Element Magic Trinity
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永遠の魔法
「なんて事をしやがる・・・妖精の尻尾め・・・」
ナツとルーを怒りを込めた目で睨むリオン。
同じく、リオンを睨みつける2人。
「ダメだ!どうなったのか全然わかんね」
「この遺跡を傾かせたようですな」
頭を抱えるトビーにザルティが説明する。
「遺跡を支える支柱を半分ほど破壊し傾かせた事で、月の光をデリオラまで届かせない作戦でしょう・・・見かけによらず、キレ者にございますな」
「ゴチャゴチャうるせぇよ!」
ザルティの説明が終わったと同時に、ナツが飛び出す。
「足に炎!?」
「おおーん!コイツ・・・体の至る所から炎が出るんだ」
「かぁーーーーーーーーっ!」
足に炎を纏ったナツがリオンに直撃する。
攻撃を食らったリオンは体を九の字に曲げ、制止し、煌めきと共に罅割れた。
パリィィン・・・と音を立て、崩れ去る。
「こっちだ」
本物のリオンはナツの背後に回り、右手に魔力を集めた。
「空中じゃ避けれまい」
ギュアアッと氷の鷲の大群がナツに向かって放たれる。
すると、ナツの前を緑色に光る風が吹き、鷲を全て壁に刺した。
「僕もいる事、忘れてないよね?」
リオンの背後に立つルーは左手を振るい、幾千もの風の刃を造りだす。
指を鳴らすと同時に、その刃は一斉にリオンに飛んだ。
ナツはぐいっと地面に倒れるような姿勢になり、両足をリオンに向けて足から強力な炎を噴き出す。
炎を避ける為しゃがみ、風を避ける為に相打ちになるよう氷の鷲を放った。
「よっ」
しかしこんな所で攻撃が終わるはずもなく。
そのまま逆立ちして足に炎を纏ったまま、くるっと回転した。
「こんなデタラメな魔法が・・・!」
回転した事により、足に纏った炎も回転する。
「くっ」
リオンは咄嗟に跳んで避けた。
「空中は避けれねぇんじゃなかったのか?」
「!」
「火竜の咆哮!」
ナツの口からゴッと灼熱のブレスが放たれ、リオンに向かう。
すると、その戦いを見ていたザルティがすっと左手をかざした。
それと同時に、みしみし・・・とナツの両掌が当てられた地面に罅が入り始める。
そして、ボロッと崩れた。
「おおっ!?」
「ナツ!」
まさか床が抜け落ちると思っていなかったナツは穴に落ちる。
その結果、咆哮は上に逸れた。
慌ててルーはナツの落ちた穴に向かう。
「ちっ」
「おやおや・・・運が良かったですな、零帝様」
「俺が喰らってるのはナイショの方向で」
トビーがプスプスと焼け焦げていたが、全員無視した。
「何をした?ザルティ」
「はて?」
「恍けるな・・・床が崩れ落ちたのは貴様の魔法だろう」
「さすが零帝様、お見通しでしたか・・・ですが解ってくだされ。デリオラを復活させるまであなたを失う訳にはいかないのです」
「俺があんな炎を喰らったくらいで死ぬと?」
そう言い終えたと同時に、ピキピキとリオンの足元から冷たい冷気が噴き出し、それは氷と成っていく。
床だけではない。壁も柱も、全てが薄い緑色の氷に覆われていった。
そして最終的に、巨大な氷の壁が遺跡の一室を覆った。
「出ていけ。コイツは俺1人で片づける」
ルーがナツを引っ張り、2人は穴の中から顔を出した。
「俺はデリオラを倒せる唯一の魔導士、零帝リオンだ。こんな小僧を消せんようでは名が廃る」
それを聞いたザルティは仮面の上から額に手をやる。
「おやおや・・・」
そしてそれを聞いたナツとルーは顔を見合わせ、同時に呟いた。
「「デリオラを倒す?」」
「それがアイツの目的なの!?」
一方その頃、遺跡に向かうルーシィ達も、リオンの目的をグレイから聞いていた。
「もう半分倒されてるようなモンじゃねーか」
「わざわざ氷から出して、アイツと勝負したいの?変わった人だね、君」
「全てはウルを超える為・・・夢の続きを見る為だ!」
そう言って右手をナツとルーに向け、氷の鷲の大群を放つ。
「だったらウルと直接戦えばいいんじゃねーの?」
「それが出来ないんだよ、ナツ・・・そうでしょ?」
「あぁ。ウルは既に死んでいる」
器用に鷲を避けながら、ナツはグレイの言っていた一言を思い出す。
―俺に魔法を教えてくれた師匠、ウルが命をかけて封じた悪魔だ―
「あれは死んだって事だったのか・・・」
「グレイのせいでなっ!」
そう叫び、バッと右手を向ける。
1羽だけ残っていた氷の鷲をナツに直撃させた。
煙が晴れ、姿を現したナツは鷲を左腕でガードしており、鷲が当たった箇所からは血が出ている。
「過去に何があったか知らねぇが、今お前がやろうとしてる事で迷惑してる奴が沢山いるんだ」
「夢を追うのは自由だけど、ならせめて誰にも迷惑かけないでくれないかな」
そう言うナツとルーを、リオンは冷めた目で見る。
「いい加減目覚ましてもらうぞ、熱~いお灸でな」
「リオンは昔からウルを超える事だけを目標にしてきた」
「なるほど・・・ありがちな考えよね。そのウルとかいう女がいなくなった今、ウルが倒せなかったデリオラを倒す事でウルを超えようとしている、と」
「あぁ」
バカじゃないの、とティアが小さく呟く。
「そっか・・・死んだ人を追い越すには、その方法しか・・・」
「あい」
ルーシィとハッピーがそう言うと、グレイは口を開いた。
「いや・・・アイツは知らないんだ」
「え?」
「確かにウルは俺達の前からいなくなった。だけど・・・」
そこで一呼吸置き、グレイは言い放った。
「ウルはまだ生きている」
それを聞いたルーシィ達は当然驚く。
・・・正確には、驚いたように見えるのはルーシィとハッピーだけなのだが。
「えぇっ!?」
「うそぉっ!?」
それを聞かされても落ち着いているエルザが口を開く。
「どういう事だ?一体過去に何があった」
「・・・10年前だ」
10年前。
グレイの住んでいた街がデリオラに襲われた。
壊滅するまでに1日と掛からなかった・・・。
「デリオラ。噂には聞いていたが、ここまでとは・・・」
そこにやってきたのが、氷の魔導士『ウル』。
そのウルの目に、小さく呻く少年が映った。
「リオン!こっちに来い。生存者がいる!」
その少年はぶつぶつ・・・と何かを呟いていた。
「お前!大丈夫か!?」
リオンが声を掛ける。
「デリオラ・・・許さねぇ・・・デリオラ・・・絶対・・・!」
憎しみに満ちた声でそう言う少年が、グレイだった。
「まずは氷魔法の基礎からだ」
ウルに弟子入りしたグレイは、ウルとリオンと共に雪山に来ていた。
「グレイ・・・ついてこれるか?私の修行は厳しいぞ」
「おう!何だってやってやらァ!デリオラを倒せる力が手に入るなら、何だってやるさ」
それを聞いたウルは、突然ズボンを脱いだ。
当然、グレイは驚く。
「な・・・何してんだ!?」
ズボンだけではない。
上に来ていたジャケットまでも脱いだ。
リオンもこのウルの行動には慣れているようで、同じように服を脱ぐ。
「お前も服を脱げ」
「ふざけんなっ!こんな雪山で服なんか脱げるか!?アンタ女だろ!恥ずかしくねぇのかよ!」
「はんっ、ガキの前で下着になったくらいで」
ウルはどうとも思っていないようだ。
「冷気を操りたくば、冷気と1つになれ。まずはそこからだ」
「くそぉぉぉぉぉっ!」
「すぐに慣れるさ」
「テメェも震えてんじゃねーか!」
「来い、走るぞ」
「おい!魔法教えろよ!」
「いいから走れよ。俺まで基礎に付き合ってんだぞ」
そして、修行が始まった。
「いいか、数ある魔法の中でも、造形魔法は『自由』の魔法だ。造り出す形は十人十色。術者の個性が最も出る魔法だ。精進せよ。そして己の『形』を見つけ出せ」
「アンタんトコの弟子・・・1人増えたの?あら、可愛い」
「グレイってんだ。反抗期で困るわ~」
「2人とも、将来男前になりそうね」
とある街に、3人は買い物に来ていた。
パンやらリンゴやらを袋に詰める女性に、リンゴをシャリっとかじりながらウルが答える。
「ねぇん、大きくなったらどっちかちょうだいよ」
「両方やるよ。毎日うるさくてかなわん」
「アンタ、子持ちに見られるから男寄り付かないのかしらね~」
「よけーなお世話」
そう言いながら代金を支払う。
「ウルもいい年なんだから、そろそろ自分の幸せ考えてもいいんじゃないの?」
一方その後ろでウルを待っているリオンとグレイは、何回目かの同じ会話をしていた。
「なぁグレイ。俺達はあとどれくらいでウルを追い越せるかな?」
「興味が無い」
「ウルは俺の目標なんだ。いつかウルに勝つ事が、俺の夢なんだ」
「興味がねぇって言ってんだろ。それに聞き飽きた」
キラキラとした目で語るリオンに対し、グレイは暗い。
「俺はデリオラを倒せればそれでいい。力さえ手に入れたら、あのクソ女ともおさらばだ」
「だ~れがクソ女だってコラァ!」
「って」
戻ってきたウルがぽかっとグレイの頭を叩いた。
「いつになったら強い魔法教えてくれんだよ」
「もう教えてるじゃないか」
「造形魔法のどこが強ぇ魔法なんだよ!こんなモン、何の役にも立ちゃしねぇ!」
そう言うグレイに対し、ウルは真剣だ。
「言っただろう?造形魔法は自由の魔法。己の形を見つけた時、それはいくらでも強くなる」
「ケッ」
「てか何でこんな所で脱いでんのよ!」
「な・・・!くそっ!お前のせいで変な癖ついた!」
グレイの脱ぎ癖はウルの修行のせいらしい。
そしてそこに、とある会話が聞こえてきた。
「そーいや、デリオラの話聞いたか?北の大陸に移動したらしいな。ブラーゴ辺りにいるってよ」
「マジか。じゃあイスバンに平和が戻ったのかよ!?」
これは単なる普通の会話。
だが、そこにはデリオラを激しく憎む少年がいた。
「ブラーゴに・・・」
「よせ!デリオラなんかに勝てる訳ないだろ!お前じゃ無理だ、グレイ!」
ウルが叫ぶ。
「うるせぇよ。お前なんかに解るかよ。俺は父ちゃんと母ちゃんの仇を取るんだ!なんか文句あんのかよ!」
「出ていけば破門にする!」
「あぁ・・・せいせいするよ!」
「グレイ!」
そして、グレイは小さく呟いた。
「俺が死んだら、もっと強い魔法を教えてくれなかったアンタを恨む」
「遺跡が傾いて・・・る?」
「どうなってんだー!?」
遺跡の前に到着したルーシィ達は、傾いた遺跡を見て驚く。
「ナツとルーだな。どうやったか知らねぇが、こんなデタラメするのはアイツ等しかいねぇ。狙ったのか偶然か・・・どちらにせよ、これで月の光はデリオラに当たらねぇ」
すると、草むらがガサガサ揺れ始めた。
「待て!誰かいる」
ガサガサと音が大きくなる。
「見つけたぞ、妖精の尻尾!」
草むらから現れたのは、月の雫の儀式を行っていた覆面集団だった。
かなりの人数がいる。
「うわぁっ!」
「変なのがいっぱい!」
それを見たエルザとティアは一瞬顔を見合わせ、頷いた。
「行け」
「!」
「ここは私達に任せろ」
「エルザ・・・ティア・・・」
その2人の行動にはグレイだけではなく、ルーシィとハッピーも驚く。
「兄弟子との決着をつけて、夢だけを見ている兄弟子に現実というものを見せてやりなさい」
相変わらず冷たい口調でティアが言う。
その言葉にグレイは頷き、遺跡へと向かっていった。
「まいったな・・・ここまで強いとは・・・」
時は10年前。
氷の造形魔導士ウルは、厄災の悪魔デリオラと対峙していた。
額から血を流し、着ている服もボロボロだ。
その近くには倒れるグレイとリオン。
デリオラが口を開き、炎を吹き出す。
ウルは荒く息をしながらも、2人の弟子を抱えて避けていた。
「うあああっ!」
「グレイ!」
グレイが気を取り戻す。
「大丈夫。もう大丈夫だ」
「ウル・・・!?え・・・?何で・・・!?」
「いいからリオンを連れて離れろ・・・庇いながらじゃ戦いづらくてしょうがない」
「リオン・・・?」
「ダウンしてるがな」
「ひっ」
デリオラを見て、グレイが尻餅をつく。
「早く行け!さっさとコイツ片づけてやるからっ!」
リオンを担いだグレイが、震える声で尋ねる。
「な・・・何で・・・き・・・来たんだ・・・お・・・俺・・・破門、だろ?」
それを聞いたウルは、薄い笑みを浮かべる。
「以前・・・友人に自分の幸せについて考えろと言われたんだ。そんなに不幸そうなツラしてる覚えはないんだけどね」
そして、振り返る。
「だってそうだろ?可愛い弟子が2人もいて、日に日に成長し賑やかな毎日。十分幸せだ」
ウルは立ち上がる。
そして、グレイは漸く気が付いた。
「その幸せを取り戻す為に来た」
「ウ・・・ウル・・・いや・・・そ・・・その・・・その・・・足・・・」
そう。
ウルの右足は、『氷になっていた』。
本来人間にある足に似た形をした氷。キラキラと光を帯びている。
「持っていかれたが気にする事はない。素晴らしいだろう?造形魔法は」
「ひっ・・・ひ・・・いっ・・・ひっ・・・」
「あの怪物がお前の闇ならば、私にも戦う理由があるという事だ」
デリオラは目標を失い、彷徨っている。
「行け。アレは私が倒す」
「だ・・・ダメだ・・・俺は・・・行けない・・・こんな事になったのは、俺のせいだ・・・」
「誰のせいでもない。幸せを取り戻す為の試練だ」
その言葉に、グレイは顔を上げた。
ウルは微笑んでいる。
・・・その言葉を、リオンが聞いているとも知らずに。
冷気と熱気、それを中和する風が吹き荒れる。
「チィッ」
「ぬおぉっ!」
「わわわっ!」
ナツの炎とリオンの氷がぶつかり合った。
「ん?」
「!」
ピキッと小さい音を立てて、氷の壁にヒビが入る。
パキィッピキピキピキ、ピキィ、パキ、ピキピキパキィパキッ・・・と音と共にヒビは大きくなっていく。
「何だ!?」
「誰か来る!」
「ウル・・・本気でやってるの?」
リオンが小さく呟く。
「リオ・・・」
「幸せだとか・・・何ソレ・・・ウルは最強の魔導士・・・あんな怪物ごときに勝てないはずないだろ?」
「リオン・・・前にも言っただろ?上には上がいる」
「そんなのいない・・・」
「西の国に行けば、私より強い魔導士は山ほどいる」
「ウルが最強だ。じゃないと、俺・・・何の為に修行したのか・・・」
「私を超えた時は次なる高みの目標を見つければいいだろう?」
ウルはそう言うが、リオンは何かに憑りつかれたように言葉を続ける。
「俺はアンタが最強だと信じて弟子入りしたんだ・・・あんな怪物に負けるなよ・・・俺を裏切るなよぉ・・・」
「リオン・・・」
ウルは溜息をつく。
「アンタが本気を出さないなら俺がやる」
「!その構え・・・!一体どこでその魔法を!」
「え?」
リオンは両腕を体の前でクロスする。
コォォォォ・・・と徐々に魔力がリオンを包んでいった。
「アンタがなかなか強い魔法を教えてくれないから、倉庫の魔導書を読ませてもらった。こんなに強い魔法を隠してたんだ・・・絶対氷結」
「絶対氷結!?」
「リオン!その本、最後まで読んでないだろ!その魔法を使った者は・・・」
そう叫びながらウルがリオンの服を掴む、が。
「うあっ!」
「ウル!」
そのすさまじい魔力に跳ね返されてしまった。
魔力を察知したデリオラがギロッとそっちを向く。
「す、すさまじい魔力だ・・・」
「チッ、気づかれた」
「デリオラにはどんな魔法も効かない・・・ならば、この魔法で永久に氷の中に閉じ込めてやる」
そうリオンが呟く。
「その魔法を使ってはならん!」
・・・が、発動する前にウルがリオンを氷の中に閉じ込めた。
リオンは腕をクロスにしたまま、氷の中で動きを止める。
「ウル!何を・・・」
「ダメなんだ。絶対氷結は・・・使った者の身を滅ぼす」
それを聞いたグレイは目を見開いた。
「しかし・・・アイツを倒すにはこれしかないのも事実・・・まさか・・・私がやろうとしていた事をリオンがやろうとするとはな・・・流石は弟子だ」
ウルは微笑む。
「や、やろうとしてた・・・って・・・」
「下がってろ」
そして、身体の前で両腕をクロスさせる。
「ウル」
グレイが名を呼ぶ。
「私の弟子達には近づかせないっ!これで終わりだ!バケモノォ!」
そして、クロスした両腕を・・・横に、開いた。
「絶対氷結!」
ギャウウ・・・とすさまじい魔力が辺りに吹き荒れる。
「ウルーーーーーーー!」
グレイがウルの所まで走る。
デリオラは完全に動きを止めていた。
ピキィ、とウルの顔にヒビが入る。
「か・・・体が・・・」
「言っただろ?この魔法は身を滅ぼす。自らの肉体を氷へと変える魔法なのだ。永久にな」
「!」
目を見開いた。
ウルはゆっくり、グレイの方を向く。
「グレイ・・・頼みがある。リオンには私は死んだと伝えてくれ」
「え・・・?」
「アイツの事だ。私が氷になった事を知れば、この魔法を解く為に人生を棒に振るだろう」
「だ・・・ダメだ・・・」
「それでは私が氷となる意味がない」
「やめろ・・・!」
「リオンには、もっと世界を見てもらいたい」
「やめろぉぉぉっ!」
涙を流しながら、必死にウルに手を伸ばす。
が、すさまじい魔力はグレイを跳ね返した。
「グレイ・・・もちろん、お前にもだ」
ウルの口が弧を描く。
「頼む・・・もう止めてくれ・・・これからは何でも言う事聞くからぁ・・・」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、グレイが言う。
そしてウルは、振り返った。
「悲しむ事はない」
その顔は、笑っていた。
「私は生きている」
ウルの身体が半分以上消えていく。
顔も、もう左目と鼻、口しか確認できなくなっていた。
「氷となって、永遠に生きている」
泡の様になったウルの身体は、デリオラを包んでいく。
「歩き出せ、未来へ」
そして、グレイは叫んだ。
自分に魔法を教えてくれた、たった1人の師匠の名を。
「ウルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
ウルの身体は完全な氷となった。
「お前の闇は、私が封じよう」
その翌日、リオンは目を覚ました。
「な・・・デリオラが!ウルは!?ウルはどうした!?」
リオンは起き上がるなり、辺りをきょろきょろ見回してウルを探す。
その近くで体育座りをしていたグレイは、震える声で呟いた。
「し・・・死んだ・・・」
そう呟くグレイを、信じられない、と言いたげな目で見るリオン。
だが、グレイの目から流れる涙を見て、ようやく声が出た。
「うそ・・・だ・・・うそだぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
そして、グレイの胸倉をつかむ。
「俺の夢はどうなる!?ウルを超える夢はどうなるんだーっ!えぇ!?」
「ごめん・・・」
「くそっ・・・くそぉっ!」
リオンの目からも涙が流れる。
「お前さえ・・・お前さえデリオラに挑まなければ・・・!お前のせいだ!グレイ!」
そして。
「お前がウルを殺したんだ!」
大きな氷の割れる音が響き、グレイが姿を現した。
「ナツ、ルー・・・コイツとのケジメは俺につけさせてくれ」
「!テメェ!一回負けてんじゃねーか!」
「そうだよっ!それにそんなに怪我してるのに・・・」
「次はねぇからよ。これで決着だ」
グレイの気迫に、2人は黙り込む。
「大した自信だな」
表情を変えず、リオンが呟く。
「10年前・・・ウルが『死んだ』のは俺のせいだ。だが、仲間を傷つけ・・・村を傷つけ、あの氷を溶かそうとするお前だけは許さねぇ」
グレイはゆっくりと語り・・・体の前で両腕をクロスさせた。
「共に『罰』を受けるんだ、リオン」
それを見たリオンは目を見開く。
「そ・・・その構えはっ!?」
「「?」」
何も知らないナツとルーは、首を傾げていた。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
なんかもう・・・書いてて泣きそうになりました。
この話、楽園の塔のエルザを庇って死んだシモンのシーンと同じくらい好きなんですよね。
感想・批評、お待ちしてます。
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