじゃ月の光がまたデリオラに・・・」
「お取込み中失礼」
すると、先ほどグレイが入ってきた氷の壁に開いた穴から、ザルティがやってきた。
「ほっほっほっ、そろそろ夕月が出ますので、元に戻させてもらいましたぞ」
「ザルティ、お前だったのか」
「な・・・何者だ、コイツ・・・」
何者かより、ナツには気になる事があった。
「俺とルーがあれだけ苦労して傾かせたのに・・・どうやって元に戻した!?」
「ほっほっほっ」
シカト。
「どうやって戻したーーーーーーーーーーーっ!」
くわぁっと凄い勢いでそう叫ぶナツ。
だが・・・。
「さて・・・月の雫の儀式を始めに行きますかな」
「シカト」
ザルティはとっとっとっと無視して走り去っていってしまった。
それにカチーンときてしまったナツは。
「上等じゃねぇかナマハゲがぁ!」
口から炎を吹き出し、思いっきりキレた。
「ほっほっほっ」
「待てやコラーーーー!」
それでも走り去るザルティをナツは追いかける。
「ナツ!」
「俺はあのクソッタレを100万回ぶっ飛ばす!こっちはお前に任せるぞ!」
「僕は!?」
「お前はまたグレイがアイスド何ちゃらをやろうとしたら止めてくれ!」
「解った!」
ナツの言葉に2人は頷く。
「負けたままじゃ名折れだろ?」
走りながら、ナツが呟く。
「オメーのじゃねぇぞ」
「解ってる」
「うん」
そして3人は、同時に口を開いた。
「「「妖精の尻尾のだ!」」」
そしてナツの姿が完全に見えなくなり、ルーは邪魔にならない様にと端による。
「やれやれ・・・騒がしい奴等だ」
「お前・・・さっき俺が絶対氷結を使おうとした時、ナツとルーが止めるのを計算に入れてやがったのか」
「いや・・・まさか奴等があの魔力に近づけるとは想像もしてなかった」
「じゃあ本気で喰らうつもりだったのか」
「そうだ」
「えぇっ!?」
ルーは叫び、ハッと口を手で覆った。
「だが俺は助かる・・・そう気づいたから『やれ』と言った」
「やはりそうか・・・」
「たとえ俺が氷に閉じ込められようと、俺には仲間がいる。そしてここは月の雫で絶対氷結を溶かせる島だ」
「うかつだった・・・これで絶対氷結は無力だな」
「それでもこの俺との決着を望むと?」
「だって決着を望んでいなかったらここにはいない・・・何でもないです」
ルーが口を開いたが、リオンの冷たい目で軽く睨まれ口を閉じた。
「お前は俺には勝てな・・・」
「もうやめよう」
「何!?」
思いがけないグレイの言葉に、リオンは目を見開いた。
「デリオラは諦めるんだ」
「何でバカな事を・・・脅しの次は説得だと?貴様のギルドは牙を抜く優秀な歯医者でもいるのか?」
「いないよ」
それだけ言い、睨まれる前にルーは口を閉じる。
「リオン・・・よく聞いてくれ」
そして、グレイは口を開いた。
「ウルは生きてるんだ」
リオンは口を閉じ、目を見開いた状態で静止する。
「絶対氷結は自らの肉体を氷に変える魔法だったんだ。あの時・・・デリオラを封じた氷・・・つまり、お前が今溶かそうとしてる氷はウルなんだ」
薄い水色の髪が靡く。
「ウルは氷となって・・・今も生きている・・・」
雑草の葉っぱが舞った。
ルーも驚きで目を見開いている。
「今まで黙っていたのは悪かった・・・ウルとの約束だったんだ」
―アイツの事だ。私が氷になった事を知れば、この魔法を解く為に人生を棒に振るうだろう―
ウルの言う通りになったという訳だ。
実際には、ウルを超える為に絶対氷結を解こうとしているのだが。
リオンは少し顔を俯かせ、グレイに歩み寄った。
「グレイ・・・」
「リオン・・・だからもうこんな事は・・・やっ」
「やめろ」と言いたかったのだろう。
だが、グレイの口から出たのは言葉ではなく・・・血だった。
「知ってるさ。そんなくだらん事」
リオンが氷の剣でグレイの右わき腹を刺したのだ。
「あれはもはやウルではない。ただの氷クズだ」
そう言うリオンの顔は、笑っていた。
何かに憑りつかれているような、歪んだ笑みが・・・。
ブシュッと音を立て、剣がグレイから離れ、消えた。
ドッとグレイが倒れる。
「お、お前・・・し・・・知って・・・た・・・のか・・・」
「お前だって本気で信じてる訳では無かろう。ウルが生きているなどと」
「ぐう・・・う・・・がっ・・・」
「早く大人になる事だ」
「知ってて・・・こ・・・こんな事を・・・」
痛みに耐える様にグレイが荒く息をしながら途絶え途絶えに呟く。
「グレイ!待ってて、今すぐ治すから・・・」
そう叫びながらグレイに近づくルー。
そしてルーは、凄い光景を目の当たりにするのだった。
「待ちやがれーっ!この仮面野郎ー!」
「ほっほっほっ」
「どうやって元に戻したんだーっ!」
一方こちらはザルティを追うナツ。
ザルティはバッと天井に右手をかざす。
すると、天井がガラガラと音を立てて崩れ始めた。
「こんなモン・・・効くかーーーー!」
が、ナツは足に炎を纏い、一蹴りして吹き飛ばす。
それを見たザルティはくいっと再び手を動かした。
次の瞬間、ぶあっとナツが吹き飛ばした瓦礫が空中へと舞い、天井へと戻る。
「え?」
「御覧の通り、こうやって遺跡を元に戻したのです」
「な、何だ・・・この魔法」
呆気に取られるナツに、ザルティは薄く笑って言う。
「失われた魔法の一種でございますな。その強力さと副作用の深刻さにより、歴史より抹消された魔法」
「歴史・・・?」
「あなたの滅竜魔法も然り」
そう言うと、ザルティはポォンと文字通り煙のように消えた。
「消えたーっ!どこ行ったーっ!ちくしょォォーっ!」
「え?」
ルーは呆気に取られていた。
文字通り立ち尽くし、グレイを見ている。
驚いているのは、リオンも同じようだ。
「な・・・!バカな!その傷で何故動ける!?」
そう。
脇腹を刺されたはずのグレイが、リオンを殴り飛ばしたのだ。
「限界だ」
「あ!?」
「助けてやりたかったが、もう限界だ」
言うが早いが、グレイは氷の弓を造形し、一気に3本の氷の矢をリオンに向けて放つ。
倒れ、起きあがるリオンの顔面に靴先をぶつけ、そこに蹴りを入れた。
続いて左拳、頭突き、と次々に攻撃を決めていく。
「がっ・・・はァ!この俺が、グレイごときに血を流すなど・・・あってはならんのだ!」
よろよろとよろめきながら、リオンが右手に魔力を集中させる。
「アイスメイク、白竜!」
「ぐあぁっ!」
氷の竜はグレイをガブッと噛む。
が、グレイは力を入れ、氷の竜を砕いた。
「無駄な魔力は使わせんでほしいな・・・俺はこの後、デリオラとの一戦が控えてるんでな」
「させる・・・かよ・・・」
「どう足掻いたところでデリオラは間もなく復活する。もう誰にも止められんぞ・・・」
「絶対・・・止めてやる・・・」
リオンがマントを脱ぎ去る。
「お前がこんな所で這いつくばってる今まさに・・・ザルティは月の雫を行っているというのにか?」
それに対し、グレイは笑みを浮かべた。
「ナツをナメんなよ」
一方その頃、こちらは月の遺跡地下。
氷に閉じ込められた悪魔デリオラの前に、ザルティはいた。
「いよいよか・・・」
「見つけたぞ」
ニヤリと微笑んでいたところに、自分のとは違う声。
「とりあえず、燃えとけぇ!」
ナツが全身に炎を纏い、勢いよく飛び込んできた。
「ほっほー、愉快な売り言葉ですなぁ」
それをザルティはバッと跳んで避ける。
「しかし、何故ここがお解りに?」
「俺は鼻がいいんだよ。ちなみにお前は女の香水の匂いだ」
「ほっほっほっ」
近くの岩に乗るザルティ。
「私はねぇ・・・どうしてもデリオラを復活させねばなりませんのですよ」
「やめとけやめとけ、もう無理だ」
「おや?なぜに無理と?」
「グレイがアイツをぶっ飛ばす。俺がお前をぶっ飛ばす。100万回な。それで終わりだ」
指を指し、そう言うナツ。
が、ザルティは全く動じていない。
「そうでしょうかねぇ?」
ザルティはデリオラに視線を向ける。
つられるようにナツも視線を向け・・・目を見開いた。
「ひ、光!?え!?誰かが上で儀式やってんのか!?」
ここは月の遺跡の上。
そこでは、月の光を集めていた。
「おおーん、おおーん」
・・・トビーが1人で。
「たった1人では月の雫の効果は弱いのですが、実はすでに十分な量の月の光が集まっております。あとはキッカケさえ与えてあげれば・・・ホラ・・・」
ザルティが言ったと同時に、ビチャっと氷が溶ける。
「うおおっ!?大変だ!デリオラの氷が溶けてきた!くそっ!しくじった!頂上にいる奴何とかしねーと!」
そう言って頂上まで行こうとするナツだったが、ザルティがくいっと手を動かして地面に浅めの穴を開けたことにより、それは出来なかった。
「ぐおおっ!」
「おや?逃げる気ですかな?しかしそうはいきませんぞ」
ナツが顔を上げる。
「私を追ってきたのはミスでしたね。火竜君」
既にデリオラの左肩の氷は溶けていた。
「くそ・・・!」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
もうすぐガルナ島編も終了・・・。
・・・ただ、ティアやルー、アルカの過去のエピソードをどこに持っていくか、決まってないんですよ。いや、アルカは「2年前」の件があるし、大丈夫かも?
問題はティアとルー・・・どこに持ってくるか・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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