Element Magic Trinity
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ガルナ島 最終決戦
「ほっほっほーっ!」
ザルティの嬉しそうな声が響く。
ナツはチラッとデリオラに目を向けた。
ドッ、ゴポッ、ビチャッと音を立て、徐々に氷が溶けていく。
「んがーっ!」
右の拳に炎を纏い、ザルティに飛び掛かる。
「良いのですかな?こんな状態で火の魔法など。デリオラの解氷を促進させますぞ」
ひょいっと拳を避けたザルティがそう言うが、ナツは炎を纏った右足で蹴りを放つ。
「火の魔法で氷が溶けたら、オメェ等も苦労しねーだろ?はえーとこお前ぶっ倒して、頂上の奴をガツンとやれば済む」
「ほっほぉーう。戦場での頭の回転の速さと柔軟さには驚かされますなぁ」
その音は、ここにまで響いていた。
「また遺跡が震えてやがる・・・」
「月の雫の儀式が始まったのだ。デリオラの氷が溶け始めている」
「そんな・・・!」
ルーが呟く。
「どうやらここまでだな。お前達には止められなかった」
そう言う間にも遺跡は揺れる。
「俺はこの時をどれだけ待っていた事か。10年間、仲間を集め、知識を集め、ようやくこの島の事を知った。月の光を集める島、ガルナ」
ぶぉあっと氷の鷲が作られ、ズガガガッとグレイを襲う。
「俺達はブラーゴからデリオラを運び出した。それが3年前だ」
バッとグレイが両手を開く。
すると、氷の鷲がボボボボッと爆発した。
「こんなくだらねぇ事を3年もやってたのか」
「くだらんだと?」
そう言われたリオンはギリ、と歯を噛みしめる。
「この10年間、ギルドで道楽してた奴がよく言えたものだな!」
「俺はウルの言葉を信じただけさ」
「!」
―西の国へ行けば、私より強い魔導士は山ほどいる―
「そこで辿り着いたのが妖精の尻尾だ。確かにすげぇ魔導士が山ほどいた。信じられなかったよ」
『無駄じゃろうな。絶対氷結は術者の意志の魔法。第三者の如何なる魔法をもってしても、その氷を溶かす事は出来ん』
『そんな・・・だってここにはすげー魔導士が沢山いるじゃないか』
『凄かろうが凄くなかろうが、絶対氷結は溶かす事が出来ないのよ』
『おぉ、ティア。帰っておったか』
『今さっき。まぁ・・・1つだけ、方法がない事はないけど』
10年前のとある会話。
ギルドに来たグレイとマスター、仕事を終えた当時7歳のティアだ。
『!』
『でも、それは止めた方がいいわ。そもそも氷を溶かすという事は、その氷となった人間を殺すに等しい事よ。それなりの覚悟が無いのなら、氷を溶かそうなんて考えない事ね』
「今思えば、あの時ティアが言ってた事が月の雫の事だったんだろうな。まさかそんなウルを殺すような事を、兄弟子がやってたと思うとがっかりだよ」
「何とでも言うがいい・・・俺はこの日の為に生きてきた」
それを端で見るルーは空腹なのか、クロワッサンを頬張り始めた。
「師が死んだ今、残された弟子は何を持って師を超えられるかよーく考えてみろ!デリオラだ!師が唯一倒せなかったデリオラを葬る事で、俺は師を超える!」
そう叫ぶリオンの右手には氷の虎のような狼のような生物がいた。
「その向上心は立派なものだが、お前は途中で道を間違えてる事に気が付いてねぇ。何も見えてねぇ奴がウルに勝つだと?100年早ェよ、出直して来い!」
そう叫び、グレイは氷の剣でリオンを斬った。
・・・が、リオンはパリィンと音を立てて崩れる。
氷で造られた身代わりだったのだ。
「アイスメイク・・・」
本物のリオンはグレイの後ろに回り、右手に魔力を集めている。
「白虎!」
その右手から氷の虎が造られ、グレイに向かう。
「アイスメイク、牢獄!」
それを見たグレイはすぐさま氷の檻を造り出し、向かってくる虎を檻に閉じ込め封じた。
予想外の行動だったのか、リオンは目を見開く。
「これはお前の姿か、リオン。世界を知らない哀れな猛獣だ」
「くだらん!貴様の造形魔法などぶっ壊・・・」
そう言って右手をくいっと動かす。
虎が檻を突き破る・・・事はなかった。
ガッガッと音を立てながら檻から出ようとはするが、檻を完全に壊す事は出来ない。
「・・・!」
「片手での造形はバランスが悪い。だから肝心な時に力が出せねぇ」
だん、と牢獄の上からグレイが降りる。
そして、両手に魔力を集中させた。
「氷雪砲!」
「ぐぉおあぁぁあああああぁぁあああ!」
リオンが叫ぶ。
ドゴォっと音を立て、遺跡の一部に大きめの穴が開いた。
そこに残るのはボロボロの服を纏い、傷だらけになったリオンの姿。
「ウルの教えだろ」
その視線を先には、氷雪砲を消し、構えはそのままのグレイ。
「グ・・・グ・・・レ・・・イ・・・ごぁっ!」
口から血を吐き、ドサッとリオンが倒れる。
グレイの背後でしゅうううう・・・と氷の牢獄と虎が消えた。
「凄い!凄いよグレイ!」
3つ目のクロワッサンを食べ終えたルーがぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ。
グレイは溜息を1つついた。
「!いっ・・・てぇ~・・・!」
溜息と同時にリオンに刺された脇腹から血がどぷっと溢れ出る。
突然の痛みにグレイはがくっと膝をついた。
「先に止血しておくんだった・・・」
「だ、大丈夫!?僕が傷口塞ごうか?」
「いや、大丈夫だ」
ピキピキと氷で傷口を塞ぐ。
すると、徐々にざわざわと辺りがざわついていった。
そして。
オオオオオオオオオオオオオ・・・・・・!
雄叫びが響いた。
「何だ!?この音は!?」
「ひっ!」
「一体何事なの!?」
その雄叫びは遺跡の入り口付近にいるルーシィ達にも届く。
「うるせぇーーーーーー!」
あまりの五月蝿さにナツが耳を塞ぐ。
その声の主は・・・。
「いっ!?」
「来たぁ!」
リオンが師匠ウルを超える為に溶かそうとしていた、絶対氷結の中身。
10年前、イスバン地方を荒らしまわった不死身の悪魔。
厄災の悪魔、デリオラ。
「こ・・・この声・・・忘れようがねぇ・・・」
「えっ!?こ、これ・・・声なのっ!?」
呟くグレイに問うように言うルー。
「デリオラ・・・」
倒れるリオンが、その悪魔の名を呟いた。
「な、何!?今の声・・・!?てか本当に声だった!?」
「ルーシィのお腹の音かも!」
「本気で言ってるとは思えないけどムカツク!」
一方こちらは月の遺跡入り口付近。
「例のデリオラとかいう魔物か?」
「そんな・・・まさか・・・復活しちゃった訳ー!?」
「それはないわ」
慌てるルーシィの言葉を容赦なくティアが斬る。
そしてさらに何かを言おうと口を開いた、その時。
『オオオオオオオオオオオオオ・・・!』
また雄叫びが響いた。
「また・・・」
「ルーシィ何か食べたら」
「アンタこそネズミに食べられちゃえば」
「そんなくだらない会話をしている場合じゃないでしょ」
ティアの意見が御尤もだ。
「デリオラの声はするが月の雫の儀式は続行されている。つまりデリオラの復活はまだ完全ではないという事」
それを確認したエルザは、遺跡の上まで行く階段に向かって走っていった。
「来い!」
「え!?デリオラは下だよ」
「儀式を叩けばまだ阻止できる!急げ!」
「でもティアがいないよ」
ハッピーの思わぬ一言にエルザの動きが止まった。
「何!?」
「ティアはどこに行ったの!?」
「オイラも解らない」
一方その頃、雄叫びを上げるデリオラの前では、ナツとザルティが戦っていた。
「くっそー!もたもたしてらんねぇ!一気にいくぞ!」
そう叫んだ瞬間、水晶玉がナツの顎にクリーンヒットした。
ひゅん、と薄緑の水晶玉が空中を舞う。
「こちらもそうさせていただきますぞ、火竜君」
「上等!」
そう叫ぶが早いが、ナツは炎を纏った右の拳で水晶玉を叩き割る。
が、ザルティが手をかざしたと同時に、割れた水晶玉は破片が集まり、また1つの水晶玉になった。
「うおぉっ!」
そしてナツの腹に直撃する。
「また直った!」
「私は物体の『時』を操れます。すなわち、水晶を『壊れる前の時間』に戻したのです」
「時!?有り得ねぇ!」
「『時のアーク』は失われた魔法の一種ですからね。次は水晶の『時』を未来へと進めてみましょうか?」
そう言うと、水晶玉はナツの横を凄い勢いですり抜けていった。
「え?」
思わず水晶玉を目で追うナツ。
「うがぁぁっ!」
すると突如、ドガガガガッと爆発が起こった。
「だっ!」
「無駄ですぞ」
「んごっ!」
再び水晶玉を壊すが、また時を戻して直され、ナツの頭の上で跳ねる。
「くそ!」
ナツがまた炎を纏った左の拳で水晶玉を殴り付けようとする。
すると今度はピタッと動きが止まった。
「止まった」
「それはもう・・・時を止める事も出来ますぞ」
「それ・・・人間には効かねーみてーだな」
「おやおや・・・よい所に目をつける。正確には生物には効きません。だからこそ、ウルであるこの氷の時間も元には戻せないのです」
すると、ナツはビシッとザルティに指を向けた。
「はっきり言って、お前等よくわかんねーよ」
「?」
「こいつを復活させてリオンがそれを倒す。リオンってのはそれでいいかもしれねぇが、他の仲間には何の得があるんだ?」
「さあねぇ。私めはつい最近仲間になったばかりなのでね」
「んじゃお前でいいよ。本当の目的は何だよ」
それを聞いたザルティはニヤッと微笑んだ。
「いやはや・・・敵いませんなぁ。ほっほっほっ。零帝様・・・いいえ、あんな小僧ごときにはデリオラはまず倒せませぬ」
「それじゃー大変じゃねーか!オメェが倒すのか!?」
「とんでもございません」
ザルティが首を振る。
「ただ我がものにしたい」
「!」
その言葉に、ナツは少し目を見開いた。
「たとえ不死身の怪物であろうと操る術は存在するのです。あれほどの力、我がものに出来たらさぞ楽しそうではございませぬか」
「なーんだ、くだらねぇな。聞いてソンしたなー」
ナツの態度にザルティから笑みが消える。
「俺はてっきり・・・こう燃えるような目的があってよう・・・そんで・・・」
「ほっほっほっ。あなたにはまだ解りますまい。『力』が必要な時は必ず来るという事が・・・」
ザルティは背を向ける。
ナツは右拳に炎を纏わせた。
「そん時は自分と仲間の力を信じる。妖精の尻尾の魔導士の力をな」
それに対し、ザルティは天井に手を向ける。
「うぬぼれは身を滅ぼしますぞ。天井よ、時を加速し朽ちよ」
ボロボロと天井が崩れ始める。
「どいつもこいつもくだらねぇ理由で島を荒らしやがって・・・もうガマンならねぇんだよ!」
そう叫び、ナツは足に炎を纏って跳んだ。
「その荒ぶる炎は、我が『時のアーク』をとらえられますかな」
「アークだかポークだか知らねぇが、この島から出ていけ!」
ゴバァッとナツが右手を振る。
すると炎が広がり、向かってくる無数の水晶玉を炎が包んだ。
「ぬうぅ!いない!」
「そういや俺にも時が操られるんだ」
「は!?」
「未来だ」
ザルティが顔を歪ませる。
「1秒後にお前をぶっ飛ばす!」
そう叫び、右の拳に炎を纏う。
「火竜の鉄拳!」
「きゃああわわあああっ!」
ナツの拳を喰らったザルティは近くの岩に激突した。
「おおーん」
トビーが倒れたと同時に、ぷつりと月の光は途絶えた。
エルザがトビーを斬りつけたのだ。
「やった!月の雫が止まった!」
「てか・・・コイツ1人でやってたんだ・・・」
「おおーん」
どさっと倒れるトビーだが。すぐさまくわっと起き上がる。
「もう遅ェんだよ!解れよっ!」
「!」
その瞬間、カッと強い光の柱が上がった。
「儀式は終わったんだよ!」
『オオオオオオオオオオオオ・・・!』
「そ・・・そんな・・・」
ルーシィが呟く。
「!」
ナツが驚く。
「・・・」
「え・・・」
その場に来たグレイとルーは言葉を失った。
『オオオオオオオオオ・・・!』
雄叫びを上げる、その悪魔。
厄災の悪魔、デリオラが・・・完全復活したのだった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
本当はグレイとリオンの戦いで終わり、のはずだったんですが、あまりにも文字数が少なくてナツとザルティの勝負も付け足しました。
それと、エバルー屋敷のアルカがいなくて書いていないシーンを近日加筆する予定です。
バニッシュブラザーズとナツと戦いも書く予定なので、お楽しみに。
感想・批評、お待ちしてます。
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